↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第二章「輪廻庁」2-1「ゥルル編」
PR
60/124

CASE.058「残るもの」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。

設定資料をご覧になりたい方はぜひnoteに訪れてみて下さい!!

https://note.com/ponym/m/mc8c9ad24eef6

 ドゥーはこの場を逃れるため、ここ最近、自身に起きている変化について話した。


 夢なのかは定かではないが、妙な声を聞くようになったこと。

 その声はロザリアの一件を機に現れ始めたこと。

 聞き覚えはないはずなのに、妙な親近感を覚えること。

 そして、ドゥー自身にもまるで心当たりがないということ。


 思い出せる限りのことを、すべて事細かに説明する。

 とりあえず、今の話題よりは遥かにマシだ。


「ふぅーん。それは随分と不思議なことねぇ」

「ねぇ~」


 あからさまに3人の興味が消え失せた。

 目的は果たせたものの、それはそれで何だか歯痒いし、普通にムカつく。

 飲んだくれに相談したのが間違いだったと、ドゥーは大きくため息をつきながらその場を去ろうとする。


「ドゥー君の前世の記憶だったりして」


 マルタの言葉に、思わずドゥーは固まった。


「んなわけないでしょ。私ら基底界(インタースペース)人は、みーーんな例外なく前の記憶を根っこから消されてるのよ? ありえないわ」

「超同意。マルタ姉、夢見すぎでワロタ」


 ドゥーも即座に同意する。


 基底界人が基底界人たらしめるもの。

 その一つが、記憶の消去にある。


 彼らは異世界で第二の人生を終えた後、再び始まりの大地である地球(ガイアの地)へ人として転生するか、基底界人となって輪廻のシステムから外れるかを選ぶことができる。

 後者を選んだ場合、全盛期の肉体をもって、この基底界で暮らすことを許されるのだ。


 だがその際、もう1つ重要な処置を受けなければならない。


 前世における、すべての記憶の消去。


 頭を打った時のように、記憶の断片がどこかへ閉じこもるという次元の話ではない。

 誰と生きたか。

 どこで暮らしたか。

 何を経験し、何を愛し、何を憎んだか。


 そうした“自分が何者だったのか”を形作る記憶そのものを、根元から失うのだ。


 よって思い出すこともなければ、夢に出てくることもない。

 それが、この基底界における常識なのだ。


「そうかしら? でもあ(・)の(・)ドゥー君よ?」

「「………………」」

(なぜ黙る)


