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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第二章「輪廻庁」2-1「ゥルル編」
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CASE.088「自分のケツは自らの手で」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。

設定資料をご覧になりたい方はぜひnoteに訪れてみて下さい!!

https://note.com/ponym/m/mc8c9ad24eef6

「交渉って……」

「ウッス。そのまんま交渉ッス」


 ミラの奇策。

 彼女が言わんとしているのは、得体の知れない主神――イシス神と言葉を交わすというものだった。


 当然、冷静組のカイとユリスは即座に反発する。


「リスキーだ。そもそも彼女は端からこちらと敵対している可能性が高い」

「悪いけどユリスに一票入れるわ。あまりに博打が過ぎるわよ」


 頭脳派の2人にあっけなく否定され、ミラは「ぅ」と小さく声を押し殺す。

 そこへ、ノルハイコの追撃が加わった。


「ミラさん」

「は、はい」

「イシス神の異名は“万物の胎盤”。命、豊穣、母性を司る偉大なる女神です。相手が我々と同じ次元の思考をしている保証はありませんよ?」

「う……」

「……それに、どうやってお話しするつもりですか?」

「………………」


 畳みかけるノルハイコの指摘に、遂にミラは黙り込んでしまう。


 よくよく考えれば、その通りである。

 相手はかの主神。

 もはや人間と同じ尺度で物事を考えているかどうかすら、定かではない。


 広大な器を持つ、寛大な心の持ち主かもしれない。

 反対に、ロボットのような冷徹な思考をしているかもしれない。

 最悪、基底界(インタースペース)人など虫けら同然と見なし、即座にこちらを蹴散らしにかかる可能性だって否定できない。


 何もかもが不明な、不気味な超最上位存在。

 それが主神たちなのだ。


「でも……」

「今回ばかりは下がりなさい、ミラ。まだ挽回のチャンスはあるわ」

「…………」

「もう少し議論を詰めましょう。ひとまず最優先は、残りの執行官との接触ね」


 カイの言葉に、ノルハイコが頷く。

 即座に行動へ移し、キーボードへ食らいついた。


 しょげるミラ。


 結局、彼女はドゥーのようにはできなかった。


 PCがなければ、ただのへっぽこオペレーター。

 信頼もついでに失い、作戦が成功しようが失敗しようが、待っているのはタルタロス送りの犯罪者。


(…………やっぱアタシには無理なんスかね)


