CASE.004「執行」
ご覧いただきありがとうございます。
本話からいよいよ転生者VS執行官、バトルの開幕です!
小説って言葉だけで激しいバトルを言語化しなきゃならんので非常に難しい…
ではご覧ください、第4話です。
※本作はカクヨム、小説家になろう、アルファポリスにも掲載しています。
「執行対象を確認。『ケイン・アッキネン』――もとい、転生者『サトウ・ケンジ』。執行を開始する」
仮面のモニター越しに、ターゲットの姿が鮮明に映る。
だらしのない腹に、美男の残滓を残した丸顔。概ね資料通りだ――隣の女性を除けば。
「ミラ、あの女は」
「んむ~? ちょっと待ってくださいっスね」
イヤホン越しにカタカタと入力音が走る。
三秒と経たず、ミラが解析結果を読み上げた。
「女性の名前は『ハル・カルコースト』。この街で唯一、ターゲットと親しくしている人間っス。物好きなもんっスねぇ」
「執行対象じゃないんだな?」
「そうっス。ただ規定上、巻き添えで死なせると減点っス。もちろん他の民間人も。なので、できるだけ距離を取って戦ってくださいっス~」
「……了解」
ドゥーは重心を落とし、姿勢を沈める。
次の瞬間――石畳を砕く踏み込みと共に、影が奔った。
ケインの視界から赤いモノアイが瞬時に掻き消える。
今まで「自分より弱い」と判定した相手としか相対してこなかったケインには、到底反応できない速度だ。ドゥーは電光の如く間合いを詰め、がら空きの腹部へ掌底を叩き込んだ。
――パァンッ、という乾いた炸裂音。
衝撃波が路地を引き裂き、周囲の建物の外壁が爆ぜるように砕け散る。
ケインの身体は後方の砦の石壁を貫通し、そのまま城外の森へと吹き飛んでいった。
「…………ッッッ!?!?!?」
何が起きたのか分からない。
ゲームから抜け出たような装束の何かが現れたと思ったら、一瞬で視界から掻き消え――次の瞬間、自分が空を舞っていた。それに腹部が猛烈に痛い。
遠くに街が、海が見える。
二度目の人生にして初めての光景だ。悦に浸る暇もなく、やがてそのまま森へ落下した。
当然武道の心得などないケインは、受け身もろくに取れず、背中から大地へ叩きつけられる。
重量と自由落下の衝撃で、土煙が空高く舞い上がった。
街側からそれを眺めていたドゥーは、背後で後退るハルを脇目で捉える。
「ゲホケッホ……あ、あなた誰ですか……! ケインは!?」
「……この女性はどうするんだ?」
「あぁ、放置で大丈夫っス。後でフィクサーが後処理しますから」
「了解」
フィクサーとは、任務後の後処理担当のことを指す。
目撃者の記憶改ざん、物的証拠の隠滅、被害の補填が主な仕事だ。
ゆえにハルの問いはすべてスルー。余計な仕事は増やさないのが暗黙の了解である。
ドゥーは城外へ吹き飛ばしたターゲットを追うべく、砕けた石壁の穴を潜り抜けた。
――
森の中に転がるケイン。
衝撃で視界がぐらぐらと揺れる。
これも二度目の人生にして初めての経験だ。
吹き飛ばされるのも、視界が歪むのも、身体の内側が熱を孕むのも。
連続する“初めて”の嵐に、呼吸が荒くなる。
「フッフッフーッ……」
頭を振り、ようやく呼吸が落ち着いた頃。視界の端に、ゆらりと赤いモノアイが映った。
「こ、この……誰だよお前ッッ!!」
今まで出したことのない大声が、喉から溢れる。
プロポーズの興奮がまだ抜けず、理性の歯止めは外れたままだ。
「『サトウ・ケンジ』――小心者で、か弱い町娘に依存する転生者……だいぶ様子が資料と違うな」
「な、なななんで俺の名前をッ!?」
先ほどは興奮と怒りで聞き取ることができなかった。
だが今度はしかと耳にする。
それは自分の旧名。
この世界で一度たりとも口にしたことのない、黒い過去の遺物のようなものだ。
なぜそれをこの赤いモノアイが知っているのか。普段なら恐怖して全力で背を見せて逃げ出すところを、心の天秤が怒りに大きく傾いているため、むしろより前のめりになる。
「答えろッッ!!」
(殺すつもりで打ったんだが……さすが転生者というべきか)
ドゥーが右手を開閉しながら呟く。