 マルタの言葉に、カイとルールーは押し黙ってしまった。

 そして、じっくりとドゥーを観察する。


「な、なんですか……」

「うーん。たしかにドゥーっちなら、無きにしも非ずって感じィー?」


 先ほどの話は、あくまで一般的な基底界人の話。

 それがあのドゥーとなると、話は別である。


「『アバドン・システム』……すべての事象を拒絶する力、ねぇ」


 カイは舐め回すように、ドゥーの全身を観察した。


 相変わらずのサイボーグっぷり。

 皆が私服で晩餐を楽しんでいるというのに、1人だけガチガチのFREYA一式を着込んでいる。

 もちろん、好きで着ているわけではないことは重々承知している。

 それにしても、この場ではあまりにも浮きすぎていた。


「ドゥー、ちゃんと記憶処理は受けたのよね?」

「まあ、おそらくは?」

「あ、そっか。あなたたしか、ここへ来た経緯も何も覚えていないのよね?」

「あら、そうなの?」

「えぇ~変なのぉー」


 記憶の全消去といっても、何もかもが白紙になるわけではない。消えるのは、異世界や地球時代における“個人の人生”に紐づいた記憶。

 一方で、培った技術や専門知識まで失われるわけではないのだ。


 手段は不明だが、それらは綺麗に切り分けられ、基底界でも使える形で残されるよう調整されているらしい。


 だからこそ、ドゥーにも剣技が残っているし、『アバドン・システム』の扱い方も覚えている。

 基底界人たちはそうして、生前に培った能力を活かしながら、人を超えた上位存在として暮らしているというわけだ。


 せっかく英雄たる器に備わった技術の数々。

 それをわざわざ捨てる必要もない。

 こちらの世界でも思う存分発揮してほしい――というのが、神々の算段らしい。


 そしてもう1つ。

 自ら基底界人になる道を選択したこと、その後この世界について説明を受けた記憶も保持される。

 そこまで消してしまえば、処置のたびに基底界について一から説明し、再教育しなければならなくなるためだ。


 そう言った神々側のコストや苦労の節々が伝わってくる記憶の運営だが——

 ところがどっこい、ドゥーにはその記憶すらない。


 ここへ来た経緯も、自らこの道を選んだ記憶も何一つない。

 気づいた時には執行官としてRACに従事していたという、『アバドン・システム』抜きにしても異例の存在なのだ。


「記憶処理そのものに、何か異常があったりして☆」

「まっさかー」

「でも前世の記憶は何もないんでしょう、ドゥー?」

「ハイ……」


 「うーん」と、その場の全員が首を傾げる。

 そこでドゥーは、非常に重要なことを思い出した。


「あ、そういえば……」


「ん、何か思い出したようね」

「いや、多分関係ないというか……参考までにお聞きしたいんですけど……『囚人番号026』はご存知ですか?」


 3人はさらに首を傾げる。

 ルールーは酔いが回ったのか、ついにダウンしてしまい、マルタがやれやれとその介抱を始めた。


「聞いたことないわ。そもそもタルタロスは私の管轄外だし」

「……そうですよね」


 まあ、期待はしていなかった。

 それでもカイなら何か知っているのではないかと、少しだけ思ったのだ。


「それがどうしたの?」

「いや、その――」


 ドゥーは擬似タルタロスにいた時のことを、自分にも言い聞かせるように口にした。


