CASE.057「噂の彼ら」
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「では、自己紹介をば……俺は第五執行部隊隊長、アシュレイや。よろしく、子猫ちゃんたち♡」
「マルタよ」
「ルールーでぇーす。よろぴ~」
まず自己紹介の先陣を切ったのは、第五執行部隊の3人だった。
明るい蜂蜜色のツインテールを揺らすギャル――ルールー。
灰がかった黒髪を肩口で切り揃えた、どこかカイの亜種めいた女性――マルタ。
そして第五執行部隊の隊長。藍色のウルフカットに青と水色のメッシュが入り、褐色の肌をしたイケメン――アシュレイ。
なかなかに見た目の濃い面子である。
「いやぁー、ずっと一目お会いしたかったんだよねぇ。ドゥー執行官」
「あら。思ったより小さいのね。もっとごついの想像してたわ」
「あれぇ、なんで装備脱がないの? 普段からこんな感じー?」
矢継ぎ早に質問を浴びせられ、ドゥーは早速人見知りを発動して戸惑い始める。
そこへカイの助け舟が入った。
「コラ、私たちの執行官ちょっと人見知りなんだから! 早く座って、座って」
「へぇ~。だから仮面被ってるのぉ? か~わ~い~い~♡」
「…………(はよあっち行け)」
ドゥーは心の中で「しっしっ」と第五の3人を追い払う。
第五執行部隊は、この3人のみの参加。全員が私服である。
カイが用意した席に腰を下ろすと、今度は奥で控えていた、冴えない丸眼鏡の女性が遠慮がちに口を開いた。
「あ、あの……」
「ん? あ、ノルちゃん! ほらほら、アナタも挨拶しなさい」
カイに引っ張られ、その女性はあわあわしながら1歩前へと出る。
「あ、あの……ご紹介に預かりました『ノルハイコ』と申します。あ、一応第四執行部隊の隊長をやらせていただいておりま、す」
「え”ッ、ノルハイコ先輩って、あの二刀流のノルハイコ!?」
名を聞いた途端、ミラがガタンと立ち上がった。
勢いで隣にいたヨウがジュースを吹き出し、あからさまに嫌な顔をする。
「あ、ああ、ハイ……そのノルハイコです……」
「わぁー!! マジっすか! やったー、ガチファンです! 応援してるっス!!」
(へぇ、コイツに推しなんてものがいたのか)
てっきり機械の部品にしか興味のない酔狂な奴だと思っていたが、どうやらこのノルハイコという女性に熱を上げているらしい。
「あら、ミラ。ノルちゃんのこと知ってるのね」
「あったりまえじゃないッスかぁー! なんてったって、RAC唯一の執行官とオペレーターを兼任する御方なんスよ!?」
「――ブフゥッ!?」
「アタシ、この方に憧れてオペやってるんですもん~」
とんでもない情報が横切り、ドゥーは思わず吹き出した。
仮面の口部が酒にまみれ、インにゴシゴシと力強く拭いてもらう羽目になる。
「オ、オペレーターと執行官だと……?」
「そうッス」
「ノルちゃんは準特級オペレーターでありながら、同時に上級執行官でもある稀有な存在なのよ」
「そ、そんなっ! 私なんて……」
ノルハイコはもじもじしながら、眼鏡をくいっと持ち上げた。
彼女の見た目は、少々のそばかすに真ん丸の丸眼鏡。
茶髪を短く後ろで雑に束ねており、とても日々手入れをしているようには見えない。
服は普通のジャンパーに、何の変哲もないジーンズ。
どこを見渡しても普通。
普通の権化のような存在だ。
こんな冴えない女性が、特級の一歩手前に上り詰めながら、同時にサブの役職でも上級執行官を務めている。
その事実はドゥーにとって信じがたいものであった。
「執行官は上級だけど、戦闘力は準特級といっても差し支えないわ。んね、ノルちゃん?」
「ア、アハハ……」
(バケモンじゃねえか)
人は見かけによらない。
また1つ学習したドゥー。
彼も見た目はアレの割に意外と意思疎通ができるので、大概である。
するとノルハイコの後ろから、ぬっと巨漢2人が顔を出した。
「隊長が名乗ったのなら、俺も名乗ろう。ニガールだ」
「サイモンです。以後、よろしくお願いします」
黒髪をオールバックにし、額からチョンと1本だけ触角のような髪が出ている男――ニガール。
そして坊主の糸目――サイモン。
どちらもヘパーほどではないが筋骨隆々で、断然こちらの方が目立つ。
初見なら、ニガールが隊長だと言われても疑いはしなかっただろう。
そんな芋めいた女性が、マッチョ2人を携えている。
その珍百景じみたギャップにドゥーは逆に興味を惹かれてしまっていた。
「おう、今日はおめえらだけか」
ヘパーが尋ねる。
「あ、はい…。今日は私たち3人だけです」
「おいす、ヘパーの旦那。世話になってます」
「お世話になっております」
