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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第二章「輪廻庁」2-1「ゥルル編」
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CASE.076「厄竜」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。

設定資料をご覧になりたい方はぜひnoteに訪れてみて下さい!!

https://note.com/ponym/m/mc8c9ad24eef6

 時は5年前まで遡る。

 それは、サポーニスがまだ狩人(スレイヤー)だった頃の話だ。


 彼は当時、クルキブリ1の俊足(逃げ足)を誇るヘロメロス、そして現最強の狩人(スレイヤー)とも呼ばれているロンショウとパーティを組んでいた。


 類まれなる人望、そして巧みな武器の操術を誇るサポーニス。

 スピードマンのヘロメロス。

 当時はまだそこまで名を馳せていなかったものの、最強たるポテンシャルを持つロンショウ。


 このネームバリューを持つ3人の元に、多くの才能たちが種族問わず集まるのは時間の問題だった。


 この3人を筆頭とした狩人(スレイヤー)パーティ――『トライデント』は、あっという間にクルキブリ中から注目を浴び、期待を寄せられるまでに急成長を果たした。


 彼らなら、この世界に今なお君臨する三体の未討伐個体。


 忌むべき伝説のモンスター――『厄竜』。

 世界最大の生物にしてモンスターの母――『樹萱龍 マザーユグドラシル』。

 そして、『反機龍アンティカリ=リュプス』。


 人類が長い歴史の中で、いまだ一度として討ち果たせていない三体。

 そのいずれかにさえ、刃を届かせ得る存在であると。


 だがその希望は、見るも無残に打ち砕かれる。



 

 ――――――


 


 その日、30人の追跡隊と共に、彼らは骸都クルキブリを発った。


 目的は“厄竜”の追跡。

 討伐ではない。

 少なくとも、名目上はそうだった。


 厄竜とは、この大陸において特別な意味を持つ怪物である。


 都市を潰し、山脈を削り、地形そのものを変える災害。

 人類が長い年月を費やしてなお、明確な討伐方法を確立できていない伝説級のモンスター。


 固有名を付けることすら憚られるほど、忌み嫌われた存在。

 ユグドラシル、そしてアンティカリ=リュプスと並び称される時点で、まともな生物として扱っていい相手ではない。


 だが満を持して、骸都は追跡隊を出した。


 痕跡の採取。

 移動経路の記録。

 巣の特定。

 次の大規模作戦に備えるための情報収集。


 あくまで偵察と情報収集が目的であり、討伐に比べれば危険度は抑えられている。

 少なくとも、そう考えられていた。


 そして、そのために選ばれた30人はいずれも熟練中の熟練だった。


 ロンショウ、サポーニス、ヘロメロスを含む現役バリバリの狩人(スレイヤー)。

 斥候、観測員、解体技師、医術師、荷運びに長けた者。

 派手な英雄はいなかったが、生き残るための技術を持つ者ばかりだ。

 

 この布陣が瓦解するなど、当人たちはおろか、骸都の民たちも考えてはいなかった。


「なあ、もしかしたらこのまま倒せちゃったりして?」


 出発前、誰かがそんなことを言った。

 それに何人かがつられて笑った。


 サポーニスも笑い、ロンショウは面倒くさそうに鼻を鳴らし、ヘロメロスはいつもの調子でいつでも逃げられるように荷の確認をしていた。

 皆、余裕綽々の様子であり、いつの間にか出発時点のあのピリッとした雰囲気は、和やかな空気へと変わっていた。


 この時点では、まだ誰も知る由もない。


 その冗談に笑った者の大半が、2度とクルキブリの門をくぐれなくなることを。



 