 あの囚人番号026は、すれ違いざまに「声の正体ならすぐにわかる」と告げてきた。

 挙句の果てに、厳重に外界から隔離されていたにもかかわらず、自分のことを知っていた。


 その時の光景を頭の中から掘り起こしながら、彼女らに説明する。


「ふぅーん」

「何か分かりますか?」


「あ、分かった!」


 「マジかよ!」と、ドゥーは大きく期待した。

 赤いモノアイがうるうると輝く。


「そいつサイコよサイコ。頭のネジがぶっ飛んでるのよ」

「…………」


 期待した自分が馬鹿だったと、ドゥーは項垂れた。


 もしかすれば、自分が何者なのか分かる手掛かりを得られるかもしれない。

 そう期待したものの、そもそも酒で頭のネジが緩み切っている奴らに聞いたのが間違いだった。


 そのままドゥーは隙を見計らって、トボトボと元の席へ戻る。

 やっとのことで女性の網から逃れられたものの、今度は胸の奥に妙なしこりが残ってしまった。

 結局、何も得られぬままアシュレイの元へ辿り着く。


「お、お帰んなさい。収穫あったかいな?」

「ないですよ。飲んだくれから得られるものなんて、ゲロか狂人の戯言だけです」

「ハハハ! それはそう!!」


 そう、狂人の戯言なのだ。

 偶然が呼んだ偶然。

 あんな得体の知れない拘束棺の中身が言うことなど、鵜呑みにする方がおかしい。


 そう自分に言い聞かせることで、ドゥーはどうにか納得することにした。


「はぁ……」

「何か悩み事かね、ドゥー執行官」

「いや、別に……そんなんじゃないですよ」


 珍しくユリスが他人を気遣った。

 1杯のお冷をドゥーに手渡すと、眼鏡を拭きながら語り始める。


「そうしょぼくれた顔をしないでほしい。なんせこの宴は君たちが主役――昇進を記念した打ち上げなのだから」

「…………え?」

「え?」


「「え?」」


 ドゥーとユリスは、お互いに顔を見合わせながらキョトンとしていた。


「おいおい、ドゥー君。知らんかったんかいな」

「いやいや、知るも何も……」


 ひと月も擬似タルタロスにいたのだ。

 そんな情報が耳に入るはずもない。

 というか、あれほどの騒動を起こしておいて“昇進”とは何事か。


「あー、もしかして僕は何か余計なことを言ってしまったのかな? っはっはっは……」

「え? え??」


 エリオットが言いそうな台詞に、今度はドスの利いた声が被ってきた。


「おいクソ眼鏡」

「なーんてことしてくれてんの、アンタぁッ!!」


 ずんずんと奥の方から、鬼の形相をしたカイとヘパーがやってきた。

 酒仲間はどうしたのだと奥を見ると、ニガールとサイモンは完全に酔い潰され、食卓の上に突っ伏している。


「いやはや、これは大変なことになってしまっ――ヴゥーッ!!」


 ヘパーはその剛腕で、再度ユリスをヘッドロックした。

 がっちり捕まったところへ、今度はカイが酒を口へ流し込むという追い打ち。


 まるでフォアグラだな、とドゥーは一切助けようともせず、呑気にその光景を眺めていた。

 良い子は決してマネしてはいけない、最悪のアルハラコンボである。


「サプライズの予定だったのに、このKY眼鏡ぇーッ!!」

「おぼぼぼ……|ぞぼぞぼびぼわ”ずえ”でだでぼぶび《そもそも君わすれてたでしょうに》……!!」

「てかてめえ。今日まだ一滴も酒飲んでねえだろ」

「|ばぶーばびびぶばぼぶば《カルーアミルクは飲んだ》」


(おや、意外と余裕な様子)


