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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第一章「特殊第六執行部隊」1-3「ロザリア編」
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CASE.042「最初のルーンプリンス」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、小説家になろう、noteにも掲載しています。

「あぁ逝ってしまいましたか………我が愛しき“ホノカ”」


 ロザリアの亡骸を大事そうに抱えるヴォルツ。

 最初のルーンプリンスにして、最強の騎士。

 夜空の下で亡き姫を抱える様は、あまりにも絵になる。状況が状況でなければ一枚の絵画にでもしたいところだと、ドゥーは現実逃避じみたことを考えた。


「おいミラ。何故奴の洗脳は解除されていない?」

「え、えええーと、ちょちょちょちょっと待ってください~ッ!」


 カタカタと、今までの倍以上の速度でキーを叩く音が聞こえる。

 

 一件落着だと油断していた最中、最後の最後で最も厄介な相手が大爆発と共に現れた。

 落ち着いているように見えて、彼が纏う空気はその真逆。

 戦闘はまず、免れないだろう。


「な、なぜ……貴方はレイン共和国を滅ぼしに向かったはず……」

「ええそうですとも。向かいましたよ? ……煩わしい矮小な小国を滅ぼしに……」


 すっと立ち上がり、ゆらりとヴォルツがこちらへ振り向く。

 冷静を装っているが、ヴォルツからは並々ならぬ殺気が放たれている。

 その矛先は紛れもなく自分であると、ドゥーはカイヤが落とした武器を強く握りしめた。


「そんなはずは……レイン共和国は小国とはいえ、列記とした元軍事国家だ。いくら貴方とはいえ、これほど早く滅ぼすなど……」

「ラブラドーラ、いやダリヤ王女殿下……12年という歳月が経ってもなお、貴方はいまだ自身が見た世界をそのまま現実とみなす悪癖がありますね……」

「な、なんだと……!」


 ダリヤのラブラドーラとしての経験上、国一つを滅ぼすにしても、ヴォルツは早くとも丸一日はかかるという認識があった。

 だがそれを嘲笑うかのように、ヴォルツは苦笑して答える。


「貴方はアリを踏みつぶす際、毎度毎度本気で足踏みなさるのですか、ダリヤ王女殿下」

「……ま、まさか――」


 答えはそのまさかだ。

 部外者であるドゥー達にも、ヴォルツの言わんとしていることは伝わった。

 彼はこれまで、ただの一度も彼女達の前で本気を出していなかったということだ。その気になれば、数時間で国一つを瓦礫の山に変えることができる。

 それがロザリアの執事――最初のルーンプリンス。


「先輩ッ! 解析結果が出ました!!」


 ミラの報告に全神経を向ける。

 この際なんでも構わない。ヴォルツの素性の一端でも判明すれば、対処の糸口になる。


「対象名――『ヴォルツ・ディ・エルヴァニス』。第一のルーンプリンスにして、本ターゲットであるロザリアの執事です!」

「……それで?(それは知っとるわ)」


「あのぉ~、そのぉ~、彼はですね~……」

「なんだ、もったいぶるな!」


 あまりに歯切れの悪いミラに、ドゥーは強く催促する。


「端から洗脳にかかっていませんッス」

「…………は? どういうことだ?」


 何を一人でぶつぶつと、と怪しむヴォルツを差し置いて、ドゥーは頭を回転させる。

 ヴォルツは初めからロザリアの洗脳下にないという新情報。しかしロザリアを主人として慕っているのは事実だ。それに名前が――


「おい待て、今名前なんて言った? 何故、名字が一致するなんてことがある」

「おそらくは極秘婚の類かと……というか、そこまでアタシ知らんスよぉ~!」


「(あぁ)…………なるほど、そういうことか」


 種も仕掛けもない。

 単純にヴォルツという男は、ロザリアを愛していたのだ。


 そしてロザリアもまた、ヴォルツを愛していた。

 今際の際、「ちゃんとした恋がしたかった」などと言いながらも、二人はれっきとした恋仲同士――それも純愛と呼べる愛情を互いに注ぎ合っていた。


 貝塚 穂香(カイヅカ・ホノカ)は最後の最後で、本物の恋をしていたのだ。


「じゃああのばかげた身体能力はなんだ……そもそも何故、接近するまで気づかなかった!」

「ご、ごめんなさい~! ただ洗脳抜きでこれという事は、おそらく元から……」


(「元から化け物じみた身体能力を持っていたッス」とか言うんじゃないだろうな……)


 ミラの超解析は、ドゥーを中心に最大半径約5kmを二、三秒に一度、レーダーのように探知している。

 RAC本部から支給されているVABO製の異世界分析器(アナライザー)は、自他ともに認める一級品の装置だ。誤りや誤作動などあり得ない。それがミラの能力と組み合わされば鬼に金棒となる。


