異世界生物怪奇譚16:チューリップ
ここは異世界、ナイラーヘイムル。
日は東から昇るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。
そんな世界。の少し変わった生き物のお話。
あれは旅行から帰ってきた時の事。
南国リゾートを存分に楽しみ・・・少しイライラすることもあったが、満喫してバーイリンへと帰ってきていた。
護衛と御者のおじさんにチップを渡して、街の入口から自宅へと歩いていく。
そうして道を歩いていると、やたらと不幸そうにトボトボと歩いている女性を見かけた。
何か見た事がある顔だな、と思ってよく見てみるとそれはエルザだった。
髪は伸び、少しやつれているようだったが、あの特徴的な目は忘れない。
しかし、そこそこ生活力はあるし、余裕をもってお金は渡していたはずなので、豪遊したりギャンブルをしなければ2~3年は・・・
と考えていたところで思い出した。
そうだ、ギャンブルに嵌めて逃げたんだった。
放っておいても良かったのだが、いくらか縁があった人間ではあるので、罪悪感から声を掛けてしまっていた。
エルザは一瞬気付かなかったが、私の存在を認識すると、神にでもあったかのような目で縋りついてきた。
「ヤメェダさまぁ!会いたかったですぅ!」
捨ててきたのに、私への信仰は薄れていないようだった。
続けて、エルザが申し訳なさそうに語りだした。
「あのぉ・・・そのぉ・・・私が至らなかったからなのですが、とてもお金に困っていましてぇ・・・」
うん、そうだろう。見ればわかる。
あまり聞きたくはなかったが、あれから何があったのか聞いてみた。
ライ麦の収穫からギャンブルに目覚め、あれやこれやと手を付けていったそうで。
相場やサイコロ、剣闘など、いくつかのギャンブルを触ってみたものの、最初のライ麦の感触が忘れられなかったと。
そして、最終的に行きついたのが"チューリップ"。
しかし、私の記憶が間違っていなければ、チューリップはバブルの話で、あれはどちらかというと相場の話だった気が。
怪訝に思い、チューリップはどんなギャンブルなのかを聞いてみた。
「そうですね・・・なかなか説明しづらいので、実際に見ていただいた方が良いと思います。」
そうして、エルザに手を引かれ、私はチューリップ屋へと向かった。
そこは派手な装飾が施された露店で、いくつかの大きなカゴにチューリップの球根が山のように盛られている。
カゴに立ててある札には、それぞれの球根の産地や品種、値段が書かれていた。
花の球根にしては少し高いが、そんなに高すぎるというわけでもない。
せいぜい銅貨数枚で、貴族や商人でなくても、普通に手が届く金額だろう。
それを眺めていると、エルザがその中から一つのカゴを指さした。
「あれにしましょう、ヤメェダさま。今年のネザリンドの新種で、すごく良いんです。とりあえず、10個ほど買いませんか?」
それを聞いた私は、何を言ってるんだコイツはと思った。
一個が銅貨数枚でも、10個も買えば小銀貨以上。
そんなにホイホイ買うような金額ではなく、宿に泊まったり、ちょっとした贅沢が出来るくらいの金額だ。
少し悩んだが、財布に余裕はあるし、チューリップがなんなのかわからなければどうしようもない。
渋々、それを買い、家へと帰って行った。
家に着くと、荷物を降ろし、チューリップの球根を机に広げた。
見た目は普通の球根。ニンニクくらいの大きさで、赤い皮で覆われている。
二つ三つ手に取り、眺めているとエルザが言う。
「これは皮を剥くんです。私のおすすめは、上から少しづつ剥くのが、緊張感があって良くて。」
そういうものなのか、と思い一つ剥いてみる。
皮を引っ張っていくと、中の白い球根が徐々に見えて行き、それが半分くらいに差し掛かった時。
ピン!
と、高い音が鳴り、球根がわずかに発光する。
それを見たエルザがため息をつきながら言った。
「あぁ、ハズレですねぇ。次を剥きましょう。」
どうやらこれはハズレらしい。当たりだったらどうなるんだろう?
そして、二つ目を剥いたが、これも一つ目と同じでハズレらしい。
何が当たりなのかわからないまま、三つ目を手にする。
前の二つと同じように、皮を剥いていくと。
パキン・・・ビー!ビー!ビー!ビー!
キュイン!キュイン!キュイン!
ピコピコーン!ピコピコーン!プオーン!プオーン!プオーン!プオーン!
