CASE.061「玉石混淆」
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「ただいま戻りまし…………た」
ドゥーはアンを連れ、とうとう特殊第六執行部隊の作戦室へ帰還した。
先輩として、上官としてアンを紹介しようとしたのだが——目の前の光景に絶句してしまう。
「絶対デザインこっちだしィー! ヘパっちのデザイン古臭すぎ! 可愛くない!!」
「FREYAに可愛さなんていらねえんだ!! 防御・迷彩・威圧感!! あとヘパっちってなんだッ、いちいち馴れ馴れしいぞクソガキャ!!」
「ホントムカつく、このクソ眼鏡ぇーッ!! 今度こそブチ折るッス!!」
「落ち着きたまえ、ミラ“準”上級オペレーター。準とはいえ、君は上級であることに変わりはないだろう」
「それがむかつくんじゃッ!!」
阿鼻叫喚とは、まさにこのことだった。
ヘパーは第五執行部隊のルールーと激しく口論しており、ミラはユリスと取っ組み合いの喧嘩をしている。
奥では昨日の第四執行部隊の面々がオペレーター卓を囲み、何やらブツブツと会議中。
そしてカイは、白目を剥いて黄昏れていた。
「あ、あの……カイさん。ただいま帰還しました」
「あぁ……お帰り、ドゥー。それにアンも。どうだった? 輪廻庁の見学は」
「楽しかったです!」
「そう、それは何よりね。あとごめんなさいねぇ、こんなことになってて……。もう私のキャパオーバーで、どこから抑えればいいんだか」
特殊第六執行部隊に加え、昨日の飲み会に集まった他部隊の癖の強い面々まで一堂に会した結果、さすがのカイも手に余っているらしい。
目の前では2組がギャーギャーと口論し、第四の3人は我関せずと何やら話し込んでいる。
ツッコミ役が実質カイしかいないとはいえ、さすがにこれは酷い。
そこへ、ミラがドゥーの方へ飛んできた。
「ちょ、先輩聞いてくださいッス!」
「おう」
「このノンデリ眼鏡、アタシを呼ぶ時だけ“準”を強調するんスよ!? “ミラ『準』上級オペレーター”って!! 酷くないッスか!?」
「たしかにそれは酷いな(笑)」
「あーッ今笑った!! この裏切り――」
そこで、ミラとアンの目が合ってしまう。
アンがひょっこりとドゥーの後ろから顔を覗かせたのだ。
背丈がほとんど同じということもあり、2人はしばし無言で見つめ合った。
「せ、先輩……まさかこの子」
「あぁ。新人のアン執行官だ。お前からも挨拶してやってくれ」
アンはニコニコと、ミラの挨拶を待っている。
だがミラは、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。
「ア、アタシの先輩風が……」
(あーあ)
早々にユリスへ半泣きにされた姿を目撃され、挙げ句の果てにはドゥーへ泣きつく醜態まで晒した。
この瞬間、ミラの中にあった「クールビューティなエリート先輩オペレーター計画」は、跡形もなく崩壊した。
アンからしてみれば、なぜこのアホ毛は泣いて叫んだ末に突然崩れ落ちたのか、さっぱり分からないだろう。
だがドゥーにはすべて分かってしまったので憐れみの視線を送るほかない。
「で、ヘパーさんとルールーは何を喧嘩してるんです?」
「あー、それはね。アンのFREYAの件よ」
2人は何やら企画書らしき紙束を、互いの顔へ押し付け合っている。
ルールーのあの小さな図体でヘパーへ真っ向から食ってかかれるのは、よほどの胆力があってのことだろう。
普通の基底界人には到底できまい。
「FREYA……あぁ、なるほど。ていうかカイさん。アンが執行官の件、知ってましたよね?」
「そうだけど?」
「本当に大丈夫なんですか? その……正直、アンは執行官向きには見えないというか……」
「うだうだ言っててもしょうがないでしょ。一応、上から正式に認可されてるんだもの。上司としてしっかり指導なさい」
アンの方を見ると、彼女は項垂れるミラの頭をよしよしと撫でている。
見れば見るほど、執行官のような実働タイプには見えない。
どちらかといえば、カイのような補佐役。あるいは、チームの精神的支柱となる世話役の方が幾分か納得できる。
(不安だ……)
だが、インヨウ兄妹という見た目にそぐわぬ戦闘力を持つ者もいる。
もしかすれば、とんでもない力を秘めている可能性もあるのだ。
ひとまず、見た目だけで判断するのはやめることにした。
それより今は、この場のしっちゃかめっちゃか具合をどうにかしなければ何も始まらない。
カイは完全に疲れ果てている。
ならばと、ドゥーが代わりにヘパーとルールーの仲裁へ入った。
「2人とも、もうその辺にしておいてく――」
「いいとこに来たなドゥーッ!!」
「超良いタイミングゥーッ!!」
すると2人は、企画書をドゥーの眼前へ突き出した。
表紙にはFREYAらしきスーツのコンセプトアートが描かれている。
だが、そのデザインは両者でまるで違っていた。
ルールーの案は、装甲をほとんどかなぐり捨てたピンクのぴっちりスーツ。
