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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第一章「特殊第六執行部隊」1-3「ロザリア編」
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CASE.044「騎士たる原点」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、小説家になろう、noteにも掲載しています。

 時は、ちょうど13年前に遡る。


 旧宝国――『宝国カスケリオン』を含む約20の国家がしのぎを削っていた大戦が、最高潮を迎えていた時期。

 100万を超える屍が転がる戦線は各地に広がり、今この瞬間にも、幾つもの命が奪われ続けている。


 その一つが、『旧宝国軍』と『バレンシア開闢戦線』の激突であった。


 三国で編成された同盟戦線は、総力を挙げて宝国軍を圧倒していた。

 数の暴力――バレンシア開闢戦線50万に対し、宝国軍はわずか3万。目を疑うほどの戦力差である。

 にもかかわらず、宝国兵たちは誰一人として戦意を失うことなく、眼前の敵を一人ずつ斬り伏せていた。


 なぜなら彼らの背後には、47万という絶望的な戦力差すら覆し得るたった一つの――だが圧倒的な切り札があったからだ。

 


 一つの防衛線が崩れかけていた。

 宝国の歴戦の兵たちが次々と突かれ、斬られ、一人また一人と倒れていく。


 その最中、同盟戦線の後方で地響きと共に砂煙が噴き上がった。

 十数人の兵が臓物をまき散らしながら宙へ舞い、その煙の中から一人の男が飛び出す。


「“宝剣”だぁーッ!! “宝剣”が出たぞぉーッ!!」


 小隊長らしき男が声を荒らげた。

 それにつられ、優勢に酔っていた戦線側の兵士たちの顔からみるみる血の気が引いていく。


「本当か!?」「誤報では!?」

「今の爆音がそうなのか!?」


 陣中は瞬く間にざわめきに呑まれ、兵たちは思いつくままの言葉を吐き散らした。

 だが、口々に漏れる言葉は違えど、その胸中に芽生えた認識は一つだった。


 実在していたのか、と。


 宝国は現在、10の戦線を維持している。

 総兵力はおよそ100万弱。限りある兵数を無理やり継ぎはぎし辛うじて維持しているという、まさしく背水の陣だった。

 ジリ貧なのは明らかであり、各国首脳の試算では約2年で半壊するはずだった。


 だが、現実はどうか。

 開戦から10年の月日が経った今、なお宝国は健在。

 戦線を維持するどころか、ところどころでは返り討ちに遭った戦地すらあるという。


 この謎を解剖すべく、各国家の首脳たちは雁首揃えて宝国の戦績を分析した。

 その結果、炙り出された秘密は極めて単純なもの――()()()()()の遊撃による理不尽極まる特攻戦術であった。


 類まれなる頭脳を持つ軍幹部たちですら、当初はデタラメだろうと現実を受け入れようとしなかった。

 しかし宝国の戦術は開戦時から何も変わっていない。

 

 一つの戦線の戦力を極端に減らし、その分を残る戦線へ充てる。

 当然、敵国はその薄い戦線を突く。

 だが宝国戦線の撃滅に赴いた兵団は、なぜか見るも無残に蹂躙され、撃退されるという記録が後を絶たなかった。

 それも、たった半刻という短時間で。


 さしもの首脳たちも、ついには受け入れるほかなかった。

 そして、終ぞ一つの結論に至る。


 ――宝国には常軌を逸した化け物がいる、と。


 とはいえ下っ端の兵士たちの間では所詮、噂程度にしか伝わっていなかった。

 無論一騎当千の兵など、どこの国にもちらほら存在する。強さにもある程度の上限があると知っている彼らにとって、仮称“宝剣”と呼ばれる怪物の話は夢物語にしか聞こえなかったのだ。


 だが、それは実在したのだ。

 一つの小隊が目の前でほんの一瞬で葬り去られた。

 

 たしかに“宝剣”はいる。


 しかも、この戦地に。


 討ち上がった彼らの血と臓物が雨のように降り注ぎ、兵士たちはいよいよ現実を受け入れた。

 統制がみるみる瓦解していく彼らの視界に一人の男の姿が映る。


 それは、たった一本の剣を手にしたフルプレート。


 本来なら宝石細工のように輝いているはずの鎧は、今や血と臓物が張りつき、悍ましいとしか言いようのない外見へと変わっていた。

 しかし、それでも傷と呼べるものは一切ない。

 それが意味するのは、“ただの一度も傷を負ったことがない”という事実だろうか。


「あ……あ……うあぁぁぁぁあ!!」

「あ、バカッ!」


 パニックに陥った一人の新兵が、“宝剣”へ向かって突撃する。

 一向に動こうとしない宝剣のその姿に、周囲の兵たちはもしや極度の継戦で疲弊しているのではないかと、淡い希望を抱いた。


 だが、その瞬間――新兵の姿が消える。


 否、消えたのではない。


 新兵の踝から先だけが地面に無造作に立っており、やがてぽてりと倒れる。

 上半身は、どこにもな見当たらなかった。

 