 天井を見上げ、涙を堪える。


 彼女のキャリアは、ここで終わりを迎える。

 あの時見た夢は、ただの夢。

 その道も、自分の手で潰した。


 結局のところ、彼女は期待の新星であるドゥーの金魚のふ――。


「ま、話すくれぇなら別にいいだろ」


 ヘパーの野太い声が響いた。


 言っている意味が分からず、即座にカイが突っかかる。


「は? あんた今なんて――」

「だーから。話すくれぇで癇癪起こすほど、主神は狭量じゃねえって言ってんだ!」


 ヘパーは鼻を鳴らしながら、いつの間にか開けていた残り1缶のビールを飲み干した。


「へ、ヘパーさん。いかに特級官である貴方でも、それだけでは信用に値――」

「うrrrrっせぇなぁ、第四の眼鏡ボインはぁ。いちいち何かと突っ込んできやがって。だからオメエはいつまでたっても“準”特級なんだ、アホンダラ」

「……ッ」


「ヘパー技術官ッ!」


 サイモンがずんずんとヘパーに詰め寄る。


 普段温厚な彼とは見違えるほど眉間に皺を寄せ、ヘパーを睨みつけていた。


 彼はこの作戦室の中では、かなり大柄な方だ。

 だがヘパーは、そのさらに二回りはデカい。


 歯向かってきた下っ端オペレーターへ、真正面からガンを飛ばし返す。


「あんだぁ、ハゲ坊主? 文句あんのか?」

「いくらあなたでも、言っていいことと悪いことがある!! 訂正してください!!」

「しねえよ、馬鹿が。腰抜け眼鏡のお(・)ま(・)け(・)程度が何様で口きいてんだ、あぁ?? それ以上歯向かうと握り潰すぞ、テメエ」

「……ッ!! あ、あなたという人は――」


「サイモン」


 白熱しつつあるサイモンとヘパーの喧嘩。

 だが、それはノルハイコの鶴の一声で、一気に沈静化する。


「ヘパーさんの言う通りです」

「ですが……!」

「下がりなさい、サイモンオペレーター。彼は特級官。あなたの2階級上のお方です。分をわきまえなさい」

「…………了解ッ……」


 サイモンは納得できない感情を押し殺し、モニター前へと引き下がる。

 ヘパーは鼻を鳴らし、今度はノルハイコがその前へ出た。


「あんだ。次はオメエが相手か」

「いえ。一切合切、あなたの言う通りです。私のこの、保守的で引っ込み思案な性が足を引っ張っているというのは、重々承知しております」

「おう、分かってんじゃねえか。だったら少しは綱渡りっちゅう冒険をだな――」


「ですが私は第四執行部隊、その隊長です。彼らのキャリアを、生活を守る責務があります」


(ちょっとヤバくなーい? カイ姐)

(ハァ……もう好きにさせなさい)


 その声音には、今までの彼女とは比較にならないほどの圧があった。


 あのヘパーですら、一瞬だけ後ずさる。

 殺気と見紛うほどの気配がノルハイコから滲み出ており、ルールーは思わずカイの袖を掴んだ。


「私を侮辱するのは結構。事実ですから、お好きになさってください」

「…………」

「しかし依然として私は第四の長。彼らの顔である立場です。その顔に泥を塗るような発言は、我ら第四執行部隊そのものへの侮辱と同義です」

「………………フン」


 ノルハイコは眼鏡を一瞬だけ外し、その眼光をヘパーへ浴びせる。


 その目は、一般人のそれとは明らかに乖離していた。

 網膜が、まるでターゲットアイコンのような形状へ変化している。


「以後、お気を付けください。さもなくば、あなたの頭蓋に穴を空ける羽目になりますので……」

「………………おう。悪かったな、第四の。ちと言い過ぎた」


 ノルハイコはぺこりとお辞儀すると、そのままサイモンのもとへ戻っていった。


 一触即発の空気に黙り込んでいた特殊第六執行部隊一行とルールー。

 そして何事もなかったかのように、ヘパーは鼻を鳴らして続けた。


「うし! んじゃ話の続きだが……」

(あんたはその図々しさと切り替えの速さだけは神域級よね、ホント)

「なんか言ったか?」

「いいえ、どうぞ続けて?」


 ヘパーはそのまま、先ほどの主張を続けた。


「思い出せ。イシスの二つ名は何だ?」

「えーとぉ、なんだっけイン兄」

「痔疣(ジボ)神」

「そっかー」


「んなわけあるか、馬鹿ガキ」


 

 イシス神――別名、慈母(じぼ)神。


 主神の座に名を連ねる一柱であり、大地の母、万物の胎盤とも称される最上位存在である。


 その詳細な能力は不明。


 ただし、記録上確認されている権能の一端だけでも、生物の構造を魂ごと変質させる、新たな生命体を即席で生み出す、生態系そのものを星ごと書き換える――など、通常の神格とは比較にならない規模の干渉能力を有していると推測されている。


 それでもなお、主神の中では特に謎の多い存在だ。

 そしてその二つ名から察せられる通り、彼女はあらゆる生命に対して母のように振る舞う器を持つ――という噂がある。


 真偽は不明。

 少なくとも、その慈愛が人にとって救いとなるのか、あるいは別種の災厄となるのかまでは判明していない。


 だがヘパー曰く、彼女は“まともな会話が可能”だという。


「ヘパー技術官」

「あんだよ、根暗眼鏡」

「その根拠は何だ」

「あ? 一度だ(・)べ(・)っ(・)た(・)ことあるからに決まってんだろうが」


 「うそだー」と、その場の全員がしかめっ面をする。

 フォローしているはずのミラまでもが疑っており、ヘパーは憤慨した。


「んだテメエら!? 俺の言うことが信じられねえってのか!?」

「たりめーでしょうが。今のこの状況のきっかけはあなたよ。どの面下げてもの言ってんのよ」

「う”……!」


 ドが付くほどのカウンターを喰らい、ヘパーは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「じゃあなんだ。このまま他の執行官見つかるまで、ポンコツ(アン)とだべるだけなんか?」

