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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第二章「輪廻庁」2-1「ゥルル編」
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92/122

CASE.090「神たる所以」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。

設定資料をご覧になりたい方はぜひnoteに訪れてみて下さい!!

https://note.com/ponym/m/mc8c9ad24eef6

 ――イシス神が転生者(ターゲット)――日野悠離(ヒノ・ユウリ)の魂に内在している。


 ユリスが提示したその仮説を、聞いていた全員が頭の中で何度も反芻していた。


 イメージすることは容易ではない。

 そもそも“転生”という現象ですら、具体的に思い描けるものではない。

 しかしユリスの仮説が正しいのなら、イシス神はそれを己自身に施し、たった1人の子供の魂へ宿ったことになる。


 到底、理解が追いつかない。

 というか、できることなら頭ごなしに否定してしまいたい情報である。


 だが、それを口にしているのが、あの人力検索機ことユリス裁定官。


 ミラならともかく、あのユリスが馬鹿真面目な顔で冗談を言うとも思えない。

 ノンデリの域に達するほど、徹底して現実の情報に即して物事を判断する彼の発言は、特殊第六執行部隊――ひいてはRAC内でも、それほどまでに信頼されている。


 少なくとも今ある情報から導き出した分析としては、無視できるものではなかった。


「…………もういいわ、それで。頭痛くなってきたわ……」

「意味わかんない~……」

「イン兄、分かる?」

「わ、分かる……」

「うそつき」


 渋々ながらも、ひとまず話を飲み込もうとする面々。

 だが唯一、ヘパーだけは納得がいかない様子だった。


「俺ぁ納得してねえぞ」

「ほう、ヘパー技術官。その心は?」

「アイツは主神だぞ!? 分かるか?! 主神だッ! 神々の頂点、蛆虫から神までが揃いも揃って憧れる、あの主神様だぞ!?」

「ほう」


 ヘパーはユリスの胸倉を掴み、叫び飛ばす。


 カイは仲裁に入ろうとするが、ユリスが片手でそれを制した。


「なんで主神がその地位を棄ててまで、ガキ1人の子守りなんかしてんだ!! あぁん!?」

「………………」


「……どういうことか説明して、ヘパー」


 ヘパーだけが断固たる勢いで否定しているため、カイは思わず問いかける。


 ガサツではあるが、妙なところで冷静なヘパー。

 だが今の彼は、頭ごなしに拒絶するという、どこか彼らしくない反応を見せていた。

 そこが気になったのだ。


「主神がその身体を棄てる意味が分かんねえのか?」

「…………」

「それは、ソイツが“神として死んだ”ってことだ!!」

「……!」


 ヘパーはユリスを放すと、どすんと椅子の上へ腰を落とした。

 その体重で椅子は軋み、今にもバラバラに砕け散りそうな悲鳴を上げる。


「神は別に完璧超人ってわけじゃねえ。例外はあるがな。感情もあるし、感覚もある。なんせおま……俺ら人は、神をモデルに生まれたからな。奴らと俺らに、そう大した違いはねえ」


 缶ビールを手に取る。

 だが中身が空だったので、紙屑でも握るかのように、くしゃりと潰した。


「違うとすれば、権能(オリジン)の有無と――その肉体の意味だ」

「肉体の……意味?」

「“名は体を表す。そして体は神格を表す”。これは俺の古い友人の言葉だ」


 ヘパーは遠い昔の記憶を辿るかのように、どこかここではない景色を眺める顔をした。


 その絶対領域に、誰も踏み込めない。

 ただ、彼の言葉へ耳を傾ける。


「神が神たる所以は、その魂だけじゃねえ。その肉体、その精神――それらすべてを以て“神”って言うんだ」


 ヘパーは再び立ち上がり、ユリスと向き合う。


 心なしか、先ほどよりも大きく感じる。

 いや、間違いなく大きく見えていた。


 神のそれにも匹敵するほどの威圧感を纏い、ヘパーはユリスへ真正面からガンを飛ばす。


「だから肉体を棄てるってのは“主神”の座も、これまでの奴のキャリアも、全部丸ごと棄てるってことだ。それほどの価値が、あの粘体のガキにはあるのか? 説明してみろッ!」


(やばい、ユリス先輩が死ぬッスよ、ルールーちゃん~!)

(代わりにミラッちが仲裁すればいいんじゃない?)

(死んじゃう!)


