表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第一章「特殊第六執行部隊」1-1「ケイン・アッキネン編」
PR
4/56

CASE.002「ケイン・アッキネン」

ご覧いただきありがとうございます。

全話では本作の主人公組「特殊第六執行部隊」が登場しました。

じゃあターゲットは何処だって??


ではご覧ください、第2話です。


※本作はカクヨム、アルファポリスにも掲載しています。

 ある男が森の中を駆ける。


 月に一度回ってくる、下級冒険者向けの定期依頼。

 内容は至極単純――街道近くの森に出没する小型魔獣の討伐、あるいはその痕跡調査だ。

 危険度は高いにもかかわらず、報酬は労力に見合わぬ雀の涙。

 それでも請け負う者が絶えないのは、他に仕事がないからに他ならない。


 男の身なりは、その依頼にふさわしかった。

 幾度も継ぎを当てられたローブは、洗濯を重ねるうちに元の色を失い、くすんだ泥色へと成り果てている。腹回りには締まりがなく、走るたびにだらしなく揺れた。装備も安物で、剣は手入れが行き届いているとは言い難い。

 顔立ちだけは整っているが、輪郭は贅肉に覆われ、その印象も台無しだ。

 見てくれは、どこにでもいる“下級冒険者”。


 ――少なくとも、外見だけは。


 男は木々の間を縫うように走る。

 その速度は、明らかに常人の域を超えていた。

 通り過ぎた空間に突風が生まれるほどの加速。湿った落ち葉の上でも足取りは一切ぶれず、露出した木の根を踏み外すこともない。急な下り坂に差しかかっても減速せず、体重移動だけで衝撃を殺し、地面を蹴る。

 息は一切乱れていない。汗一つ浮かんでいなかった。


 見た目と釣り合わない身体能力。

 動きに無駄はなく、まるで最短の進路を把握しているかのような洗練された走り。

 だが、それもそのはず――



 ――この男は、生まれてこの方、一度もこの街の外へ出たことがないのだ。


 男の名は『ケイン・アッキネン』。


 二十四年前、彼はこの世界に転生した。

 恵まれた容姿。恵まれた家庭環境。

 そして文字通り、天より授かった恩寵(ギフト)

 すべてを持って生まれたはずの男は、今や地方の小さな街で、月に一度、下級冒険者として依頼をこなすだけの存在だ。


 なぜ、こうも落ちぶれたのか。

 その答えを、ケイン自身が最も理解していなかった。



「――チッ、早く出て来いよ……」


 舌打ちと共に、ケインは足を止める。

 視線の先には小さな洞穴が口を開けていた。獣臭が濃く、いかにも何かが潜んでいる――そんな穴だ。


「あぁッ!! 早く出て来いよッ!!」


 わずかの間すら待ちきれず、声を荒げながら地団駄を踏む。

 その癇癪に応えるように、数匹の狼型魔獣が姿を現した。


 “グレイウルフ”。

 通常の狼より一回り大きく、灰色の毛並みは所々が灼けたように黒ずんでいる。

 赤く煌めく眼光。群れで行動する程度の知性を持つ、この森の食物連鎖の頂点に君臨する獣だ。

 その中でもひときわ大きな一体が、獲物を見定めるようにケインを睨み――次の瞬間、露骨な怯えへと表情を変えた。


 ケインが放つ、異常なまでの圧。

 それを前に、自らが“狩られる側”であると悟ったのだ。


「ハッ……犬畜生が」


 ケインが地面を片足で蹴る。

 すると草木ごと地面が大きくえぐれ、その反動で一気にグレイウルフとの距離を詰めた。


 見た目にそぐわぬ超高速移動。

 獣特有の優れた動体視力をもってしても、捉えることはできなかった。

 ケインは両手でグレイウルフの胴と首を掴み――


 ブチブチブチブチッッッ


 ――腕力だけで、真っ二つに引き裂いた。

 内臓が飛び散り、両手は狼の血で赤黒く染まる。


「ブフゥーッ……フゥーッ……雑魚が……」


 その光景に、洞窟に残ったグレイウルフたちは完全に竦み上がっていた。

 ケインはそれを見下ろし、口元を歪める。


(……やっぱり、この瞬間が一番キモチイイな。おめーらみたいな雑魚を潰す時がなぁッ!!)



