CASE.084「バレた☆」
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「今、なんと?」
衝撃の発言を耳にし、ディーテルは思わず足を止める。
そればかりか、作戦室へずんずんと入り込んできた。
振り出しどころか、もはやマイナスである。
(('Д')………)
(おやおや、これで振り出しだ)
(アンちゃん~~~ッ!!)
ユリスとカイの予感は、相変わらず今回も的中した。
大人組が必死で作った追い風を掻き消すのは、いつだって新人たちなのだ。
「アンちゃん、いーまはちょっとタンマッスゥーッ」
「ふえ? ご、ごめんなさい! もしかして会議中でした?」
会議中というか、事情聴取というか、ほとんど尋問に近い会議である。
ミラは必死に頭を回転させるが、いかんせん半分パニック状態。
アンを自然に黙らせる方法など、まるで思いつかない。
だが、それ以上に――。
作戦室もなかなかにピンチな状態ではあるが、アンの衝撃発言はあまりにも突拍子がなかった。
モニターに残る「ISIS」の件も相まって、ノルハイコですら身体が固まってしまっている。
本来ならば、大手柄とでも言うべき情報だろう。
だが、タイミングがあまりにも最悪なのだ。
それでいてこの場面では非常に都合が悪く、厄介者のディーテルの興味をすっかり引いてしまっている。
「どういうことか説明願います、アン執行官」
「は、はい……。えと、どちら様ですか?」
「失礼。私は本部から参りました、情報官のディーテルと申します。差し支えなければ『イシス神』の件、ご教示願いたい」
「りょ、了解であります!」
(いやいや、全然了解じゃないッス!)
ミラはアンとの通信を一時的に遮断しようと、こっそり手を伸ばす。
だが、その手をノルハイコが止めた。
(ちょ、ノル先輩!? 何するんスか!!)
(い、今通信を切るのは危険すぎます! それに……)
ノルハイコとしては、リスクを冒してでもアンの言葉を聞いておきたかった。
サイモンが必死こいて漕ぎつけた「ISIS」という文字。
もしかすれば、アンの報告が決定打となるヒントになるかもしれない。
そう考えると、一オペレーターとして聞き逃すわけにはいかない。
そしてそれは、他の面々も同じ様子だった。
アンを止めようにも止められない。
好奇心の方が勝っているという状態だ。
ミラがカイの方を見ると、彼女は「アンの好きにさせて」と唇の動きで表現した。
(ホントに良いんスかぁ!? 知らないッスよー!?)
「お願いいたします」
「はい! ま、まず私の恩寵は、人の心を読めるという能力でして――」
アンはディーテルに、己の異能について簡単に説明した。
ディーテルはうんうんと頷いており、後ろの女性情報官は前かがみになって記録、録音している。
「それで?」
「ゥルルの中から声がしたんです!」
「ほう……その者がイシス神と名乗ったと?」
「その通りです!!」
「…………ふむ」
全員が信じられぬという顔で、アンの報告を受け止めていた。
(ユリス……これどういうこと?)
(僕にも分からない。明らかに常軌を逸した報告だが……)
人力検索機であるユリスの脳内にすら、アンが言ったような事例は見当たらないらしい。
彼は新しい知識に出会えたと、目を大きく開き、熟考し始めた。彼ですら知らないとなると、あと頼りになりそうなのは――。
カイはヘパーに目配せを送る。
だがヘパーは一度カイと目を合わせると、ぷいっと逸らした。
分かりやすいほどに、何かを知っている風な態度である。
「本当にイシス神なのですか?」
「は、はい?」
「いえ。その方は何を根拠に自らをイシス神と名乗っているのでしょうか? 何故アン執行官は、その方をイシス神だと断定できたのですか?」
「ふ、ふえぇ……」
情報官らしい畳みかけるような尋問に、アンは声からして慌てふためいている。
「ふむ……信憑性には少々難アリ、ですね。それに、そう軽々とあの方々を名乗るべきものでは――」
「でも本当なんです!!」
アンは負けじと声を張り上げた。
「イシスさんは言ってました! 私はゥルルを守るために、自ら身体を棄てたって! ゥルルのそばにいるために、ずっとあの子の中にいるんです!!」
