CASE.063「出動」
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「全員、準備はいいかしら?」
時刻は、イシス神の訃報が発表されてから約2時間後。
一同は一時解散した後、すぐに特六の作戦室に集結していた。
カイはピシッと制服を纏い、特殊第六執行部隊と第四執行部隊、そしてルールーを含めた大所帯を取り仕切る。
「第四執行部隊、問題ありません」
第四執行部隊は、4名の執行官がフル装備で出発準備を完了させていた。
ニガール、そして第四所属の下級執行官3名。
それぞれが一律の装備に身を包み、FREYAも特六や第五執行部隊ほど奇抜な個性はない。
まさにRACを体現する、オーソドックスな部隊だ。
一方、モニター室にはオペレーターのサイモン、そしてノルハイコが待機していた。
「ん? ノルハイコさんは出立しないのか?」
「あぁ。隊長は任務初期、オペレーターを担当するんだ」
ドゥーの疑問にニガールが答えてくれたが、それでもまだ腑に落ちない。
今回の任務は大規模。
重要度、危険度ともに従来とは格が違う。
カイが第四へ合同任務を打診したのも、ノルハイコの実力を加味してのことだと考えていたのだが――。
と、そこへミラの横槍が入る。
「先輩バカッスねぇ。お忘れですか? ノル先輩は執行官兼オペレーターッスよ」
「…………じゃあ今回はオペレーターとして従事するということか?」
「ちっちっちー」
ミラは指を振りながら、「そうではない」とでも言いたげな顔をする。相変わらず仕草一つ一つが腹が立つ後輩だ。
任務はまだ始まってすらいないのに、早くもドゥーの苛立ちが募り始めた。
「ノル先輩は最初、必ずオペレーターとして活動するんスよぉ~。そして満を持して執行官として登場する! まさに切り札的存在なんスよ」
「出し惜しみということか? そんな余裕はないと思うが――」
「安心してくれ、ドゥー執行官」
そこへニガールが助け舟を出す。
「我々には我々の戦い方がある。お前の役目はターゲットとの肉弾戦。我々はそこへ至るまでの活路を開く。それだけだ」
「…………適材適所ということですか」
「その通りだ」
「了解」
納得したところで、ドゥーはふとアンへ目を向ける。
今回一番の懸念点である新人執行官。
正直、任務云々の前に、ドゥーは初めての新人教育だけでも手一杯だった。
当然、一番気掛かりなのはアンである。
その彼女はというと――案の定、ぷるぷると震えながら、ずっとドゥーのローブの端を握っていた。
「大丈夫か、アン」
「え、あ、はははははい! 大丈夫……でつ!!!」
(これはいかん)
明らかに怖気づいている。
新人の下級執行官である彼女にとって、これが初陣。
しかもタイミングが悪すぎるのだ。
最上位存在の中でも、主神級に名を連ねるイシス神の訃報。
これだけで、この任務がただ事ではないことなど嫌でも分かる。
それに隊全体を包む静かな張り詰めた空気まで加わり、アンにも恐怖が伝染してしまったのだろう。物凄い怯えようだ。
「カイさん……やはり今回、アンには荷が重すぎるのでは……」
「そうは言うけどね、ドゥー。彼女の力は今回の任務に必要なのよ」
「力……まさか恩寵絡みですか? 下級執行官は原則恩寵の保有は認められて——」
「そのまさかよ。そんでもって彼女の参加は上から強く推奨されてるの。というか、ほぼ強制ね」
どこをどう嗅いでも臭い。
「ちなみに詳細は……」
「説明してる時間はないわ。というか、じきに分かるわよ」
どう考えても裏があるようにしか聞こえない任務だ。
だが今ここで食い下がっている時間もない。
ドゥーは仕方なく同意すると、再びアンへ向き直った。
「アン、安心しろ」
「ドゥー先輩……」
「戦闘はすべて俺たちがやる。第四執行部隊もいるんだ。現状考えられる最強の布陣だろう」
アンは涙目でじっと、赤いモノアイを見上げる。
「お前はとりあえず、執行任務がどういうものなのかを後ろで見ていればいい。危険なことは一切しなくていい。今回はただの見学会だ。分かったな?」
「…………! はい!」
ほんの少し、アンの表情が和らいだ。
それを見て、ドゥーも安堵する。
カイらはそんな彼へ「やるじゃん」とでも言いたげな笑みを浮かべていた。
「準備はいいか?」
「はい! アン執行官、準備万端です!」
「了解。特殊第六執行部隊、問題ない」