 だが、ミラの探知範囲に引っかかる前にヴォルツは姿を現した。

 ヴォルツの接近を検知しなかったということは、到着するまで半径5km圏内に彼は存在していなかったということだ。そして同時に、それは恐ろしい事実を暗示していた。


(……まさか、跳躍したのか。たった数秒でミラの探知範囲外からここまで……)


 それが事実であれば、目の前の男は上位存在である執行官級――いや、それを凌駕する力を持つということだ。

 その上、彼はこの世界の天然の人間であり、転生者ではない。

 単純にこの世界に生まれ落ちた傑物。それがヴォルツ・ディ・エルヴァニスという男の正体だというのか。


「先輩、悪いお知らせっス……ターゲット情報が更新されましたっス……」

「……(もう勘弁してくれ)いいから読み上げろ」


 

 ◇


 特殊第六執行部隊総員に次ぐ。

 本案件のターゲットを更新。『ヴォルツ・ディ・エルヴァニス』を第二目標として執行されたし。

 「アバドン・システム」の制限は続行。ドゥー準上級執行官はイン下級執行官及びヨウ下級執行官と連携の下、速やかに対処、排除せよ。


 さらに、個体名『ダリヤ=モンド=カスケリオン』は本案件後の修正に大きな影響を及ぼすことが示唆される。

 故に、死守することを追加目標とする。


 なお、対象の脅威度は――


 ◇


 

「脅威度巨神兵(ティターン)級相当ッッ!?」


 ミラの驚愕の声がドゥーの耳をつんざく。あまりの音量でわずかに音割れしている。


 

 ――脅威度。


 それは任務におけるターゲット及び敵対生物の危険度を示す指標だ。γ~Zの異世界の攻略難度とは異なり、こちらはターゲット個人の脅威を指す。

 下に行くほど危険度は指数関数的に跳ね上がり、RACはこの脅威度を基準に各部隊への案件の振り分けを行うのだ。


 ・脅威度 海魔(レヴィアタン)級 ―― 下級執行官で対処可能な、比較的脅威度が低い者達。

 ・脅威度 魔犬(フェンリル)級  ―― 下級複数、または準上級執行官の介入を推奨。恩寵(ギフト)の使用を許可する最低ライン。

 ・脅威度 巨神兵(ティターン)級 ―― 上級執行官案件。恩寵(ギフト)の使用及び複数執行官との連携を推奨。RAC実務上の“転生者として現れる脅威の本格的上限”。

 ・脅威度 神祖(ティアマト)級  ―― 特級裁定官の承認が必須。並びに特級執行官の出動を強く要請。異世界をすでに統治する王や、転生者を複数侍らせる棟梁的存在が該当する。

 ・脅威度 深淵王(アバドン)級  ―― 複数の特級執行官及びRAC全戦力を以ての排除を推奨。最悪の場合、最上位存在方が直々に処理する“神殺し”に匹敵する傑物。


 その名はそれぞれ、かつて神々を仇した脅威たちの名から拝借している。

 状況によって多少変動するものの、これを参考に執行官や部隊の実力と照らし合わせて本部が編成を決定するという。

 ちなみにケイン・アッキネンは最低の脅威度γ――海魔(レヴィアタン)級、エリオット・レインフェルでも魔犬(フェンリル)級という塩梅。

 「アバドン・システム」は基本的に巨神兵(ティターン)級い場でやっと許可が下りるのだが、その場の戦況で脅威度は大きく変動するため、許可なしで無断使用したドゥーの失態によりカイがこっぴどく本部から苦言を呈された――というのはまた別の話だ。


 ミラ曰く、ヴォルツはこの脅威度巨神兵(ティターン)級という、かつてギガントマキアを引き起こした巨人族の精鋭たちに該当するとRAC本部は判断したらしい。

 上級執行官が恩寵(ギフト)を最大限に活用してやっと互角に立ち回れるレベル。

 対してドゥーの現状は、使い物にならなくなったANUBISブレードに少々いかれ気味のイヤホン。そして「アバドン・システム」は何故か、依然として制限中。


 かなり絶望的な状況である。


「どうせこいつが本命だったんだろ……クソ本部の中枢機関共」


 たしかにロザリアの恩寵(ギフト)は脅威だ。その気になれば無限に軍勢を作れる。

 だがその軍勢も一人一人が矮小であれば、いくらでも対応が利く。神々が戦慄するにしては少々力不足とは薄々感じていた。


 だがこの男――ヴォルツは違う。


 異常な脚力。

 その身体能力は、あの巨人族の侵攻を壊滅まで返り討ちにした最上位存在の一柱――トール神を彷彿とさせる。

 この男には、最上位存在をも斃しうる“神殺し”にさえ至る潜在能力が宿っていることを、ドゥーは微かに確信し始めていた。


「独り言がお好きなようで……貴方は一体何者です? その格好は?」


 ロザリアの身体をそっと床に横たえる。

 壊れかけの宝石を扱うように、細心の注意を払うその所作は、まさしく騎士そのものだ。


「……まぁ良いでしょう。貴方が誰であろうと生かしては帰しません。命乞いも降参も認めない。ただ、苦痛が少しでも少なく済むよう祈りなさい」


(来る……ッ)


