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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第二章「輪廻庁」2-1「ゥルル編」
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CASE.072「線引き」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。

設定資料をご覧になりたい方はぜひnoteに訪れてみて下さい!!

https://note.com/ponym/m/mc8c9ad24eef6

 ようやく遊覧飛行が終わり、アンはゥルルを抱いたまま地面へ着地する。


「ε-(´∀`)」「ε-(´∀`)」「ε-(´∀`*)」

「ありがとねぇ、トリちゃん~! 本当にありがとう~(´;ω;`)」


 アンが涙を浮かべながらそう言うと、シスターズは安心したようにアンの背中にある接続基部へ収まった。


 さすがの彼女たちにも限界が訪れた。

 しばらくは休眠モードを解除できないだろう。

 故にアンは、これまで以上に無防備な状態となってしまう。


「ふぅ……疲れちゃった……」

「でもぼく、すっごい楽しかったよ!」


 ゥルルにとってはすべてが新鮮な体験であり、アンという友人もできたことで、ひどくはしゃいでいた。

 ぷるんぷるんとアンの腕の中で上下に伸び縮みしている。


 一方アンの中には、いまだ彼のついた嘘――


 ――ぼくはずっと1人、だよ。


 その言葉が頭の中にこびりついており、不安げな顔をしている。

 それを察したのか、ゥルルがアンに問いかけた。


「アンねーちゃん、大丈夫?」

「ううん、大丈夫よ。ちょっとハプニングばかりで疲れちゃったみたい……」

「そーなんだ! じゃあ、どこかでお休みしないとだね~」


 子供との会話はすごく楽だ。

 何故なら言葉上の駆け引きも少なく、返ってくる反応も、ほとんどが混じり気のないものだからだ。


 だがしかし、ところどころに垣間見える、罪悪感にも似た色の感情。

 それをアンは、ゥルルの発言の節々から感知してしまっていた。


 それにより否が応でも、彼女らがあくまで転生者(ターゲット)と転生者(執行官)という関係であることを叩きつけられる。

 いずれにせよ、この任務は、この赤いぷるぷるの子供スライムを執行することで終わりを告げる。


 無垢な子供を、この手で――。


 そんなことをもんもんと考えていると、アンの顔にゥルルの顔らしき部位が引っ付いた。


「んぶっ」

「アンねーちゃん、大丈夫?」


 ゥルルは心配そうに、アンを見つめる。


(この子が……『神殺し』……)


 見れば見るほど、抱きしめたくなる存在だ。

 短い角をピコピコと動かすさまは、犬が耳や尻尾をぱたつかせるそれと近いものを感じる。


 それ故にアンもアンで、本当にこの子(ゥルル)が本任務の転生者(ターゲット)なのか、疑心暗鬼になってきていたのだ。


 そして彼女には、それを確かめる力がある。

 対象の心に潜む感情を見抜く力――『|あなたの物語を聞かせて《ユア・テイル》』。


 この力を行使し、たった1つの質問。


 ――あなたがイシス神を殺したの?


