異世界生物怪奇譚12:ジャガイモ
ここは異世界、ナイラーヘイムル。
日は東から昇るし月は一つだが、生き物は現実世界と少し違う。
そんな世界。の少し変わった生き物のお話。
あれはヤシマからようやくバーイリンへと帰ってきた時のこと。
そんなに長く離れようと思っていたわけではなかったが、季節はぐるりと回って、一年近く経ってしまっていた。
街の入口で手続きを済ませると、久しぶりの我が家へと石畳を歩いていく。
街並みは特に変わりは無かった。変わった事と言えば、行きと違って隣にツバキが居るくらい。
真っすぐ家へ帰ろうかとも思ったが、お腹が空いていたので食堂に寄った。
以前は良く通っていた店で、この辺りの店だと一番美味しい。
値段もリーズナブルで、グラタンとアップルパイは絶品だった。
ヤシマだと乳製品を使った料理はほとんどなかったので、ツバキの口に合うだろうか?
そんな事を考えながら、店の戸を開いた。
「お帰りなさいませ!ご主人様!お嬢様!」
この世界では見ることが無い、ミニスカートのメイドが出てきた。
・・・間違えたかな?なんて考えていると、ツバキの冷めた目線が刺さる。
そんなつもりでは、と弁明しようとした時、奥の方に以前の食堂の店主の姿が見えた。
あちらも気付いたようで、こちらに近づいて声を掛けてくる。
「ずいぶんお久しぶりですね、ヤメェダさん。変わっててびっくりしたかな?」
びっくりしたなんてもんじゃない。内装もガラッと変わっていて、やたらとピンクだったり、奥には小さなライブステージもある。
「半年くらい前に来た旅人さんに教えてもらったんだよ。こういう風にやったらお客さん増えるって。おかげで街一番の繁盛する店になって、最近は真似する店も増えてきてよぉ。」
要らん事を吹き込んだのはどこの転生者だ。私の行きつけの店をメイド喫茶にしやがって。
まぁ、接客や内装が変わっただけで、メニューはほとんど変わっていなかった。
お絵描きをしてくれるオムレツとかは増えていたが。
私は予定通り、グラタンとアップルパイを頼んだが、ツバキはオムレツとミルクティーを頼んでいた。
さっきまで私に冷たい視線を向けていていたくせに、ずいぶんと楽しんでいらっしゃる。
ツバキは給仕をしてくれたメイドといっしょに、美味しくなる魔法の呪文詠唱をして、お絵描きのリクエストをしていた。チェキもあったら、きっと撮ってるんだろう。
そうして、食事を終え、前の三割増しくらいになったお代を払うと、また家へと歩いていった。
通りを進んで、パン屋の角を曲がり、赤い屋根の家の間の道を進むと、約一年ぶりの我が家が見えてきた。
ほったらかしにしていたせいで、壁や戸は汚れ、軒先には枯葉や小さなゴミが積もっていた。
掃除しないとな、と思いながら中に入ろうと引き戸に手を掛けた時。
ゴソゴソッ!
家の中から、何かが動く音が聞こえる。
空き巣か?不法侵入者か?
