CASE.070「あなたの物語を聞かせて」
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「ふーんふーん♪」
「♪」
「(ง ᵕωᵕ)ว♪」「♪(*‘ω‘ ≡ ‘ω‘*)♪」「( ‘ω’ و)و “」
森の中から、可愛らしい2つの鼻歌が聞こえてきた。
アンとゥルル。
ゥルルがアンに抱っこされる形で、2人は森の中を進んでいる。
一方、シスターズは省エネモードでアンの頭上をゆっくりと旋回し、最低限の警戒を続けていた。
道中特に何もなく、アンはカイの指示通り、質問を織り交ぜながら会話を弾ませていた。
好きな食べ物。
好きな動物。
何をするのが好きか。
なんてことのない日常会話だ。
そのどれにも、アンの恩寵は偽りを感じ取っていない。
少なくとも、ゥルル本人は心からそう答えている。
本当に彼は――ゥルルは子供なのだということが、如実に伝わってくるのだ。
「アン、もう少し踏み込んだ質問をしてちょうだい」
「…………」
アンはこくこくと頷く。
「そうね……この世界のこととか聞いてくれないかしら?」
アンはここまで、ゥルルの過去に踏み入った質問を極力避けていた。
理由は明白。
それは彼の経歴にある。
転生は、死した時点での記憶――つまり精神状態をある程度引き継いだまま行われる。
情報録では、ゥルルはこの世界時間において、まだ1年ほどしか生きていないという。
そして彼は、自分を“5歳”と言った。
単純に考えれば、彼は少なくとも4歳前後で第一生を終えたことになる。
4歳と言っても、すでに物心がついていておかしくない年頃だろう。
それに加え、彼の恩寵名――『もう痛くないよ!!』。
この時点で、大方彼に何が起きたのか察せられる。
それは、言葉にするのも憚られるものだった。
そのためアンは、ゥルルにその記憶があるかどうかも定かではないが、あまり過去を思い起こさせぬよう話題を慎重に選んでいたのだ。
「ずっとここに住んでるの?」
「うん! とっても快適なんだよ!」
「へ~~。ここって、もしかして誰かの背中の上なのかな?」
「お! アンねーちゃん、すごい! なんで知ってるの!?」
アンはとりあえず「なんとなく」だとはぐらかした。
「ここはね、『ユグドラシル』さんていうドラゴンさんの背中の上だよ」
「ゆぐどらしる……?」
「そう、ユグドラシルさん! 世界一大きいドラゴンさんだよ」
その情報に、ミラも食いついた。
「『ユグドラシル』……世界一大きいドラゴンッスか」
「なるほどね。この世界のコンセプトが見えてきたわ」
やけに人工物が見当たらない理由。
それはこの森が、そもそも生物の上に存在していたからだ。
ユグドラシルという世界一巨大な竜は、その背中自体が高度な生態系を孕んだ森となっているらしい。
そのうえ、先ほどの劫火を放った飛竜。
おそらくこの世界は、絵物語で見るような――巨大生物の犇めくハイファンタジー世界という設定なのだ。
「ずっとユグドラシルさんの上に住んでるの?」
「うーうん。たまにユグドラシルさん寝ちゃうから、その時街に遊びに行くよ」
「ほえー、街……街ッ!?」
聞き捨てならない単語に、アンは飛びついた。
作戦室の一同も、一斉にモニターへ意識を向ける。
「街って……まさか人間――」
「人間さんだけじゃないよ。ドワーフさん、エルフさん、巨人さんにゴブリンさん。いろんな人がいるよ」
「す、すごい……」
ミラもカイも唖然としていた。
巨大生物だけではない、多種族ファンタジー。地球における童話で聞くような種族たちが、この世界ではこぞって入り乱れているのだ。
まるで、そこら中の著名な異種族という異種族を、やたらめったらにごちゃ混ぜにしたような世界観。
いかにも最上位存在が考えつきそうな世界である。
「ゥルルは会ったことあるの?」
「あるよ!」
「そ、その……ユグドラシルさんて、いつ寝るかは分かるのかな?」
「分かるよ! ユグドラシルさんは寝る時、体を大きく揺らすんだ」
「なるほど……」
「なるほど。アレは、ユグドラシルの身震いみたいな感じの余波だったんスね」
「どんなスケールなのよ……」
となると、気になるのがあの飛竜だ。
アンはそのことについて、ゥルルに尋ねてみた。
「あのね……私、その時巻き込まれそうになったんだけど、空飛ぶドラゴンさんに助けてもらったの」
