CASE.089「権能《オリジン》」
ご覧いただきありがとうございます。
※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。
設定資料をご覧になりたい方はぜひnoteに訪れてみて下さい!!
https://note.com/ponym/m/mc8c9ad24eef6
「というわけで、作戦を伝える前に――」
一時は、不和による内部崩壊まで起きかけていた6.4合同執行部隊。
作戦室にはこれ以上ないほどのどんよりとした空気が流れていたが、それもヘパーの機転により、どうにか持ち直すこととなった。
とはいえ、その不和の原因の一端も彼なのだが、この際それは突っ込まないことにしよう。
心機一転――各員はそれぞれの配置につき、指揮官であるカイの言葉に耳を傾けていた。
「——ミラ、作戦があるなら事前に共有なさい」
「了解ッス!!」
自分の失態は、自分で拭う。
せっかく貰った最後のチャンスを、不意にするわけにはいかない。
そのため、ミラの返事にはいつもの倍の声量と決意が籠っていた。
「今回、アンちゃんとサイモン先輩の手柄で、イシス神の生存が判明したッス」
「ふむ。その根拠は?」
「まず、転送システムに外部からほとんど痕跡無しで介入できるのは最上位存在くらいッス。あと第一のオペレーターくらいッスけど、この人は今そもそもRACに不在らしいのでアリバイがあるッス」
「消去法ということかな?」
「ウッス。でもやっぱアンちゃんの恩寵のおかげで可能性は高いと思うっスよ」
ミラはモニターに、先ほどサイモンが見つけた「ISIS」の文字を大きく表示する。
「これは、いわば指紋ッス。どの魂にも固有の波長パターンがあって、サイモン先輩は介入痕跡の中からそれを分析してたんスよ」
「そして、これが出てきたってことね」
「ハイ。この“指紋”自体は、どんな神でも好き勝手に変えられるものじゃないッス。だから一度痕跡が残れば、本人を特定する決定的な証拠になるッス」
その場の全員が頷いた。
ミラの言うことは、概ね正しい。
すべての魂――例えばドゥーやミラ、カイなどの基底界人、最上位存在、転生者、そして異世界人。
そのすべてには、それぞれ固有の波長が存在する。
通常、それそのものを別人のものへ偽装することはできない。
故にハッキングでは、いかにその“指紋”を残さず侵入し、帰還するかが重要となる。
つまり一度、明確な痕跡を残せば取り返しはつかず、その波長が検出された時点で、本人がそこへ干渉したという決定的な証拠となるのだ。
「『ロキ』のアホンダラの可能性はねぇーのか? あのろくでなしのことだ。またガキみてぇに、構ってほしくてやらかしたんじゃねーのか」
「ロキとは……ロキ神のことかな、ヘパー技術官」
「あぁ、ソイツソイツ」
ロキ神とは最上位存在の一柱。
トリックスターと称されるほど、変装、幻影、その他“偽装”を司る神である。
故に彼だけは例外的に、魂の痕跡すら偽装可能なのだが――。
「ないッス。あの人、偽装は神でも、ハッキング自体はポンコツなのでそもそもシステムにも侵入できないッスよ」
「ほな違げーか」
その可能性は、ミラによりあっさりと一蹴された。
一流のオペレーターコンビであるサイモンとノルハイコでもあれほど苦心していたのだ。
もしロキ神の仕業であれば、もっと早い段階で粗が見つかっていただろう。
そしてもう1人。
魂の情報そのものへ干渉できる存在がいる。
それが――イシス神なのだ。
「そういやアイツ、魂籍管理局の創設者だっけか。だったらあり得るわな」
「……なるほど、そういうことか」
「ねえちょっと。話が進んでるところ申し訳ないけど、私にも説明してくれないかしら」
カイ、そしてインヨウ兄妹とルールーは、まるで話が見えないと困惑していた。
「イシス神の権能の話だよ、カイ監査官」
「権能……」
ユリスの口から出てきた新用語——権能。
通常、転生者などへ神々から分け与えられた仮初の異能は、恩寵と呼ばれる。
再三出てきた用語だ。
対して、借り物ではない神本人の固有能力。それを権能と呼ぶ。
これは、分け与えられた恩寵と、その原型たる権能を混同しないために設けられた呼称であり、同時に神々が己の神格を誇示するための制度的な側面も持つという。
「たしか名は――欠片蒐集。肉体の情報を、魂ごと書き換えるっちゅう異能だ」
「え、それって……」
察しのいい者なら、お分かりだろう。
魂の情報を書き換える。
それはまさに、転生のフローそのものである。
前世の情報から魂の質を分析し、その情報を基に、その者が潜在的に願う姿へと肉体情報を再構築する。
これが俗にいう転生だ。
ヘパーの語るイシス神の権能は、まさしく現在の転生技術の原型そのもの。
全員が懐疑と驚愕の入り混じった表情を浮かべていた。
「ちょ、待ってほしいし! てことは今までの転生って、全部イシス神がやってたってコトぉ!?」
