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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第一章「特殊第六執行部隊」1-1「ケイン・アッキネン編」
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CASE.003「サトウ・ケンジ」

ご覧いただきありがとうございます。

全話ではケインの暴れっぷりがスゴかったですねぇ…そんな彼を救う者は果たしているのでしょうか?


ではご覧ください、第3話です。


※本作はカクヨム、アルファポリスにも掲載しています。

(クソクソクソクソ、クソ共が!!)


 ケインは早足で、自宅への帰路を急いでいた。

 組合で報酬を受け取ったにもかかわらず、その表情に喜びは一切ない。

 組合の連中から向けられた幾多の軽蔑の視線。

 ケインには、それに大いに見覚えがあった。



 けーんじく~~~ん?? 今日の友達料金ちょうだいよぉ?

 おいおいコイツ漏らしてるぜ。

 ちょっと~、汚ないって(笑)

 小突いただけだっての(笑)。健士くんはほんと泣き虫で弱虫で不細工で頭悪くてほんと――



 ――何しに生まれて来たの??



 こういう時に限って、脳は活性化し、遠い過去の記憶を悪夢のように呼び覚ます。


 バキンッと過去を振り払うように、ケインは銭袋を叩きつけ、そのまま勢いよく踏み抜いた。丁寧に舗装された路面に亀裂が奔り、銭袋の中の通貨は無残に潰れて使い物にならなくなる。


 轟音に反応し、民衆が蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 ある者は買い物籠を放り出し、ある者は窓を閉め、ある者は扉を内側から閂で封じる。

 完全なる腫れ物扱い。


(ちくしょう、ちくしょう! 俺は悪くない! 俺は悪くない! 俺は――)


