CASE.068「巨大生物の楽園」
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炎熱地獄を連想させるほどの劫火。
それは突如発生した巨大な大地の津波を、真正面から灰燼と化した。
約20秒ほど続いた炎の噴射は徐々にその勢いを失い、やがてアンの目の前には、辺り一面真っ黒に焦げた焼け野原が広がっていた。
「ほわぁ……」
「(°°;)」「(°°;)」「(°°;)」
シスターズはようやく「ぷろてくとモード」を解除し、アンの元へと浮遊する。
彼女の前方。
先ほどまで豊かな緑が広がっていた一帯は、地滑りごと焼き飛ばされ、草1本すら残っていない。
その圧巻の光景を、アンとシスターズはぽかんと眺めていた。
「――――――アン、大丈夫!? 返事をして!!」
「あ、は、はいっ! 元気です!!」
「そう……よかった…………」
カイはよろよろと椅子へへたり込み、ようやく握りしめていたマイクを放した。
相当強い力で握っていたため、マイクは若干カイの手の形に歪んでしまっている。
「何があったか説明願いますッス!」
「え、えーと、なんかドラゴンさんが、とてつもない炎ブレスで地面を吹き飛ばしちゃいました!」
「ド、ドラゴンさんー???」
アンが上空を確認するも、ドラゴンさんらしき生物はどこにもいない。
ミラは必死に過去ログを遡る。
すると、アン視点の録画映像に、炎の主である空飛ぶ竜の姿がわずかに映り込んでいた。
だが灼熱と衝撃波で画面には酷いノイズが走っており、ミラとVABO製スパコンをもってしても、その全貌の解析はほぼ不可能であった。
「今のが転生者だったのですか……?」
「うーん、なんとも言えないッスねぇ~」
確かにあの大火力は、かの神域におけるゲヘナの炎地獄を彷彿とさせるものだった。
シスターズがいなければ、地滑り以前にアンはFREYA諸共消し炭になっていただろう。
余波とはいえ、それを防ぎ切ったシスターズの防御力もさることながら、あの炎はもはや神話の力そのもの。
転生者の力と言われても、何ら不思議ではない。
「だが、この世界はどうやら人のスケールでは測れないようだ。あまり早合点はよろしくない」
「スライムって言ってたわよね……なんなの、この異世界?」
本任務の転生者の種族は、竜骸粘体。
おそらく竜に関係する種族ではあるのだろう。
だが、スライムはスライムなのだ。
スライムといえば“最弱”というイメージが強い。
そのため彼らからすれば、先ほどの劫火とスライムが、どうにも頭の中で結びつかない。
「とりあえず、すぐにこの生物から退避すべきだろう。またいつアレが起きるとも限らない」
「そ、そうね! アン、聞こえてた?!」
「は、はい! 聞こえてますー! でも――」
アンは、シスターズたちに降りかかった煤を拭いてあげていた。
相当無理をしたためか、シスターズは「(;´Д`)」という顔をしながら、排気口から機体内の熱を全力で噴き出している。
本来、最大出力照射後の冷却中に再稼働することは推奨されていない。
先ほどの防御は、安全制御を無視した緊急動作だったのだ。
カイの指示を受け、アンはすぐに移動を開始しようとする。
だが、1つ大きな問題があった。
「――ど、どっちに向かえば……」
「…………」
「…………」
「…………」
カイもミラもユリスも、その場の全員が押し黙ってしまう。
確かに、どちらへ進めばいいのだろうか。
その根本的な問題はまだ解決していなかった。
当初は何らかの接触を求めて、上空へシスターズのレーザーを放った。
だが、その結果がこの有様だ。
いつ何が起きてもおかしくない。
もしかすれば、次はあの炎の標的がアンになる可能性だってある。それだけは絶対に避けねばならない。
故に、あのような派手な行動は今回限りだ。
「この世界は巨大動物たちの楽園……そういうコンセプトなのか。凄まじいスケールだ」
「あぁ、『モ〇ハン』みたいな世界線ッスよね……もうあんな派手なことはできないッス」
「いや、できないッスよじゃなくて! このままだとアン、ずっと巨大生物の背中にいる羽目になるのよ!?」
そうは言われても、とミラとユリスは困ってしまう。
アンにはドゥーのような、圧倒的な機動力はない。
そのためここからすぐに退避とはいかないのだ。
それに、この巨大生物――少なくともそう推測される何か――があまりにも巨大なせいで、どこが頭でどこが尻尾なのかすら把握できない。