「へ、へぇ~そうなんだ!」
「すっごい炎を吐くドラゴンさんなんだけどね、ゥルル知らなぁい?」
「ュ、ユユグドラシルさんはね、時々背中がかゆくなるんだよ? だからああやって背中を炎で焼いてもらってたんだよ、うん!」
「へぇ~そうなんだ……」
するとアンが、指先でゆっくりと文字を作り始める。
ゥルルには気づかれないように。
けれど作戦室には伝わるように、視線をそっと下へ落とす。
当然、ミラとカイはその一見不可解な動作に気づいた。
「これって指文字……」
「『う』『そ』……あの子、今のは嘘みたいね」
どうやら、アンの異能がゥルルの虚偽を感知したらしい。
つまり、あの飛竜には別の目的があった。
そしてゥルルは、その事実について何かを隠している。
あるいは、子供特有の知ったかぶりという可能性もあるが。
「心を読むって言ったッスよね? それを教えてもらえればいいのでは?」
「そんな万能ってわけでもないのよねぇ、あの子の恩寵」
アンの恩寵、『|あなたの物語を聞かせて《ユア・テイル》』。
人の心を見透かす、ある意味チート的な異能だと説明したが、カイ曰く、そこにはちゃんとした制約があるという。
「いきなり心の中全部が読めるってわけじゃないのよ」
「え、じゃあとんだポンコツ恩寵じゃないッスか」
「そんなことないわ。発動条件はただ、対象と言葉を交わすだけ。言葉を交わせば交わすほど、アンはその人の心の奥まで見られるようになるの」
「……つまりは仲良くなればなるほど、そいつの心が手に取るように分かるってことッスか?」
「そうッス」
なぜかカイは、ミラ風に返した。
逆に言えば、深い記憶や思考までは、ある程度相手とのやり取りを重ねなければ読み取れない。
とはいえ、言葉に意図的な嘘が含まれているかどうか。
さらにその時の心情――怒っているのか、怯えているのか、何かを隠そうとしているのか。
その程度であれば、短いやり取りだけでもある程度察知できる。
つまり下手な嘘は、アンに簡単に看破されるというわけだ。
加えて能力自体のオンオフも可能なので、アンにとっても非常に実用的な異能である。
「私、その街に降りてみたいんだけど……大丈夫かな?」
「多分大丈夫だよ! ただ今はユグドラシルさんウトウトだから、ちょっと危ないかも……」
「そうなんだ。ちなみにどうやって降りるの?」
「へへ! 実はぼくにしか分からない、とっておきの道があるんだ! 知りたい?」
「知りたいです!! ゥルルさん!!」
シスターズも知りたそうに左右へ揺れ始めた。
するとゥルルは突然アンの腕から飛び出し、森の中を駆けていく。
といっても、ポヨンポヨンと体を跳ねさせるので精一杯なので遅い。
そのまま「こっちだよ!」と言わんばかりに、体を伸び縮みさせて合図を送る。
アンはひとまず、付いて行ってみることにした。
「どう思います、カイ姐?」
「どうって?」
「いやぁー、アタシにはあんなよわよわガキスライムが主神を殺せるとは思えないんスよねぇ~」
「そうねえ……」
カイとミラは頭を悩ませる。
今のところ、それらしき言動も素振りもない。
いたって普通の子供――というより子スライムであり、反応も虚弱も虚弱。
アンですら脅威に感じないほどの、雑魚モンスターに恥じないスライムっぷりである。
よってゥルルの罪状、“神殺し”に対する彼女らの疑念は増すばかりであった。
「だがしかし、ロザリア・ディ・エルヴァニス同様、本人に戦闘能力がなくとも、他者を洗脳し従えるというパターンもあり得る」
「たしかにそうね」
「正直、ヴォルツ・ディ・エルヴァニスのようなイレギュラーはもうないと願いたいが、留意すべきだろう」
ユリスの言う通り、今の状況はロザリアの一件と似ている部分がある。
あの時も、ロザリア本人の反応が小さいせいで、ラブラドーラ――いや、ダリヤ王女という内部の人間に頼る羽目になった。
今回も、魅了系や洗脳系の恩寵である可能性は、最後まで捨てるべきではないだろう。
そうこう議論を交わしていると、いつの間にかアンとゥルルは目的地へと辿り着いたらしい。
彼女らの目の前――というより足元には、人が2、3人入れるほどの大きな穴がぽっかりと開いていた。
「ここだよ」
「ここ?」
「うん! ここに入ると、するーって外に出れるよ!」
「へ、へぇ~……」