常人なら腹部から破裂していただろう威力。かなり本気の発勁だったはずだ。
だが結果は“上空へ吹き飛ばす”ことが関の山。目の前のターゲットは、無傷に近く、見ての通りぴんぴんしている。
「は、張り手程度で死ぬわけないじゃないっスか~(笑)」
「……そう簡単には終わらせてくれないみたいだな」
「器は矮小でも能力は英雄そのもの。神の力の一端を授かった転生者っス。気を引き締めてください」
すると、ビキビキと空気が軋む音。
ケインの輪郭が膨れ始める。
「お前も……邪魔するんだなァッ!?」
血管が皮膚を押し上げ、服がブチブチと裂け始めた。
「おぉ、初めて見た! アレが“恩寵”ってやつっスよ、先輩!」
初見の転生者の恩寵を垣間見たことで、彼女の興奮がイヤホン越しに伝わってくる。
対峙している当人からすれば発動前に処理したかったが、不可能になった以上、しばらく様子を窺うのが吉だろう。
――劣等の略奪
“劣等”と認識した対象に触れることで、身体能力・体力・気力を奪う恩寵。
奪われた対象は身体能力が鈍化し、体力が目減りする。同時に、それらはそっくりそのまま自身へ蓄積される。さらに力は累積し、“上限はない”。
つまり、やろうと思えば無限に強化できるチートのごとき能力だ。
ドゥーが再び手を開閉する。
わずかに感覚が鈍っている。
「あれも“触れた”判定になるのか……しかも装備越しに……厄介な能力だ」
「一応“劣等と認識される”のが条件らしいっスねぇ……つまり先輩、絶賛ナメられてるってことっスよ~。プークスクス……あいたっ!!」
また鈍い音がイヤホン越しに響いた。
「ドゥー、よく聞いて」
今度はカイの声。
「彼の能力――劣等の略奪は“接触”で発動するの。つまりパンチやキックみたいな接触攻撃は厳禁よ」
「分かってます」
「フフッ、だからこそ執行官には特別な武器が支給されてるのよね♪」
ドゥーはマントを翻し、腰の柄へ手を伸ばすと、それをゆっくりと引き抜いた。
露わになったのは、カッターナイフをそのまま巨大化させたような刀身――無骨な直刃。金属的な光が月のような天体を受けてきらりと反射する。
「VABO製汎用携帯式カッターブレード『ANUBIS』。アダマンタイトすら断ち割る鋭さよ。これなら――」
「アアアァッッッ!!」
カイの説明を待たずして、ケインが両腕を大地へ叩きつける。
地面が抉れ、その爆発的な反動でケインが急迫した。
「死ねぇあッ!!」
膨れ上がった右腕が、天頂から振り下ろされる。ドゥーは『ANUBIS』で受けた。
すると、あっけなくバギィンッ、とアダマンタイト云々をも断ち割るらしい刃が砕け散った。
刀身の破断を瞬時に見切り、ドゥーは身を翻す。
紙一重でケインの大振りを躱した、その直後――
ズガァァンッ
後方で大地が砕け、土煙が巻き上がる。彼が落下した際の衝撃よりも遥かに凄まじい威力と、広範囲の土煙が高く上空に上がった。
煙が晴れた頃には、ドゥーが元いた場所に巨大なクレーターが穿たれていた。
だが、ケインの身体はさらに膨張を続けている。
「刀身が砕け散ったんですが。カイさん?」
「切れ味はあっても脆いのよねぇ、それ。でも安心なさい。ミラ?」
「ハイっス。『分解』」
砕け残った刀身が柄から切り離される。
「『再起』」
瞬時に、新しい刃が柄の根元からニョキッと“生えた”。
「『ANUBIS』の特徴は、脆いけど生え変わる。それも無限にね。だから思う存分折って頂戴♡」
「あの……やりすぎるとフィクサーの仕事増えるっスよ……」
「あ、じゃ今の無し♪ 頑張って折れないように! ファイト♡(グビッ)」
「ブレードの取り外しはそっちでもできるんで、自分でやってくださいっス~」
(じゃあ、ただの脆い剣じゃねえか……任務中に酒飲んでるし)
だが“切れ味”だけは本物だったらしく、ケインの拳から血が滲んでいる。
それを見て、ケインの動きが止まった。
「……血」
自分の拳の切り傷を見つめる。
この世界に生まれ堕ちて初めての流血。
依頼でも、喧嘩でも見たことのない――自分の血。とはいえ薄皮一枚切れた程度の傷なのだが。
(血……血ィ……ッ!?)