「とりあえず、あの地滑りが発生した方向は避けるべきッス」
「同意する。ひとまずは反対方向――来た道を引き返すのが安全だろう」
いつの間にか、ミラとユリスは意気投合して議論を交わしていた。
犬猿の仲――ミラの一方的な認識だが――だったことも忘れ、アンが次に取るべき行動を吟味する。
その様子にカイはキョトンとするが、すぐに1人寂しく指示を待つアンへ声をかけた。
「アン、大丈夫よ。とりあえず来た道を引き返してちょうだい。そのあとのことはこっちで考えておくから」
「はい! 了解です!!」
アンはシスターズを休眠モードに切り替え、背中へ収納する。
そのまま来た道を引き返し始めた。
「はぁ……これ、ドゥーたちは大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫ッスよ。どちらかというと心配なのは第四ッス」
「こ、こちらも心配ありませんよ、ミラオペレーター。彼らは私たちが鍛え上げた精鋭部隊ですので……」
ノルハイコは眼鏡を拭きながら、深呼吸をしていた。
彼女も彼女で、アンが心配で仕方なかったのだろう。
それほどアンは、何かとこの6.4合同執行部隊では可愛がられている。
裏を返せば、この状況でもはぐれた他の執行官たちへの信頼があるとも取れる。
「先ほどは取り乱してしまい……大変申し訳ございませんでした」
「いやいや! 全然ノル先輩が謝るようなことじゃないッス!!」
「そうよノルちゃん。それにアンのこと、気にかけてくれてありがとう。こちらとしても頼もしい限りだわ」
「はい……」
「隊長。ひとまず先の転送事故の原因を突き止めましょう。そうすれば、いざとなった時に隊長をアンさんの支援へ出動させることも可能になるかと」
全員が頷いた。
ひとまず方針は定まった。
第四のサイモンとノルハイコは引き続き転送事故の原因究明を。
ミラはアンが進むべき方向を探ることに専念する。
「よいしょっと。こーして、あーして」
「何をしているのだ、ミラ準上級オペレーター」
「ん? (……やばい、意識したらまたイライラしてきたッスねぇ~)」
今さらながらユリスと平然と会話していた自分に気づき、再びイライラが募る。
当のユリスは、ミラが行った何かしらの操作が気になっただけだった。
もはや彼女だけ階級を付けて呼ぶのは、癖になってしまったらしい。
「へ! 教えねーですよーだ、クソ眼鏡!!」
「おやおや」
「だいたいなんでここにいるんッスか。いつもだったら部屋でぐーすかぴーすか寝て――」
「いいから説明なさい」
「理不尽(´;ω;`)!!」
カイに一喝され、ミラは半べそで説明を始める。
「生体探知の検出閾値を下げたんスよ……。今のままだと、この巨大生物の信号が強すぎて、細かい反応が全部埋もれてるので……」
「なるほど」
まだ仮定の話ではあるが、この世界は生命体のスケールそのものがかなり大きい可能性がある。
そこでミラは、まず巨大生物と思しき強大な信号を背景値として切り分け、そのうえで生体探知の検出閾値を大きく下げた。
これまではノイズとして弾いていた、小鳥のような微弱な反応まで拾うためだ。
ただし、当然ながら虫やその他の細かな生命体まで大量に拾ってしまう。
そのぶんミラとスパコンにかかる処理負荷は増大するというデメリットもある。
「なるほど、さすがね。あとユリス。あなたミラいじりもいい加減にしないと、部屋の本全部撤去するわよ」
「それは勘弁してほしいので善処する。もはや癖になってしまっているようだ。ミラオペレーターの反応が面白いのでついつい」
「フン!!」
ミラはぷんすかと悪態をつく。
そんな彼女の頭をカイが撫でる。
ユリスは悪びれもなく平然としているが、彼の名誉のために言っておこう。
決して悪意があるわけではない。
ただ、人が嫌がるラインを察する能力が致命的に欠けているだけだ。
要はド天然なのである。
そんな他愛のない会話が続く中、モニターに1つの比較的小さな信号が確認された。
それはアンのちょうど前方。
目と鼻の先であった。
「アンちゃん、止まってくださいッス」
「は、はい! 何か見つかりましたか?」
「ハイ。ただめっちゃくちゃ微弱な反応なので、そこまで警戒しなくてもいいとは思うッスけど」
とはいえ、警戒するに越したことはない。
念のためシスターズは休眠モードを解除し、みまもりモード――つまり「せんめつモード」と「ぷろてくとモード」の中間形態へ移行し、アンの前方に出る。
「こ、こんにちはー? 誰かいるのですかー?」