ツバキに目配せをし、音を立てないようにゆっくりと戸を開ける。
家の中は暗く、誰かが居るようには見えない。
火は落とすと危ないので、燭台は使わずに強めの照明の魔法を唱えた。
恐る恐る、家の中を見回すとソレは居た。
こぶし大の緑と茶色のまだら模様の中に、いくつもの目がギョロリと生えている。
下には白い根のような触手が生え、ゴソゴソと重い身体を揺らしながら這っていた。
百目のタコみたいな感じと言えば、分かりやすいかもしれない。
そういえば、ジャガイモ処分するの忘れていた。ついつい忘れて、目を出させちゃうんだよな。
ツバキにも協力してもらい、家の中をくまなく探して駆除していく。
そんなに素早くないし、特に攻撃もしてこないので、適当に棒で叩いて潰し袋に入れていった。
食べずに残っていた分だったので、そんなに数も多くなく、両手で足りるくらいであっさりと駆除は終わった。
それから窓という窓を全開にし、掃き掃除や拭き掃除を始めた。
なぞったら絵を書けるくらいには埃が積んでいたが、そんなに広い家でもなかったので、分担して一時間も経たずに掃除は終わっていた。
・・・
そして、翌日。
持ち帰ってきた真珠を商会へ持って行った。
小さいものはそのまま買い取ってもらったが、大きいものは貴族でもなければ買い手が付かないので仲介をお願いする。
それなりに手数料は取られるし、かなり時間は掛かるが高額商品なのでしょうがない。
とはいえ、小さい真珠だけでも十分過ぎるほどの大金だったので、それだけで旅費の元手は取れたし、多少高価なお買い物も出来るほど。
ナギに送る土産を探すために、その足でツバキと繁華街の方へ向かっていった。
お土産は何が良いだろうか?食べ物は喜ぶだろうが、量を運べないし、日持ちがしないものも持たせられない。
軽くて嵩まないものだと、アクセサリーや押し花とかが良いかもしれない。
そうやって、あれこれといくつかの店を覗いたが、イマイチピンと来るものがなかった。
少し休憩のために、ナギとも行った喫茶店に立ち寄ったが、・・・ここもメイド喫茶化していた。
まぁ、まだこれは許してやろう。元々喫茶店だし。
喫茶店を出て、さらに通りを進んでいくと、ある店の前に人だかりが出来ていた。
並んでいるのはほとんど女性で、年齢層は様々で若い少女から、年配の老婆まで。
身分もバラバラで、普通の農村や町民のような恰好から、貴族の子女なのか地味だが仕立ての良い服を着ている人もいる。
それに、あそこは書店だったはずで、人が並ぶような店ではないはずだが?
不思議に思い、その列に並んだ。
見た目よりは列はすんなり進んでいき、店の中に入っていくとそこには・・・
平積みで薄い本が積まれていて、そこに多くの人が集まっている。
嫌な予感がしつつ、それを手に取ると、表紙に男性が抱き合っている絵が描かれていた。
もうそれが何かは分かっている。
だが、もしかしたら違うものかもしれない。一縷の望みをかけて、ページを捲ると・・・
やっぱりアレじゃないか。
半年前にバーイリンへ立ち寄ったヤツ、怒ってないので出てきなさい。
私がため息をつきながらソレを眺めていると、隣のツバキは目をキラキラさせながらページを次々と捲っていた。
そして、そのまま目をキラキラさせながら、提案してきた。
「お土産!お土産はこれにしよう。きっとナギお嬢様も喜んでくれるはず。」
いや、そうかもしれないが。だけど・・・うーん、しょうがないか・・・
それなりに高かったが、ツバキが気に入った五冊を選び、油紙に包んで貰う。
店を出たツバキはそれを胸に抱いてニコニコしていたが、良いところのお嬢様へのお土産がソレというのは、私としては嫌だったので他の土産を探しに行く。
辺りを見回すと、近くに洋服屋があったので、そこに入ることにした。
服の一二着くらいであれば、そんなに嵩まないし良いだろう。
少し古いが、縁が贅沢に装飾された重い扉を引いて店に入る。
しかし、またしても文化の浸食が。
ミニスカートのメイド服。あと、なんか魔法少女みたいな服もある・・・
これはまたか、と思ったが、予想通りツバキさんは笑顔の花が満開で。
「これ!これにしよう!こっちのはナギお嬢様用で、あと私用にこちらのも一着。」
もう、お土産というより、ツバキが欲しい物を買ってるだけのような気もしてきたが、断れもしないので黙って財布の口を開く。
これまたなかなかいいお値段のお会計をしている間に、ツバキは奥で採寸をしていた。
セミオーダーのような感じらしく、2~3日で整えてくれるとのことで。ナギの分は出来ないので、大まかなサイズだけ決めて、細かいところは戻ってから直すんだとか。
そうして三日が経ち、仕立ての終わった服を受け取ると、ツバキは満面の笑みでヤシマへと帰って行った。
メイド服に太刀を佩いた、何かのラノベのような姿で。