加えて、取って付けたようなスカート。
頭部にはドゥーやインヨウ兄妹のような仮面ではなく、バイザー型の装備が取り付けられている。
(絵うまいな。技術官はどいつもこいつも芸達者なのか)
「見てよ、あーしのデザイン超かわいいでしょ!?」
ルールーが得意げに胸を張る。
「普通のFREYAだとアンっちのかわいさが全部台無しじゃーん? だからこんな感じで、アンっちの魅力を前面に押し出したデザインにしてみた!」
「これ……防御力とか大丈夫なんです?」
「え? 防御力??」
「……え?」
「……女子は攻めてなんぼっしょ☆」
「却下で」
「えー!!」とルールーは喚き散らかす。
そこへ矢継ぎ早にヘパーが割り込んできた。
彼の案は、従来通りの厳かなFREYAらしい見た目だった。
仮面のモノアイはピンクの円形。ヘパーなりに可愛さを表現したつもりなのだろうか。
だが、それにしても装甲が多い。
ドゥーの倍近い厚みがあり、もはやスーツというより戦闘用ロボットの外装である。
それはさておき、この見た目で繊細な絵を描くヘパーの技量に、ドゥーは心底驚いていた。
(なんでそんなずんぐりむっくりな手で、こんなうまいんだ……)
「さすがだドゥー! 俺が認めたか――執行官だ!」
「なんか分厚くないですか?」
「あん? そりゃあおめー、あんな弱っちいのを守るにはこんくらいあって然るべきだろうが。それにほら、ちゃんと可愛らしくピンク色だぞ」
「これ、アンに着こなせるとでも?」
「あん? ………………頑張ればいけるだろう。気合いだ気合い」
「却下で」
「なんでだ!!」と、今度はヘパーまで怒鳴り始める。
なんだか自分が戻ってくる前よりもうるさくなっており、完全に収拾がつかなくなってしまった。
「俺の方が良いに決まってんだろ!! なんだその防御力ゼロのお色気スーツは!? 舐めてんのかテメエ」
「ヘパっちこそ女子のおしゃれ舐めてるし?! そんなごついの女の子が喜ぶわけなくな~い!? あーしの方が全然イケてる!!」
「うるせえ!! あと金輪際“ヘパっち”って呼ぶんじゃねえ!!」
「うるさいうるさい! ヘパっちヘパっちヘパっちヘパっちヘパっちヘパっちヘパっち――」
「「ドゥーはどう思う!?」」
突然、矛先がこちらへ向いた。
もう仲裁などやめて、ひとまず黙らせるのが先決だ。
ドゥーは率直な感想を述べることにした。
「ヘパーさんのは重すぎる。アンが着られるわけないでしょうが。良くていい的、悪くて身動きが取れない足手まとい。本末転倒では?」
「ぐぬぬ」
「ルールーのは防御力があまりにも薄い。執行に可愛さは要らん。おしゃれもな」
「うぬぬ」
目論見通り、2人は押し黙った。
「じゃあ見本見せろや」
「え?」
「そこまで言うなら、ドゥーはアンっちにぴったりのFREYA描けるんだよね?」
「……」
そう言うと、ルールーは1枚の紙とペンを差し出した。
この場で即興で描けというわけだ。
それはあまりにも無茶振りではないだろうか。
「雑でもいいから描いてみろ」
「一般人のアイデアって意外とインスピレーションになるしねぇ~」
「むう……」
とはいえ、ドゥーも絵心はある方だ。
自称だが。
ここでいっちょ妥当なFREYAを描き上げ、2人を黙らせようではないか。
それに、もし採用でもされれば上官として箔が付く。
(フッ……ミラ、悪いが俺は次のステージに先に行く)
数分後。
ドゥーは完成したコンセプトアートを、2人へ自信満々に差し出した。
簡易なイラストではあるが、十分な自信作。
2人もきっと納得するだろう。
「ん? なんだこれ?」
「なにこれ」
「え、アン専用のFREYAですが??」
そこに描かれていたのは――恐ろしく酷い抽象画だった。
アンらしき棒人間ともヘルヘイムの化け物とも似つかない何か。
その周囲に、おそらくFREYAの装甲であろう黒い四角形が無数に浮いている。
仮面はヘパー案を採用。
装甲はルールー案を参考に軽量化した――つもりなのだろう。
だが2人からすれば、謎の生命体の周囲に黒いゴミが浮遊しているようにしか見えない。
まるで子供の落書きである。
「くたばれ」
「〇ね」
「何故だ……」
すると、悪戯の匂いを嗅ぎつけたインヨウ兄妹が、ドゥーのデザイン紙を奪い取った。
「わーい、取ったりー!」
「わーい、ドゥーの絵だ!!」
「おいコラ、くそが――返してください2人とも」
インヨウ兄妹はキャッキャッとはしゃぎ、ドゥーは自信作を奪還しようと追いかける。
だが、さすがに2人はすばしっこい。
立体機動に双子連携まで加わり、まるで追いつけそうにない。
冷蔵庫の上へ着地すると、ドゥーに向かってあっかんべーまでして煽り散らかす。
だがその時。
遅れて、ドゥーのデザインが2人の目に入ってしまう。
恐ろしく綺麗な二度見。
2人は紙をまじまじと見つめると、悪ガキの表情から一転。
何とも言えない憐れみの目で、ドゥーとそのデザインを交互に見つめた。
「「へったくそ……」」
「え……!?」
(ふざけんな、自信作だぞ!?)