痛みが走る。
戦士ならかすり傷に等しいだろう。だが死闘の経験がないケインにとって、これは激痛そのものだった。
(痛い痛い痛いッ!!)
ケインは戦士ではない。
英雄でも勇者でもない。
よって精神はただの一般人。前世で自ら死を選んだ、齢十六の時点で時が止まっているのだ。
心が未成熟のまま育った彼に、傷を負う覚悟など持ち合わせているはずがなかった。
――それでも、痛みは怒りを増幅させる。
「痛いいいいいい、何すんだよぉおおおッッ!!!!」
「……」
哀れだ。
それがドゥーの率直な感想だった。
最上位存在に勝手に送られ、不相応な力を与えられた挙句、駄々をこねるだけの存在。
神のごとき力を得た者が目の前で怒り狂っている。
それでもドゥーには、敵意すら湧かない。
そこにあるのは――力に呑まれて幼子のように暴れる転生者と、その執行者という、ただただ冷めた関係だけだ。
ドゥーはブレードを弧を描くように振り、構える。
「……参る」
初手を超える踏み込み。
電光の如く背後へ回る――が、ケインが首をぐるりと回した。
(反応している……“動体視力”も身体能力に含まれるのか?)
ケインの左腕がラリアットの軌道で薙ぎ払ってくる。
ドゥーは上体を捻り、刃で衝撃を綺麗にいなした。バギンッ、とまた刃が砕ける。
ラリアットの余波が周囲の森を薙ぎ倒し、その威力を物語っていた。
「『分解』、『再起』」
空中で刃を即座に再生。
いなした勢いを乗せたまま、ドゥーは首筋へ回転斬りを叩き込む。
ブシィッッ
鎖骨上窩に深い裂傷。鮮血が噴水のごとく迸る。
「ギイイイイイイイイッッ!!」
しかしケインは怯まない。
反対の腕が、暴風のように薙ぎ回される。
ドゥーは膝を沈め、上体を大きく反らして躱す。
そのまま右ふくらはぎを撫で斬りにし、バックステップで距離を取った。
「ウギィッ……」
さすがの深手にケインの動きが止まり、膝をつく。
出血で顔色は蒼白く、全身が小刻みに震えていた。
「大人しくしろ、サトウ・ケンジ。お前は――」
「なんで……」
「ん?」
「なんで……なんでこんなことするんだよぉッ!!」
素朴だが、至極真っ当な疑問。
せめてもの情けにドゥーは返答を選ぶことにした。
「お前は第四級累積型執行対象だからだ」
「………………は?」
「お前は上の連中の意にそぐわない生き方をした。それだけだ。故に処理する」
「……何言って……」
事務報告のように淡々と告げる。
「英雄たる力を持ちながら、その責務を全うしなかった。挙句、弱者を弄び、力を奪い、蹂躙した。そして何より――お前は唯一の肉親を殺した。それがお前の罪状だ」
「ち、違う!! お、俺は、僕は悪くないッ!! 悪いのは全部この世界なんだァッ!!!」
叫ぶと同時に、肩口の流血が止まる。
筋肉の収縮による物理的な止血。
人間離れした荒業を目にし、ドゥーはわずかに目を細めた。
(筋肉の凝縮による止血……無意識でやっているのか?)
