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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第二章「輪廻庁」2-1「ゥルル編」
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64/123

CASE.062「ブリーフィングその3」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。

設定資料をご覧になりたい方はぜひnoteに訪れてみて下さい!!

https://note.com/ponym/m/mc8c9ad24eef6

「合(・)同(・)任(・)務(・)……ですか?」

「そうよ」


 カイの言葉を受け、ドゥーとアンだけが頭を傾げていた。


「2人にはまだ言ってなかったわね。今回の新案件、前までとは比較にならないくらい攻略難度が跳ね上がるの」

「跳ね上がる……とは?」

「そこは、わ、私から説明させてください……」


 カイに代わり、ノルハイコが説明を引き継ぐ。


「本案件の異世界座標は“α”。あなた方特殊第六執行部隊がこれまで担当してきた、どの世界よりも……こ、高難度なのです」

「“α”って言ったら…まさか——」

「そうよ、ドゥー。“α”は最高位の“Ζ”に次ぐ攻略難度。本来なら、準特級以上の執行官が中心となって担当するような世界なんだけど……それが私たちに振られたってわけ」


(あぁ、さっそく上からの嫌がらせとやらか)


 ドゥーは一瞬で察した。


 各部隊へ割り振られる案件は、基本的に所属する執行官の位や戦力を考慮して決定されるはずだ。

 特級執行官ともなれば、それこそ“Ζ”に属する世界へ赴くことも可能。

 逆に、たとえカイが特級官であっても、主戦力たるドゥーが上級である以上、そこまで高難度の世界を任されることは稀だ。


 だが今回、上は先の案件で散々特殊第六に振り回された。

 挙げ句の果てには、中枢の腐った部分まで公に露呈する羽目になったのだ。


 これはおそらくその報復の1つ。

 分不相応な案件を押し付け、一度痛い目を見せようという魂胆なのだろう。


「そこでカイ上級監査官は、我々第四執行部隊へ協力を打診。それを我々が受託いたしました」

「あーしら第五もね」

「ということは、まさか3隊での執行任務になるんですか?」


 「いや」と、カイが片手を上げた。


「あくまで現地の執行に協力してもらうのは、第四の皆さんだけ。第五からは技術官のルールーだけ引き抜いたわ」

「ふっふーん♪」

「俺ぁいらねぇッって言ったぞぉ」


 ドヤ顔を決めるルールーとは対照的に、ヘパーは腕を組んで悪態をつく。


「あなた、女性執行官用のFREYAを調整した経験なんてあるの??」

「あるわ!! 第三部隊の…………えー誰だっけな、そうアイツ!! あのでっけえ女執行官のは調整したぞ!!」

「あの人は女というか、ほぼ男みたいなもんッスよ……」

「うるせえ!! 奴も立派な女だ! 全然抱けるぞ俺ぁ――」


 話が妙な方向へ逸れかけたところで、カイが「ハイハイ」と手を叩いて軌道修正する。


「だから女性執行官の装備経験が豊富なルールー上級技術官を呼んだの。彼女と共同で、アンのFREYAを作ってちょうだい」

「へーへー」

 

「ドゥーのでいいじゃん~」

「いいじゃん! いいじゃん!」

「ドゥーのは………………ちょっと独特すぎて却下ね」


(蒸し返すな、クソガキ)


 だからルールーが呼ばれていたのかと、ドゥーは納得する。


 第五執行部隊は女性執行官が多い。というか第五はアシュレイが女性官を積極的に採用しているので彼以外は全て女性だ。

 その装備調整を一括して担当するルールーの技術を借りるというわけだ。


 必要とあらば他部隊からでも即座に人員を引っ張ってくる。

 この手の人脈と人員確保の速さは、人望のあるカイだからこそできる芸当なのだろう。

 つくづく、彼女が特六の監査官であることに感謝すべきだ。


「で、今回のターゲットはどんな奴ッスか?」

「これよ」


 毎度のごとく、カイが作戦テーブル中央のホログラムを起動させた。


 ◇


 異世界目録:『僕、悪い子じゃないよ!』

 異世界座標:α-980-ノード89

 名前   :ゥルル

 性別   :男

 種族   :仮称竜骸粘体(ドラウゲン・スライム)

