↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第二章「輪廻庁」2-1「ゥルル編」
PR
61/124

CASE.059「ドゥー“先輩”」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。

設定資料をご覧になりたい方はぜひnoteに訪れてみて下さい!!

https://note.com/ponym/m/mc8c9ad24eef6

 宴の熱もすっかり冷めた翌朝。

 特殊第六執行部隊の面々は、神妙な面持ちで作戦室に集合していた。


 インヨウ兄妹はまだ部屋でおねむだが、珍しくヘパーが出席している。

 いつもVABOに籠もりきりの彼が作戦室にいるというのは、かなり稀な光景だ。

 あまりに図体がデカいせいで、周囲の備品がことごとくミニチュアに見えるという珍百景でもある。


「おいおい、もう無くなっちまった! カイ、もう1缶取ってくれぇ!!」

「ダ・メ・で・す! アナタ、ここに来てから何本飲んでると思ってるの?!」

「だぁー、テメエは俺のお袋か!!」


 ヘパーはずっとカイの缶ビールを呷っており、かれこれ20本目に突入している。

 わんこそばのごとくおかわりを続けていたが、ついにカイのお叱りを受けたことで、彼の暴走は強制終了した。


 そもそも、ここにヘパーがいるのは本人の意思ではない。

 カイから強く出席を要請されたためである。


「ホラ、2人もシャキッとしなさい! ユリスは寝ない!!」

「う……うむ……」

「ゥス……」

「…………」


 寝不足がちなユリスは置いておくとして、いつも何かと騒がしい問題児コンビ――ドゥーとミラも、今日はやけに大人しかった。

 2人とも一点を見つめたまま、明らかに緊張している。


 それを見たカイは、深いため息をついた。


「もぉー貴方たち、いつものバカ騒ぎはどうしたわけ? ミラもなんで何もしゃべらないの?」

「う……だって――」


 理由は1つ。

 今日、特殊第六執行部隊は新(・)人(・)を迎えるのだ。


 ドゥーとミラにとっては、初めての部下であり、初めての後輩。

 そのため、少しでもカッコいいところを見せようと身構えているのだが、いつもの2人を知るカイからすれば非常に気味が悪い。

 ついでに嫌な予感もするので、いつものバカ騒ぎが少しだけ恋しかった。


「緊張するのは分かるけど、こんな雰囲気じゃ新人ちゃん怖がっちゃうわよ? あとヘパー、缶ビールはもうダメよ」

「チッ!」

「でも、いいとこ見せたいじゃないッスか! アタシ、初めての後輩ッスよ!? ここはビシッと、先輩としての威厳を――」

「大丈夫。貴女のプロフィールは既に共有済みだから、今さら取り繕っても恥かくだけよ」

「え”ッ」


「カイさん」


 ここで、ようやくドゥーが口を開いた。


「何かしら、ドゥー?」

「その新人の職種は、何でしょうか?」


 たしかにそれは気になると、ユリスも目を開いた。

 ミラも身を乗り出し、カイの返答を待つ。


「あぁ、言うの忘れてたわ。たしか――」


 しかし、肝心なところでカイの電話が鳴った。


 横槍が入り、ミラは「えーっ」と悪態をつく。

 カイはすぐに電話へ出ると、「はい、はい」と何度も優しげな声で相槌を打った。


 明らかに年下を宥めるような口調。

 おそらく電話の相手は噂の新人だろうと、ドゥーは予想する。


「OK~♡ だいじょーぶよ、安心して♡ はーい、一旦切るわねぇ~…………迷子になっちゃったみたい」

「どんくさいッスねぇ」

「お前も最初迷子になってただろうが」

「む! 先輩に言われたくはねぇですよーだ」


 RAC配属当初、ミラは迷いに迷って特殊第六執行部隊ではなく、第(・)一(・)執(・)行(・)部(・)隊(・)の作戦室へお邪魔してしまった過去がある。

 それはここだけの話だ。


 そして、それを迎えに行ったドゥーも道中で迷い、結局インヨウ兄妹に助けられるという大恥をかいたのも、また別の話。


 2人にとっては、あまり掘り返されたくない昔話である。


「今、輪廻庁《サンサーラ・エージェンシー》の入口にいるみたい」

「おや、デジャブかな?」

「こっち見んなッス。眼鏡ブチ折りますよ」

「……それは困る」


 カイはしばらく「うーん」と悩んだ末、口を開いた。


「そうね。ミラの前例もあるし……」

「カイ姐までぇ!」

「ドゥー」


「……はい?」


「迎えに行ってきてちょうだい」

「え、俺がですか?」


 今さっき“前例”があると言ったばかりでは。

 ドゥーは内心、首を傾げる。


「そうッスよ! 先輩がアタシの迎えのためだけにどこまで行ったか覚えてないんスか??」

「そりゃあの時は散々笑わせてもらいましたもの。だけどドゥーはもう上級執行官。立派な上司になるための第一歩としての初仕事よ」

(……笑ったんかい)


