CASE.097「同盟」
ご覧いただきありがとうございます。
※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。
設定資料をご覧になりたい方はぜひnoteに訪れてみて下さい!!
https://note.com/ponym/m/mc8c9ad24eef6
イシスがこの姿となり、日野悠離の保護へ至った経緯を語り終えた頃、作戦室には沈黙が流れていた。
若干一名は退屈そうにうとうとしているが、その他の者たちは真剣な眼差しで、イシスの声が流れるスピーカーを凝視している。
「つまりはイシス神様。あなたは日野悠離を保護するためだけに“|α-980-ノード89《この異世界》”を創り、主神の座を放棄したのですか?」
「無論」
「そうですか……。ちなみに、現状はどこまで把握していらっしゃるのでしょうか」
「……ほう」
カイは淡々と、イシス神へ質問を投げかける。
先ほど目の前でディーテル情報官が気絶させられたにもかかわらず、毅然とした態度を貫くカイに、イシス神は図らずも感心したような吐息を漏らした。
「カイ監査官。少々、貴女のことを見くびっていたようです。さすがは荒くれ者共が集う、特殊第六執行部隊の長といったところでしょうか……」
(特殊第六執行部隊のことは知っているようね……)
時系列は定かではないが、話を聞く限り、この事件が起きたのは少なくとも現在の特殊第六執行部隊が発足する前。
知らないはずの情報を把握しているということは、彼女には何らかの情報源があるのか。それとも、こちらを見透かす能力でもあるのだろうか。
「そちらのことは大体把握しています。散々、蠅共がわざわざ情報を届けに来てくださいますから」
「蠅共?」
「フン……『第零執行部隊』です。ご存知でしょう?」
「「「ッ!!!」」」
「……?」
聞き慣れぬ用語。
それに大きく反応したのはカイ、ユリス、そしてノルハイコ。
ヘパーは依然として、退屈そうに欠伸をかましている。
「第零……執行部隊……。噂程度にしか聞かないけど……ユリスは?」
「僕も耳にしている。それを証明する証拠はないがね」
「隊長……」
「ええサイモン。分かっています……」
あちこちに不穏な空気が流れる。
一方、事態を理解できないミラとルールーは、あわあわし始めた。
「え、何々? 何スか? ルールーちゃん何か知ってます?」
「し、知らないし。そんな中二病拗らせたみたいな名前の部隊」
ユリスは2人を一瞥し、こちらへ説明するかのようにイシスへ語りかける。
「第零執行部隊は、犯罪を犯し、擬似タルタロスにて終身刑及び死刑を言い渡された基底界人への救済措置とされているが……まさか実在するので?」
「フン、『第六の人力辞書』ともあろう者が……随分と薄い辞書のようで」
たっぷり皮肉を交えたつもりだが、ユリスは眉1つ動かさない。
つまらぬと断じたイシスは、そのまま続けた。
「残念ながら存在しますよ、第零執行部隊。ただし、救済などという生温いものではありません。RAC本部直下の執行部隊――いわば、便利な使い捨ての特攻部隊です」
「……なるほど、理解した」
「ユリス、説明しなさい」
ほんの少しの情報から、全てが頭の中で繋がり始めたユリス。
彼はカイの指示通り、それらの情報を、馬鹿でも分かるように整理し始める。
「長らく僕が疑問視していたのが、こうした執行案件の情報録だ。その難易度、転生者の危険性、能力――それらを、どうやって事前に収集しているのか」
「それがどうしたんスか」
「疑問に思わないかね、諸君。基本、こうした執行対象の情報録は本部から送られてくる。本部直属の実働部隊は第一執行部隊だが……どうも彼らだけで、この夥しい量の異世界を調べられるとは考えにくい」
「オペレーターとかいるんじゃないんスか?」
「それも一考の余地はあるが、この世には何億、何兆もの異世界が存在する。それら全てを並行して情報収集するには、VABOのPCでもいくらあっても足りない」
「ほえ……」
「とすると、答えは単純。第零による人海戦術だ」