「………………」


「よく聞け、特殊第六執行部隊」


 今度は一変、ヘパーは腕を組む。

 すると神妙な面持ちで、ヘパーは語りかけるように言葉を紡ぎ始めた。

 まるで父が子を諭すような、家庭の大黒柱めいた口調である。


「俺らは元々、RACの異分子だ。いつまでたっても腫れ物扱いなのは変わらん」

「………それがどうしたってのよ。そんなこと、所属して以来重々承知してるわよ」


「だがこのまま通常のレールを走ったところで、俺らの扱いは変わらんぞ。どれだけ進もうが任務をこなそうが、いつまでたっても扱いづらい、捨て駒同然の掃除屋だ」

「………………」

「悔しくねえのか? こんな雑な案件ばっか寄越されて。“はいはい”言いながら、言われたことを尻尾振ってやるのか?」


 言い返すことができない。


 論理はともかく、特殊第六執行部隊に対する本部の扱いが雑であることは、皆が薄々感じていた共通認識だった。

 それを真正面から突きつけられると、カイとユリスでさえぐうの音も出ない。


「家畜がどれだけ奮闘しようが、所詮得られるのは同じ餌だ。違う何かを得たけりゃ、檻を出るしかねぇ」

「……つまり?」

「好きにやろうって言ってんだ、この馬鹿どもが!! これはテメエらの“物語(人生)”だろうが!!! だったら好きにやれ!!」


 急に話のIQが下がり、ユリスの眼鏡がピシッと割れる。


 カイとルールーは、揃って特大のため息をついた。


「ハァ……だろうと思ったわ」

「結局脳死のゴリ押しじゃん。おっさん、なに1人で騒いでるんだし」

「フン、許す。俺がお前らの“物語(選択)”を許す!! だからテメエらも俺の言うことを許せ!!」


 カイは眉間を指で押し、しばらく何かを考え込む。


 そして手を離した時には、どこか吹っ切れた表情へ変わっていた。


「あんた、責任取れるわけ?」

「おうよ。俺の器は黄泉よりも広いぞ」


 カイは首を回し、こきこきと関節を鳴らす。

 そして振り向くと、ミラへ上官らしい声音で問いかけた。


「ミラ。あなたの奇策は、どの程度勝算があるのかしら?」

「か、“神のみぞ知る”ってやつッス」


「そう……」


 また反対される。


 そう思い、ミラは身構えた。

 だが次に出てきた言葉は、予想とは正反対のものだった。


「結構。これより特殊第六執行部隊及び6.4合同執行部隊は、イシス神との接触を試みます」

「え……え!?」


 ユリスとインヨウ兄妹、そしてルールーは即座に移動。

 作戦室中央のデスクへとつく。


 ヘパーは満足げに、足早に放置されていた3人の情報官を奥へ運び始めた。


 状況を飲み込めていないのは、ミラだけである。


「何ぼさっとしてんの。しゃんとしなさい」

「で、でも……」

「悔しいけど、今頼れるのはあなたの奇策だけよ」


 そう言って、カイはミラの頭をなでた。


「期待してるわ、ミラ」

「…………は、はいッス!!」

「フフ……特殊第六執行部隊のオペレーターとして、死力を尽くしなさい」


「了解!!」


 終始しなしなになっていたミラのアホ毛は、ようやく元気に天へとそそり立ったのであった。


「あんたも不器用なのね」

「うっせえ。結果オーライだ、馬鹿野郎」


【今回の用語まとめ】


■慈母(じぼ)神イシス

主神の一柱であり、「大地の母」「万物の胎盤」とも称される最上位存在(神々)。

命・豊穣・母性を司り、生物の構造変質、新たな生命の創造、生態系そのものへの干渉など、通常の神格とは桁違いの権能を持つとされる。


■主神

最上位存在(神々)の中でも頂点に位置する神格。

その思考や価値観が基底界(インタースペース)人と同じ尺度にある保証すらなく、RACにとっても未知の部分が極めて多い存在。



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ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



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※AIの利用について:

・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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