喧しい音を立てながら、球根は宙に浮き、回転しながら七色の魔力の光を放つ。
しばらくの間、その球根は音を立てながら、キラキラと光っていたが、光と音が収まると机の上に転がっていた。
「さすがヤメェダさま!すごいです!私もまだアルティメットブルーアイズホワイトスキンパートスリーを引いた事ないのに!」
良くわからないが、かなりレアなものが出たらしい。
その球根はハズレの白い球根とは違い、表面が青っぽい金属のような光沢に覆われ、光をかざすと色味が変わる。
確かに、これは綺麗だなぁ、と思いながらいくらくらいするものなのか、エルザに聞いてみた。
「うーん、そうですねぇ・・・私は剥き専なので、あまり詳しくないんですが、金貨1~2枚くらいだったかとぉ。」
思ってたよりは高価だった。で、剥き専ってなんだよ。この演出を楽しむだけか。
残りを剥いてみたが、派手な演出が起こるものはなく、黄色い球根が少し多めに光るくらいだった。
「あぁ、でもぉ。たまにハズレたと思ったら、急に光りだしてやっぱり当たりみたいなものもあってぇ。」
私は逆転演出はあまり好きではないので、先告知の方が、じゃなくて。
剥き終わったところで、本題をエルザに問いただす。
今、いくら借金があるのか。
エルザは言いづらそうにモジモジとしていたが、落ち着くと顔を伏せて数字を言い出した。
「えーっとぉ・・・ダヴェドさんのところで金貨50枚と、ミカエさんのところで30枚・・・あと、レーアさんのところにも20枚・・・」
思っていたより酷かった。この世界には総量規制は無いらしい。
これは、どうしたものか。
今の私の蓄えから、代わりに返済するのは簡単だが、どうせエルザはまた借金するに決まっている。
しかし、エルザに自力で返済させるにしろ、この高利な世界では働いても利息分を払っていくのも難しい。
頭を抱え、しばらく考えていたが、ふとあるものを思い出した。
そして、今度はエルザの家へ向かった。
ボロボロで建て付けが悪い戸を開けると、狭い部屋の中は大量の球根で埋め尽くされていた。
その球根は三桁では全く効かないだろう。四桁か、もしかしたら五桁くらいの個数があるかもしれない。
しかし、まぁここまでは想定内。
レアなものはどこにあるのかとエルザに聞くと、ゴミだらけの部屋には似つかわしくない綺麗な棚があった。
何段かに分かれていて、一番上の段にひときわ綺麗な球根が五つ並んでいる。
私は左から順番に指差し、いくらくらいするものなのか聞いていった。
「あぁ!それは一番レアなやつで、金貨2~3枚くらいにはなると思いますぅ。」
次。
「それもとても珍しくて、金貨1~2枚くらいでしょうかぁ?」
次。
「それはどうでしょうかぁ?金貨・・・いや、大銀貨数枚くらいでしょうかぁ?」
次。
「そうですねぇ・・・大銀貨5・・・3枚くらいかもしれないですぅ・・・」
次。
「それはぁ・・・大銀貨1枚くらいの値が付けば良い方でしょうかぁ・・・」
これも想定はしていたが、持っている球根を売っても利息を一二回払えば終わりである。
私はニヤリと笑って、エルザに言った。
「よし、エルザ。この球根を売って、借金を返済するぞ。」
それを聞いたエルザは、困惑しながらおどおどと答えた。
「そのぉ・・・金額を聞いていただいたと思うのですが、売ってもぜんぜん足りないのでは・・・」
心配するエルザを宥め、今日のところは解散し我が家へと帰った。
次の日。
私は大量の小さな袋を商店で買い、エルザの家へと向かった。
そして、私はエルザへ命令する。
「この袋の一つ一つに番号を書いて、球根を一つづつ詰めて。当たりを何番にするかは、これに書いてあるから、それには指定された棚のものを入れてね。」
エルザは良く分かっていない顔をしていたが、素直に球根を詰め始めた。
そうして、エルザといっしょに500個の袋に球根を詰めていく。
午前中の間には詰め終わり、ここへ来る途中に話を付けて置いた、露店までそれを運んでいった。
露店へ着いた私は、札に商品内容と金額を書いていく。
"チューリップくじ!大当たりはブラックナインパワーロータスミントアルファパートワン!ハズレでも無料券がおまけで付いてくる場合も?最後の一つをお買い上げいただいた方には、賞品としてポケットファーストリザードオブネザリンドを差し上げます!一回小銀貨一枚!十回まとめてなら小銀貨九枚!"
そう、私が考えたのは、オリパガチャだった。
かなり攻めた価格設定とサービス内容だが、これくらいしないとエルザの借金は返せない。
控除率は・・・現代なら詐欺と言われるかもしれないが、どうせこの世代の一般人には期待値計算なんて出来ないんだから、売り方と演出が大事である。
そうして、露店の番をしていたが、価格設定もあり、たまにポツポツと売れる程度。
その様子をエルザは心配そうに見ていたが、通りに人が増えてくる時間帯になってきた。
そこで、私は樽に袋を足していった。
もちろん、大当たりが入った袋を。
買った人がそれを引いてくれるかは運だったが、幸いにも一番人が集まる時間帯にそれは起こってくれた。
袋を開くと大当たり。喜んで叫ぶ客。集まる視線。
それを見た往来人が次々と、店の列に並んでいく。
そして、その瞬間を見ていなかった者たちも、列を見て、話しを聞いて、さらに列に加わってくる。
最初の500個セットが売り切れるまで、2~3日は掛かるかと思っていたが、その日の夕方には完売していた。
さらに明日もやるなら、朝一で買いに来ると、買えなかった人や、当たりを引けなかった人からの声をいただいた。
こうなればこっちのものである。
隙あらば抱き着こうとしてくるエルザをしばき倒しながら、延々と袋詰めをさせていく。
あまりにも売れ行きが良く、詰める球根があっという間に無くなったので、新たに剥いたり、買い取りをしたり。
真似してくるものもいたが、おまけやサービスも手を変え品を変え、そのたび売り上げは伸びていった。
3カ月も経ったころにはエルザの借金は払い終えていた。
「ヤメェダさまぁ♡あなたは私の神ですぅ♡これ以上のお慕いする言葉が思い浮かばないのが私の罪です♡」
エルザの信仰度が限界突破していた。
まぁ、これはしょうがないかもしれない。
絶望的な状況に現れ、危機を救ってくれたんだから。
そういう存在がいたら私も信仰してしまうかもしれない。
厄介なことをしてしまったと後悔しつつも、なんとか上手く行って良かったと思い胸をなでおろしていると、エルザが何かを持ってきた。
「ヤメェダさま!良いものを見つけましたぁ!これは翡翠の原石と言ってぇ・・・」
エルザは全く懲りていないようだった。