 案外平気そうなユリス。

 一応カイに次ぐRACの古株なので、これまで何度も彼らの暴走に巻き込まれてきたのだろうか。

 もはや慣れているらしい。


 だが、そこへ第四隊長ノルハイコの助けが入る。


「も、もうやめませんか? ユリスさん、今度こそ本当に死んでしまいますよ?」

「……ふん」

「ふん!」

「……はぁ。君達は一度酒類で痛い目を見るべきだ」


 ヘパーに解放され、ユリスは酒でびちゃびちゃのまま床に這いつくばる。


 先ほどから控えめにしていたノルハイコだが、一応は第四執行部隊を率いる隊長だ。

 彼女に止められては、さすがのカイとヘパーも大人しく引き下がる。


「そ、それに今日はまだ肝心なことが終わってません! ドゥーさんとミラさんの昇進祝いということで、この会を開いたわけなのですね? ね?」


 ノルハイコは連れの筋肉2人に同意を求めるも、返事はない。

 2人とも完全に戦闘不能である。


 そのせいで、ノルハイコのオロオロ度はますます増していく。


 これがかの第四執行部隊とは到底思えぬ腰の低さっぷり。

 ひょっとして戦闘時だけ別人になるタイプなのでは、と、観察すればするほどその実力が分からなくなっていくドゥーであった。


「な、なるほど……?」

「え、アタシ全然聞いてなかったんスけど、なんかお祝いされる感じですか?」


 ミラまでやってきてしまったため、もはや引き返しがつかなくなる。

 「はぁ~~~ッ」とカイは深いため息をつき、高そうな鞄から2枚のバッジと封筒、そしてびっしりと文字が打ち込まれた分厚い書類を取り出した。


 その鞄をどうやって買ったのかは、ひとまず置いておこう。


「はい、2人とも」

「ほえ?」

「……これは?」


「昇進のバッジと、私たちからの昇進祝い。あとボーナスよ」

「うえ!?」

「……(マジかよ)」

「貴方たちは今日付けで、上級執行官。そして準上級オペレーターよ。おめでと!」


 「おめでとさん!」「おめでとぉー」と、全員が口々に賛辞を送る。

 盛大な拍手に口笛。

 インヨウ兄妹も手を高速でパチパチ動かしており、下からはユリスの拍手まで聞こえてくる。


 すると頃合いだということで、店主が何やら豪華な刺身の盛り合わせを運んできた。

 巨大な木製の舟の上に、色とりどりの刺身が山ほど飾られている。

 ヘパーがどさくさに紛れてつまもうとしたところを、カイに手を叩かれた。


「コイツは俺たちからのおごりだ! 遠慮なく、たーんと食いな!!」

「おぉ……!」


 これは凄い。

 見たこともない種類の、宝石のような切り身にドゥーも思わず見惚れる。

 いかにも宝国の連中が好きそうな見た目だ。

 大陸国のため、そもそも刺身という文化自体、あの国にはなさそうだが。


 ミラの方を見ると、刺身には目もくれず、封筒の中身を見てひたすら目を輝かせている。

 ミラらしい反応だが、店主がちょっと寂しそうな顔をしていたので、ドゥーは慌てて駆け寄った。


「おい、一応感謝くらいしとけ」

「あぁ、申し訳ないッス。でも見てくださいよ、これ」

「ん? 何がだ――おぉわ、スゥッゴイ札束の数……」


 封筒の中には、見たこともない厚さの札束が入っていた。

 それを確認し、ドゥーの口も塞がらなくなる。


 悲しきかな、結局人は金なのだ。


「先輩どうせ何も買わないでしょ。アタシが有効活用するんで、それください」

「馬鹿言え。これは俺のもんだ」

「えぇ~。じゃあ先輩には、代わりにあの紙の束をあげますよ」


 「紙?」と、ドゥーがミラの指さす方向を見る。

 するとカイが、ひらひらとこちらに分厚い書類を差し出してきた。


「うわぁ、これはまた……」

「昇進したからにはもちろん、それ相応の仕事を要求するわよ。2人とも♡」

「げぇ。書類は任せましたよ、しぇーんぱい♡」

「おい、またタルタロスにぶち込まれたいか」


 カイに「どーぞ」と促され、2人で書類の端を指でつまみ、おそるおそる覗き込む。

 するとそこには――


「「“新人教育チュートリアル”?」」


 何のことだかさっぱり分からない2人。

 そこに、アシュレイとノルハイコが飛び込んできた。


「お! 久しぶりに見たぞ、それぇ!」

「わぁ! ついに2人も上司となるのですねぇ……おめでとうございます!!」


「「え? 上司ィ??」」


 ここまで言われても、ドゥーとミラの理解は追いつかない。

 居ても立ってもいられなくなったのか、ついにカイが口を開いた。


「察しが悪いわねぇ。貴方たちに部(・)下(・)が付くってことよ!」

「ぶ、部下!?」

「いやいや、そんな急すぎませんか?」


「そんなことはないで、ドゥー君」

「え?」


 アシュレイは馴れ馴れしく、ドゥーの肩に腕を回した。


「バ、バランスを取るため、隊内で2名以上の昇進者が出た場合、原則として新人が自動的に配属されることになっているのですよ、ドゥーさん」

「要するに、上の立場になった者には、次の職員を育てる義務が発生するってことよ。しゃんとしなさい」

「えぇ……」


 もう少し状況説明が欲しいと、ドゥーは辺りを見渡す。

 ヘパーは刺身に齧りついており、インヨウ兄妹もハイペースでぱくぱく食べている。

 ニガールとサイモンは依然として戦闘不能。

 マルタとルールーも会話に加わらず、好き勝手におしゃべりしている。


 もはや、この混乱を解いてくれる助け舟はどこにもなかった。


 刺身の舟はあるが。


「ということで特殊第六執行部隊には来週、新人が来るわ。よろしくね、新人上官さん♡」


【今回の用語まとめ】


■基底界《インタースペース》人の記憶処理

異世界での生を終え、基底界人になる際に受ける処置。

地球・異世界時代の「個人の人生」に紐づく記憶は根元から消去され、通常は思い出すことも夢に見ることもない。


■技術・専門知識の保持

記憶処理後も、前世で培った技術や専門知識までは失われない。

ドゥーの剣技や『アバドン・システム』の扱い方が残っているのも、この仕組みによるもの。


■ドゥーの記憶異常

通常の基底界人が保持しているはずの「自ら基底界人になる道を選んだ記憶」や、その後の説明を受けた記憶すらドゥーには存在しない。

気づいた時にはRAC執行官として働いていたという、極めて異例の状態にある。



――――――――――――――――――――――――――――



ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



よろしければ、フォロー・ブックマーク・感想などいただけますと励みになります。

感想については、質問・ご指摘・話の感想など、なんでもお気軽にお寄せください~!!全て受け止めます!!



※AIの利用について:

・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。