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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第二章「輪廻庁」2-1「ゥルル編」
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CASE.60「執行の、その先」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。

設定資料をご覧になりたい方はぜひnoteに訪れてみて下さい!!

https://note.com/ponym/m/mc8c9ad24eef6

「し、執行官なのか??」

「はい!」


 腕をピシッと上げ、胸を張って自信満々に敬礼するアン。

 その様子にドゥーはたじろぎながらも、なんとか先輩として毅然とした態度を取るよう心掛ける。


「オペレーターとか監査官とか技術官とかじゃなく、執・行・官で間違いないんだな?」

「はい、下級執行官です!」

「そ、そうか……」


 信じられん、とドゥーは存在しない眉を顰めた。


 執行官は、危険極まりない転生者に直接“執行”を下す戦闘職である。

 求められる身体能力も判断能力も、他職種と比べて高い。

 それらの基準を総合的にクリアしなければ、執行官にはなれないのだ。

 もっとも、ドゥーにはその試験を受けた覚えすらないのだが。


 そんでもって彼女――アンはどうだろうか。


 いかにもぷにぷにしていそうな、何の修羅場も潜り抜けた気配がない柔肌。

 戦闘力皆無にしか見えない細腕。

 小柄な体格には少々不釣り合いな豊かな胸――ミラが見れば嫉妬で狂いそうである。

 そして何より、エントランスからここまで来るのに必死に足を動かしていたにもかかわらず、あの速度。

 まるで飼い主を追いかける子犬そのものだ。

 挙げ句、それだけで息を切らす始末。


 どこをどう見ても、執行官適性があるようには見えないのだが――。


 そこへ、ドゥーの携帯がピロリンと通知音を鳴らした。

 相変わらず機械音痴なので、通知を開くだけで数秒ほど思考が停止してしまう。


「えーと……どれが通知だ。これか? あぁ、なんか変な鳥出てきた」

「ここを押すのではないですか?」

「! あ、ああ。感謝する……」


 アンが横から指を伸ばすと、通知は一発で開いた。


 やはりオペレーターなどの方が向いているのでは――とドゥーは思ったが、これに関しては彼の機械音痴が悲惨すぎるだけである。


 通知はカイからだった。


 ――ちょっとこっち慌ただしいから、しばらく輪廻庁を案内してあげて。


「?」

「お忙しそうですね……」


 あちらで何が起きているかは分からないが、どうやらただ事ではないらしい。

 試しにカイへ電話をかけてみるも、出る気配はなかった。

 なお、電話をかけたのはアンである。


 しばらく作戦室には戻れそうにもない。

 仕方なく、指示通り輪廻庁を案内することにした。


「ちょっとぶらっとするか……どこか行きたいところはあるか?」

「え、あ、それでしたら『転生配属課』に行ってみたいです!」


 ――


 アンの要望通り、2人は転生配属課を見学することになった。

 道中、自己紹介を兼ねた会話の中で、ドゥーはアンがどういう人間なのかを探ろうとしていた。


「1つ聞いていいか?」

「はい! 何なりと!」

「何故RACに? もっと安全な職種なら、他にいくらでもあるはずだが……」


 ここまでで分かったこと。

 アンは非常に温厚な女性だ。


 いつもニコニコと微笑み、表情は柔らかく、一緒にいて心地いい。

 耳にタコができそうになるミラとは雲泥の差だ。

 あちらもあちらで、一緒にいて気は抜けるのだが。


 さらに、とても人懐っこい。

 警戒心が薄く、誰に対してもオープン。

 愛嬌があり、いかにもカイが好みそうなタイプだ。


 初対面であるにもかかわらず、人見知りのドゥーが自然と会話を続けられるほどでもある。

 こういうのをコミュニケーション強者というのだろうか、とドゥーはないものねだりをする。


「私、転生者さんに興味があるんです」

「興味……?」

「はい。彼らが以前、どんな物語を歩んだのか……その上で、どんな第二の人生を歩んでいるのかを知りたいんです」

「そ、そうか」


 執行官であれば、対象となる転生者と最も近い距離で向き合うことになる。

 そういう意味では、彼女の望みは十分に叶うだろう。


 だが、任務はただ“知る”だけでは終わらない。


 執行対象となった以上、最後にはその命を断つ。

 執行官とは、その役目を直接担う職種だ。


 “知る”ことと、“手を下す”こと。

 その間には、あまりにも大きな隔たりがある。


 彼女はまだ、RACの何たるかを本当の意味では知らないのかもしれない。


(転生者も、別に良い奴ばかりじゃないんだがな……。まあ、あとから職種変更もできるだろう)