 年齢   :不明

 身体的特徴:不明

 性格   :不明

 地位   :不明

 人間関係 :不明

 能力   :『もう痛くないよ!!(ロンリースライム)』

 罪状   :第一級弑逆罪


 その他詳細不明。

 以上。


 ◇


「待て待て待て待て」

「ちょちょちょちょ……」


 これまでの情報録と比べても、あまりに異質だった。


 情報がてんで少ない。


 年齢、身体的特徴、性格、地位、人間関係。

 ターゲットを特定するために必要な項目が、軒並み空白で埋め尽くされている。


 その衝撃的な情報録に、ドゥーとミラが盛大にダブルツッコミを入れた。


「コレ今までで一番酷いですって(露骨すぎだろ嫌がらせ)」

「情報ほとんどないじゃないッスか!!」

「そう言われましてもねぇ~」


 カイはノルハイコへ目配せする。


「あ、はい! こちらでも情報収集を試みたのですが……本当に不明なのです」

「上がわざと隠していたりとは……」

「それはないよ、ドゥー執行官。嫌がらせだけならまだしも、今回は“α”の世界だ。任務遂行そのものを阻害するような情報隠蔽は、彼ら最上位存在(神々)の行動原理にも反するはずだ」


 こういう時、考察に役立つのがユリスだ。


 彼の頭にはこれまでの記録のほとんどが叩き込まれている。

 蓄積された事例を逆算し、人力でミラに近い分析ができるのだ。


「情報がないということは、おそらく案件が発生してからまだ間もない。それに……どうやら相当切羽詰まっているようだ」

「切羽ぁ?」


 ユリスは、すっと画面の最下部を指さした。


 全員の視線が、罪状の項目へ集まる。


「だいいちしいぎゃくざい……って読むますか?」

「惜しいね、アン執行官。この罪状には、別の呼び名があるのだよ」

「んえ? なんか特別な意味とかある感じッスか?」

「ほう。今日は随分と察しがいいな、ミラ“準”上級オペレーター」


 もはやミラの役職いじりがお家芸となりつつあるユリス。


 直後、ミラの膝が彼の尻へ勢いよく突き刺さった。

 反動で眼鏡が宙を舞い、どこかへ飛んでいく。


「眼鏡、眼鏡……」

「あ、あの……どうぞ」

「ありがとうございます、おそらくノルハイコ隊長」


 ユリスはノルハイコから眼鏡を受け取り、一拭きしてから掛け直した。

 視界を取り戻したところで、改めて解説を始める。


「第一級弑逆罪。これは別名――神殺罪(デサイド)と呼ばれている。意味はその名の通り、“神殺し”だよ」

「神殺しって……」


 ミラは真剣な面持ちで情報録を操作する。


 さすがのドゥーやミラも、その言葉の重さは理解している。

 一方、アンだけが「?」という顔をしていたので、カイが優しく補足した。


「最上位存在(神々)の方々は、この基底界(インタースペース)を統治する頂点よ。その方々を殺めるとなると……それはそれは大変なことなの」

「ほわぁ、そうなのですね……」

「さらに事の重大さを示しているのが“一級”という括りだ。もしかすると、主神クラスが関わっている可能性さえある」


 作戦室が、一瞬で静寂に包まれた。


 合同任務なら今回は多少余裕があるだろう。

 そう安堵していたドゥーだったが、“主神級を殺した”となれば話は完全に変わってくる。


 そもそも、ここは攻略難度“α”の世界。

 その上、神殺しを成した転生者の個(・)体(・)脅(・)威(・)がどこまで跳ね上がっているのか、現時点では見当すらつかない。


 その共通認識が、作戦室にいる全員の表情を一気に引き締めた。


「これ、第一執行部隊案件では?」

「私もそう思うわ。だけど上のお達しでは我々特六が適任らしいのよね……」

「もしかして、先輩の『アバドン』関係ッスかね」


 その言葉で、ドゥーは大事なことを思い出した。


「あの、今回って俺の恩寵(ギフト)の使用許可、もらってますか?」

「あ、聞くの忘れた!」

「………………」


 そこへ、ノルハイコが助け舟を出す。


「か、確認は当然必要です。ただ……現時点で明確な使用禁止の注記がないということは、少なくとも完全封印を前提とした案件ではないのかもしれません」

「なるほど……」

「も、もしかすると、ドゥーさんの『アバドン・システム』を使(・)う(・)前(・)提(・)で特六に振られた可能性も、捨てきれないかと……」


 カイとドゥーは、揃って小さく頷いた。


 確かにそれならば、特六へこの異様な案件が回ってきた理由にも合点がいく。

 第四との合同任務まで許可されたことを考えれば、上層部にとってもかなりのイレギュラーなのだろう。


「まあでも。さすがに情報が少なすぎるわね……」

「は、はい。せめて殺害された最上位存在(神々)のお名前だけでも分かればよいのですが……」


 そこで、ミラのアホ毛がピンと立った。

 それを察知したカイが、即座にミラの頭頂部を鷲掴みにする。


「あーら。何企んでるのかしら、このオペレーターちゃんは?」

「え? いえ、別に。特に本部へまたハッキング仕掛けて情報を抜き取ろうなんて、1ミリも考えてないッス」


(全部言ってんじゃねえか)