マッチョたちはペコペコとヘパーに頭を下げた。
そんな彼らを、ヘパーは軽くあしらう。
「おいおい、そんなかしこまんじゃねえって。たかが数回武器の調整をしただけだ。大したことねぇ」
(なるほど……)
どうやらヘパーは、この2人と顔見知りのようだ。
彼の口ぶりからすると、第四執行部隊の武器調整を担当していた時期があるのだろう。
カイはいそいそと椅子を用意し、第四の3人もようやく腰を下ろした。
これで第四、第五執行部隊も全員席に着き、ヘパーを含めた13名の大所帯が1つ屋根の下に集まった。
こうして見るとなかなか壮観である。
執行部隊がこれほど集まるのは、意外と珍しいのではないか。
そう思ったミラは、携帯で写真を撮ってみたりする。
「お集まりいただき感謝するわ、みんな」
「ええって、カイちゃん。君のためなら任務中でも馳せ参じちゃうよん♡」
「それはダメよ、隊長」
「隊ちょ、それは規約違反案件だしー」
「あの、誘っていただき、大変光栄です……」
「こうして3部隊が集まるのは稀だからな。今日は腹を空かせてきたぜ」
わいわいと、それぞれが好き勝手に言葉を発する。
一気に店内が賑わい、店主が「サービスだ」と、お通し代わりの飲み物をジョッキで全員に配り始めた。
全員の手に飲み物が渡ったところで、ヘパーが高らかに宣言する。
「よっしゃ!! 御託は要らねぇ、乾杯だぁッ!!」
「「「乾ぱーい!!」」」
――
宴の場と化した店内は、終始大盛り上がりであった。
一同は大体3つのグループに分かれ、酒と色とりどりの御馳走に囲まれながら談笑していた。
カイをはじめとした女性陣中心のグループ。ちなみにヨウも混ざっている。
ヘパーをはじめとした酒豪グループ。こちらには第四の筋肉2人と、なぜかインが参加。
そして最後に、ドゥーとユリス、第五隊長のアシュレイという異色のグループが出来上がっていた。
「いやはや、痛快だったで。ドゥー君のあのアナウンス」
「どうも……」
「ユリスはんも、なんか言ってやってや!」
「そうだね。確かにアレにはさすがの僕も驚かされた。さすが我らが特六の執行官だ」
このグループは、終始ドゥーの話で持ちきりだった。
ただ、この大所帯の中心になるよりは遥かにマシである。
奥の方でキャーキャー騒いでいる女性陣や、ひたすらどす黒い酒を呷り散らかす化け物集団と比べれば、ここは天国だった。
「んで、どうなんや?」
「え?」
「これや、これ」
アシュレイは両手でハートを作ってみせた。
だが、そういう話題ほど今のドゥーに縁遠いものはない。
頭の上にいくつもの疑問符を浮かべ、首を傾げる。
「第五隊長は、もしやミラオペレーターのことを指しているのでは?」
「ミ、ミラァ!?」
「そうそれ♡」と、アシュレイはユリスへウィンクを送る。
ドゥーの声に反応したのか、奥の方でミラがこちらをジト目で見ていた。
「ミラちゃんとはどうなんや?」
「え、いやいや。無いでしょ(笑)。だいたいどこからそんな根も葉もない噂が……」
「え~、ほんまかいなぁー?」
そこでアシュレイは携帯を取り出し、何やら操作を始めた。
すると――
――頼む、相棒。お前の力が必要だ。
「げぇ!」
「ほらぁ~、こんな熱いプロポーズ♡ こんなん残しておきながら“無い”はあらへんがな」
携帯から再生された音声は、かつてロザリアの案件でドゥーが発したあの言葉。
ミラにRAC本部の全アナウンスのハッキングを要請した時の、よりにもよって一番切り抜かれたくない台詞だった。
ドゥーは瞬時に携帯を奪い取ろうとするが、アシュレイは華麗に回避する。
盛大にずっこけ、床にうつ伏せの形で見上げた。
「ちょちょちょ! なんでアンタがそれを――」
「いやな、実は君たち第六の先の任務映像が大量に流出してなぁ~。たまたまこの音声を発見したというわけや」
「流出って、どういう……」
カイの方を見ると、彼女はこちらに視線を向け、即座に目を逸らした。
ドゥーは四つん這いになりながら、カイへ急接近する。
「どういうことですかぁーカイさんッッ」
「いやぁ~ん♡ 浮気はダメよぉ、ドゥーちゃん~♡ 貴方には愛しのオペレーターが……」
「おい、話を聞け酒カスビッチ」
「なになに?」と女性陣、特に第五部隊の女性2人が大きく反応した。
当のミラは、訳が分からない様子できょとんとしている。
「なんで任務記録が流出なんてしてるんですか!」
「だってぇ~」
カイの(クソッたれな)言い分はこうだ。
中枢機関からの申し出は、特殊第六執行部隊が保管するロザリア任務のオリジナル映像記録、及びその他資料すべての提出だった。
そこでカイはRAC本部の情報規定を盾に渋りに渋り、その果てに、ミラが目を白黒させるほどの追加予算を受け取るという条件を勝ち取ったのだ。