 これを一度聞くだけで、大きく事態は動くだろう。

 最も手っ取り早く、簡単な仕事だ。


 だが、いくつもの要因が、アンからその選択肢を遠ざける。


 彼女はただただ怖いのだ。

 彼の物語を知るのが。


「この先に街があるよ!」

「街……?」

「うん! 色んな人が住んでるよ」

「そこに行けば、休めるところあるのかな?」


 ゥルルは「うんうん」と頷く。

 どうやら彼自身も街へ行きたい様子だ。


 アンもシスターズもかなり疲弊しているので、ここは安全地帯で休息を取ることが求められる。

 ただ、ゥルルはあくまで転生者(ターゲット)。

 そう易々と彼を信用すべきではないことを、さすがのアンでもようやく理解し始めていた。


 だからこそ、指文字で作戦室に指示を乞うことにする。


「そうね……アンの言う通り、シスターズが機能停止している以上、これ以上この世界を出歩くのは危険ね」

「いつあの飛竜級のバケモンが出るかも分からんッス。ここで休めるのなら、たとえ敵陣でも乗り込むほかないんじゃないスか? 別に敵対しても弱っちそうだし(笑)」


「……仕方ないわ。アン、今はその子の言う通りにしてちょうだい」


 カイの指示を受け、アンはこくっと頷く。


「ゥルル、案内お願いできる?」

「じゃあいこ! ちょっと歩けばつくよ!」


 ということで、アンはゥルルに言われるがまま、彼の道案内に沿って歩みを進めるのであった。


 ――――――


 しばらくして、2人はようやく街らしき門へと辿り着いた。


 ちょうど夕暮れ。

 陽が沈みかけた黄昏時である。


 ゥルルは「ちょっと歩く」と言っていたはずだったが、結局1時間弱歩く羽目になったため、アンは膝に手をつきながら、ぜーはーと深呼吸をしていた。


「お疲れ様、アンねーちゃん!」

「う……うへぇぁ~……」


 ぴょん、とアンの懐から飛び出したゥルルは、大はしゃぎだ。


 アンは呼吸を整え、顔を上げる。

 するとそこには、想像を軽く凌駕するほどの、活気ある巨大拠点が広がっていた。


 山を削って作った城ではない。

 木を組んで築いた砦でもない。


 それは――巨大な怪物の亡骸を利用して築かれた街。


 それが突如、目の前に出現した。

 いや――アンが認識して初めて、そこに存在したかのように現れたのだ。


「す……すご………」

「でしょでしょ!!」


 目を引くのは、空を覆うように突き出した無数の乳白色の骨角。

 あれはおそらく、かつて巨大なモンスターを討伐したか、あるいは亡骸を発見した際に回収したものを、そのまま建材として利用しているのだろう。


 白く風化した骨角には鉄骨や滑車が絡みつき、見上げるほど巨大な吊り橋を支えている。


 砦も、そのほとんどがモンスターの素材らしきもので構成されていた。

 目の前の分厚い門は何重にも重なり、その入り口を固く閉ざしている。


 自然の産物を、そのすべてを余すことなく最大限利用している。

 まさにサバイバルの極致とも呼ぶべき風景だ。


 そのうえ、もう陽は半分ほど地平線へ沈み、辺りは暗闇に包まれつつあるというのに、この街は爛々と輝いていた。


「ここが……」

「ここは『クルキブリ』! 世界で1番大きい人間の拠点だよ!!」

「くる、きぶり……?」


 当然、作戦室の一同も目を見開き、モニターへ食いついていた。


「うっわ、マジでモ〇ハンライクな拠点じゃないッスか!」

「こんな街があっただなんて……とんだ灯台下暗しね。というか、そもそもなんでこんな大きな街がモニターに検知されないのよ」

「それだけあのユグドラシルという巨大生物の反応が強大だったということじゃないッスか?」

「いや。どちらかというと我々――というよりアン執行官が認識して初めて現れたかのような挙動に見えたが……興味深いね。最上位存在が一柱——フレイヤ神の女神の帳《ヴァナディース・ヴェール》に近い」


 これまで巨大拠点の反応を欠片も探知できなかった理由について、当初はユグドラシルの強大な生体反応に埋もれていたためだと考えられていた。


 あまりにも巨大な反応が周囲の細かな反応を覆い隠し、モニター上では辺り一面が平坦な分布図として映ってしまう。

 実際、それ自体は間違っていない。


 だが――。


 これほど近くまで来てもなお、アンが街を認識するその瞬間まで何一つ拾えなかったことまでは説明できない。


 ただの探知妨害なのか。

 それともユリスの言う通り、別の何かが作用しているのか。


 今の時点では、まだ分からなかった。


「ちょっと待ってね」

「?」


 立ち上がって門へ向かおうとしたところを、ゥルルが制止する。

 すると彼の薄紅色の身体がうにょうにょと変形し始め、徐々に形を成していった。


「え、わ、え!?」

「うーん、こうだったっけ……久しぶりだから形忘れちゃった」


 ゥルルは何やら思い出すように、自在に形を調整している。


 足。

 次に腕。

 さらには手。

 胴体に首。

 そして最後に頭。


 その形状は、まさに人。

 彼はぷるぷるの身体を変形させ、今まさに人へ化けようというのだ。


「思い出した。こうだった!」


 すると形だけでなく、薄紅色の粘体が徐々に色づき始める。


 数秒後。

 ついにアンの目の前には、1人の人間が完成していた。


「じゃーん!」

「わぁ……!」


 そこには、薄紅色の髪の少年が立っていた。


 まさに彼が言っていた、5歳程度の小柄な男の子。

 頭に生えた角という元の姿の名残らしきものは残っているが、その他はほとんど人そのものだ。


 髪は少し長めの短髪。

 服は白シャツに、サスペンダー付きの黒いショートパンツ。

 肩には、髪と同じ色のフード付きの短いローブ。


 要するに、ちょっと良いところ育ちのショタである。


(かわいい……)

