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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第二章「輪廻庁」2-1「ゥルル編」
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CASE.074「てるまえ」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。

設定資料をご覧になりたい方はぜひnoteに訪れてみて下さい!!

https://note.com/ponym/m/mc8c9ad24eef6

 人混みから解放され、念願の食事にもありつけたアン。

 彼女が次に紹介されたのは宿屋だった。


 看板には、何やら知らない言語で「てるまえ」とある。


 外観は木造を基調としていたが、ただの宿屋というには規模が大きすぎる。

 正面には太い柱が何本も立ち、屋根は大きく張り出している。

 入口の両脇には温泉を示す湯気の印「♨」が掲げられ、扉の隙間からは白い蒸気がゆっくりと漏れていた。


「ここは『ホテル・てるまえ』!! ふか~いところから出るお湯が凄く気持ちいいんだよ!」

「お!? お、温泉!? 本当に!?!?」


 大衆感と高級感が同居する不思議な造りに加え、温泉まで備え付けてあるというのだ。

 これこそが、アンが喉から手が出るほど待ち望んでいた休息の場である。


 アンは腕いっぱいに食べ物を抱えながら、宿屋の中へソロリと入る。

 暖簾を潜ると、まず熱気がむわぁっと肌に触れた。


「むわっ!」


 エントランスの中央に、初っ端から温泉。

 受付や待合席よりも先に、湯船が目に入る設計なのだろう。


 岩で囲まれた大きな浴槽からは絶えず湯気が立ち昇り、天井近くへ溜まった蒸気が灯りをぼんやりと滲ませていた。


 床には濡れても滑りにくいように、何かしらの毛皮が敷かれている。

 壁や柱には防湿処理を施した木材が使われ、受付台の後ろには宿泊客の鍵がずらりと並んでいた。


 宿というより、温泉そのものを中心に建物を組み上げた施設のようだ。


「す、すごい……」

「ふふ~ん。すごいでしょ! ここはクルキブリの中でも1番おっきい宿屋なんだよ!!」


 ゥルルの言う通り、客の出入りが非常に多い。


 浴衣姿の客が湯上がりのまま長椅子に腰掛け、別の客は濡れた髪を拭きながら受付で部屋を取っている。

 狩人らしき者たちは入口近くの武具預かりに大剣や槍などを預け、重い防具を外してから奥へ向かっていた。


 湯船の周囲には、湯を楽しむ者と、単に足を浸して休んでいる者が混在している。

 怪我をした者も少なくない。


 包帯を巻いた腕を湯に近づけ、番頭らしき男から効能の説明を受けている者もいた。


「あのお湯はすごい回復するんだって」

「回復……」


 この宿では、温泉はただの飾りではないのだ。

 受付であり、待合所であり、治療場であり――「てるまえ」の象徴でもある。


 狩りから戻った者が、まず鎧を脱ぐ。

 武器を預ける。

 身体を洗う。

 湯に浸かる。

 飯を食う。

 眠る。


 その一連のサイクルを前提として作られた構造。

 客の動線を考えた、実に合理的な設計だ。


「うっわ、すっげえッス!」

「いいなぁ~。私もこんな所、一度でいいから行ってみたいわぁ~」

「す、すごいです……」


 ミラとカイ、ノルハイコという女性陣が、モニター越しに豪華絢爛な施設を眺め、アンを心底羨む。


 執行官を羨ましがるなど、作戦室での待機が基本なカイからすれば、基底界(インタースペース)人生初めてであろう。

 それほどまでに「てるまえ」は、アンの視界越しでも魅力的に映っているのだ。


 特に温泉が。


「ん!?」


 食欲をそそる匂いを嗅ぎ、アンは背伸びして何かを凝視する。

 エントランスの奥に、食事処が見えたのだ。


「「「うわぁ~~!!」」」


 女性陣の目にも入り、一斉に感嘆の声を上げた。


 勢い余って、アンはそのまま中へと入ってしまう。

 そこは畳敷きの大広間だった。


 長い座卓が何列も並び、湯上がりの客や狩人たちが、種族も身分も関係なく肩を寄せ合って飯を食っている。


 大皿の肉。

 煮込み。

 酒。

 飛び交う、怒鳴るような注文の声。


 さらに上階へ向かう階段の横では、従業員たちが替えの浴衣や桶をせわしなく運んでいた。


 そこにエントランスのような上品さはない。

 腹を空かせた者たちをまとめて飲み込む、巨大な飯場であった。


(ぐ~~~~~っ)