アンは興味津々に穴を覗き込む。
穴の奥からは風が微かに吹いており、どうやら本当にどこかへ繋がっているようだ。
「これ、罠って可能性ないッスよね?」
「…………アン。念のため警戒してちょうだい」
「りょか……あっ」
その瞬間、再び大地が揺れた。
ゥルルの言うユグドラシルの身震いだろう。
凄まじい地響きとともに、森全体がざわめき始める。
アンはバランスを崩し、地べたへ尻餅をついてしまう。
「これって、まさか……」
「やばいかも!」
「もしかして、またユグドラシルさんの身震い?」
「うん。これ、たぶん寝る準備と思うよ」
「じゃあ、あの津波みたいなのがまた――」
「もっと大きなのが来るよ! 多分、背中を全部飲み込んじゃうくらいの!」
「わぁ~~」
「(;°-°;)」「(;°-°;)」「(;°-°;)」
あれよりも凄まじい大地の津波が来るのだという。
ゥルルは体を上下に伸び縮みさせ、来る災害の規模を表現する。
かわいらしい表現方法だが、一方アンとシスターズは揃って恐怖でぷるぷると震え出す。
「どうしよ。いつもはママ――……ううんっ、隠れてから降りてたから……」
ゥルルはどうしたものかとブツブツ悩んでいる様子だった。
アンも迫り来る災害への恐怖で、先ほどの光景が脳裏に甦り、ぷるぷると震えている。
だがその最中。
ゥルルの言葉の切れ端に混じった“嘘”を、彼女の異能は逃さなかった。
(マ、マ……?)
「イチかバチかだよ! アンねーちゃん!」
「ふえ?!」
「行くよ!」
「ふえぇッ!?!?」
「(゜ロ゜; ))」「(( ;゜ロ゜)」「(゜ロ゜; ))」
突然の提案に、アンは慄いてしまう。
シスターズも「それはアカン」とばかりにオロオロしているが、そのうちの1機――『EAR』が、後方から何かしらの音を察知した。
「Σ(OωO )」
シスターズ3機の思考は同期している。
そのため1機が危機を察知すれば、残り2機にも即座に共有されるのだ。
シスターズはアンの背中をボスボスと比較的優しく体当たりし、「後ろからヤバいもんが来てる」ことを必死に警告する。
アンがおそるおそる振り返ると――
「ピーッ(声にならぬ大絶叫)!!!」
本当に先ほどの地滑りの倍近い規模の“ソレ”が、遠方から凄まじい速度で押し寄せていた。
もはや、迫り来る殺人壁である。
「どどどどどどうしましょう、カイお姉さま!?」
「どうします、カイ姐!?」
「あーもう、次から次へと! この世界ほんと嫌になるわ!!」
カイはマイクを握りしめ、アンに命令を下す。
「アン、飛び込みなさい!!」
「えいッ」
「あ――」
カイの命令をアンが飲み込むよりも早く、ゥルルがそのお尻へ体当たりした。
一瞬だけ、時間が引き延ばされたかのように視界がゆっくりと流れる。
そして次の瞬間。
アンの視界は真下へと急降下していった。
【今回の用語まとめ】
■ユグドラシル
ゥルルが暮らしているという、世界一巨大なドラゴン。
その背中には森そのものが形成され、高度な生態系が存在している。アンたちがこれまで「大地」だと思っていた場所も、ユグドラシルの背中だった。
■ユグドラシルの身震い
ユグドラシルが眠りにつく前などに起こす、超大規模な身体の揺れ。
背中では地滑りどころか大地そのものが押し寄せる災害として現れ、場合によっては背中一帯を飲み込む規模に達する。
■『|あなたの物語を聞かせて《ユア・テイル》』
アンの恩寵。対象と言葉を交わすことで、その心情や虚偽を読み取る異能。
会話を重ねるほど深い思考や記憶まで読み取れるようになる一方、初対面から心のすべてを把握できるわけではない。
■『ユア・テイル』の読心深度
短いやり取りでも、意図的な嘘・恐怖・怒り・隠し事などはある程度察知可能。
一方、深層心理や過去の記憶へ踏み込むには、対象との会話や関係を積み重ねる必要がある。
■ユグドラシルから街へ降りる道
ゥルルだけが知っているという、ユグドラシルの背中から外部へ抜ける秘密の経路。
森の中に開いた巨大な穴から入り、そのまま外へ降りられるらしい。
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・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




