異世界生物怪奇譚13:カボチャ
ここは異世界、ナイラーヘイムル。
日は東から昇るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。
そんな世界。の少し変わった生き物のお話。
あれはカブの収穫を終えて、しばらく経ってからのことだった。
あれこれと依頼をこなしたり、交易品を仕入れに行って買ったり売ったり。
商売はそれなりに順調で、お金も時間も余裕があった時。
懇意にしていただいている、商会のクラウヅさんが声を掛けてきた。
「ヤメェダさん、依頼したい事があるんだけど良いかなぁ?」
日頃から、仕事を斡旋して貰ったり、売り買いを世話してもらっているので頭が上がらないのだが、なかなか無茶振りをしてくださる。
今回はなんだろうか、と思いつつ依頼の内容を伺った。
「最近、作る農家も増えてきた、カボチャを見てきて欲しいんだよ。建前としては収穫の手伝いというところで、収穫から出荷までの流れや品質のレポートをして欲しい。もちろん、報酬は色を付けさせてもらうよ。」
なんとも評価に困る依頼だった。
報酬は相場よりずいぶん良いが、こちらではまだ見た事がない作物。
命の危険があるような感じではなさそうだが、ナイラーヘイムルの作物はろくなものではない。
うーん・・・
しばし、顎に手を当て、今までの事を思い出し逡巡していたが、どちらにせよ断れるわけでもなし。
何分も経たずに、依頼を引き受けることになり、レポートの形式や報酬の金額を詰めていた。
そこから数日。
バーイリンの南の山を越え、隣国の農村へと辿り着いていた。
比較的裕福な村なのか、ちょっとした教会や塔があったり、広めの厩舎が併設された宿屋があったりする。
気候は良さそうだし、交易の街道としても機能しているんだろう。
南部の方は飯も美味しい事が多いし、珍しく?良さそうな環境に私のテンションは上がっていた。
まだ日も高いころに村へ着いたので、年老いた村長への挨拶はほどほどに、依頼主である壮年の恰幅の良い男から話を聞く。
なんでも、近年新大陸から入ってきたカボチャの栽培を試験的に行っていて、売り先を探したり、プロモーションをするのが主目的なのだとか。
クラウヅさんからは"レポート"と言われていたが、買い付ける商人と、売りたい村人のそれぞれの思惑があったわけで。
そして、ここでの仕事も、収穫そのものというより、検品や味見役として品質をアピールして欲しいらしい。
今まで、崩壊したデスマーチの現場みたいな案件が多かったが、どうやら今回はずいぶん文化的な案件だった。
そこから、宿を案内してもらったが、これまた素晴らしい。
王都の豪華な宿、と比べるとさすがに落ちるが、部屋は広く清潔でちょっとした調度品もあり、普段は良いところの商人や役人が利用しているんだろう。
また、晩御飯もといディナーも素晴らしかった。
臭くない新鮮な羊肉の香草焼きに、色鮮やかなスープ、白いパン!
さらに、ワインは飲み放題で、ツマミにチーズやオリーブも付いてくる。
さらにさらに、何故か村の妙齢の女性が、お酒の相手をしてくれる。
これは、あれだ。接待と呼ばれるものだ。
生前はそういう機会には恵まれなかったが、これは気分が良い。耐性が無い私は、もうきっちり術中に嵌っていた。
少し酒が残っている感じもあったが、小鳥のさえずりで目を覚ます。
多めに水を飲むと、顔を洗い髪を整えた。
水も綺麗で、とても良い村。
ゆっくりとモーニングをいただくと、遅めで良いと言われたので、重役出勤で現場へと向かった。
ちなみに朝はベーコンエッグ!に果物まで付いてきた。
そうして、日も高くなりつつなっていた頃、農場で収穫作業を手伝う。
とはいえ、大した力仕事はさせてもらえず、軽めの籠をいくつか運ぶくらい。
こんな楽させてもらっても良いのかと、少し居心地の悪さも感じつつ、昼過ぎには収穫が終わり、選別と梱包が始まった。
梱包と言っても、実際にどこかへ出荷するわけではない。
翌年以降の練習といった感じで、村人は工程を確認しながら作業を進めていた。思っていたより、めちゃくちゃちゃんとしている。
手持ち無沙汰でチョロチョロと彷徨っていたのだが、気になることがあった。
カボチャは品種が違うのか、いくつかの色があったのだが、箱にはバラバラの色を詰めていく。
こういうのは、私は気持ち悪い。
見た目的には色取り取りかもしれないが、同じ色で揃っている方が美しい。
そう思い、手近にあった箱に青いカボチャだけを、一つ、二つ、三つと詰めていった。
四つ目を詰めようとした時、急に声を掛けられる。
「あっ!ヤメェダさん!同じ色は・・・」
声に気付いた時には、四つ目のカボチャを手から離していた。
バシャッ!