 見れば、“宝剣”が剣を振り上げている。


 もはや言葉を交わす必要はなかったという。

 このままでは自分たちも同じ末路を辿る。誰もが直感でそれを悟っていた。


 そこからは事態の変化は早かった。

 恐怖というものは、言葉よりも早く伝播する。

 誰もが死期を悟り、兵士たちは一斉に雪崩れるように背を向けた。脱兎のごとき敗走である。


 小隊長らしき男たちが「逃げるなーッ!! 戦えーッ!!」と喚いていたが、そのうちの一人の上半身が吹き飛ぶ様を見て、残った者たちも堰を切ったように崩走し始めた。


「……ハァ…………」


 “宝剣”のフルプレートから、深く、深くため息が漏れる。


 今宵もまた、何万もの屍が積み上がるのだ。

 血を愛する倒錯者であれば、心躍る光景なのかもしれない。


 しかし残念ながらこの男――ヴォルツは、真っ当な人間である。

 少なくとも、この状況に胸を躍らせるような性根は持ち合わせていなかった。


 だが、悩む時間もない。

 次の瞬間、彼の俊足は背を向ける敗残兵たちを追っていた。

 


 ――――――

 


「今宵もよくやってくれた。我が最も信望する、最強の宝剣よ」

「は……ありがたきお言葉」


 責務を果たしたヴォルツは、一際豪奢な戦地最奥の天幕にて跪いていた。

 目の前には、赤、青、緑、黄――鮮やかな彩りのバイカラーの髪をはためかせた大柄な男が、王たる風格を纏い、玉座に座している。


 彼の名は『トルマリン=カスケリオン六世』。

 七代目宝国王にして、ヴォルツが認める“王の中の王”だ。


 一段高く積み上げられた玉座に堂々と腰かけているのは、臣下たちが跪かずとも王より頭の位置が高くならぬようにという配慮ゆえであった。

 だが、そんな彼の思惑とは裏腹に、臣下たちはむしろ以前より深く頭を垂れるようになった。

 それほどまでに、彼の大樹のような度量と包容力は、人を自然と平伏させてしまう威厳を放っていた。

 一騎当千のヴォルツですら、頭を下げざるを得ないほどに。


 ……他にも理由はあるのだが。


「これでバレンシアも、もはや戦線を維持する余力は残されていないだろう……して、他の戦況はどうだ?」

「ハッ!! 僭越ながら、読み上げさせていただきまする!」


 王の横に控えていた臣下の一人が、羊皮紙のスクロールを広げ、高らかに戦況を読み上げた。


 ヴァルケン王国、20万に対し12万で善戦。

 レイン共和国、30万に対しこちらは25万。依然として膠着状態。

 三国同盟である黒潮連邦戦線、東方三湖戦線、南玄辺境共同組合戦線はやや押され気味。

 二国連合である白鳳諸侯連合、スカーレット自由都市圏、北天十字盟約戦線とは拮抗状態。

 セブンスソード帝国戦線は苦戦中etc...

 

 そして――ヴォルツが赴いた、バレンシア共同戦線。


「敵総勢力50万に対し、こちらはたったの3万。ですが、我らが“宝剣”の猛撃により敵国の9割を撃滅。残り5万は散り散りに退却中とのこと!」

「そうかそうか……では、レイン共和国戦線からは3万を引き抜き、セブンスソードへ向かわせよ。それ以外は現状維持。それと、バレンシア戦線にて生き残った者たちには労いの言葉をかけよ」


「「ただちに!」」


 その言葉と共に、参謀たちは護衛を引き連れ、次々と幕の外へ飛び出していく。


 王の幕に残されたのは、ヴォルツと王の二人だけ。

 普通ならば、護衛の一人二人は残すだろう。

 だが、その王たった一人に心置きなく任せられるほど、ヴォルツは宝国軍内では信頼されていた。


「そうだヴォルツよ」

「ハ……」

「我は本日をもって一時帰国するが……おぬしも付いてくるがよい」

「ハ、ですが戦線の維持が――」

「よい。この度の戦果で、おそらく他の戦線も迂闊には手を出せなくなる……しばらくは安泰だろう」

「左様ですか……」

「というのもな、ヴォルツよ。3日後に我が愛娘――ダリヤの誕生会があるのだ。父である我も当然として、おぬしも出席せよ」


「……かしこまりました。王がおっしゃられるのであれば、是非……」


 トルマリン王が、優しく微笑む。

 そこだけ切り取れば、ただの親馬鹿な父親の顔だ。臣下――ヴォルツ以外の前では決して見せない、緩みきった表情。それほどまでに、彼は娘を愛してやまないのである。


 もちろん、この提案そのものに対して、ヴォルツも否定的ではなかった。

 各地の戦線を転々とし、かれこれ3年も戦い詰めだ。久方ぶりに母国へ帰るのも、悪くない選択ではある。


 だが、それでも彼の表情には、複雑な感情を押し殺したような翳りが差していた。

 無論、王がそれに気づくことは、無い。


 


