CASE.043「天然のバグ」
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※本作はカクヨム、小説家になろう、noteにも掲載しています。
「久々に……ハッスルしすぎましたかね」
ダリヤ王女諸共、不届き者を吹き飛ばした方角へ目を細めながら、ヴォルツは遠くを見やる。
我ながら豪快に吹き飛ばしたものだ。屋敷は大穴どころか半壊し、もはや屋根という概念すら消え失せていた。
「手ごたえ無し。あれを往なすとは、存外やりますね」
手をぐっぱぐっぱと握り開きし、先ほどの殴打が命には届かなかったことを感触で理解する。
とはいえ無事ではないだろう。
吹き飛ばした方向からして、国外の丘に着地したはず。ヴォルツはさらなる追撃を仕掛けんと、前かがみになった。
「ですが、その前に蠅叩きといきましょうか――」
直後、ヴォルツの背後に2つの影が出現。
ヴォルツは瞬時に身を翻し、金属がつんざく音と共に、その場は虎擲竜挐の戦場と化した。
――――――
「……――い!」
「……せ……――い!」
「ドゥ……――■■■輩ッ!! ……」
「――ハッ!」
ミラによる必死の呼びかけ。ノイズ混じりの叫びで、ドゥーは辛うじて意識を取り戻した。
腹ばいで少しの間、気を失っていたようだ。
(ここは……)
仮面のフィルターも誤作動を起こしており、視覚ノイズがひどい。視界情報をうまく処理できないまま、ドゥーは周囲を見渡した。
辺り一帯に広がる荒野。見渡す限り、それが続いている。
遠方には宝国の城壁らしきものが見える。
おそらくここは、宝国の城壁の外――作戦会議をした場所だ。ヴォルツの一撃で、ここまで吹き飛ばされてきたのだろう。
「う……」
ドゥーの下から女性のうめき声が聞こえた。
慌てて退くと、下敷きになっていたダリヤが姿を現す。
外傷は大きなものは見受けられず、かすり傷程度で済んでいる。
ドゥー自身もまだ視界がぐらつくものの、あの怪力男の渾身の一撃を食らって動けるのだから、相変わらずFREYA様様だ。
しかしガントレットやその他の機能は完全に破損しており、イヤホンの音質も悪化している。
「ミラ、聞こえるか? 応答してくれ」
「……――っかったッス~、先輩ィ■■■……」
「俺はどのくらい飛んでた?」
「……――っとー、約24秒っ■■ス……」
――24秒。
それだけ猶予があれば、あの男なら止めを刺すことなど造作もないはずだ。それをしていないということは、つまり――
すると上空から2つの影が飛来してくる。
瞬時にその正体を察知したドゥーは、受け止める体勢を取った。
ポスンッという、思ったより軽い音を2つ立てながら、見事キャッチに成功。
安心したのも束の間、飛来してきた影はばっとドゥーの懐を離れた。
「ふぃー、あぶな!」
「アイツやばいよ、イン兄ィ~」
インヨウ兄妹だ。
気絶している間、ヴォルツを2人で受け持ってくれていたのだろう。そしてドゥー同様に、ここまで吹き飛ばされたわけだ。
それにしても目立った外傷はない。アレを相手に不詳無しとは、さすが歴戦の執行官というべきか。
「あ、ドゥーじゃん」
「こんなとこで何してんの? あ、メイド長じゃん。まさか駆け落ちィー?」
「ちょっと待ってください……」
今は彼らの冗談に付き合っている余裕はない。
まもなくヴォルツの追撃が来る。
退避は難しい以上、奴を行動不能にするか、せめて力の出所だけでも掴まなければ話にならない。
「お二人とも、予備の武器はありますか? あいにくANUBISが破損して――」
「ない」
「……ですよね」
「もー、あのオンボロ使うの止めたらドゥー? あれ脆いしすぐ誤作動起こすし最悪じゃん」
「ごもっともです」と、ドゥーはヨウの言葉を打ち切る。
二人は明らかなスピード型のため、剣士が持つような中量型の武器は持ち合わせていないのだろう。第一、蛇腹剣を渡されたところで扱える保証もない。
それにこれ以上この話題を続けては、どこかのアヌビス神のSAN値がごりごり削られそうなので、話題を変える。
「勝てると思いますか……アレ」
ドゥーらが視線を向ける先。ヴォルツはゆっくりとこちらへ歩み寄ってきていた。
まるで食膳を運ぶかのように。静かに足を進めるその様は、余裕の表れそのものだ。踵を返して全力で逃げたとしても、一瞬で始末できるということだろう。
「んー、ちょっと今のままだとヤバいかなー」
「んね。多分アイツ、パワーだけならトールのおじちゃんより強いんじゃな~い?」
(マジかよ)
今、とんでもないことが聞こえた気がした。
何も聞かなかったことにしたかったが、何故か「トール神超えの身体能力」という部分だけが鮮明に聞き取れてしまった。