 ――――



 狼の首が入った袋を肩にぶら下げ、血を滴らせながら、ケインは街を歩く。


 交易中継都市『ハルヴェイン』。

 山と森に囲まれた地方の中規模都市で、人口は多くも少なくもない。特徴らしい特徴のない、ごく普通の街だ。

 ゆえに冒険者の質は低く、高位の者は長居せず、低級冒険者の溜まり場となっている――そんなしがない街でもある。


 ケインの目的地は、街に一つしかない冒険者ギルドである。

 ぽたぽたと血を滴らせ、赤い軌跡を引きずりながら歩く姿は、依頼を終えた冒険者というより、何か別のもののようで薄気味悪い。

 表情は暗く、背は丸まり、視線は地面に落ちている。


(……で、この瞬間が一番クソなんだよな……マジで)


 ケインはギルドの扉を開ける。

 中に広がっていたのは、活気に満ちているわけでもない、物語でよく見るような、ごく平凡な組合所の光景だった。


 酒を煽る低級冒険者の三人組。

 依頼登録に来た街娘。

 受付の職員。

 彼らの腫物を見るかのような視線が、一斉にケインへと向けられる。


(……見るなよ。低級共が……)


 ケインは受付台へ向かい、依頼書と、グレイウルフの首が詰まった袋をドスンとカウンターの上に置く。

 乱暴な動作とは裏腹に、口から出たのは、蠅すら怯みようのないか細い声だった。


「……あ、あの……依頼の、勘定を……お、お願いします……」


 あまりに小さな声に、誰も反応しない。


「あ、ああの……!」

「……は、はぁ~い」


 二度目でようやく、受付の女性がやって来る。

 ケインの顔を見て表情がぴくりと引きつるも、営業用の笑みは崩さない。

 袋の中を確認した彼女は、内心でひどく顔をしかめた。


 血抜きもされていない首が六つ。

 袋の底から血が漏れ、床に滴っている。


(……掃除が……血抜きくらいちゃんとやってよね……)


 だが、それを表に出すことはない。

 プロとしての矜持、そして何より――目の前の男を刺激したくないのだ。


「は、はい~……グレイウルフの首、六体確認しました~。こちら、報酬金になります」

「あ……す」


 報酬を渡すと同時に、受付嬢は首袋を引きずり、奥へと退避する。

 ケインもまた、報酬金を懐に収め、入室時の倍の速さで足早にギルドを後にした。

 その背中を見送りながら、彼の姿が十分見えなくなったところで、酒場の三人組の一人が呟く。


「出たよ、“根暗怪力”」

「おい、馬鹿。聞こえるだろ」

「いーだろ別に。どうせ何もできやしねぇよ」

「そんな胆力あったら、今頃こんな辺鄙な街で燻ってねぇよ、だ」

「違いねぇ(笑)」


 それぞれが胸の内に溜めていた言葉を、好き放題に吐き散らす。

 そこへ、酒を運ぶ給仕の女が近づいた。


「もしかして……今の人が噂の方ですか?」

「お、嬢ちゃん新入りか?」


 恐る恐る尋ねると、一段強面の男が揚々と応じる。


「はい、今日からここで働くことになりました! そ、それであの人って……」

「おぉ。ありゃあ、落ちぶれた英雄だ」

「英雄にすらなってねぇけど、な(笑)」


「……落ちぶれた英雄?」


 四人の談笑を奥で聞いていたバーのマスターが、ジョッキを拭きつつ重々しく口を開く。


「昔はな……“神童”ともてはやされてた。すべてを持って生まれた異端児だったんだよ、アイツは」

「でも……じゃあ、なんで……」


「アイツは、親を見殺しにしたんだ!!」


 ジョッキが乱暴にカウンターへ叩きつけられる。

 マスターの激情に、新入りの給仕係は目を丸くした。客の男三人組も「またこの話か」と言いたげな顔をしながら、それでも追加の酒を頼む。


「アイツ――ケイン・アッキネンの両親は、この街の長だった……この街の希望だったんだよ」



 それは二十四年前、ハルヴェインの話。

 町長アッキネン家に、一人の男児が生まれた。


 ケイン・アッキネン、将来を約束された存在。

 誰もが羨む美貌に、何不自由ない家庭環境。そして、天から授かったとしか思えぬ特異な力。

 街は彼を英雄として祭り上げ、看板として未来を託した。


 だが、ケインには一つだけ、致命的に欠けていたものがあった。



 英雄足りうる、“器”が。

【今回の用語まとめ】

■ケイン・アッキネン


今回の執行対象。

地方都市ハルヴェインで低級冒険者として活動している転生者。

自己肯定感が極端に低く、周囲との人間関係も劣悪。


■ハルヴェイン


ケインが暮らす交易中継都市。

山と森に囲まれた地方都市で、高位冒険者はあまり定着せず、低級冒険者の溜まり場となっている。


■グレイウルフ


ハルヴェイン近郊の森に生息する狼型の魔獣。

通常の狼より大きく、群れで行動する。

下級冒険者にとっては危険な討伐対象。



――――――――――――――――――――――――――――



ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ


よろしければ、フォロー・ブックマーク・感想などいただけますと励みになります。

感想については、質問・ご指摘・話の感想など、なんでもお気軽にお寄せください~!!全て受け止めます!!


※AIの利用について:

・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