 ――――――――


 


 3日後。

 トルマリン王はヴォルツと共に、宝国へ凱旋した。


 軍列はパレードのように大通りを進み、国民のすべてがそれを祝福する。

 トルマリン王自身、久方ぶりの帰国であったため、宝国は総力を挙げて偉大なる第7代王を迎え入れ、その熱狂は実に3日3晩続いたという。


「父上~ッ!」

「今戻ったぞ、我が愛しの娘よ!」


 宝国の総本山――本来のトルマリン王の玉座が眠る王城『ドン・クライム城』に、一行が到着した。

 軍列の後方では、いまだ凱旋の歓声が轟いている。

 だが、小走りで駆け寄ってきた一人の少女の声が、そのすべてを打ち消してしまった。


 この少女こそ、トルマリン王のただ一人の実娘――ダリヤ・モンド・カスケリオン王女である。


 まだ齢13歳。

 トルマリン王と同じ、色とりどりに煌めく髪をはためかせながら、父の懐へ飛び込む。

 トルマリン王はそれを優しく受け止め、苦しくならぬ程度に、しかし確かな力で抱きしめた。


「父上、戦はどうでしたか!」


 ダリヤ王女の目は、きらきらと輝いていた。

 3年ぶりの再会だ。積もる話はいくらでもある。

 だが幼いダリヤにとって、父の語る言葉は自らの世界を何倍にも広げる、壮大で待ち遠しい宝箱そのものだった。

 号外や側近伝いに彼ら宝国軍の武勇は聞ける。だが、それでもやはり、本人の口から語られるものには遠く及ばない魅力がある。

 当然、それはヴォルツに関しても同じであった。


「ヴォルツ、お帰りなさいませ」

「は、ただいま戻りました。ダリヤ王女殿下」


 ダリヤはスカートの端をたくし上げ、幾度も訓練されたのであろう、丁寧な礼を披露する。

 まだ7歳の頃にはなかった“王女の風格”がそこにはあり、トルマリン王は満足げに微笑んだ。

 当然、ヴォルツもさらに深々と礼を返す。


「立ち話ではもったいない。ここは晩餐会でも開き、そこで語り合うとしようではないか」

「わぁー、さすが父上! 私、楽しみです!!」

「では私はこれにて――」

「お前も出席しなさい、ヴォルツ。いずれ一つ屋根の下で暮らすのだ。ここでの暮らしに慣れておいた方がよかろう」

 

「……は、ではお言葉に甘えて…………」


 王の命令に背けるはずもなく、ヴォルツは内心の渋りを押し殺す。

 だが、彼の胸に刺さったのは“晩餐会への出席”そのものではない。

 その後に続いた言葉の方が、魚の小骨のように心中へ引っかかっていた。


 いずれ一つ屋根の下で――

 

 つまりこれは、ヴォルツとダリヤ王女の婚約を意味する。


 愛娘に、最も信頼を寄せる強き男を宛がう。

 それは父としての本懐。トルマリンが単独で決めた約束事であり、ヴォルツの意思はそこに存在しない。

 命令ですらなく、自然な成り行きとして定まってしまった既定路線のようなものだった。


 当然、ヴォルツに拒否する権利は端からないだろう。

 というのも、トルマリン王自身、ヴォルツがこれを喜んでくれていると信じて疑っていないからだ。

 実際、育ての親にも等しい彼の、尊敬に値する“王の中の王”たる彼の、宝石よりも大切に育てられた箱入り娘を伴侶として迎えることはこれ以上ない名誉である。

 そこに、否定的な感情など本来あるはずがない。


 ない――はずなのだが。


「フフ♡ お待ちしてますわ、旦那様♡」

「…………光栄です……」


 もう嫁気分か、とトルマリン王は豪快に笑う。

 無邪気にはしゃぐ無垢な王女と、偉大なる父である宝国王。

 なんとも微笑ましいその光景につられ、兵士たちも自然と笑顔を見せていた。


 だが、ヴォルツはとっくに気づいていたのだ。


 彼らのその笑顔の裏に、怨嗟の淀みが混じっていることに。

【今回の用語まとめ】


■旧宝国カスケリオン

現在のセレスティア宝統府となる以前の宝国。

約20の国家が争う大戦の中心にあり、10もの戦線を同時に維持していた。

当時はトルマリン=カスケリオン六世が王として国を率いていた。


■バレンシア開闢戦線

旧宝国軍と激突していた三国同盟戦線。

総兵力50万に対し、宝国軍はわずか3万という絶望的な戦力差だった。

しかし“宝剣”ヴォルツの投入により、戦況は一気に覆される。


■宝剣

大戦時代のヴォルツに与えられていた異名。

たった一人で戦線を崩壊させる、宝国最強の切り札。

各国首脳が宝国の不自然な持久力を分析した結果、その存在が浮かび上がった。



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・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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