「全員が良い奴とは限らないぞ」

「そうなのですか? でも皆様も、元々は転生者なのですよね?」

「そうだが……どう言ったらいいものか」

「皆様、とても良い人です。こんな新人の私にも優しくしてくれますし、こんなのも頂きました!」


 アンは嬉しそうに手提げのお土産袋をドゥーへ見せつける。


(それは君の人柄もあると思うが……)


 ドゥーは、自分がここへ来たばかりの頃を思い返す。


 最初は接するどころか、誰も自分に話しかけようともしなかった。

 全身常時FREYAフル装備の不気味な赤いモノアイ。

 そして彼自身の人間性が、それにさらに拍車をかけていた。


 自分の時とはえらい違いだ。


 黒歴史を頭の隅へ押しやりながら、とにかく彼女がRACの仕事を真の意味で理解した時、落胆しないことを祈るばかりだった。


 そんなことを考えているうちに、目的地へ辿り着く。


「着いたな」

「ここが転生配属課……」


 輪廻庁の中でも、特殊第六執行部隊へ続くモノレールとは反対側。

 そこには「魂籍管理局」「転生配属課」「天恵運用課」など、各部署へ接続するテレポートポータルが並んでいる。


 専用カードをかざせば、目的部署の入口まで一瞬で移動できる。

 見学にも所定の手続きが必要だが、カイが事前に根回ししてくれていたらしく、拍子抜けするほど簡単に通された。


「わぁ……凄い」

「だろ?」


 「だろ?」などと言っているが、ドゥーもここへ来るのは初めてだ。


 目の前に広がるのは、巨大な工場のような空間。

 だが、一般的に想像するような金属的で物々しい場所ではない。


 基底界の街と同じく白く、どこまでも清潔。

 ゴウンゴウンと低い機械音が響き、近未来的な白い大型設備がずらりと並んでいる。


 そこで、アンはとあるものに気づいた。


「あのかわいい丸いのは何ですか?」

「ん?」


 アンが指さす先。

 透明な管状の機械の中を、淡く色とりどりに光る玉のようなものがいくつも流れている。

 途切れる様子もなく延々と運ばれ、その前では職員たちが画面とキーボードへ向かって忙しなく作業していた。


「あぁ……魂かなんかだろうな」

「魂……ですか?」


(まずい、口が勝手に)


 完全に勘で言った。


 正直、ドゥーもこのよく分からない玉は初見である。

 だが後輩の前で「何も知らん」と言うわけにもいかず、つい見栄を張ってしまったのだ。

 口が滑り、大後悔がドゥーを襲う。

 

 そこへ、ちょうど良いのか悪いのか職員が1人通りかかった。


 アンは持ち前の愛嬌を発揮し、即座に声をかけた。

 その瞬間、ドゥーの鼓動はさらに速くなる。


「すみません!」

「は、はい?」


 女性職員が足を止めた。


 RACの制服とは異なり、修道服を思わせる装い。

 口元を布で覆い、薄手のスーツの上から大きな前掛けを着けている。

 そして受付職員と同じく、右腕にはスカーフともバンダナともつかない布が巻かれていた。


 その色は黒。

 つまり彼女は、稀に見る特殊第六執行部隊派ということである。


「私、ここへ来たばかりで……よろしければ、この機械のことを教えてほしいです!」

「あらま、もしかして新人の方?」


 職員がドゥーを見る。

 ドゥーは静かに頷き、ひたすら先ほどの玉が魂であることを祈った。


 職員は2人の制服を一瞥すると、何かを察したように目を輝かせる。


「もしや、特殊第六執行部隊の……?」

「はい! 本日付で配属されることになりました、アン下級執行官です!」

「わぁ! そうなのですね。応援しております」


(ほう……酔狂な奴もいたものだ)