ユリスは眼鏡をかちゃりと微調整する。
「我ら基底界人には、神々同様、寿命が存在しない。故に基底界の人口は増える一方のはず。ではなぜ、基底界はいまだ溢れ返らないのか」
「たしかに……」
「え、それってまさか――」
「なるほどね……ちょっと想像したくないわね」
インヨウ兄妹以外が同じ結論へ辿り着き始め、どす黒い事実が脳裏を過る。
「断定はしないが、おそらくRAC本部……いや、輪廻庁は、基底界人の一部を――特に擬似タルタロスの収監者を、刑罰や救済措置の名目で使い捨ての斥候役として運用しているのだろう」
「……ッ!」
「え、マジッスか……?」
「つまり擬似タルタロスは、いわば再教育センター。片道切符の執行任務へ、情報なしで送り込まれているのね。任務が無事成功すれば、それはそれで良し。失敗しても使い捨て要員だから、バックアップやオペレーターの支援も必要ない……。情報さえ入手できれば、後はどうなろうが輪廻庁にとってはプラスって算段ね」
「え、ちょちょちょ! マジのガチなんスか、それ?!」
残酷で非道な憶測に、ミラは慌てふためくように声を荒らげる。
カイはユリスへ視線を送る。
「あくまで憶測だ。だが、可能性はゼロではない。事実、君もタルタロスには一時お世話になっただろう?」
「それは……」
「では、身をもって体感したはずだ。あそこは、ただ閉じ込めるだけの檻にしては、明らかに規模が大きすぎる。それに囚人たちも大人しかったはずだ。もしかすれば君も……」
「…………」
「ミラっち、マジでよく出てこられたね☆」
(それは言わないでほしいッスね。胃が痛い)
すると、イシスの不敵なほくそ笑みが、スピーカーから聞こえた。
「半分正解、半分不正解といったところですね。基底界人にしては出来の良い妄想です。少なくとも擬似タルタロスの認識は概ね正しいです」
(合ってんのかい!)
(あーし、帰りたい)
「それで、あなたはその第零執行部隊から情報を得ていると……何度襲撃を受けたか、お聞きしても?」
イシスの声が、しばらく途切れる。
何かを思い返しているのか、数秒の沈黙が流れた。
「ざっと、447回でしょうか。今ここで貴方方を殲滅すれば、448回目となります」
「よ、400……は!?!?」
せいぜい2、3回を想像していた一同は、目を見開いて驚く。
ユリスまでもが熟考に至っており、どうやら彼にとっても想定外の数字だったらしい。
「待ってください、イシス神様。あなたは……あなたたちは、一体どれほどその異世界にいるのですか?」
「…………」
イシスからの返答が途切れる。
「……少々、お待ちなさい」
珍しく歯切れの悪い声。
どうやら頭の中で、こちらの時間尺度へ換算しているらしい。
「……そうですね。およそ1980年、といったところでしょうか」
「な……どういうこと、ユリス?!」
さすがに時系列と数字の規模がおかしく、カイはユリスへ問いただす。
彼女が嘘を言っているようにも思えず、嘘をつく理由も見当たらないため、余計にカイはこの案件の黒さを認識し始めていた。
当然、インヨウ兄妹らは何も分かっていないため、ルールーが今までの話をかいつまんで説明していた。
「え、でもでもあのオカマが言うには、5年前には日野悠離と接触してるって……というか、そもそも情報録ではつい最近転生したばかりって書いてあるッスけど……」
「ふむ……少し考える時間をほしい。いいかな、カイ監査官?」
「え、ええ。というか、私まで混乱してきた……」
カイは頭を抱えながら、椅子へ座り込む。
頭脳組が離脱したことで、唯一まともに喋れるミラが、イシスの相手をした。
「じゃ、日野悠離――もといゥルルは、2000歳近いってことッスか?」
「そうです」
「え、ちょちょちょ、待ってほしいッス。な、なんか申し訳ないんですけど……」
「……なんです?」
「いや、その……なんていうか、ゥルルはちょっと――」
「幼すぎると?」
「はははははいー!! めめめ滅相もないッス!!(ヤバい、魂が分離されるゥーッ!!)」
機嫌を損ねてしまったと思い、ミラは自分もディーテルと同じ道を歩む羽目になると、肩をびくつかせる。
