異世界生物怪奇譚18:ピーナッツ
ここは異世界、ナイラーヘイムル。
日は東から昇るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。
そんな世界。の少し変わった生き物のお話。
あれは行商に精を出していた頃の話。
いろいろと依頼をこなしたり、そこで知り合った人から物を仕入れて行商の真似事をしていた。
しかし、依頼を受けるだけだと収入が不安定だったり、その依頼というのも危なっかしいものが多かったり。
そんな中、少し距離はあるが、安定して稼げるルートを発見していた。
バーイリン辺りで良く栽培されている穀物や根菜類を持っていって、帰りにハーブ類を仕入れてくるだけ。
一度の稼ぎはそんなに高額ではなかったが、需要が安定していて、道中も比較的安全なルート。
もちろん同業はいたが、そこを通して卸させてもらう事で、手数料は取られる代わりに売る手間はなかった。
そんなこんなで、ひたすらバーイリンとハーブの村の間のシャトルランをしていたのだが、ある日道中の村で声を掛けられた。
何回もその村には泊っていて、宿屋の主人や、何人かの村人とは顔なじみになっている。
いつものように、村に一つしかない宿に泊まり、夕食をいただく。
サービスで出して貰った、ベリーで香りづけされた甘酸っぱいビールを飲んでいると、宿屋の主人がおかわりが入ったジャグを片手にニコニコしていた。
「そろそろ、ピーナッツの時期でね。蕾が大きくなってきたから、咲く前に一度見て行ったらどうだい?帰りに寄ってくれる時には咲いてるから、蕾は今だけだよ。」
翌朝、出発の支度を終えると、宿屋の店主に連れられ少し離れた裏の畑へと向かっていった。
そこには青々と茂った、落花生の"森"だった。
高さは5メートルくらいあるだろうか?葉っぱを見れば豆っぽいのだが、とにかく大きい。
そして、その根元あたりに大きな蕾が付いていた。
あぁ、大きいやつかぁ。ナイラーヘイムルあるあるの巨大なやつね。
ラグビーボールみたいなピーナッツが取れるのかなぁ?楽しみだなぁ。
私はそう思っていた。
その時までは。
そこから、元々の予定通りハーブの村へ向かった。
特に何事もなく、いつものように荷の穀物や根菜を売り、代わりにハーブを仕入れる。
ハーブは季節のものもあるが、この村は常緑樹のハーブが多く、定期的に小まめに仕入れた方が良いタイプで、頻繁に行き来する理由になっていた。
その村で一晩を過ごすと、ハーブを積み込み帰路に付いた。
帰りも異変はなく、順調そのもの。
行きに泊まった村まで辿り着くと、いつものように夕飯をいただく。
今夜のビールはニガヨモギかぁ。ホップみたいな苦みがあっていいなぁ、と思っているとまた宿屋の主人が声を掛けてきた。
「この前見てもらったピーナッツ、ちょうど今が満開だよ。せっかくだから、行く前に観て行ってくれよ。」
なるほど、あの大きな蕾なら、咲く花もまた巨大だろう。
そして、翌朝。行きと同じように、宿屋の主人に畑へと案内してもらう。
畑に近づいてくると、何やら人の声が聞こえた。
もしかしたら、花を見に来た先客がいるんだろうか?
そんな事を考えながら、落花生の根本まで辿り着くと、それは咲いていた。
咲いているとは言っても、花そのものではなく、花のように美しい女性が。
巨大な落花生の根本近くに、上半身だけの金髪の女性が生えていた。
「おにいさぁん、ちょっと寄ってかなぁい?」
「ねぇねぇ、暇だったら遊んでいってよ。」
「好みはどんなタイプぅ?私ぃ?それとも、あっちの子ぉ?」
・・・なんだろう、思ってたのと違う。
何の客引きなんだろうか。あっちこっちの花が声を掛けてくる。
しばらく歩いていると、宿屋の主人が誇らしげに問いかけてきた。
「どうだい、ヤメェダさん。綺麗に咲いてるだろ?」
うん、綺麗は同意する。そうじゃないけど。
畑を後にして帰ろうとしていると、宿屋の主人が言う。
「ヤメェダさん。次来る時はちょうど収穫の時期だから、良かったら収穫を手伝って欲しい。もちろん、タダとは言わねぇ。宿代は無料で良いし、別で依頼料も出すから。」
経費の一部が無料になって、副収入も得られるのは魅力的である。
突然の申し出ではあったが、二つ返事で快諾していた。
しかし、巨大な落花生。
やたらとキツイ力仕事なんだろうか?それとも、何かの怪異なんだろうか?
そして、そこから2週間ほど経ったある日。
私はまた、あの落花生の村へと来ていた。
いつものように夕飯をいただき、ビールもいただく。
今日のビールはスパイシーな感じで、少しピリッとしていて、こういうのも変わり種で面白い。
その夜は、珍しく悪夢を見た。
昔に見た、ホラー映画を思い出してしまったのか、死者の影にうなされていた。
翌朝、落花生の収穫の日。
宿屋の主人に連れられ、落花生の畑へと向かう。
実が熟したのか、巨大な葉は一部が枯れたり、黄色くなったり。
そして、その根元には。
両腕を土に入れた、ミイラ化した女性の上半身が。
右を見ても、左を見ても、ミイラ化した窪んだ眼でこちらを見ているようで。
ゲッソリしていると、宿屋の主人がその花だったモノの腕を掴む。
「こうやって引き抜くんだよ。ヤメェダさん、見ててな。」
そういうと、土から腕を引き抜いていく。
生前は、普通の腕の長さだったが、引き抜かれたそれは10メートル近い長いもので。
「それじゃあ、やってみてくれるか?」
そう言われ、私も花だったモノの腕を掴んだ。
植物の感触ではない。
干からびてはいるが、肌のような触感と、骨のような芯を感じる。
もう嫌だ。そう思いながらも、力任せに引き抜くと地中からそれは出てきた。
女性の腕のようなものに半分埋まる形で、落花生がボコボコと付いている。
集合体恐怖症の人ならば、ここで失神しているだろう。私も失神しそう。
そうやって、地中から引き抜いた手から収穫を行っていく。
腕に無数に埋まった落花生を、剥がすというか抉るように取っていくのだが、少し抵抗があるものを引きはがすと、ねっちょりと糸を引いていて・・・
気持ち悪くなって横に視線を逸らすと、そこにはミイラ化した女性の顔が・・・
発狂しそうになりながら、なんとかその日の収穫を終えた。
宿に戻ると、宿屋の主人がニコニコしながら、湯気の上がる籠を持ってくる。
「採れたての茹でピーナッツだよ。新鮮だから美味しいぜ!」
収獲の風景を思い出し、吐き気を催しそうになったが、なんとか堪えて引きつった笑顔でそれを受け取った。
籠から殻付きのソレを一つ摘まむ。
たぶん、腕は震えていただろう。
それを割ると、中身は普通のピーナッツだった。
血の味がするんじゃないかと、ビクビクしながら口へ運んだ。
美味しい。
塩気が効いて、ほんのり甘く、皮の渋みと豆の旨味が口の中に広がる。
今日はまたニガヨモギのビールだったのだが、これが良いマリアージュで。
そうして、美味しさに感動したり、思い出して吐きそうになったりしながら、籠の中の落花生は消えていった。