 お察しの通り、特殊第六執行部隊はあまり人気がない。

 急造の凸凹部隊という事情もあるが、何といってもドゥー自身の存在が大きい。


 『アバドン・システム』――すべての事象を拒絶する異能。

 神々にすら制御不能な異端の力。

 基底界人をもってしても、その力は近づきがたいものなのだ。


「申し遅れました。私は転生配属課のアニマと申します。私で良ければ、ご説明いたします」

「本当ですか! やった~!」


 本当にコミュ力お化けだ。


 おそらく自分1人であれば、誰にも話しかけず、誰からも話しかけられず、そのまま透明人間のように見学を終えていただろう。

 それがアンの天真爛漫な人間力ひとつで、こうも変わる。


「ここはご存知の通り、転生配属課――魂の転生先を決定する部署でございます」

(名前のまんまだな)


「まず魂籍管理局で、各魂のカルマ値や生前情報が査定されます。そしてこちらへ送られてきた情報をもとに、転生先の候補を選定していくのです」

「カルマ値?」

「はい。前世における行いを総合的に数値化した指標です。悪行が多ければ負へ、善行が多ければ正へ傾きます」

「ほわぁ……」


 アンは子供のように、興味津々で話を聞いている。


「そして、こちらの設備を通っているのが、魂籍管理局で査定を終えた魂です。魂ごとの情報を照合しながら、それぞれ適した転生先へ振り分けていきます」

(よかった。本当に魂だった……あっぶねぇ)


「すごいおっきい工場ですね」

「はい、とてもおっきいんです。何しろ運ばれてくる魂は際限がありませんから。一人分の人生だけでも膨大な情報量ですし、それを絶えず処理するには相応の設備が必要なのです」

「じょうほうりょう……しょり……」


 アンは情報過多で(・ω・)という顔のまま固まってしまった。


 もしや、彼女もまた機械音痴属性なのだろうか。

 あまりに優秀な部下だとこちらもこちらで困る――主にミラが。

 少しだけアンの人間臭いところを垣間見た気がして、ドゥーは妙に安心した。


「魂にはそれぞれ色があるようで、だからあんなにも色とりどりなのですよ」

「おいしそう……」

「フフフ……おいしそうですよね♪ よければ転生配属課名物“ディヴァイン饅頭”はいかがですか?」

「え! いいんですか??」


 アニマが2つの饅頭を差し出す。

 こちらも色違いで、インヨウ兄妹からもらった爆発するタイプではない。


 アンがいそいそと包装を剥がし、一口齧る。

 すると中から、茶色い餡がまろび出た。


「あまくておいふぃーでふぅ!」

「でしょう? ちなみにアンさんがお食べになっているのがオレンジ風味、ドゥー様がお持ちなのがイチゴ味になります」


 アンがじーっと、ドゥーの饅頭を見つめる。


 餌を待つ犬のような眼差し。

 居ても立ってもいられなくなったドゥーは、無言で彼女へ饅頭を差し出した。

 そのままアンは2つの饅頭を頬張り、とても幸せそうに、リスのように頬を膨らませていた。


 アニマも満足そうに眺めている。

 ころころと表情を変えるアンに、いつの間にか2人とも夢中になっていた。


「あ、そうだ。1つ質問よろしいか」

「はい? なんでしょうか」


 白いリスは一旦置いておいて、ドゥーは先ほどから気になっていたことを尋ねる。


「RACが執行した者の魂も、最終的にはここへ?」

「RACが執行した……魂ですか?」

「ああ。転生者に限らず、執行対象となった者も含めてだ。ここで次の転生先を決めるのか?」

「あぁ……はい、最終的には。ただ――」


 アニマはキョロキョロと周囲を見回すと、ドゥーへ耳打ちするように顔を寄せた。

 毎度のごとく、どこが耳なのか迷うのは恒例行事だ。


「RACによって執行・回収された魂は、一般の魂とは別系統で管理されます。閲覧できるのも、一定以上の権限を持つ職員だけなのです」

「では、もうすでに転生先が――」

「いえ。むしろ逆です。執行対象だった魂は確認事項も多く、選定にはかなり時間がかかります。それに一般の魂より優先順位も低いので、長い間保留になることも珍しくありません」

「なるほど……というか、何故それをご存じで?」


「だって私が、その上級職員ですから♪」


 アニマはふふんと胸を張ると、スカートの裾を軽くつまんで優雅に一礼した。


 これは、とんだ千載一遇の好機である。

 ドゥーは少しだけ間を置き、彼女へさらに質問を重ねた。

 むしろ、こちらが本命なのだ。


「実は、調べてほしいことがある」

「?」


「『佐藤・憲治(サトウ・ケンジ)』『工藤・旭(クドウ・アサヒ)』『貝塚・穂香(カイヅカ・ホノカ)』――それと『ヴォルツ・ディ・エルヴァニス』。この4人の魂が今どうなっているのか、調べてほしい」