「大丈夫?」

「……ッッ!!」


 一人の少女がケインに声をかけた。

 ケインは勢いよく振り返る。


 そこにいたのは、茶色のショートカットの、どこにでもいる町娘。


 ――ハル・カルコースト。

 幼い頃からの友人であり、唯一の味方――つまり幼馴染だ。


「ハ……ハル……」

「どうしちゃったの? あーあ、お金がぺちゃんこ」


 たった一人の理解者に、恥ずべき姿を見られた。

 とはいえ、醜態を晒すことなど今さら珍しくもない。


 ケインは深く俯く。決して彼女と目を合わせないよう、石畳の一点だけを見つめた。

 だが、ハルはその手を躊躇なく握る。


「ごはん、まだでしょ? 私ん家で食べよ?」

「……う、うん」


 ハルにされるがまま手を引かれ、歩き出す。

 思わずケインの頬が赤らんだ。



 ――――



 その夜、ケインとハルはひとつ屋根の下で夕飯にありついていた。


 一切れのパンと、温かな野菜と肉のスープ。

 質素ではあるが、ケインの心にはそれだけで救いの光が差し込む。


 彼と同じく、ハルも幼い頃に両親を失った。以来、たった一人で日々を食いつないでいる。

 似た境遇だからこそ通じるものがあるのか、ハルはこの街で唯一、ケインと対等に話せる――得難い存在だった。


「今日はなんの依頼だったの?」

「え?……う、グレイウルフの……と、討伐依頼だよ」

「アハハッ、それを一人でやっちゃったんだ? さすがだね、ケイン」

「……う、うん」


 他愛ない会話。


 実際、グレイウルフは獰猛な獣として危険視されており、下級冒険者が五人での討伐を組合が推奨しているほどだ。

 それをたった一人で、しかも極短時間で済ませるのだから、ハルが純粋に凄いと思うのも当然だった。

 街の安全に大いに貢献しているはずなのに、街から返ってくる反応は極めて冷たい。


 明るく振る舞うハルとは対照的に、ケインは終始目を合わせず、ぼそぼそと返答するだけだった。

 幼馴染に対してすらこの体たらく。

 これが、“神童”であるはずのケインが、いまだこの街を離れられない理由でもある。


 対人能力の根本的な欠落。

 己の感情を表に出せない小心さ。

 どの世界においても、人が社会を形成する以上必要とされる基礎的な素養。


 それがケインには、致命的に欠けていた。


 多くの期待を裏切り、両親の願いさえも踏み躙った末の待遇が、今の現状なのだ。


 ただし――なまじ戦闘力だけは、そこらの上級冒険者と比較にならない。

 ゆえに誰も逆らえない。誰もが出て行ってほしいと願いながら、それを口にできないでいる。


 一方、ケインは外が怖い。

 そして何より、彼はハルに精神的に著しく依存していた。


 買い物をするときも、組合所で手続きをするときも、いつでもハルが隣にいる。

 彼はその環境に慣れ切ってしまい、自立という言葉が、いつの間にか彼の辞書から抜け落ちていた。


 

 心とは弱く、流動的。

 誰もが毛嫌いする中、それを意に介さず助けてくれる異性がいるとしたら――その人は何を思うだろうか。


 恋。

 ケインは、ハルに恋をしているのだ。


 だが、それを言い出せるはずもないだろう。

 自分の思いを伝えることは、グレイウルフの群れと対面するより遥かに怖かった。


 もし拒絶されたら?

 もし嫌いだと言われたら?


 そんな妄想を繰り返すばかりのケインは、この思いを七年間、胸の奥に閉じ込めていた。


「あ、そういえば牛乳切らしてたかも。ちょっと行ってくるね?」

「……ッ!」


 思わずケインは、立ち上がるハルの手を反射的に掴んでしまう。

 それは「もう暗いから危ない」という正当な理由ではない。

 ただ一人にしてほしくない――そんな情けなく身勝手な私情だった。


「ふふ♪ じゃあ一緒にいこ?」

「……う、ん」



 街を歩く二人。

 牛乳と少しばかりの果物が入った袋を手に、夜の街を進む。


 地方の街とはいえ、一応は交易中継都市だ。夜でも街灯は点き、そこそこ明るい。

 居酒屋も多くが営業しており、夜空の星々と相まって妙にロマンチックだった。


 しばらく歩いていると、居酒屋の前で男が花束を女に差し出しているのがケインの目に入る。

 花を受け取った女は目に涙を滲ませ、周囲の客は笑顔で囃し立てていた。


(あ……)


 おそらくプロポーズだろうか。

 一組のカップルが、この街で夫婦になる瞬間。

 それを華々しく祝福する客人たち。


 ケインは、思わず立ち止まり凝視してしまう。


(……いいな)


 自分には縁がないと思っていた“結婚”という、キラキラした憧憬。

 だが今、隣には気になる異性がいる。

 美しい夜の街と、仲睦まじい――生まれたばかりの夫婦。


 二度目だが、心とは常に流動的だ。

 弱い心ほど、外の環境に流される。


(……俺だって…………)


 ケインは突然、ハルを置き去りにして駆け出した。

 ハルは戸惑い、追おうとするが、身体能力が違いすぎてすぐに立ち尽くす。



 ――数刻後。


 ケインが戻ってきた。


 いつなら全力疾走を半日続けても汗一つかかない男が、今は全身に汗を滲ませ、息を荒らげていた。

 そのままハルの手を掴み、人気のない路地へ引っ張り込む。


「ちょ、ちょっとケイン!? どうし――」


 言い切る前に、視界が花で埋まった。


 目の前に突き出されたのは、色とりどりの大きな花束。

 視線を落とすと、跪いたケインがいる。


「ケ、ケイン??」


 ケインが、珍しく声を張り上げた。


「ハ、ハル!! 俺と……け、けけ結婚……してください!!」


 勇気を振り絞った末の言葉。

 衝動に押し出された、突発的な行動。

 憧れの光景を目にし、それを自身の境遇と重ねたことで、「きっと自分も」という根拠の薄い自信が、彼の原動力となっていた。


 あまりに突然で、ハルは呆然とする。

 ケインは頭の中で勝手に結論を積み重ねていく。


 自分より劣る雑魚が結婚できるなら、自分にもできるはず。

 四面楚歌の中でも仲良くしてくれているハルなら、受け取ってくれるはず。

 ハルは自分のことを好きに違いないはず。

 恋をしているのは自分だけじゃない。相思相愛に決まっているはず。

 ハルは――


 だが、ケインの期待を裏切る言葉が、ハルの口から発せられた。


「ケイン、どうしちゃったの? どこで買ってきたの、これ」


(あれ?)