「( `-´ )」「( `-´ )」「( `-´ )」
シスターズは主を守らんと、絶えずアンの前方へ張り付く。
すると、草木の物陰から何かがぴょんと飛び出した。
「キャッ!」
「アン!?」
「アンちゃん、大丈夫ッスか!!」
アンは突然現れたそれに、驚声とともにぴょんと跳ねる。
「だ、大丈夫です……びっくりしちゃっただけです、えへへ」
「はぁ…………よかったわ……」
「(◣д◢)」「(◣д◢)」「(◣д◢)」
一同は安心するが、シスターズは逆に警戒を強める。
ふわふわと、現れた何かとアンの間へ割り込むように浮遊した。
そして、その姿を見たアンは一言だけ放つ。
「わぁ! かわいい~♡」
「え? どういう――」
アンがその者の姿を確認したことで、作戦室の一同も同時にその姿を目視した。
それは、赤みを帯びた粘体。
薄紅色のまんまるなゼリー状の体を持った生物だった。
半透明の体内には、核らしき色の濃い丸いものがうっすらと見えている。
そして何より、頭頂部にはちょこんと角が2本。
なんというか、ぷるんぷるんしていて、とても可愛らしい。
検出閾値を大きく下げたことで、ようやく確認できた謎の粘体生物。
その反応からして、すさまじく“弱い”。
「こん……にちは?」
「こんにちは! きかいのおねーさん!!」
「「「ッッ!?!?!?」」」
予想外にも挨拶を返され、アンは俊敏な動きで後ずさる。
シスターズは逆にすっかり警戒を解いており、「( ˙ω˙ )」という表情で謎の粘体生物を観察していた。
「この子、言葉を……」
「今アイツ喋ったッスよねぇ!? ねぇ?!」
「この世界にも知的生命体がいたのか……それも人ではなく。いやはや、これは非常に興味深い」
ミラとユリスは興奮しきっており、子供のようにはしゃいでいた。
だがそんな中、カイはとあることを思い出す。
「ねぇ二人とも、たしか今回の転生者って……」
「え? あぁ、スライムのことッスか? それがどう……………………あっ」
ミラも思い出したように、キーボードを高速で叩き始める。
「あああ、アンちゃん!」
「はい!」
「シ、シスターズの1人、えー『EYE』だけ探索モードにできますか?!」
「はい! EYEちゃん、探索モードお願い!」
「(╹◡╹)b」
シスターズのうち1体、EYEだけが探索モードへと移行する。
こうすることで、狭い範囲に限って高解像度の探知が可能となり、ミラの解析精度も大幅に向上する。
謎の粘体生物の反応があまりにも虚弱なので、こうでもしないと詳細な解析ができないのだ。
「( ᯣωᯣ )」
「?」
EYEは粘体生物に近づき、じーっと観察する。
粘体生物も興味津々で見つめ返し、体をぷるるんと左右に動かしている。
「や、ヤバいッス……」
「どうしたの、ミラ?! 何が分かったの!?」
ミラの声も手も酷く震えている。
カイはそんな彼女の肩を掴み、情報を聞き出そうとする。
「早く言いなさい!! アンは待機!! シスターズに警戒させて!!」
「は、はい~!」
「で、なんなの!?」
「こ、この粘体生物――いや、スライム………………転生者です」
「…………は?」
その場の全員が凍り付く。
奥の方で遊んでいたインヨウ兄妹までもが固まっていた。
「え? ミラ先輩? 今、転生者って――」
「安心してね!!」
そのスライムはふるるんと体を動かし、アンへズリズリと近づいてくる。
アンは状況が掴めず、警戒するどころか、そのスライムの前に膝を折ってしまった。
「アン!! 何をして――」
「あなたは誰?」
カイの制止を振り切り、アンはその者に問う。
すると誰もが予想した、どこかで聞いた覚えのある台詞が返ってきた。
「ぼくは『ゥルル』! わるいスライムじゃないよ!!」
【今回の用語まとめ】
■みまもりモード
トリリウムシスターズの「せんめつモード」と「ぷろてくとモード」の中間にあたる警戒形態。
アンの前方を護衛しながら周囲を警戒し、緊急時には即座に対応できる。
■ゥルル
今回、アンが初めて直接遭遇した本案件の転生者。
薄紅色のまん丸な粘体生物で、頭部には小さな2本の角を持つ。解析上の反応は驚くほど弱く、自らを「わるいスライムじゃないよ」と名乗った。
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※AIの利用について:
・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