「はあ……できるかは分かりませんが、確認してみます」

「それで、まだ次へ送られていないのなら……できるだけ時間を稼いでほしいんだ」

「時間を……?」


 アニマは不思議そうに首を傾げる。


「とりあえず、この4人の転生を可能な限り遅らせてほしい。頼む」


 赤いモノアイにじっと見つめられ、アニマは思わず一歩引いた。


 だが、すぐに表情をきりっと戻す。


「私の権限でできることには、限りがあります」

「そうか。すまない、過ぎたことを言ってしまった」


「……ですが、規定の範囲でできる限りのことはしてみます」


 予想外の返答に、ドゥーのモノアイが丸くなる。


「ドゥー様。私は特殊第六執行部隊の――いえ、貴方のファンなのですよ」

「ファ、ファン……?」

「ひと月前の全アナウンスハッキング騒動には、大変感服いたしました」


 アニマは、ドゥーの手を優しく取った。


「あの一件で、私の特殊第六執行部隊への認識は変わりました。貴方方は、絶対の存在である最上位存在に真っ向から楯突いた。その上、彼らの癒着を暴き、タルタロスに収監されようとも、こうして今もRACに従事している」

「ほ、ぉう……」


 矢継ぎ早に賞賛され、ドゥーはたじたじになる。


 アンへと情けなくも救援の視線を送る。

 しかし彼女は、もぐもぐと饅頭に夢中だった。


「お気づきではないかもしれませんが、実は輪廻庁でも特殊第六執行部隊のファンは増えつつあるのですよ?」

「そ、そうなのか……?」

「はい。神に叛逆した唯一無二の部隊として。逆に、第一執行部隊派の方々からは滅法嫌われているようですが……」


 これでますます、第一執行部隊との溝が深くなったと、ドゥーは思わず遠い目をする。


 エリート集団である彼らからすれば、既存の律を乱す特殊第六は、さぞ目障りなのだろう。

 しかも前任務では、よりによって隊長ユーディト・ベルナデッタに、疲弊していたとはいえボコボコにされた。

 そのせいでミラとインヨウ兄妹は、第一執行部隊を完全に毛嫌いしている始末。


 ドゥー自身は彼らを嫌っているわけではない。

 だが、根本的にそりが合わないことは自覚している。


 どうやら職員たちの間でも似たような認識が浸透しており、第一執行部隊派と特殊第六派は何かとバチバチしているらしい。

 そしてアニマは、その中でもかなり明確な後者らしい。


「とにかく、規定の範囲内で私にできることであれば、遠慮なくお申し付けください」

「あ、ああ。感謝する……」


「フフフ……お話しできて良かったです。貴方方特殊第六の活躍を、心から応援しております」


 そう言って、アニマは足早に持ち場へ戻っていった。


 ちょうどアンも咀嚼を終えたところである。

 2人もようやく、作戦室へ帰還することにした。


■アン

特殊第六執行部隊へ新たに配属された下級執行官。

温厚で人懐っこく、転生者が「以前どんな人生を送り、第二の人生をどう生きているのか」に強い興味を持つ。

執行官を志した理由も、転生者と最も近い場所で向き合いたいという好奇心からだろうか。


■転生配属課

輪廻庁《サンサーラ・エージェンシー》に存在する、魂の転生先を決定する部署。

魂籍管理局から送られた生前情報やカルマ値をもとに、各魂に適した転生先を選定する。


■魂籍管理局

転生配属課へ送られる前の魂を査定する部署。

各魂の生前情報やカルマ値などを確認・整理し、その情報を転生配属課へ引き渡す。


■カルマ値

魂の前世における行いを総合的に数値化した指標。

悪行が多ければ負へ、善行が多ければ正へ傾き、転生先を決める際の判断材料となる。


■アニマ

転生配属課に所属する上級職員。

執行済みの魂に関する情報へアクセスできる権限を持つ。

特殊第六執行部隊、特に神々へ真っ向から反抗したドゥーの行動を支持する人物でもある。



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ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



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・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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