 厄竜との接触は、予定よりも早かったという。


 痕跡を追い、未開領域の奥へ踏み込んで3日目。

 観測員が地形の異常を発見した。


「おい、何かあったぞ!!」


 斥候の1人が声を荒げる。


 彼が見た先の光景。

 木々が、同じ方向へ倒れていたのだ。


 岩肌はやすりのように大きく削れ、地面には巨大な爪痕のような溝が刻まれていた。


 そこに付着していた鱗片――人間で言う、古くなって剥がれた皮膚――は、通常の大型種とは比較にならない硬度を持っていた。


「すっげぇ……」

「これ、いくらで売れるかしら?」

「かってぇーなオイ。ミスリルでも歯が通らねえぞ」


 誰もが当たりを引いたと直感した。


 付近にヤツがいる。

 神出鬼没であり、発見することすら困難と言われているあの竜の、生の痕跡を見つけた。


 これは僥倖であり、成功への兆しである。

 そう考えるのも無理はないだろう。

 だが同時に、後に生き残ることになるヘロメロスたちだけは、引いてはならないものを引いたのではないかと即座に理解していた。


 特にヘロメロスの撤退判断は早かったという。

 彼の逃げ足の速さは、その俊足だけではない。

 彼の臆病さから裏付けられた警戒心は、些細な危険すら産毛で感じ取るまでに進化していた。


 サポーニスは早期に彼の危機感知力へ目を付け、危険報知器として声をかけたのだ。


 

「よーし。ここで夜を明かすかー!」


 隊長であるロンショウの命令により、半数は荷を降ろし始めていた。


 追跡任務としては、ここは十分すぎるほど恵まれた立地であるためだ。

 拠点づくりのため、ほとんどの者が荷を展開し野営の準備を始める。


 ある者は薪を集め、ある者はテントを張る支度を整える。


 だが、ヘロメロスだけは違った。


 彼の第六感は、言葉にできない何かを感じ取っていたのだ。


「ちょっと、どうしたのよヘーロー」

「いや。なんかさ……寒気がやべぇんだ。姉御なんも感じねーのか?」

「いや、別に――」


 

 ボッ。


 最初に消えたのは、調査員の3人だったという。


 悲鳴も嗚咽もない。

 斬撃音も、咆哮も、踏み潰される音もない。


 ただ、3人の上半身が視界から消えたのだ。


 直後、遅れて地面が割れる。

 木々が吹き飛び、土砂が跳ね上がり、彼らの1人が下半身だけになってロンショウの元へ転がった。


「退避ィイイイッ!!」


 ロンショウが吠える。


 その声が命令だったのか、悲鳴だったのか、サポーニスには分からなかった。

 それほどまでに、彼の思考は一時停止にまで追い込まれていた。


「え……何が――」

「バカッ! 退避だ姉御ッッ!!」


 ただ1つ認識したこと。

 その瞬間から、隊は隊でなくなったこと。


 前衛は崩れ、後衛は逃げ道を失い、荷運びは荷を捨てる暇もなく潰された。

 盾を構えた者は盾ごと折られ、逃げた者は背中から裂かれた。


 医術師が駆け寄ろうとした相手は、次の瞬間には地面ごと消えていた。


「ギャッ――」「グボッ――」

「いや――」「たす――」


 次々と姿を消す隊員を、ただサポーニスは眺めることしかできなかった。


 ヤツだ。

 厄竜に違いない。

 こんな芸当ができるのは、あの化け物くらいしか心当たりがない。


 だが、その姿をまともに認識できた者はロンショウくらいであった。


「なんちゅー奴だ……!」


 あとから彼に聞いて分かったことだが、厄竜はただ上空を高速で通過しただけらしい。


 あの巨体を目にも留まらぬ速さで滑空させ、すれ違いざまに人間を刈り取る。

 まさに狩りそのものだ。


 ただ、ロンショウに見えたのは、黒く焼けたような鱗の一部。

 尾らしきもの。

 足元に落ちた巨大な影。

 そして、頭上を通過した何かが空気を押し潰す音。


 それらを認識するので精一杯だったというのだ。


「隊長!」

「おう、ハノイ! 無事だったか」

「は、はい!」


 ハノイとは、『トライデント』最年少のド新人の狩人(スレイヤー)だ。


 ロンショウに憧れ、熱烈な思いでこの隊への参加を志願した。

 力量だけなら他の隊員には見劣りするものの、そのやる気を気に入られ、彼は参入を許されたのだ。


「おめえは負傷者を連れて逃げろ!」

「りょ、了解ッス! 隊長はどうするんスか!」

「俺はあのクソトカゲに引導を渡す」


 ロンショウは大斧を構え、前へと身を乗り出す。


 彼が手にするのは巨大な大斧。

 刃が赤熱し、何度もその手でモンスターの首を叩き切ってきた相棒だ。


 彼の異名である「断頭偉(だんとうだい)」の所以であると同時に、相棒の名でもある。


 彼は構えを取り、いつでも突撃できる姿勢となる。

 幾度も一騎打ちにて敵を屠り去り、クルキブリで首を掲げてきた必殺の構えだ。


「うわ、初めて見たッス! 隊長の構え!!」

「何してやがるッ!! さっさと下がれ、死にてえのかッッ!!!」


 ハノイはロンショウの圧に負け、いそいそとその場を離れた。

 だが、彼を急かしたのは、その身を案じてだけではない。


(やべえな…………)