青いカボチャは一瞬で水になっていた。
しかし、普通の水ではないようで、その後急激に蒸発しどこかへと消えていった。
「あぁ・・・。味も悪くないんですが、取り扱いが難しいんですよねぇ。」
恰幅の良い村人は、その光景を困った感じで眺めつつ、ボヤいていた。
確かに、農作物としては扱いづらいだろう。しかし、私は違う事に注目していた。
四つ揃えたら消える。
過去にずいぶんとやり込んだ"ぷよ〇よ"を思い出し、それにしか見えなくなっていた。
「いくつか、品質チェックのためにいただけますか?」
そう伝え、赤、青、緑と三色のカボチャを四つずつ、選んで籠へ入れて持ち帰った。
そして、今日の仕事(大したことはしていないけど)が終わると、人目に付かないところに行って、さっそく実験を始める。
まずは緑。
三つ地面に接触させて並べ、四つ目を置くと・・・
地面に小さなカボチャの葉と茎が生える。これは、時間が経っても消えない。
次に赤を三つ、青を三つ直線に並べ、赤の上に青を置いて、赤が消えたら青が四つ揃うように並べた。
赤に四つ目を接触させると赤が消え、青が落ちる。
赤が消えた分はモヤモヤとした魔力の霧になり、青が消えるとそれと混ざり弾ける。
青単体で消した時より、遥かに多い水が飛び散る。
これは・・・想定通り。
翌日、それほど広くないカボチャの畑は、ほとんど収穫が終わっていた。
箱詰めも終わらないうちに、私は恰幅の良い村人に切り出した。
「今年の収穫分は全て買います。お代は・・・これくらいでいかがでしょう?」
私は、かなり良い値段を提示した。もちろん、プロモーションが上手く行ったと思った村人は、二つ返事でニコニコと快諾していた。
そういう用途で使うんじゃないのにね。
さらに翌日。
隣町から大きな馬車を二つ借りてくると、カボチャをギッシリと積み込み帰路へついた。
重い荷物を積んでの山越えなので、道中はそれなりに苦労したが、これからやろうとしていることからすると大したことではない。
数日掛け、バーイリン近郊の村へと辿り着くと、馬車と荷を預け、単身バーイリンへ戻る。
手早く適当なレポートをでっちあげると、木材を積みまた近郊の村へと向かった。
その日は早めに寝ると、翌朝早くから近くのだだっ広い草原へ馬車を引いて向かう。
簡単に木枠を組み、カボチャを次々と並べていった。
折り返しを組んで、17連鎖くらいさせたかったが、左右の接触が不確かだったので、少し傾斜させて横長に連鎖を組んでいった。
作業自体はそこまで時間は掛からず、日がまだ高いころには馬車に積まれたカボチャの大半を並べ終えていた。
ドキドキしながら、長々と並べたカボチャの列の端にある、発火させるためのカボチャのストッパーを外した。
1、2、3、4・・・と順調に連鎖は続いていく。
カボチャが消えるごとに、宙に浮いた魔力の渦が指数関数的に大きくなっていった。
そして、全てのカボチャが消えた時。
それは一点に収束し、大爆発を引き起こす。
轟音、光、衝撃。
壕でも用意しておけばよかったと、数メートル弾き飛ばされてから、反省しながらヨロヨロと立ち上がる。
見上げると。
それは聳え立っていた。
巨大なカボチャの蔦。
真上を見上げ、どのくらいの高さかわからないほどのカボチャの葉が、地平の果ての山の上まで続いていた。
あ、ヤバイ。やり過ぎた・・・
まぁ、一年草だし来年には枯れるでしょ。良い実を付けてくれたらいいなぁ。
なんて、現実逃避しながら、馬車を処分しこっそりとバーイリンへ帰ることとした。