「お、落ち着いてください……言っている意味が――」
「イシスさんはただ、ゥルルと一緒にいたいだけなんです! それは私の恩寵がちゃんと証明してます!!」
「……」
ディーテルはカイの方を見つめる。
補足しろとのメッセージを受け取ったので、カイは慎重に口を開いた。
「アンの恩寵は、相手が意図的に嘘をついているかどうかを拾える。少なくとも、その声の主が“自分はイシス神だ”と分かったうえで嘘をついているなら、アンには分かるわ」
「……では、その者自身がそう思い込んでいる可能性は?」
「そこまでは否定できない。でも、アン自身が狂言を言ってる可能性はないわ」
「……なるほど」
ディーテルは再びアンの声へ意識を戻す。
だがカイは、かつかつと前に出た。
そしてモニター前まで移動すると、ミラを体で隠すように、ディーテルとの間へ割って入る。
「それとウチの執行官を舐めないで頂戴、ディーテル情報官」
声音が少し低くなる。
「アンはとても誠実な良い子よ。まだ新人だけど、それでもカテゴリー“α”の世界を1人で生き抜く力がある。そんな子がこんな馬鹿げた嘘をつくとでも?」
そう言いつつ、カイは指文字でミラに指示を送る。
(えーと、“音量オフ”……オッケーッス……)
ミラはそっとキーボードに手を伸ばし始める。
ディーテルがカイに気を取られている今がチャンスである。
「いえ、大変申し訳ございません。失礼なことを申しました」
「いいのよ。それより、さすがにこの情報を聞いておいて、このまま事情聴取なんて悠長なことしてられないわ。今日はここでお暇してくれる?」
「ははは……たしかに。これはアン執行官が獲得した貴重な情報ですからね」
あと少しで指が届く。
ディーテルはお辞儀をし、いよいよ退出の準備に取り掛かる。
その時――。
「私、この任務辞退します!」
「……は、はえ?」
「……はい?」
突然の「やーめた」宣言に、カイとミラが呆けた声を出してしまう。
「ア、アン? どうしちゃったの??」
「私、どうしてもゥルルが悪い子には見えないんです!」
アンは必死に、思いの丈をすべてぶつけるかの如く、言葉を紡ぎ続ける。
「この子は何もしてない! イシス神も生きてるんです! 『神殺し』だなんて、きっと何かの間違いです!!」
「ちょ、ちょっとアン! 落ち着いて! ね? 一度情報を整理しましょ?? (ミラ、早く音量切って!!)」
(あぁあ、あいあいさーッ!!)
「カイ先輩、これはどういう――」
「ミラ先輩!!」
あと少しで指が届く所で突然名を呼ばれ、ミラは固まってしまう。
「は、はい?」
「ミラ先輩、なんとかできませんか!?」
「ア、アタシッスか?! ななななんで――」
「だってこの前教えてくれたじゃないですか! 前に“転生者”たちの過去を覗き見たことがあるって!!」
「ちょッッッ!?!?!?!?!?」
「……はい?」
ミラは全身の産毛が逆立つ感覚に襲われる。
同時に、背後からとてつもない殺気のような何かを感じ取った。
「ミラ?」
「ち、違うッスよ!? カイ姐もちつ、おちついてくださいッス!? ぁ↑ぁ↓ぁ↑ああアンちゃん、何か勘違いしてるッスよ!! きっと転生者じゃなくてカイ姐の恥ずかしい検索履歴を……あぁあああああ↑↑、これもこれでマズイッスゥッ!! アタシのバカバカバカ!!」
だがアンの耳には、ミラのぼそぼそした早口の弁明は届いていないようだった。
さらなる追撃を送るべく、アンは必死に懇願するように言葉を放つ。
「ミラ先輩の神業があれば、転生者の過去なんてお茶の子さいさいなんですよね!? だったらお願いします!! ゥルルの過去を見てください! きっとこの子は、ただ純粋にこの世界で生きる、たった1人のスライムなんです!!」
「ミィーラァーー??????」
「ちょ、ちが!! 待って、そんな目でアタシを見ないで!! アンちゃん訂正するッス!!! それはただの嘘から出た真と言いますか……とにかく、ただ自慢したくて嘘ついちゃって――」
「ドゥー先輩と一緒に見たんですよね!? ブッタさんの力を使えば、縁がどうとかって……」
「くぁwせdrftgyふじこlpjGいうpwおぱ98hjき」
止めを刺され、ミラは発狂しながら失神した。