止血と共に、膨張が再開する。
「アイツらは僕の親じゃないッッ!! 俺は悪くないんだァッ!! 悪くないんだァアアああ亜アアアッッ!!!!」
「お、おいおい……」
膨張に止まる気配がない。
今やケインの躯体は、常時の十倍を超えて膨れ上がっていた。
「ァァァアアアッッ!!!!!」
さらに膨らむ。
何にも触れていないにもかかわらず、膨張が止まることを知らない。
(…………触れずに膨張……どういう原理だ……?)
その時、イヤホンからミラの声が跳ねた。
「先輩ッ!! まずいっスよぉ~! ターゲットの劣等の略奪の“解釈”の規模が膨れ上がってます!!」
「……解釈?」
「アイツ、この世界そのものを見下してるっス! えーと、えーと、つまりですね――」
「――まさか、この世界に存在するだけで無限に強化できるってことじゃないだろうな?(馬鹿だろ、これ付与した神)」
でたらめな能力だ。
解釈次第で、世界そのものから力を略奪する。大地も、空気も、ただ触れているだけで発動するのなら――
(――十中八九、これが主な執行理由だろうな)
最上位存在――彼ら神々は、逸脱した過剰な力を嫌う。
自ら授けたチートを扱い切れないと判断した瞬間に切り捨てる。無慈悲で無責任な所業である。
(つくづく、上の連中の考えることは分からんな)
ドゥーはひとつ息をつく。
「もういい」
「先輩ッ、アイツどんどん大きくなってるっスよぉ~!」
膨れ上がるケインを前に、ドゥーはブレードを腰に収めた。
だが、戦意を失ったわけではない。
「ちょっと先輩ィッ!?」
「ミラ」
「……はい!?」
「カイさんを呼べ」
「へ?」
「俺の恩寵を使う」
「げぇ!?」
ミラの嫌そうな声。
背後でカイがドタドタと駆ける気配が伝わってくる。
「ドゥー、アナタ正気!?」
「正気も何も、コイツはもう一般装備のおもちゃで倒せる域じゃないでしょうが」
ケインは止まらない。
もはや城ほどの巨体となり、街でも異変に気づいたのか喧噪が広がり始めている。
この怪物は、もはや支給された量産武器でどうこうできる段階をとうに越えていた。それはモニター越しのカイやミラも重々承知している。
「カイさん」
「う~~~ッッ……あとで怒られるのは……まぁ全部監督に擦り付ければいっかなぁ? またお酒買ってこなきゃ……」
「ミラ」
「ふええ……マジでやるんすか。散々あんなに上から控えろって……」
「ミラ」
「はいはい! もう知らないっスからねぇ!!」
カタカタカタカタ、と長めの操作音。
直後、ミラの報告が返ってくる。
「きょ、許可が出ちゃいました……制限時間は三分。『グレイプニル』解除上限は二〇%っス」
「了解」
ドゥーが指の節々を鳴らす。
ここまでの戦闘は、肩慣らしに過ぎない。
彼の真骨頂はこれからなのだから。
「『アバドン・システム』、起動」
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――報告。
地球時間062003ZJAN25
RAC本部は特殊第六執行部隊による恩寵発動要請を受理。
下級執行官『ドゥー』の『アバドン・システム』の起動を確認。
RACより第3~5執行部隊へ伝達。
プロトコルⅢを発令。各員、非常時に備え緊急出動に備えよ。
追記:『ANUBIS』開発者、最上位存在が一柱――アヌビス神から一通の報告を確認。
「吾輩の傑作をおもちゃ呼ばわりとはいい度胸だ」
以上。
【今回の用語まとめ】
■劣等の略奪
ケイン・アッキネンに与えられた恩寵。
“劣等”と認識した対象に触れることで、身体能力・体力・気力を奪い、自身へ蓄積する。
奪った力に上限はなく、蓄積次第では非常に危険な能力となる。
■恩寵
転生者に与えられる特殊能力。
本来は第二の人生を歩むための力だが、使い方次第では世界を脅かす災厄にもなり得る。
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・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