アンを最後に、いよいよ執行官全員から出立準備完了の合図が返る。
カイが一歩前へ進むと、普段の彼女からあまり想像できない、腹の底から出したような軍的な声音が響いた。
「総員、傾聴!!」
一糸乱れぬ足音が響き、全員がカイへ向き直る。若干1名だけ、少し遅れていたが。
「本任務は、我々特殊第六執行部隊、そして第四執行部隊による合同任務ッ! 本ターゲットは、主神級をも殺めるほどの実力者と想定される! 各員、最大限留意せよ!!」
「「「了解!!」」」
「最優先事項はターゲットの執行。手段は問いません。……皆さまの無事を、お祈りします」
カイはオペレーター室へ振り返った。
そこには椅子の背もたれからこちらを覗くミラ。
そして第四執行部隊のノルハイコとサイモンが、それぞれモニターの前で待機していた。
「オペレーターのみなさん、準備はいいかしら」
「いつでも大丈夫ッスよぉ~」
「ノルハイコ、サイモン共にいつでも行けます」
「では結構」
カイは一度、全員を見渡す。
「これより特殊第六執行部隊、第四執行部隊は一時的な合同編成へ移行。名称を――『6.4合同執行部隊』とします! 総員——
――出撃!!」
特殊第六執行部隊と第四執行部隊。
改め――『6.4合同執行部隊』。
号令と同時に、それぞれの担当が迅速に持ち場へ散っていく。
ドゥーを筆頭とした執行官たちは転移ポータルへ。
オペレーターはモニター室で接続作業を開始。
そのほかの人員(所謂暇人たち)は、作戦モニター前へ移動した。
「行くぞ、アン」
「はい! よろしくお願いいたします!!」
―――――――――――――――
場所は、『α-980-ノード89』。
深い森の中。
小川が静かにせせらぎ、木々の葉が風に揺れる。
獣たちの鳴き声だけが遠くから聞こえる、穏やかな場所だ。
その茂みの奥から、1人の――いや、1匹の、淡紅色をした丸い物体が姿を現す。
「んむ?」
ぷるん、と見るからに柔らかそうな真ん丸の身体を揺らしながら辺りを見回す。
やがて何かを感じたのか、キョロキョロと空を見上げた。
【あら。どうしましたか?】
「何か、お空から来たみたい……」
何らかの違和感を察知したのだろう。
ぷるんぷるんの身体が、不安げに左右へ揺れる。
【あぁ……やっと来ましたか……】
「……?」
【大丈夫よ、『ゥルル』……全部このママに任せなさい。全部大丈夫ですから……】
その言葉とともに、丸い液体状の身体がゆっくりと変形していく。
まん丸の輪郭は徐々に崩れ、人型のシルエットへ。
やがてそれは、豊満な女性を思わせるシルエットを形作った。
細い腕が空へと伸びる。
その口から漏れた声には、先ほどまでの慈愛など欠片もない。
憎しみ。
怨嗟。
そして、底の見えない敵意。
【転生監査機関……RAC】
手に力を込め、まるで空に照らされる星々を握り潰すように指を曲げる。
【私の坊やは、誰にも渡さない】
静かな森に、低い声だけが響いた。
【それがたとえ――
――神々を敵に回すとしても】
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――報告。
地球時間211210ZOCT31
特殊第六執行部隊、及び第四執行部隊の『α-980-ノード89』への出動を確認。
また両隊による合同部隊の名称を、『6.4合同執行部隊』とする。
最優先事項は転生者――個体名『ゥルル』の排除である。
手段は問わない。
繰り返す。
手段は問わない。
以上。
【今回の用語まとめ】
■6.4《ろくてんよん》合同執行部隊
特殊第六執行部隊と第四執行部隊によって、一時的に編成された合同部隊。
高難度世界「α-980-ノード89」で発生した神殺し案件への対処を目的とする。
■第四執行部隊の戦術
任務初期はノルハイコがオペレーターを務め、ニガールら執行官が現地活動を担当する。
状況に応じてノルハイコ自身も執行官として前線へ投入される、第四独自の運用方式。
■α-980-ノード89
今回の任務先となる高難度異世界。
攻略難度は最高位「Ζ」に次ぐ「α」。現時点では深い森など、穏やかな自然環境が確認されている。
■ゥルル
本案件の執行対象となる転生者。前名『日野 悠離』。
淡紅色の丸い粘体のような姿をしており、RAC側からは仮称竜骸粘体として登録されている。
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