「皆さま、ご無事だったのですね……」
ダリヤが意識を取り戻した。よろよろと起き上がるのを、ドゥーが支えてやる。
今思えば、彼女の警告通りだった。
ヴォルツは恩寵の有無に関わらず、執行官にも手余りする存在だ。警告通りにロザリアを速やかに排除し、態勢を整えてから退避すべきだった。
にもかかわらず、ドゥーの私情というノイズで難度が激化してしまい、罪悪感が浮き彫りとなる。
しかしターゲットが更新された以上、退避という選択肢はもはや存在しない。それに、奴を放置すればダリヤの命が危うい。
何を言っても結果論なので、ドゥーは反省を後回しにすることにした。
するとパチパチという音が聞こえ始める。
火の音ではない。何かを叩く音が、徐々に大きくなっていく。
音の方向に目を向けると、拍手をしながらすぐそこまで辿り着いたヴォルツがいた。
「いやはや。存外タフですね、貴方方は。そちらのお二人も、歴戦の猛者を彷彿とさせる実に良い動きです。よって私も、そろそろ本気でやらねばと判断し、場所を移させてもらいました。第一、あそこでやり合っては宝国に被害が出かねませんから……」
ぶつぶつと、独り言のように考えを整理しながら呟くヴォルツ。
やがてここは戦場となる。
今のうちにダリヤを安全な場所へ退かせようとしたが、彼女が先手を打ってしまった。
「ヴォルツッ!」
「……おや、ダリヤ王女殿下。貴方も生きていましたか」
「なぜ……なぜ父上に反旗を翻したッ!!」
怒りをそのままぶつけるような問いだ。
鬼気迫る形相で怒声を上げるダリヤに対し、ヴォルツは涼しい顔で小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「あぁ、トルマリン王ですか……。そうですね、殺すにはあまりに惜しい御方でした」
「では何故だッ! 貴様はあれほど父上を――王を慕っていたではないかッ!!」
依然として怒鳴るダリヤに対し、ヴォルツの表情が色のコントラストのように徐々に変化していく。
今度は眉間に深い皺を刻んだまま、目だけが痛々しく、哀切を孕んで曇り始めたのだ。
「宝国の民のために幾度も血を流し、多くの敵を葬った! どれだけの恨みを買おうとも、王の命に従う……それが貴様の――トルマリン王の親衛隊長としての騎士道だったはずだ!!」
「懐かしい話をしますね。もう10年以上になりますか。……あれはもう、酷いものでした」
「そうだ、あれほど多くの悲しみを生んだ戦はない。だからこそ少しでも早く終わらせるために、貴様は戦地へと馳せ参じたではないか! それも全てトルマリン王、そして彼が愛した宝国の民のためではなかったのかッ!! それが何故……あんな女の言いなりに……」
「その“宝国の民”のため……ですよ?」
「は?」と、ダリヤは虚を突かれた顔をする。
あの悪女に唆されるのみならず、自ら主君に手をかけた理由が“宝国の民のため”とは、ダリヤには到底理解できない言葉だ。
同じくインヨウ兄妹はともかく、ドゥーもミラもカイも、話の糸口がいまだ掴めずにいた。
(どういうことだ? ヴォルツが元親衛隊? そんな情報は……)
ミラにどういうことだとジェスチャーを送るが、依然として彼女にも訳が分からないようだ。
彼女も彼女で、聞いていた情報と大分乖離していることに疑念を抱き、何度もヴォルツの解析を試みていた。
その結果が――閲覧制限。
ヴォルツの過去の記録を調べようにも、規制がかかったように情報に靄がかかっているという。
どれだけ介入を試みても、その都度蜃気楼のように通り過ぎてしまうという異例の事態に、ミラは「むきーっ!!」とイライラを隠せないでいる。
カイも不審に思ったのか、RAC本部に連絡を試みていた。
どうやらこの案件、だいぶきな臭い何かが絡んでいる。
「お兄さんは王様が好きだったんでしょ? なんで殺したの?」
「ねー、意味わかんない」
インヨウ兄妹の子供じみた――実際子供なのだが――問いに、思わずヴォルツは吹き出してしまう。
「ハハッ……いや失敬、あまりに子供らしい質問だったので。つい……」
「「んん~?」」
「そうですね……確かにトルマリン王は類まれなる才覚を持ち合わせていました。王の中の王――それこそ“賢王”の名に恥じない生きざまでした。それほど私は彼を慕い、同時に畏怖していたのです」
ヴォルツは懐かしむような、遠い記憶をなぞるような目をしている。
「もー――怒りました! そっちがその気なら……こっちもガチでいくっス!!」
堪忍袋の緒が切れたのか、台パンを一発かましてから、ミラが何やら機械を弄り始める音がした。
工具と金属がぶつかる音が断続的に響く。