だが、それは早とちりだった。
イシスは少しばかり弱々しい口調で、言葉を紡ぐ。
「人の子は元来、社会の中で育ち、心身共に成長します」
「は、はえ?」
「ですが私の坊や……ゥルルは人ではありません。成長せず、悠久の寿命を抱える身体となった彼の人格は、あの頃のままなのですよ」
「で、でも……」
「理解しがたいのは重々承知しています。ですが、あなたのすぐ近くにも前例がいるのでは、ミラオペレーター」
「前例…………あ」
ミラはすぐにインヨウ兄妹を連想した。
彼らもRACでは、カイに次ぐ古株。
だが、それにしては人格があまりにも幼く、決して長くRACに従事している大人とは思えない外見と振る舞いである。
「無限にも等しい命を得た者は、人格の変化が極端に緩慢になります。理由は分かりません。これも、オーディンの言う“混沌”の作用なのでしょうか……」
ぶつぶつと、うわ言のように独り言を呟き始めるイシス。
まるで子育てに悩む母のようであり、息子の将来をただただ心配する、神ではない1人の女性がそこにいるかのようである。
「ですが、そんな彼に転機が現れました」
「転機……?」
「アンです。アン執行官ですよ」
「アンちゃんが?」
アンの名を口にした途端、彼女の声音が徐々に高くなる。
「アンと出会ったことで、ゥルルは一皮むけました。やはり子供の成長には、同じく子供との触れ合いが効果的なのです!」
「は、はぁ……(アンちゃん一応大人なんスけど……黙っとこ)」
「アンは今までの蠅共とは違います。純粋にゥルルを慕ってくれている……優しい子です」
相当アンに入れ込んでおり、大層気に入っている様子。
息子に初めて友達ができた母親のような、そんなはしゃぎっぷりである。
その機嫌を損なわないよう、ミラは余計なことを言わぬよう口を固く閉ざした。
「なので、あなた方とは交渉の余地があると考えております」
「えっ」
交渉という言葉に飛びつき、カイが姿勢を正して起立する。
長らく考え込んでいたユリスもこちらへ耳を傾け、やっと本題に入ったかと、ヘパーも目を開いた。
「あなた方特殊第六執行部隊に提案があります。私、慈母神イシスと同盟を組みませんか?」
【今回の用語まとめ】
■第零執行部隊
RAC本部直下に存在するとされる、極秘の執行部隊。
擬似タルタロスで終身刑・死刑を宣告された基底界人などを利用し、危険な異世界への斥候・執行要員として投入する“使い捨ての特攻部隊”として運用されている。
■第零執行部隊による斥候任務
RAC本部へ送られる異世界・転生者の事前情報を収集していると考えられる任務。
オペレーターの十分な支援すら受けずに投入され、任務の成否にかかわらず情報さえ持ち帰れれば本部側には利益が残る仕組みと推測されている。
■イシス神への447回の襲撃
イシスとゥルルが『α-980-ノード89』で過ごす間、第零執行部隊から受けたという襲撃回数。
現在の6.4合同執行部隊を含めれば、448回目になり得るとイシスは語っている。
■約1980年
イシスとゥルルが『α-980-ノード89』で過ごしてきたとされる時間。
RACの公式記録にある「転生したばかり」、クルキブリで確認された「少なくとも5年前から存在」という情報と大きく食い違っている。
■イシス神からの同盟提案
アンが純粋にゥルルへ寄り添ったことを評価したイシスが、特殊第六執行部隊へ持ちかけた提案。
長年敵対してきたRAC側へ、イシス自身から協力関係を提示するという異例の展開となった。
――――――――――――――――――――――――――――
ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ
よろしければ、フォロー・ブックマーク・感想などいただけますと励みになります。
感想については、質問・ご指摘・話の感想など、なんでもお気軽にお寄せください~!!全て受け止めます!!
※AIの利用について:
・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