だが、話はそこで終わらない。
カイもカイで、中枢機関――最上位存在たちの行動には目に余るものがあると、かなりカンカンになっていたらしい。
そこで報復として、映像記録を譲渡する前にバックアップを取り、それをわざと――もとい、うっかり無防備なサーバー上に残してしまったという。
あのアナウンスを受けて、興味を持たない者などいない。
その後、多くの基底界人の目に触れたことで、中枢機関とトール神の癒着がありとあらゆる場所で見事に露見したというわけだ。
「それ、あとでアイツらから何されるか分かったもんじゃ……」
「私は何もやってないわよぉ~。実際に拡散させたのは、基底界に住む人たち。私はちゃ~んとオリジナルを渡したわ」
「そんなトンチみたいな……」
あくまで提出義務は果たした。
その後に誰が閲覧し、誰が拡散したのかは自分たちの知るところではない。
そういう理屈を押し通し、結局お咎めなしで済んだらしい。
仕事一徹のカイがここまで大胆な行動に出たというのは、ドゥーにとっても予想外だった。
納得しつつも、内心ではモヤモヤが強まっていく。
そこへ第五のマルタとルールーが割り込んできた。
「で! で、ドゥー君♡」
「ミラちゃんとはどうなんだよぉー、おい~」
(あぁ、また話がややこしくなったッ)
どうやらドゥーのあの台詞は、かなり出回っているらしい。
いつの間にかRAC内では、ドゥー×ミラなどというカップリングまで成立してしまっていた。
そのうえ、神の悪事を真正面から暴いた英雄として密かに人気が出てきた2人に、さらなる恋路の噂まで追加されたことで、それはウイルスよりも早く広まったのだ。
この事実を知らなかったのは、当のドゥーとミラだけ。
彼らはこのひと月、擬似タルタロスに収監され外部の情報から遮断されていたので仕方ないことだが。
それが今は功を奏しており、ドゥーはミラが未だにこれを認知していないことを唯一の救いとして安堵した。
ちなみにミラはヨウと携帯ゲームで遊んでいるのでこちらの話は耳に入っていないらしい。
「だから……根も葉もない噂ですって」
「嘘乙」
(何が嘘乙だクソギャr——)
「でもね、ドゥー君」
マルタは腰をくねらせ、ドゥーへ顔を近づける。
「恋っていうのはね、そういう根も葉もないところから生まれたりするものなのよ……」
すごく良い匂いがする――というのは置いておいて、マルタは大人の色気を存分に漂わせながら接近していた。
後退しようとするが、いつの間にかルールーに退路を塞がれている。
カイは終始ニコニコしており、助ける気はなさそうだ。
「アナタは彼女のことどう思ってるの?」
「聞かせるまで、ここから逃がさないしー♡」
「うう……」
だからこっちには来たくなかったのだ。
自分から入ってしまった訳なのだが。
「どうもこうもないですよ。俺とミラはただの同僚。それ以上も以下もない」
「ふぅーん」
「つまんな」
「でも、何か最近変化とかは無いの?」
唐突なカイの横やり。
(なぜそんなにもこの話を蒸し返すんだ)
「あるでしょ? こう、ミラを見るとドキドキするとか。何か言葉にできない、胸の奥に引っかかる感じとか」
「ない」
「うそーん」
「ねえっつってんでしょーが」
もうこの話はうんざりだった。
だが女性陣3人は、餌に食いついた猛獣のごとく離れようとしない。
どうにかしてここを脱しなければと、ドゥーは頭をフル回転させた。
その結果、あることを思い出す。
「そういえば……」
「「「うんうん♡」」」
「最近、声を聞きます」
「声?」
声とは、あの声のことだ。
誰のものかは分からない。
けれど妙に安心する、あの少女の声。
「声って……まさかミラちゃんのこと?」
「違う」
「なーんだ」と、ルールーが不貞腐れる。
「どんな声なのよ」
ドゥーは少し考えてから、ここ最近聞こえる少女の声について、自分なりに説明を始めた。
――『起きて、ランドゥー』。
あの、妙に懐かしい声のことを。
【今回の用語まとめ】
■第五執行部隊
隊長アシュレイを中心とするRACの執行部隊。
今回の親睦会には、アシュレイ、マルタ、ルールーの3名が参加した。
■第四執行部隊
ノルハイコが隊長を務める執行部隊。
今回の親睦会には、ノルハイコ、ニガール、サイモンの3名が参加した。
■ノルハイコ
第四執行部隊隊長。
準特級オペレーターでありながら上級執行官も兼任する、RACでも極めて珍しい存在。
ミラがオペレーターを志すきっかけとなった憧れの人物でもある。
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