 ミラはカイから、ぐりぐりと拳を押し付けられる形でお叱りを受ける。


「では、しばらく待機か……」

「ん、いや。どうやらその必要はなくなったようだぞ、ドゥー執行官」

「?」


 ユリスは携帯を開き、音量を上げて作戦テーブルの上へ置いた。


 輪廻庁《サンサーラ・エージェンシー》の内部速報。

 画面では女性キャスターが、切迫した様子で原稿を読み上げている。


 普段流れている呑気な広報とは、明らかに空気が違う様子。


「う”~なんスかこれぇ~」

「し、聞こえない」

「中枢機関からの緊急速報じゃねえか。尋常じゃねえぞ、これ」


 全員が、食い入るように小さな画面へ顔を寄せる。


 インヨウ兄妹は身長的に何も見えないので、ヘパーの両肩へよじ登った。

 アンも人垣の隙間から必死に顔を覗かせ、どうにか音だけを拾っている。


「基底界(インタースペース)の皆さま、緊急速報です。本日未明、最上位存在(神々)が一柱の消滅が確認されました」

 

「消滅!?」

「おいおい、マジかよ」

「本当に今さっきの出来事なんスね、この案件」


「誰なんだ、その死んだ神」


 ドゥーも身を乗り出し、画面を覗き込む。


 ニュースキャスターの背後。

 大型モニターいっぱいに、その被害者の名が映し出された。


 その文字を認識した瞬間――アンとインヨウ兄妹を除く全員が、言葉を失った。



 

 慈母神『イシス神』。

 その名は、かのオーディン神らと同じ――「主神級」に名を連ねる、一柱である。



 


 ————————————————————————————————



 


 ――報告。

 地球時間191210ZOCT31


 輪廻庁は最上位存在(神々)が一柱――慈母神『イシス神』の消滅を正式に発表。

 中枢機関は、「α-980-ノード89」に生息する転生者による仕業と断定。


 RACにレッドアラート「神殺し」を発令。

 速やかに転生者を執行されたし。


 特殊第六執行部隊、及び第四執行部隊に伝達。

 本案件は、特例により合同任務を許可。仮称——『6.4合同執行部隊』として任務に従事せよ。


 また、ドゥー上級執行官は『アバドン・システム』の50%までの解放を、計180秒間許可するものとする。


 最優先目的は依然として転生者の執行。

 魂の回収、及び記録は不要とする。


 確実に転生者『ゥルル』――前名『日野 悠離(ヒノ ユウリ)』を執行、殲滅せよ。


 

 失敗は許されない。


 以上。


【今回の用語まとめ】


■ゥルル

今回の執行対象となる転生者。前名は『日野 悠離(ヒノ ユウリ)』。

異世界「α-980-ノード89」に生息し、種族は仮称竜骸粘体(ドラウゲン・スライム)。年齢・容姿・性格・地位など、そのほとんどが現時点では不明。


■異世界座標「α」

最高位「Ζ」に次ぐ、高難度の異世界区分。

本来は準特級以上の執行官を中心に攻略する領域であり、特殊第六にとってはこれまで経験した世界を大きく上回る危険度となる。


■第一級弑逆罪/神殺罪(デサイド)

最上位存在《神々》を殺害した者に適用される重大罪。

今回のゥルルにはさらに“一級”が付されており、主神級の神を殺害した可能性が示唆されていた。


■慈母神『イシス神』

今回、消滅が確認された最上位存在の一柱。

オーディン神らと同じ「主神級」に名を連ねる存在であり、中枢機関はその消滅をゥルルによるものと断定した。


■レッドアラート「神殺し」

イシス神消滅を受け、RACへ発令された緊急警報。

通常案件とは異なり、神を殺害した転生者の迅速な執行・殲滅が求められる。

以前ドゥーが規定出力を超過した際にも発令されたことから、一定以上のイレギュラーな危険度を孕む転生者へ発令されるのかもしれない。


■6.4合同執行部隊

今回の特例措置によって編成された、特殊第六執行部隊と第四執行部隊による合同部隊の仮称。

高難度世界「α」と神殺し案件への対応を目的としている。第五執行部隊からは、ルールー上級技術官が技術支援として参加する。



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ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



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・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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