(かわいい……)

(かわいい……)


 アンだけでなく、ミラとカイも、ゥルルの人の姿に頬を緩ませていた。

 インヨウ兄妹と近しい属性だが、あちらはクソガキすぎるし、何より中身は百年以上生きている歴戦の傑物なので、こういった感情は湧かない。


 だがゥルルは正真正銘、身も心も子供だ。

 スライム状態でもかわいらしかったその姿は、人間になってもその魅力を引き継いでいた。


「あ、そっか。スライムってそういう感じなんスね」

「どういうこと?」

「いや、ほら。スライムって言ったら“弱い”の他に、“変身”があるじゃないッスか」

「あら、そうだったかしら?」


 カイはユリスに目配せを送る。


「同意する。現に地球(ガイア)における書物では、スライムを弱い生物であるほか、変幻自在な性質を持つものとして描いていることが多かったはずだよ」

「へぇ~。ということは、ゥルルはそれってこと?」

「でも中にはスライムを、めっちゃ強いモンスターとして描写してる作品もあるッスから……一概にこれだけとは言い切れないッス」


 とりあえず、今のところ判明しているゥルルの性質は以下の三つ。


 ・かわいい

 ・物理攻撃にかなり強い、おそらく

 ・変身


 正直、恩寵(ギフト)にしてはあまりにもしょぼい能力だ。


 ケイン・アッキネンの『劣等の略奪(マイナースナッチ)』。

 エリオット・レインフェルの『常理外演算《オーバー・チュートリアル》』。

 そしてロザリア・ディ・エルヴァニスの『アブソリュート・ラブ』。


 これらを始めとした転生者の恩寵(ギフト)は、そのどれもが神の権能に匹敵するほどのチート級、規格外の異能である。

 それらとゥルルの能力を比較した際、二回りも三回りも見劣りしてしまう。


 よってこの三つは、あくまで副産物。

 ミラたちは、ゥルルにはまだ別の本当の能力があるのではないかと疑っていたのだ。


 直後、モニター上で変化があった。


「おう! ウル坊じゃねえか!」

「あ~! ロンおじちゃん!!」


 街の門から、1人の野暮ったい大柄な男性が顔を出した。


「久しいなぁ~! いつぶりだぁ~?」

「わかんない。3ヶ月くらい?」

「まあいい。よく来たな! ん、その娘は何だ?」

「あ! アンねーちゃんだよ!! ぼくのお友達」


 アンはペコペコとお辞儀をした。

 その男はアンをジロリと見つめる。


「珍しいな、友達とは。まあなんだ。久しぶりの再会だ。入んな!」

「やったー!」


 ぴょんぴょんと、ゥルルは跳ねる。


「アンねーちゃん、入って良いって!」

「う、うん……!」


「門を開けろ!!」


 男の腹に響く剛毅な声。

 すると、ゴウンという重々しい音とともに、何枚もの門が開かれた。


「お初のねーちゃんにも紹介してやる。ようこそ、我らが『骸都クルキブリ』へ!!」

【今回の用語まとめ】


■骸都(がいと)クルキブリ

ゥルルが案内した、この世界最大級の人間拠点。

巨大な怪物の骨や素材を建材として利用した、サバイバル色の強い都市。人間以外の種族も行き交う文明圏の一つ。


■クルキブリの探知異常

アンが至近距離まで接近しても、RACの探知装置ではクルキブリを認識できなかった現象。

アン自身が街を視認した瞬間に初めて存在が捉えられており、単なるユグドラシルの生体反応による探知阻害だけでは説明できない。


■女神の帳《ヴァナディース・ヴェール》

最上位存在(神々)の一柱、フレイヤ神に関連する能力・現象。

ユリスは、クルキブリが「認識されるまで存在を捉えられなかった」挙動を、この力に近いものとして例示した。


■ゥルルの人型変身

スライム状態の身体を変形・着色し、人間の少年へ姿を変える能力。

人型では5歳ほどの少年の姿となり、薄紅色の髪と頭部の角にスライム状態の名残を残している。



――――――――――――――――――――――――――――



ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



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※AIの利用について:

・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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