「ちょ、ミラ何やってんの!!」というカイの悲鳴が聞こえるが、この際何でもいい。
ダリヤの問答で時間を稼いでいる今のうちに、ミラの“ガチ”とやらで、ヴォルツの過去を洗いざらい暴いてもらいたいものだ。
「へっへっへぇ~! 異世界分析器アップグレード完了っス!」
「あぁんた、まさか! また勝手なことを……ッ!! これ何!? まさかあなたの手作りって言うんじゃないでしょうね!?」
「アタシの手作り外付けCPUブースターっス!! これならこのむかつく規制ごと――」
ミラの口から不穏な言葉が聞こえた。
CPUブースター。機械知識に乏しいドゥーにはその意味は分からない。だが、カイの反応からして明らかに条例違反の何かをやらかしているのだろう。
ミラの鼻息荒い気配と共に、爆速のカタカタ音が始まる。ちょうどイヤホンの調子も戻ってきたようだ。
「宝国の民のためだと……!? ふざけるなッ、恥を知れ!」
「あぁ、ダリヤ王女殿下……哀れな、無知な箱入り娘。貴女はいまだ何も分かっていないのですね。いや、城に閉じこもっていた世間知らずの貴女に分かるはずもないでしょう」
心底憐れむような顔をダリヤへと向ける。
彼女は愛しき主人を殺したこの計画の立案者だ。恨まれることはあれど、憐れまれる覚えなど微塵もない。
ダリヤはそれを侮辱と受け取り、怒りで顔が引きつる。歯を食いしばり、怒気をむき出しにしていた。
「貴様に私の何が分かるッ! 実の父が忠臣に殺され、挙句の果てに偽りの汚名を着せられた! その無念を晴らすべく戦い……結果としてロザリアは死んだ! 全て貴様の行いが招いたことだ、ヴォルツ!!」
「偽りの汚名……ですか……」
澄んでいたヴォルツの顔が一変し、静かな殺意を押しとどめるような、常人ならば恐怖で凍えるほどの気配を纏い始める。
「残念ながら、偽りなどではありませんよ」
「な、なんだとッ!」
「非常に聡明な御方でした。だが、それゆえに彼は危険だった」
「……なにを――」
すると、ミラのカタカタ音が徐々に速度を落とし始める。
「思考を巡らせる中で、彼の頭にはいつしか“世界征服”という野望が芽生え始めていました。彼の頭脳と私の戦闘力。決して不可能ではない、恐ろしい夢です」
「な、なにを言っているんだ……ヴォルツ、お前――」
「せ、先輩……やばいっスよこれ……」
同時に、ミラも震えるような声で解析した情報を読み上げ始めた。
「飲まれたのですよ。貴女の父君は――戦禍の最中、他を蹂躙し意のままに制する支配欲というものに」
「……どういうことだ! お前が何を言っているのか、わからない……!」
怯えか、舌がもつれるミラ。喉に言葉が凍りついたように出てこない。
それに痺れを切らしたドゥーは、怒鳴るように続きを求める。
「ミラ、言え!! 何を知った!?」
「は、はいっス! その、ヴォルツの原点は――」
「我らルーンプリンスの望みはただ一つ――」
「――『神域』。彼は、神々側の人間っス」
「――戦禍を望んだ愚王を排し、ロザリア・ディ・エルヴァニスを次世代の慈悲深き女王として君臨させる――ただそれだけです」
【今回の用語まとめ】
■ヴォルツ・ディ・エルヴァニス
ロザリア最初のルーンプリンスにして、彼女の夫とも言える存在。
ロザリアの恩寵による洗脳を受けておらず、純粋な意思で彼女を愛し、支えていた。
その正体は、この世界の通常存在ではなく、“神域”に関わる存在であることが判明した。
■神域
最上位存在たちに関わる領域。
ヴォルツの原点はこの神域にあるとされ、彼が単なる異世界人でも転生者でもないことが示された。
今回の案件に、神々側の事情が絡んでいる可能性を示す重大な情報である。
■トルマリン王
ダリヤ王女の父であり、かつての宝国王。
これまではロザリアたちによって汚名を着せられた悲劇の賢王と見られていた。
しかしヴォルツ曰く、戦禍の中で“世界征服”という支配欲に飲まれつつあったという。
■異世界分析器
RAC本部から支給されているVABO製の分析装置。
ミラの解析能力と組み合わせることで、異世界の情報を高精度で読み解くことができる。
しかし今回、ヴォルツの過去には閲覧制限のような靄がかかっていた。
■外付けCPUブースター
ミラが独自に用意していた解析補助装置。
異世界分析器に接続することで、通常では突破できない情報規制へ強引に干渉した。
条例違反気味の危険な代物だが、今回ヴォルツの正体に迫る突破口となった。
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※AIの利用について:
・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