「まぁ半分正解だな。おめーにしては良い線いってるぜ」
「うっせーし」
ルールーとヘパーのいがみ合いが始まりかけるが、それをユリスの講釈が分断する。
「すべてをイシス神が行っている、というのは間違いだ。一応、彼女の異能の――ほんの一部ではあるが、再現可能な技術は輪廻庁において確立されている」
「ということは、彼女の能力がオリジナルってわけね」
「オリジナルどころではない。彼女はこれらの御業を、片手を振るまでもなく実行する。輪廻庁の転生システムが1人を転生させる間に、彼女は万の魂を転生可能だ」
とんでもない次元の違いに、全員が固唾を呑む。
言っている本人であるユリスでさえ、イシス神の規格外ぶりに薄ら寒いものを感じていた。
転生システムのアーキタイプにして、オリジナル。
現在の技術が総力を挙げて模倣しているものを、彼女はたった1人で、比較にならない規模で実行できる。
極端な話、彼女1人で輪廻そのものを賄えてしまう。
それこそが、イシス神が最重要存在であり――主神たる所以の一端だった。
「今回この文字が見つかったのは、たまたまッスね。あっちがヘマやらかさなかったら、一生お蔵入りでした」
「ほぉん。まあ概ね、チンチクリンにしては良い推理だ」
ミラはふんと鼻を鳴らす。
心なしか、アホ毛まで調子づくようにひらひらと踊っていた。
「んで、肝心なイシスの所在はどこなんだ」
「……たぶん転生者の中かと」
全員が「はぁ!?」という顔をした。
主神が、あの丸っこい愛らしい淡紅色のスライムの中にいるというのだ。
そんな奇想天外なことがあってたまるかと、ミラとユリス以外が素っ頓狂な声を上げながら目を真ん丸にひん剥く。
「ミラ、さすがにそれは……」
「さすがミラっち。考えることがヤベえ(笑) マジウケるんですけどwww」
「なんでイシスの野郎が粘体のガキの中にいるんだ、馬鹿タレ。どういうプレイだそりゃ」
「“プレイ”?」
「“プレイ”ってなーに、カイ姐」
「な、なんでもないわ。ヘパー、あなたは少し黙りなさい」
「なんでだよ!?」
ぎゃーぎゃーと、再び収拾がつかなくなる部隊。
ミラは四方から嘲りと失笑を喰らい、目元をぴくぴくと引きつらせる。
だがそこへ、またもやユリスの空気を断絶する助け舟が入った。
「そう無下にできる案でもないのではないがね」
「んあ、どういうことだ根暗眼鏡」
ユリスは、片方が割れた眼鏡をくいっと上げる。
「イシス神は魂の情報に干渉できる。であれば、自らの魂に手を加え、存在の在り方そのものを変質させることも不可能ではないだろう」
「なんだ。じゃあイシスの野郎は今、粘体のガキの臓器かなんかになってるってのか?」
「それも否定はできない。だが僕の仮説は違う。言っても良いかな、ミラじゅ――オペレーター」
ミラは「どーぞ」と疲れたような表情で、ユリスへ手のひらを差し向けた。
許可が下りたことで、ユリスは自信満々に結論を口にする。
「イシス神は転生者――日野悠離の魂の中にいる」
「「「はぁ!?!?」」」
ミラの時以上に、全員が声を荒げる。
「ほーら言わんこっちゃない」と、ミラは肩をすくめた。
「断言しよう。イシス神は権能により、自らの魂を日野悠離の魂に融合させた。それこそが、アン執行官に聞こえた“声”の正体だ」
【今回の用語まとめ】
■権能
最上位存在自身が持つ固有能力の総称。
神々から転生者などへ分け与えられる恩寵とは異なり、その神格そのものに由来する“原型”の異能を指す。
■魂の固有波長
あらゆる魂がそれぞれ持つ、個体固有の波長パターン。
ハッキング時に残る痕跡はいわば“指紋”として機能し、通常は偽装できないため、介入者を特定する決定的な証拠となる。
■ロキ神
変装・幻影・偽装を司る最上位存在の一柱。
例外的に魂の痕跡すら偽装可能だが、ハッキングそのものの技量は低いため、今回の転送介入犯である可能性は否定された。
■欠片蒐集
イシス神の権能。
肉体の情報を魂ごと書き換える力であり、現在の輪廻庁が運用する転生技術の原型となった。輪廻庁が再現できているのは、その能力のごく一部に過ぎない。
■イシス神・魂融合仮説
イシス神が『OSIRIS』によって自らの魂の在り方を変質させ、日野悠離の魂へ融合したというユリスの仮説。
アンに聞こえた“ママ”の声を説明する有力な可能性だが、現時点ではまだ確定していない。
――――――――――――――――――――――――――――
ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ
よろしければ、フォロー・ブックマーク・感想などいただけますと励みになります。
感想については、質問・ご指摘・話の感想など、なんでもお気軽にお寄せください~!!全て受け止めます!!
※AIの利用について:
・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