 まさに百聞は一見に如かず。


 聞いていた情報より何十倍、何百倍も凶悪なモンスターだ。


 羽ばたくだけで周囲は暴風に包まれ、通過するだけでかまいたちが発生する。

 こんな生き物がこの世に存在していたとは。甚だ信じがたい。


 だが、今目の前に起きていることがすべてだ。


 すでに半壊した隊。

 もはや手遅れ。


 この失態は、野営準備を命じた自分に責任がある。

 ならば責務を果たさんと、彼はいつにも増して深刻な顔で厄竜と対峙していた。


「あれが厄竜……」


 上空で浮遊している災禍。

 そこには、全身を赤黒い竜鱗で包んだ「竜」そのものが、空でロンショウを見つめていた。


(どういう原理だ、ありゃ……)


 どういうわけか、厄竜は一切翼を動かしていない。

 ただ空中に、何らかの方法で浮いているのだ。


「ゥオオオオオァアアアアアッッッ!!!」


 凄まじい咆哮。


 ロンショウは「一騎打ちだ」と言わんばかりに、獣の咆哮を轟かせる。

 大地にヒビが入り、音圧で周囲が一瞬薙いだ。


 これより、最強対最恐の戦いが始まる。

 隊員は十分に距離を取った場所で、呼吸すらも憚られるその二者の対峙を見守っていた。


 

 ところが、戦闘と呼べる時間はほとんどなかったという。

 これは、より遠くまで距離を取っていたヘロメロスによる証言である。


「おい、ちょっと待て……」


 まず、厄竜の胸元が赫く光り輝いた。

 そして直後、厄竜は一騎打ちなど拒むように、劫火の息吹を吐いたのだ。


 その後のサポーニスに、記憶はほとんど残っていない。

 というか、脳が思い起こすことを放棄している。


 ただひたすらに、焦げ臭い仲間を背負って、あの厄竜から脱兎のごとく逃げるあの瞬間。


 アレは、地獄以外の何物でもなかった。


 ヘロメロスの誘導で逃走する中、彼の中で何かが結論付いた。


 アレは生き物ではない。


 悪魔だ。

 神が創造した破壊兵器だ、と。


 


 ――――――


 


 気付けば、30人いた追跡隊のうち、立って動ける者は3人だけになっていた。


 ロンショウ。

 サポーニス。

 ヘロメロス。


 死者は21名。

 負傷者は6名。


 しかし、果たしてこの状況は生き残ったという表現が正しいのかどうか、サポーニスには分からなかった。


「状況は?」

「今、ハノイが逝ったわ……」

「そうか……」


 サポーニスがあの逃走劇で背負っていたのはハノイだ。


 彼はサポーニスを庇うようにあの灼熱地獄へ身を放ち、全身が瞬時に焼け爛れたのだ。

 辛うじて息はしていたものの、つい先ほどサポーニスの腕の中でその命の灯を消したという。


「クソが……!」


 ヘロメロスの怒声。


 だが、声を大にして叫ぶことは叶わない。

 なぜなら、彼らは未開領域の奥深くに取り残されていたのだ。


 地図は破れ、方位具は壊れ、荷の大半は失われた。

 水は少なく、保存食は血と泥にまみれ、薬は負傷者5人を支えるには到底足りない。


 今すぐにでも動き、クルキブリへの帰路を辿るべきだが、それをあの厄竜は見逃さないだろう。


 今は自身が吐いた劫火により、あちこちに黒い煙が立ち上っている。

 それが不幸中の幸いで、煙幕として機能しているのだ。


 よって生き残った彼らは、ひたすらに厄竜が去るのを待つしかなかった。


「何人死んだ」

「…………21……いや、ハノイで22ね」

「そうか……そうか……」


 力ないロンショウの呟き。


 彼の大斧は半ばから融け、鎧は溶解し、皮膚は焼けた鉄のようにヒビ割れていた。

 

