異世界生物怪奇譚19:ミツバチ
ここは異世界、ナイラーヘイムル。
日は東から昇るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。
そんな世界。の少し変わった生き物のお話。
あれは古大陸から帰ってきた時だった。
ずいぶんとお世話になったポールさんに、元々予定していた額の倍くらいの報酬をお渡しし、心強かったパーティーは解散。
そんなに貰えないとなかなか受け取ろうとしないポールさんに、今度また酒を奢ってくれと、無理やり押し付け再会を誓った。
簡単に荷ほどきを済ませると、商会のクラウヅさんの元へ向かっていた。
クラウヅさんのところに行ったのは何故か?
一つは古大陸から仕入れたものを卸しに。
もう一つはエルザ。
簡単に言うと、留守の間のエルザの面倒を見てもらっていた、というか管理と監視をお願いしていた。
エルザにちゃんと仕事をさせ、チューリップオリパの売上を預かって貰い、必要な生活費だけを渡してもらうように。
もちろんタダというわけにはいかないので、利益の一部を管理料としてお支払いさせていただいて。
そうして、クラウズさんといろいろな話をしていたのだが、また私への依頼があるという。
「ヤメェダさん、古大陸から戻ってきてもらったところで悪いんだけど、蜂蜜と蜜蝋を受け取りに行って欲しいんだ。危険というわけではないんだが、額が額だけに信用できる人じゃないと頼めなくてねぇ。」
なるほど。確かに蜂蜜や蜜蝋は高い。
グラムいくらで考えれば胡椒や宝石類ほどではないが、量を取り扱う商品としてはトップクラスの価格だろう。
長旅から戻ってきて、少し休みたい気もあったが、快くその依頼を引き受けた。
養蜂所はバーイリンからそう遠くはなく、馬車でせいぜい片道三日。
山は越えないし、道中の街道も宿もある。
依頼料もそれほど高くはないが、関係構築の手間賃といった感じで。
解いた荷を、再度纏めなおして準備をすると、翌朝には養蜂所への旅路に付いていた。
道中は何の問題もなく、養蜂所のある村が見えてきた。
蜜を集めるためか、村の近くには多くの花畑があり、あっちは黄色、こっちは赤、丘の上は紫といった感じで、あちこちで季節の花が咲いている。
時折、風が吹くと花の香りが流れてきて、ラベンダーやジャスミンの香りが辺り一帯に漂っていた。
村に着くと、既に蜂蜜や蜜蝋は樽や壺に詰められ準備万端。
まだ、日も高かったので、そのまま馬車へ積み込み終わると、村長さんが声を掛けてきた。
「養蜂箱を見て行かんかね。今は花も満開で、ミツバチも忙しく働いとるから、ちょうどいい季節だよ。」
ハチ、というか虫は苦手なんだが、ナイラーヘイムルの養蜂がどういうものかは気になる。
養蜂箱へ向かう前に、お茶と蜂蜜を使ったお菓子を出してもらい、甘みで疲れを癒されると、森の方へと向かっていった。
花のシーズンというから、ハチがたくさん飛び回っているのかと思っていたが、全く姿が見えない。
羽音も聞こえず、本当に養蜂箱があるのかと思っていると、それは見えてきた。
せいぜい数十センチくらいの箱だと思っていたが、家二軒分くらいある木の箱。
また、巨大系か。30センチとかあるハチが出てきたら怖いと思っていると、それは養蜂箱から出てきた。
ミツバチのコスプレをした、小太りの小柄な中年のおじさん。
こちらの存在に気付くと、小走りに近づいてペコペコしながら挨拶してきた。
「あっ、いつもお世話になっております。今日はどういったご用件でしょうか。」
村長さんは見に来ただけ、と言うとシッシと手を振り、仕事に戻るようにと追い払っていた。
なんだろう、養蜂所の従業員なのかな?変な恰好をしているけど、と思っていると、ミツバチの恰好をしたおじさんが森の奥から出てきた。
しかし、様子がおかしい。頬を膨らまし、脂汗をかきながら養蜂箱へ走っていく。
もう、なんか嫌な予感しかしなかったが、中も見て行ってくださいと言われ、村長さんに促され養蜂箱へ入っていった。
中は広く、壁面にはハニカム構造のベッドのようなものが並んでいて、中でおじさんが寝ていたり、繭のようなものもある。
部屋の奥には玉座のような段と椅子があり、女王蜂と思われるおばさんが座っていた。
女王蜂は、そう・・・場末のスナックの化粧が濃いおばさんみたいなヤツが。
辺りを見回していると、外から戻ってきたおじさんが、壺に近づいていって、口から何か吐いている。
えづいたり、むせたりしながら吐き終わると、今度は壁へ向かっていった。
何をするのかを見ていると、今度は額や脇の汗を手で拭うと、それを壁に塗り付けていっていた・・・
途中から薄々感づいてはいたが、これは嫌だ。
もう、蜂蜜食べられないし、蝋燭も使いたくなくなるじゃん!
嫌悪感が限界突破したところで、ふと思い出す。
あ、そういえば、さっき村で蜂蜜使ったお菓子を出してもらったような・・・
思い出しながら、吐き気を催していると、おじさんが小さいおじさんに口移しで蜜をあげていた。
村長さんはもっといろいろ説明したかったみたいだったが、私はもう限界だった。
先を急いでいるのでと、そそくさと養蜂箱を出て村を後にした。
隣の村へ着いた時には、もう日は落ちていたがそんなのしょうがない。あんなところに長く居たら、SAN値がゼロになってしまう。
その夜の宿でも、蜂蜜を使ったデザートをおすすめされたが、丁重にお断りした。食えるわけないだろ。
そうして、足早にバーイリンへ戻ると、クラウヅさんへ納品し家へと帰った。
普段だったら、行きつけの食堂にでも寄ってから帰るのだが、食欲も無いし疲れていたのでまっすぐ家へと向かう。
久しぶりにゆっくり出来るかと、我が家の戸を引くのだが。
「おかえり、お兄やん。邪魔してんで。」
「おかえりなさい、ヤマダさん。」
そこには、何故かナギとツバキの姿があった。