インヨウ兄妹の見たこともない憐憫の表情に、ドゥーはいよいよ自分の感性が変なのではと疑い始める。
自身の常識が通じない現実に、エリオットもこんな気分だったのだろうか、と現実逃避を始めてしまう。
すると2人は冷蔵庫から飛び降り、そのままアンの元へ小走りで向かう。
そして子供が自分のお絵描きを自慢するかのように、紙を見せびらかし始めた。
「よ!」
「よっ」
「ん? はじめまして、アンです! よろしくね」
「これ、入隊お祝いの印にどーぞ」
「どーぞ!」
「?」
インがアンへその紙を手渡す。
アンはしばらく凝視したあと、にっこりと微笑み、インヨウ兄妹の頭を撫でた。
「すごーい。これ、ぼくちゃんたちが描いたの? 嬉しい!」
「違うよ」
「え?」
ヨウがドゥーを指さした。
「ドゥーが描いた」
「………………え?」
「アンのスーツだって」
「……あ、えっ………………わぁ…………こ、個性的…………です、ね!」
ドゥーの中で、何かが砕け散る音がした。
――
数十分後。
ようやく熱気が治まったところで、一同は作戦テーブルを囲む形で集合していた。
珍しく特殊第六執行部隊が勢揃い。
そこへ第五執行部隊のルールー。
さらに第四執行部隊からニガール、サイモン、そして隊長ノルハイコまで会議に参加している。
当然、仕切るのはカイ上級監査官だ。
「ハイ。ではこれより、本案件の作戦会議を始めます」
「「「了解」」」
「コラ、ドゥー。そしてミラも。シャキッとしなさい」
「…………うす」
「ひーwwwwひーwwwww」
カイの号令に、ドゥーとミラを除いた全員が軍人らしい返事をする。
対する2人はというと、ドゥーは何やら絶望のどん底に落ちたかのような意気消沈っぷり。
その隣でミラは腹を抱えて笑っており、感情のコントラストが異常値を叩き出していた。
何故ドゥーがこんなことになっているのか。
原因は、冷蔵庫に堂々と貼り出された彼のデザイン画である。
その下には“ふれいや by どぅー”と拙い字で丁寧に書き添えられている。
おそらくインヨウ兄妹の仕業だろう。クソガキどもめ。
自分の絵心が壊滅的であることを初めて知ったこの日。
しかも、それを自ら堂々と他人へ見せびらかした。挙げ句の果てには、アンにまで気を遣わせた。
ドゥーはその三重苦に完全に打ちのめされていた。
「個性的」という言葉。
それは下手な転生者の攻撃よりもよほど効く、“気遣いの極致”である。
ちなみにミラは、それに対して涙を禁じ得ない様子だった。
時折、堪えようとする素振りは見せる。
だがすぐに、冷蔵庫へ貼られた呪物が目に入り――
「ひーwww先輩、あれ最ッ高ッスねぇ!! ぶひゃひゃひゃひゃ」
「………………」
(もうどうにでもなれ)
「コラ、馬鹿コンビ2人!! 会議の邪魔するならつまみ出すわよ!!」
といっても、特殊第六執行部隊は今回の主役である。
本当につまみ出すわけにもいかない。
故にカイからすれば、せめて2人には集中してほしいところだった。
ただし、あの絵が本当に酷いのは事実である。
カイを含め、全員がなるべく視界へ入れないよう、さりげなく視線を調整していた。
「この度はお集まりいただき感謝するわ。ルールー、それから第四のお三方」
「いえいえ……光栄です、カイ監査官」
「お安い御用だし」
第五執行部隊を代表してルールーが、第四を代表してノルハイコが軽く挨拶する。
「でもなんでこんなにいっぱいなのー?」
ヨウの素朴な質問に、カイは満面の笑みで応えた。
「今回受けた案件で、我々特殊第六執行部隊は他部隊との合同任務に当たるからよ」
【今回の用語まとめ】
■アン専用FREYA
新人執行官アンのために新規設計される専用FREYA。
ルールーは軽量かつ外見を重視した案、ヘパーは防御力を重視した重装甲案を提示しており、設計方針を巡って対立している。
■ルールー
第五執行部隊の技術官。
アン専用FREYAのコンセプトデザインにも参加しており、可愛さや本人の魅力を活かした軽装型を提案。ヘパーとは設計思想が真っ向から対立している。
■ノルハイコ
第四執行部隊隊長。
準特級オペレーター兼・上級執行官という、RAC唯一の二職兼任者。普段は控えめで腰が低いが、戦闘能力は準特級相当とも評される実力者。
今回、第四執行部隊を率いて特殊第六との合同任務に参加する。
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・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