「アタシも準上級オペレーターですけど??」

「貴女は新案件の件で一仕事あるから、ここにいて」

「んいーっ! 先輩だけずるい~っ」


「じゃ、ドゥー。行ってきて」

「あ、おい。じゃあ帰りに酒樽を1つ買って――」

「ヘパーは黙って」

「なんかさっきから俺の扱い、雑じゃねえか!?」


 騒ぎ立てるヘパーとミラを尻目に、ドゥーはカイの命令を実行するため作戦室を後にした。


 もう、あの日のようなヘマはしない。

 ミラと同じ思考なのは癪だが、上級執行官として毅然とした態度で部下を迎えようと、気を引き締めた。


 ――


 あの面倒くさい3つの関門を抜け、ドゥーは輪廻庁の入口へ辿り着いた。


 相変わらず真っ白で清潔だ。

 そのせいで、ドゥーがどこにいるかは一目瞭然である。

 全身真っ黒な彼は、それはもう嫌というほど目立つ。


 だが、この悪目立ちも今はとても役に立つ。

 新人がいれば、すぐに自分へ気づくはずなのだが――


「……うん?」


 どこにもそれらしき者は見当たらない。


 特殊第六執行部隊の制服カラーは、もうお分かりだろうが黒。

 少なくとも腕には、“特六”と記された黒い腕章を付けているはずだ。

 ならば、すぐに見つかると思ったのだが。


「……仕方ない」


 あまり気は進まないが、受付に尋ねることにする。

 ここで時間を食えば、あとからミラに何を言われるか分からない。


 余計なプライドやら人見知りやら何やらはすべてかなぐり捨て、今は誰かに聞くのが先決だった。


「失礼。特殊第六執行部隊のドゥーと申します」

「はい、お疲れ様です。ドゥー執行官様」


 受付の女性は、いかにも受付職員らしい制服姿で、首には赤いスカーフを巻いていた。


 彼女たちに配布されるスカーフには6色あり、第一の白から特殊第六の黒まで、それぞれ各部隊に対応している。

 もっとも、どの色を身に着けるかは本人たちの自由だ。


 その自由意思によって、スカーフの色は半ば各執行部隊のファンを示す証のようなものになっている。

 当然、第一執行部隊の白、そして怪しげな褐色隊長が率いる第五執行部隊の赤はよく見かける。


 逆に、黒は滅多にいない。

 というか、ドゥーは今まで1人も見たことがなかった。


 差し詰め、この受付嬢は第五――あのアシュレイ隊長派なのだろう。

 とはいえ、それでも彼女は快く対応してくれた。


「こちらに、黒い腕章を付けた者は来ませんでしたか? その、特六の新人なんですけど……」

「あぁ、それでしたら! ほら」


 受付嬢が手を差し向けた先。


 ドゥーが振り返ると、ちょうど輪廻庁の入口から誰かが入館してきたところだった。


「あ、来た来た! 『アン』ちゃん、お迎えの方が来ましたよ!」

「…………アン?」


 ドゥーは振り返り、その『アン』と呼ばれる人物を凝視した。


 ミラと変わらぬ背丈の女性。

 服装はカイと同じ正規のRAC制服で、腕にはしっかりと“特六”の黒い腕章。

 くりっとした目元には、ほんの少しだけそばかすがある。


 そして何より特徴的なのは、その淡い金色の髪だった。


「…………なるほど。あれが新じ――ッ」


 その瞬間。


 ドゥーの視界が、ほんの一瞬だけ乱れた。


 見覚えのない何かが視界の端を横切ったような気がしたが、それが何だったのか認識するより早く、景色は元に戻る。


「……?」


 軽く頭を振る。