かろうじて消音ボタンは押せたらしく、彼女の意識と共にアンの声は遮断された。今更だが。
カイはそんな彼女を、軽蔑するかのような、これまで見たことのない形相で、這いつくばるバカオペレーターの背中を見ていた。
「カイ監査官。詳しくお聞かせ願えますか?」
「……ディーテル、お願い。私たちに時間をちょうだい。ね?」
ディーテルに甘えるように、カイは報告だけは待ってほしいと彼の手を掴んで懇願する。
だが、さすがは本部直属。
親しい仲であっても、彼は仕事は仕事と割り切れるタイプのようだ。
「それはお受けできかねます、カイ先輩」
「ディーテル……」
「我ら情報官の使命は、この眼、この耳、五感すべてによって得た情報を届けること。そこに、貴女との友誼が入り込む余地はありません」
「お願い! 待って!!」
「申し訳ございません……。お前たち、撤収するぞ」
ディーテルは指を鳴らすと、女性情報官たちも即座に記録を中止し、扉へとつかつか早足で向かっていく。
カイは何とか引き留めようと、口八丁手八丁で言いくるめようとするが、彼は思った以上に融通が利かない。
まさしく謹厳実直の体現者のようだ。
「ディーテル……待って!」
無慈悲にも、あっという間に扉前へ差し掛かった情報官一行。
ディーテルは残念そうな表情で、カイに一言だけ残そうと振り返った。
「大丈夫です、カイ先輩。できるだけ本部の方には内容を丸くしてお伝えします。さすれば少しは罪状も…………おや?」
だが彼の背中に、何かがぶつかる感覚があった。
振り向くとそこには、いつの間にか待ち構えていたヘパーがいた。
「あの……では失礼します、ね? 皆さま御達者で……」
「おう、達者でな! また明後日くらいに会おうじゃねえか、情報官の坊主!!」
「は、はい?? 何を言って――」
ボゴン。
鈍い音が作戦室に響いた。
正体はヘパーの拳骨。
それが直下で、ディーテルの頭上に炸裂したのだ。
ばたりとディーテルは人形のように倒れる。
頭には漫画でしか見たことのないたんこぶができており、ヘパーの拳骨の威力を物語っている。
「あ、やべ。死んでねえよな?」
「「貴様ッ!!」」
女性情報官の2人が戦闘の構えを取った。
ヘパーはやれやれと肩をすくめており、完全に舐め切っている態度だ。
それに対しさらに憤慨した女性情報官が、今まさに飛び掛からんと膝を曲げた。
だが次の瞬間、糸が切れたかのように意識を飛ばしてしまう。
「おう、お疲れさん」
「うっす」
「うーすっ」
その犯人はインヨウ兄妹。
ロザリアの件でも見せた目にも留まらぬ高速移動で、彼女らの意識を掻っ攫っていったのだ。
「あなたたち……何やって――」
カイはただひたすらに困惑していた。
情報官の3人がお尻を突き出す形で、情けなく倒れている。
前代未聞の異常な光景だ。
そんな彼らをひょいっと軽々持ち上げると、ヘパーは自信満々に宣言した。
「よし、テメエら。腹くくれ」
【今回の用語まとめ】
■情報官ディーテル
RAC本部直属の情報官で、カイの後輩。
私情と職務を明確に切り分ける謹厳実直な人物であり、特殊第六の事情を知っても報告を曲げることは拒否した。
■アンの任務辞退宣言
イシス神との対話を経て、アンが「ゥルルを助けたい」という自身の意思から口にしたもの。
ゥルルの神殺しという罪状そのものに疑念を抱き、本任務から降りる意思を明確にした。
■ミラとドゥーの過去の不正行為
以前、ミラがドゥーと共に転生者の秘匿された過去へ踏み込んだ一件。
アンの悪気なき暴露によって、よりにもよって事情聴取中の情報官の前で再浮上してしまった。
※ミラとドゥーが転生者の過去を覗き見た件については、CASE.026「転生者たちの歴史」参照。
■情報官強制足止め
ディーテルたちが本部へ報告しようとしたため、ヘパーがディーテルを拳骨で昏倒させ、インヨウ兄妹が残る情報官2名を制圧。
特殊第六はついに「事情聴取を誤魔化す」段階から、情報官を物理的に帰さない段階へ突入した。
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※AIの利用について:
・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