「君ッ! あ、俺の名はカイヤ……というのは承知済みのようだな。ええい、俺が時間を稼ぐ! その間にラブラドーラ殿を安全な場所へ!」

「……了解した。危なくなったら速やかに退避してくれ(十中八九死ぬと思うが)」

「フフフ……大丈夫だ。こう見えて剣の腕には自信が――」


 

 カイヤの言葉を遮るパァンッという音。

 何か液状のものが飛び散るような。そんな鈍い破裂音がした。


 ヴォルツの姿が消えた。ロザリアの亡骸はそのまま残っている。


(奴はどこにッ……今の音はなん――)


 辺りを見回す最中、ドゥーは信じられない光景を目の当たりにする。


 隣のカイヤの上半身が消えていたのだ。

 奇麗さっぱりと、下半身だけが無造作に床の上へと直立している。


「カイ――ヤ――」

「先輩ッ!!」


 ミラの叫び声でドゥーは反射的に頭を下げる。

 直後、頭上をすさまじい速度で何かが通り過ぎた。遅れて衝撃波が周囲の瓦礫を一気に薙ぎ払った。


「おや、避けますか」


 ドゥーの背後、ヴォルツが何事もなかったかのように立ち尽くしていた。

 右腕を水平に、手を手刀の形で静止させている。


(こいつ……またあの一瞬で……!)


 ドゥーは思わず、警戒しながら大きく後退する。


 今のはヴォルツの単なる右腕による払いだ。

 しかしその威力はドゥーでさえ致命傷になりかねない。その証拠に、たった一振りで瓦礫の山がきれいに吹き飛んでいる。

 廊下が半壊し、室内にいるにもかかわらず、夜空を照らす宝国の景色がはっきりと視界に映り込んでいた。


 左手の篭手にべっとりと血が付着しているため、おそらく一撃でカイヤの上半身を物理的に吹き飛ばしたのだろう。

 跳躍も攻撃の振りも、ドゥーには一切見えなかった。

 ミラの声がなければ自分もカイヤの二の舞になっていた可能性を思うと、心底恐ろしい。


(これは……本格的にまずい)


 戦おうにも武器がない。

 いまいち不評なANUBISブレードも、柄だけではどうしようもない。そもそも万全だったとしても素手の一撃で粉砕されるのでは、あまり意味がないかもしれないが。

 見渡しても武器になるものはカイヤの剣くらい。その上ヴォルツの足元に置いてきてしまったので、拾う隙もあるかどうかの問題。

 

 だからといってトール級の怪力を誇る男と素手でやり合うのは完全な自殺行為だ。

 ここはインヨウ兄妹の援軍を待つほかないだろうと、ドゥーは判断する。


「ふむ……来ないのですか? では――」


 一向に向かってこないドゥーを無視し、くるりと向きを変える。

 その目の前には、恐怖ですくみ上がっているダリヤが座り込んでいた。


(ッ!! しまった!)


「……ダリヤ王女殿下。このような形でお会いしたくはありませんでしたよ」

「ヴォルツ……き、貴様」


 ヴォルツの次の標的はダリヤだ。

 拳を握り締め、ゆっくりと振り上げる。その瞬間、ドゥーがダリヤへと覆いかぶさるように立ちはだかった。


「あぁ、やはり貴方も私と同類でしたか」

(この男、王女を囮に――)


「……難儀なものですね。姫を守る“騎士”というものは」


 その直後の記憶は、ドゥーにはない。

 ただ覚えているのはダリヤの悲鳴、ミラが自分の名を呼ぶ声。

 そして振りかざされたヴォルツの拳が生み出した、空間そのものを揺るがすような重低音だけだった。


【今回の用語まとめ】


■ディ・エルヴァニス

ヴォルツが持つ姓。

ロザリア・ディ・エルヴァニスと同じ姓であり、二人の間に主従以上の関係があったことを示す。

極秘婚、あるいはそれに近い関係だった可能性が示唆された。


■脅威度

RACが任務対象や敵対存在の危険度を測る指標。簡単に言うとターゲット個人の強さ。

異世界そのものの攻略難度とは異なり、個体単位の戦闘能力や被害規模を示す。

この脅威度をもとに、派遣される執行官や部隊の規模が決定される。

詳細は覚えなくても大丈夫!!


巨神兵ティターン

上級執行官案件とされる高位脅威度。

恩寵ギフトの使用や複数執行官との連携が推奨される。

ヴォルツはこの階級に相当すると判断され、ドゥーたちにとって極めて危険な相手となった。




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ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



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・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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