(何だ、今の……)


 しかし考える間もなく、その女性――アンはトテトテとこちらへ小走りで向かってきた。


 腕をブンブン振っているわりに、なかなか距離が縮まらない。

 ドゥーは思わず、その姿をぼーっと眺めてしまう。


 走るたび、後ろでちょろりと束ねられたポニーテールが揺れる。

 手提げ袋を携え、必死にまっすぐこちらへ走ってくる様子は、子犬の――そう、ポメラニアンのようだった。


 そして、ようやくドゥーの目の前へ辿り着くと、彼女は必死に息を整えようとする。


「……大丈夫か? 急ぎではないから、呼吸を整えて――」

「ご、ごめんなさい!」


「…………」


 いよいよ面と向かって――ドゥーは本当に面をしているが――アンと対面した。


 しかし、何故だろうか。

 いつものコミュ障が発動しない。


 自分が人見知りであることは、自覚している。

 第一執行部隊の時も、あまりの挙動不審に思わずANUBISを抜きかけたくらいだ。

 ドゥーにとって初対面の相手と話すことは、機械関係に次いで苦手な分野なのである。


 なのに、彼女を前にしても不思議と心の壁を感じない。


 初対面の人間を前にしているという感覚そのものが、何故か薄かった。


(……変な感じだな)


 それ以上は分からない。


 だが、アンの声を聞いた瞬間。

 胸の奥に、ほんの小さなざわつきが走った。


(……?)


 その時、不意に。


 まるで今まで忘れていたかのように、あの言葉が脳裏をよぎる。


 ――【声の正体なら、すぐにわかる。楽しみにしていたまえ】


(なんで今になって、奴の言葉が……)


 囚人番号026に言われた言葉だった。


 狂人の戯言だと片づけたはずなのに。

 何故か今になって、唐突に思い出してしまった。


 理由は分からない。

 ただの偶然かもしれない。


 ドゥーが妙な引っかかりを覚えていると、アンは大きく息を吸った。


「はじめまして! ほ、本日付で特殊第六執行部隊に配属されることになりました、アン下級執行官です!」


 その一言は、別の意味でドゥーへの追い打ちとなった。


「ん、は? 待て待て待て。執行官だと?!」

「はいっ。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします!! ドゥー先輩」


 この日は、ドゥーの脳が最もショートした日と言える。


 ミラに続き、彼を“ドゥー先輩”と呼ぶことになる、もう1人の隊員。

 彼女こそ、特殊第六執行部隊の――新たな執(・)行(・)官(・)であった。



【今回の用語まとめ】


■アン

特殊第六執行部隊へ新たに配属される新人執行官。

ドゥーとミラが昇進したことに伴い、2人にとって初めての直属の後輩となる。今後、特殊第六の新たな一員として行動を共にする少女。


――――――――――――――――――――――――――――



ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



よろしければ、フォロー・ブックマーク・感想などいただけますと励みになります。

感想については、質問・ご指摘・話の感想など、なんでもお気軽にお寄せください~!!全て受け止めます!!



※AIの利用について:

・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。