 凄まじい圧だ。

 ヴォルツ戦でドゥーが発したそれにも、勝るとも劣らない殺気である。


「どうなんだ。お前の知識芸にも慣れてきたが、今のは許さん。万が一、出まかせで言ったってんなら、お前の頭蓋を今ここで握り――」

「価値とは、個人の裁量で決めるものだ。ヘパー技術官」


 ユリスは何の変哲もなく返答した。


 いつもの声音。

 恐怖の「き」の字すら感じさせない、普段通りの声だった。


「あ”ぁ”???」

「君が日野悠離に、主神の座を棄てるほどの価値はないと断定するのは、君自身の価値観に過ぎない」

「それがなん――」

「しかしイシス神にとって、彼には主神の座を棄てる以上の価値があったのだろう」


 ユリスは眼鏡をくいっと上げ、今度は逆にヘパーへ詰め寄る。

 あまりにも機械的で、不気味なその様子に、ヘパーは思わず一歩だけ後ろへ下がった。


「お前……」

「価値とは、その者の人生そのもの。その者が辿った軌跡の中にこそ、価値の観念は形成される」


 明らかに人ではない、得体の知れない雰囲気をミラたちも感じ取っていた。


 一方で、そんなことは知ってか知らずか。

 ユリスはひたすら言葉を紡ぎ、ヘパーに相対する。


「肉体が神を語るというのなら、価値観こそがその者の物語を語る。そしてそれは、他人には踏み入ることの叶わぬ絶対領域だ」

「て、テメエ……」

「たとえ君であっても、それを一方的に断定する権利はどこにも存在しないのだよ。ヘ(・)パ(・)ー(・)」


 ヘパーは珍しく冷や汗を流し、ごくりと唾を飲み込む。


 いつも通りの機械的な彼のはずなのに。

 今日という今日ばかりは、何かが違う。


(怒ってる?)


 ミラはふと、そう感じた。

 一方ヘパーは拳を握り、何とかその場を取り繕おうとする。


「誰だ、テメエは……」

「おっと」


 ユリスは眼鏡をくいっと上げた。

 すると、まるでスイッチでも切り替わったかのように、いつもの彼へ戻る。


「失礼。久々に良い議論だったよ。それで、なんだったかな?」

「チッ、白けたぜ……。もういい、好きにしろ」


 ヘパーは鼻を鳴らし、そのままのしのしと作戦室の奥へ歩いていった。


「ちょっとヘパー! どこ行くのよ!!」

「いいさ、カイ監査官。彼にも本件について、色々と思うところがあるのだろう」


 ユリスは満足げな様子で、ヘパーを見送った。


 また修羅場かと身構えていたルールー、そしてインヨウ兄妹は、全身から力が抜けるように背もたれへ体重を預ける。


「なんなんだよぉ~」

「おじさん(ヘパー)があんなにマジ切れしてんの、初めて見たかも」

「は? あの人いつも怒ってるじゃん?」

「「分かってないなー」」


 インヨウ兄妹は、揃ってルールーを嘲笑った。


「それで、ユリスの仮説が正しいとして……どうイシス神と接触するわけ?」

「フフフ……そこは主役であるミラじゅ――オペレーターに譲ろう」

「げっ」


 なんでそう言いにくいところはこっちに振ってくるんだ。


 言いたいことだけ言って満足し、一番面倒なところだけこちらへ放り投げられた。

 ミラはユリスを大いに睨みつける。

 だが、それすら面白いのか、ユリスは笑顔で受け止めていた。


 カイの視線を感じ、いよいよ逃げ場もなくなる。

 渋々ミラは、その“奇策”とやらの本筋を呟き始めた。


「…………すッス」

「……え?」

「…………ますッス」

「スッスじゃ分からないわ、ミラ」


 あまりにも声が小さいので、カイが何度も聞き返す。


 我慢できなくなったミラは、一気に声を張り上げ――奥で作業している第四執行部隊の2人にまで届くほどの大声で宣言した。


「もう一度、イシス神にハッキングしてもらうッスッッ!!!!」


「「「………………」」」




 

「は?」


【今回の用語まとめ】


■神の肉体と神格

神は魂だけで成立する存在ではなく、肉体・精神・魂を含めた総体によって“神”として成立する。

ゆえに神が自らの肉体を完全に棄てることは、それまでの神格や地位を失うこと――ヘパー曰く「神として死ぬ」ことに等しい。


■「名は体を表す。そして体は神格を表す」

ヘパーが古い友人から聞いたという言葉。

神にとって肉体とは単なる器ではなく、その名・権能・神格そのものを形作る重要な構成要素であることを示している。



――――――――――――――――――――――――――――



ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



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※AIの利用について:

・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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