 出発時の覇気は、どこへ消えたのか。

 死体を弔う余裕もない。

 仲間の遺品を拾う余地もない。


 その現実が、ロンショウの心に嫌でも悔い(杭)を打ち付けていた。


「あんた、よく生きてたわね」

「身体だけは丈夫なんでな……それだけが俺の取り柄だ」


 ロンショウはそう言った。


 正直、アレを真正面から受けて生き残っているだけで儲けもの。

 彼の最強たる所以だ。


 その言葉は、聞くだけなら十分に力強い。


 だが、その表情が普段より一段と弱々しくやつれていることを、サポーニスはしっかり覚えている。


「ここで終わるのかよ……くそが……」

「…………」

「…………」


 3人は分かっていたのだ。


 帰路などどこにもない。

 それはもう、あの地獄の炎で消し飛ばされた。


 もはやここが、どこかも分からない。


 その上、怪物に見つかれば終わる。

 水が尽きても終わる。

 負傷者の熱が上がっても終わる。


 選べる死に方が複数あるだけで、生き残る未来はほとんど残されていなかった。


 

 ――

 


 ひたすらに待ち続けていると、いつの間にか2日も経っていたという。


 火は当然焚けない。

 煙を見つけられれば、次に襲ってくるものが何であれ対処できない。


 負傷者の呻き声を、ヘロメロスが布で押さえた。

 サポーニスは薬草を擦り潰し、使い物になるかも分からない応急処置を続ける。


 これを、ひたすら脳死で続ける。


 このまま死なせた方が幾分か楽なのかもしれない。

 だが、死んでいった仲間たちの顔が過り、それを拒む。


 ロンショウは欠けた大斧を握り、周囲を見張っていた。


 誰も眠る余裕などない。


 恐怖と罪悪感と絶望。

 それらの感情が、彼らに睡眠を許さない。


 そして眠れば、次に目を覚ませる保証がないのだ。


 喉もカラカラ。

 視界は虚ろ。

 誰もしばらく言葉を発さなかった。


(………………コレは……無理ね………)


 サポーニスも、もはや諦めの境地にいた。


 どうしようもない四面楚歌だ。

 ロンショウもこの様。

 ヘロメロスは泣き疲れて、すっかりやつれている。

 

 炎はやがて、ここまで覆い尽くすだろう。

 もはや歩く体力もなく、焼死するか、餓死するかの違い。

 であれば、楽な方を選びたいのが人間だ。


 このまま餓死するくらいなら、自刃して楽になろう。

 そう考えた時、藪の向こうで音がした。


 ガサガサッ

 

 3人が一斉に反応した。

 動けない負傷者でさえ、指先だけで短剣を握った。


 未開領域の奥で、身動きが取れないところに音がする。

 それは大抵、死が近づいている合図だ。


「来るぞ……」


 ロンショウが低く告げた。


 サポーニスは短刀を構えた。

 ヘロメロスは仕方なく負傷者の前に立った。


 藪が揺れる。

 すると月明かりの下、小さな影が現れた。


「こんにちは! ぼく、悪いスライムじゃないよ!!」


【今回の用語まとめ】


■トライデント

サポーニス、ヘロメロス、ロンショウの3人を中心に結成された狩人(スレイヤー)パーティ。

種族を問わず多くの実力者が集まり、一時はクルキブリでも将来を期待される有力パーティへ成長した。


■三体の未討伐個体

人類が長い歴史の中で一度も討ち果たせていない、世界屈指の三大モンスター。

『厄竜』、『樹萱龍 マザーユグドラシル』、『反機龍アンティカリ=リュプス』の三体を指す。


■厄竜

都市を潰し、山脈を削り、地形そのものを変える伝説級モンスター。

高速飛行によるすれ違いだけで熟練スレイヤーを殺傷し、吐息ひとつで追跡隊を壊滅させるほどの力を持つ。


■断頭偉(だんとうだい)

ロンショウの異名であり、同時に彼が愛用する巨大な大斧の名。

数多くのモンスターの首を叩き切ってきた武器であり、ロンショウの戦闘スタイルを象徴する存在。


■ハノイ

トライデント最年少の新人狩人(スレイヤー)。

ロンショウに憧れて追跡隊へ参加したが、厄竜の攻撃からサポーニスを庇って致命傷を負い、逃走後に死亡した。


■5年前のゥルル

厄竜によって壊滅した追跡隊が未開領域で死を待っていた際、突如現れた小さなスライム。

その第一声は――「こんにちは! ぼく、悪いスライムじゃないよ!!」。



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ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



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※AIの利用について:

・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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