CASE.085「安泰だ!!」
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気絶した3名の情報官を、釣り上げた魚よろしく抱えるヘパー。
彼の口から出た言葉に、作戦室の全員――気絶しているミラ以外――が言葉を失っていた。
「うっし。白黒のガキ2人、おめーらも手伝え」
「うげ、オイラたちも?」
「乗り掛かった舟ってやつだ。それに、こいつら縛っとかねえと特六もお前らの家もなくなんぞ」
「っ! ボ、ボクたち何すればいいのっ!!」
やけに素直になったインヨウ兄妹を引き連れ、ヘパーはそのまま作戦室の奥――隊員たちの自室が並ぶ方へと向かっていった。
「「「………………」」」
カイやサイモン、ルールーは言わずもがな。
頭脳担当であるユリスや、現役バリバリのエリートであるノルハイコですら、開いた口が塞がらない。
奥の方から、
「ここをこう縛ぶんだ……」
「こうー?」
「だぁー! 関節がヤベえ方に曲がっちまってる!」
などという、あまりにも無邪気な声だけが聞こえてくる。
しばらくした後、ヘパーとインヨウ兄妹はすっきりしたような面持ちでカイたちのもとへ戻ってきた。
「うし」
「「うし!」」
「これでしばらくは安泰だ」
「「安泰だ!!」」
「「「………………」」」
「……んだよ、おめえら。黙ってねぇでなんとか言ったらどうだ?」
ヘパーは嬉しそうににやにやと笑い、そのままするりと冷蔵庫を漁りに行く。
右腕1本で缶ビールを3本ほど鷲掴みにし、上機嫌に席に腰を下ろした。
インヨウ兄妹もひと仕事終えたと言わんばかりに終始ドヤ顔である。
「どぉしちまったんだ、カイ~? ホレ、1本やるよ」
「カイ姐、ボクたち特六を救ったんだよ!!」
「ほめてほめて~」
インヨウ兄妹は、凍り付くカイのお腹に甘えるように頬ずりをする。
一方カイは、頬に冷たい缶ビールを押し当てられたまま、目玉だけをぎょろりとヘパーの方へ向けた。
「そうね……」
「おう! とりあえず一杯やんな!」
だがその目は酷く血走っており、心なしか首元の血管まで浮き出ている。
何かを察したのか、ユリスはそろ~り、そろ~りとその場を後にしようとする。
しかしカイの圧倒的な察知能力によって、首根っこをぎっちり掴まれた。
「3人とも、そこに正座しなさい」
「んあ?」
「「?」」
ヘパーとインヨウ兄妹は、未だ状況を掴めていない様子。
さすがに何かを予感した第四の2人とルールーは、そそくさとモニター前へ避難した。
ユリスはそんな彼女らを見て「助けて欲しい」という目線を送るも、誰も毛ほども助けようとしない。
悲しきかな。
彼はこれから、空前絶後のカイのド怒りに巻き込まれるのだから。
「す わ り な さ い」
さすがは元英雄たる魂を持つ転生者。
もう片方の腕で缶ビールを握り潰し、普段の彼女とはかけ離れた低く、ドスの利いた声を出す。
インヨウ兄妹は後に供述する。
久しぶりにお漏らしをしたと。
――――――
「ミラオペレーター、貴女を特級官として任命いたします」
盛大な拍手と共に、ミラは特級官の印である黄金に煌めくバッジを、ブッダ神から直々に贈られる。
鳴りやまぬ歓声。
他局員たちから向けられる、溢れんばかりの羨望の眼差し。
ミラは恍惚とした表情で、それらすべてを全身で受け止めていた。
横を見れば、こちらに拍手を送る特殊第六執行部隊――否、特殊第一執行部隊の面々がいる。
無表情なユリスも、いつも眉間に皺を寄せているヘパーまでもが、笑顔で迎えてくれている。
特にカイは頬を赤らめ、涙目になりながら、こちらを誇らしげに眺めていた。
すると、同じ壇上に相棒であるドゥーが上がってきた。
腕にはいっぱいの花束。
彼もまた、彼女と同じく特級官の位を頂いた戦友である。
「フン、良いカッコじゃないッスか。先輩?」
「お前もな。馬子にも衣裳ってやつだ」
お互い、不敵な笑みを浮かべて見つめ合う。
無論、ドゥーは依然として素顔が見えない。
それでも2人は、互いの功績を称え合うかのように相対した。
「ついにここまで来たッスね」
「……そうだな」
「アタシは特級オペレーター。先輩は特級執行官。これからお仕事が山ほどあるッスよ!」
「そうだな。……だが、残念ながらその前にやることがある」
「何だこんな時に?」と、ミラは頭を傾げる。
そしてドゥーはミラの肩を掴み、ゆっくりと顔を近づけ始めた。
「ちょちょちょ! 先輩、こんなところでそれはダメーッ!!」
ミラは赤面し、両手で顔を隠す。
だが、その距離がほとんどゼロに差しかかったところで、ドゥーは彼女の耳元へ囁いた。
「そろそろ起きる時間だ」
「へ?」
ここまでお付き合いいただき感謝する。
非常に支離滅裂な展開だと思っただろう。
実際、その通りである。
だが、それも仕方あるまい。これはミラの夢なのだから。
そしてこれから彼女には、悪夢のような現実が待っているのだ。
「――きなさい」
「…………んむ……」
(何スか……今いいところだったのに……)
目をゴシゴシと擦りながら、ミラは眠気を取り払おうとする。
目の前にはカイ。
腰をかがめ、自分を睨みつけている。
それはそれは、般若のような凄い形相であった。
「んむ………あれ? 何がおきたんで……し……た…………け……」
カイはとびっきりの笑顔で、手をある方向へと広げた。
まるでキャビンアテンダントが、乗客へメニューを差し出すかの如く。
彼女が示す方向を、ミラは見てしまった。
「……あ」
そこには、正座するヘパーとインヨウ兄妹。
その傍らには、雁字搦めに拘束された情報官たちが並べられていた。
(あ、おわったお~(^q^)……)
キャビンアテンダントといっても、それは死のメニューを運ぶ方である。
そう言い切れるほど、カイの笑顔が笑っていない。
びっくりするほど、その表情にはどす黒いグラデーションがかかっているようだった。
そしてミラはその死のメニューを、これから思う存分に平らげることになるのであった。
【今回の用語まとめ】
■ミラの夢
気絶したミラが見ていた、特級オペレーターへ昇格する都合のいい夢。
自身だけでなくドゥーも特級執行官となり、特殊第六まで「特殊第一執行部隊」へ出世しているなど、ミラの願望がこれでもかと詰め込まれている。そしてこの後、現実世界に手悪夢を見る羽目となる。
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