 アンの腹から、可愛らしい重低音が鳴った。


 無理もない。

 焼いた肉と出汁の匂いが、湯気に混ざって漂ってきたのだ。


 街の外は職人と血と鉄と怪物素材の臭いで満ちていたが、ここはまた別の匂い。


 湯の匂い。

 木の匂い。

 そして涎を誘う飯の匂い。


 この三重奏に抗える者はいないだろう。


 ミラは――別に必要はないのだが――映像越しに「てるまえ」の構造を眺め、空間マップへ簡易的に書き起こしていく。


 見える範囲だけでも、本当にあらゆる施設がエントランスへ繋がっていることが分かる。

 まるでアリの巣のように、すべての道が中央へ集約されているのだ。


 逆に言えば、エントランスから主要な施設へ最短距離で行ける。


 安息と効率。

 それらに特化した構造となっているのだ。


「まーじですんごい宿ッスね。というか、あの方たちが作った世界にしては、世界観がめちゃくちゃ良くないですか?」

「そりゃそうよ。ここ、一応“α(アルファ)”ランクの世界よ? 全異世界の上位10%圏に入る高位世界なんだから」

「わ、私がこれまで転移した世界の中でも、群を抜いて素晴らしい異世界です」


「まあだからこそ、その世界観が任務を邪魔するんッスけどね……あのバカでかいモンスターしかり」


 4段階の異世界評価。

 上から2番目の“α(アルファ)”案件ともなれば、もはやその世界観は馬鹿にできないほど作り込まれている。


 おそらくこの世界――『α-980-ノード89』は、某狩猟ゲームをモチーフとしているのだろう。

 人々がモンスターを狩り、その素材を生活基盤へ組み込む。

 そんな狩猟主義世界。


 そして相当作り込まれているからこそ、その世界観は大いに執行官へ牙を剥く。


 「ユグドラシル」もその1つだ。

 散々煮え湯を飲まされた挙げ句、殺されかけたアンは、憩いの場を見つけたことですっかり表情が蕩け切っていた。


「アンちゃん、大丈夫ッスかね……」

「様子を見ましょ。あの子も心身ともに限界だろうし……今日のところは好きにさせてあげましょ」

「りょーかいッス」

「了解です」


 アンは改めて、キョロキョロと周りを見渡した。


 素晴らしい宿だ。

 だが、ここは完全に平和な場所というわけではないらしい。


 壁際には討伐依頼の写しが貼られ、湯上がりの狩人たちがそれを眺めながら次の予定を相談している。


 休息と準備が同居している。

 「ホテル・てるまえ」は、ただ疲れを癒やすための宿ではなく、次の狩りへ向かうために身体を整える、狩人たちの宿舎でもあるようだ。


「…………」


 そしてアンは、ゥルルをじっと見つめた。


 まるで餌を目の前にして、お預けを食らった子犬。

 忙しなくぱたつかせる尻尾が、薄っすら見えるような気がする。


 およそ年下の子供に見せる表情ではない。


 その無言のメッセージを受け取り、ゥルルはエントランスの受付へと向かった。


「サポーニスさん、こんばんは!」

「あrrrrrっら! ウル坊やじゃないの!」


 巻き舌で、浴衣姿の女将らしき女性――いや、男性がゥルルを温かく出迎えた。

 どうやら名はサポーニス。周囲からは「サポ」と呼ばれているらしい。


「久しぶりじゃな~い! 元気してた?」

「うん! 今日はね、お友達を連れてきた!」

「あら? あ~らあらあら♡」


 サポーニスはアンをじっと見つめ、次にゥルルへ視線を移す。


「素敵なガールフレンドだこと♡ いいわ、好きなだけここにいなさい♡」

「やったー!」

「後ろの子犬ちゃんもね」

「ほ、ホントですか!? わぁ~い!!」


 ゥルルとアンは手を繋ぎながら、大いに喜ぶ。

 すると依頼ボードの方から、弱々しい声が響いた。


「サポの姉御~、俺の宿代もまけてくれよぉ~」

「黙らっしゃい穀潰し。アンタは早く飯代稼いで来な!!」

「んな殺生なぁー!」


 依頼ボードの前で、狩人らしき男性がへこたれている。


 頬が痩せこけており、相当な時間何も口にしていない――そういう典型的なかわいそうなキャラクターが配置されていた。

 あまりにも悲壮感にあふれており、アンは居ても立ってもいられなくなる。


「あ、あの……」

「あら、どうしたのかしら」

「私、ちゃんとお返ししますので……彼もダメでしょうか……? お皿洗いでも何でもします!!」


「~~~~ッ!」


 アンの若人特有のキラキラに照らされ、女将は眩しさで目を細めた。


「んもぉ~、アタシ若い子のその目に弱いのよぉ~!」

「じゃ、じゃあ!」

「ったく、この子たちに免じて今日は許すわ。でも借金は2割増しね」

「よっしゃああああああ!!」


 アンは何度もペコペコとお辞儀をする。

 わがままを2度も聞いてくれたことに、感謝の意を必死に示そうとしていた。


「いいわよ、そんなかしこまらなくて♪」

「あ、ありがとうございます!!」

「それで、あなた名前は?」


 アンはピシッと、上官を前にするように姿勢を正し、名乗った。


「とくしゅ…………アンです! ただのアンです!!」

「良い名前ね。どうぞゆっくりしていきなさい。我が『てるまえ』の魅力で篭絡してあ・げ・る♡」



【今回の用語まとめ】


■ホテル・てるまえ

骸都(がいと)クルキブリ最大級の宿泊施設。

地下深くから湧き出す温泉を中心に、宿泊・食事・治療・武具預かりなどを一体化した狩人向けの複合施設となっている。


■てるまえの温泉

狩りで傷ついた者たちも利用する、回復作用を持った温泉。

休息のためだけでなく、怪我の療養にも使われており、「てるまえ」の施設構造そのものが温泉を中心に設計されている。


■クルキブリの狩人文化

巨大生物を狩り、その肉・骨・皮・その他素材を生活基盤へ取り込む文化。

宿屋にも武具預かり、討伐依頼、治療用温泉などが揃っており、「休息」と「次の狩りへの準備」が一体化している。


■サポーニス

「ホテル・てるまえ」を取り仕切る浴衣姿の女将の男。

ゥルルとは以前から面識があり、彼を「ウル坊や」と呼んで可愛がっている。アンにも気前よく宿泊を許可した。


■α(アルファ)ランク

異世界評価における上から2番目の階層。

『α-980-ノード89』もこれに該当し、作中では数多ある異世界の中でも上位10%以内に位置する高完成度世界とされている。




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ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



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※AIの利用について:

・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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