「これ、街の中心の花屋さんの? 一番高いのじゃない?」


(おかしいな)


「もしかして依頼の報酬金、使っちゃったの?? 生活費はどうするの? ケイン、聞いてる?」


(なんでだ)


「……とても嬉しいけど、これは返品しよ? 私はケインの隣にいるだけで十分だから……私がやっておくからね? ……ケイン、あのね」


(なんで俺は……なんでこの世界は――)


「私はあなたのことが――」



 ――僕の思い通りになんないんだッッッ!!!!!!!



 ケインの脳は、怒りと絶望に呑まれていた。


 怒りに任せ、ハルの首を絞め上げ、そのまま建物の壁へ叩きつける。


「あッ……ぐ……」


 人通りの少ない路地。

 叫んでも助けが来る可能性は低い。ケインは意図的にそういう路地を“選んだ”のだ。

 そして首を絞められている以上、声そのものが出ない。


「なんでッッ!!!!!!」

「け……い……」

「なんでいつもいつもこうなるッッッ!!!!!!!!」


 意識が朦朧とする。

 万力のごとき握力で締め上げられ、視界が急速に白んでいく。


「どいつもこいつも馬鹿にしやがって!!!!」

「……」

「お前もどうせ裏で馬鹿にしてたんだろッ!!!! なぁッ!?!?」


 ところが事実は正反対だった。

 ハルは微塵もケインを卑下したことはない。

 むしろケインを馬鹿にする連中を叱ったことさえある。そのせいで後ろ指をさされ、ケインと共に煙たがられてきた。


 だが、そんなことをケインが知る由もない。


 勝手な好意。独善的な告白。

 勇気を振り絞った“結果”が、このざまだ。


 ケインの我慢は、完全に決壊してしまっていた。

 理性の箍が外れ、我を失っている。


(また、あの目だ!!)


 ありもしない妄想による幻覚から、前世の記憶が鮮明によみがえる。


(この世界でも結局こうだ!!)


 トラウマが、ケインの心を侵食する。

 もはや誰も彼を止めることはできない。


(どいつもこいつも…………)


 ケインが拳を振り上げる。


(この世界も俺を見下すなら――)


 ギリギリと血管が浮き出るほど握り締められた拳。

 ハルは己の運命を悟り、目を閉じた。



(全部、ブッ壊して――)


 拳を振り下ろそうとした、その瞬間――路地の奥に、一つの影が現れた。


 気配を感じ取ったケインは、反射的にハルを放してしまう。


「執行対象を確認」


 金属的な装束に、冷たい機械的な声。

 赤黒いモノアイ。

 その眼光が、暗い路地の中で不気味に揺らめく。


「これより『ケイン・アッキネン』……もとい、転生者『サトウ・ケンジ』の――」



 ――執行を開始する。



 


 ――――――――――――――――――――――――――――――



 ――報告。

 地球時間061958ZJAN25


 特殊第六執行部隊、下級執行官『ドゥー』がターゲットと接触。戦闘の開始を確認。

 各員、執行対象『サトウ・ケンジ』の排除を最優先とし行動を開始せよ。

【今回の用語まとめ】


■サトウ・ケンジ

ケイン・アッキネンの前世における名前。

現世のケインが抱える劣等感や被害者意識の根源に関わる人物。


■ハル・カルコースト

ハルヴェインに暮らす町娘。

幼い頃からケインを知る、彼にとって数少ない理解者。



――――――――――――――――――――――――――――


ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ


いよいよ次話からバトルが始まりますねぇ~!

腕(肉球)が鳴るッ!!


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感想については、質問・ご指摘・話の感想など、なんでもお気軽にお寄せください~!!全て受け止めます!!


※AIの利用について:

・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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