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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第一章「特殊第六執行部隊」1-3「ロザリア編」
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CASE.039「狂乱の王女様」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、小説家になろう、noteにも掲載しています。

「……ハッ、王女?」


 ラブラドーラ――もといダリヤ王女の告白により、ロザリアの恐怖心が一周回って怒りへと転じる。

 王女がいたことは朧げに記憶にあったが、政治面のほとんどをヴォルツ任せにしてきたため、その存在はいつの間にか認識の外へと追いやられていた。


「王女が今更なんなのよ!? 名乗ったから何!? 王族が何だってのよ??」


 今度はロザリアの逆ギレが始まる。

 横腹を突かれたような感覚に陥り、それがかえってロザリアの怒りを増幅させたのだ。


「はいそーですよ!? 私と私の騎士たちが貴方の父を殺しました!! だからなに? 今更謝れって話?? 私は宝国の宰相――この国で2番目に偉いのよッ!! 下郎はアンタの方よッ!!!」

「…………」


 唾を撒き散らしながら、「クソ女」「あばずれ」「ビッチ」などと罵詈雑言をまくし立てる。

 言葉のほとんどが本人へ返ってくるような内容であり、ダリヤは怒りを通り越して虚しさが込み上げてきた。


(こんな女に……私の父は……宝国が……)


 化けの皮を剥げばこのあり様だ。

 いつもの凛とした姿は全て仮初め。ヴォルツや現国王、メイドや国民が作り上げた偶像に過ぎない。

 ダリヤには、目の前の元主が土壇場になって泣きわめくことしかできない哀れな肉塊にしか見えなかった。

 このような人間に宝国が12年以上も支配されてきたと思うと、吐き気さえ込み上げてくる。


「今に見なさいッ!! 私の騎士たちが――」


 バチンッ。


 これ以上は不快だと言わんばかりに、ダリヤがロザリアの頬を思い切り平手打ちした。


 ロザリアの思考が止まる。

 

 痛い。頬が痛い。

 この世界へ来て以来、初めてのちゃんとした痛みだ。

 ここが元いた世界と同様に現実であることを再認識させるような、目が覚めるようなビンタだったのだ。


 久しぶりの頬の感覚に、過去の記憶がフラッシュバックする。


 ――誰だお前? お前とはもう縁は切ったんだ、二度とその汚い面見せるんじゃねぇーぞ。


 瞬時に現世へ引き戻される。

 続けて2発、ダリヤのビンタが炸裂した。


「……あぐッ」


 頬の激痛に耐えかね、ロザリアは両腕で顔を庇おうとするが、それを力ずくで引き剥がされる。

 これまで肉体労働を全て他人任せにしてきたツケだ。

 同じ女とはいえ、メイド長として身体を使い続けてきた肉体を持つダリヤに敵うはずがない。


 ビンタ、ビンタ。またビンタ。

 ダリヤは呼吸することすら忘れ、ひたすら平手打ちを連打し続ける。


「ぎ、やめ――」

 バチン。


「ね、ちょ――」

 バチン、バチン。


「おね、が――」

 

 バチンバチンバチン。

 バチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチンバチン――。


 計18発。

 怒りの平手打ちを受け、最終的にロザリアの頬はおたふく風邪のように真っ赤に腫れ上がってしまった。


「あぐぅ……う」


 唇が切れ、口の中へ血の味が広がる。

 相当喋りにくいのか、ロザリアはうめき声を上げるのが精一杯だ。

 なんとか逃れようと、寝台から転がり落ちるように床を這いずり回る。

 だが、ダリヤの手元で光る何か――刃物の類を見て、切れた口の痛みなど忘れたかのように喉を張り裂かんばかりに絶叫した。


「きゃああああああッッ!!! 誰かああああああああああッ!!!!」


 しかし、応答はない。


「本当に哀れね……自分で防音仕立てにしたこともお忘れですか?」

「……ッ!」


 ゆらりと、ダリヤがゆっくり近づいてくる。

 じりじりと詰め寄られ、ロザリアは必死に後退った。


「今日の夜伽は私がお相手を致しましょう……ロザリアさ・まァッ!!」


 十分に接近するや否や、ダリヤは大きく刃物を振りかぶる――あの時パールが隠し持っていた、あの得物だ。

 見えてはいなかったが本能で、ロザリアは後方へ大きく飛んだ。背中がタンスに激突するが、痛みは不思議と感じない。


 いや、痛みがないのではない。

 それを上回る痛みが今から全身を貫く、嵐の前の静けさだったのだ。


「ふえ……?」


 恐る恐るダリヤを、そして足元を見る。

 手のナイフはロザリアの足を貫通し、床に深々と突き刺さっていた。

 迫りくる熱感、そして――


「ぎぃいやあああああああああああああああああああああああ!!!!」


 激痛が電流のように全身を駆け抜ける。

 痛みをどこかへ逃がそうと、体をびくびくとのたうち回る。

 しかし刃物がロザリアの足を完璧に床へ縫い止めているため、暴れれば暴れるほど激痛の波が押し寄せてくる。


「ぐぅいぃいぁぁああああ……」


 やがて波が退いたのか、荒い呼吸を繰り返しながらもロザリアが静まる。

 全身が汗と乾ききっていない湯の水でびしょ濡れになっていた。微かに匂うため、おそらく下の方も漏れているのだろう。

 無呼吸でのたうち回っていたため、ぜーぜーと必死に酸素を取り込んでいる。


 それを見計らったかのように、ダリヤが足から刃物を勢いよく引き抜く。


「あぁぁぐうぅあああッッッ!!」


 再度、芋虫のように体を跳ねさせるロザリア。

 足には鮮やかな穴が空き、鮮血を噴き出していた。


「痛いですか……ロザリア様? ですが――」


 ドスッと、今度は腹ばいになったロザリアの臀部を力強く刺す。

 そして再び引き抜き、また刺す。


「あぎゃぁッ」

「私のッ――」


 今度は片方の足を刺す。


「ぐぅぎぃッ」

「12年間はッ――」


 次は右のふくらはぎ。


「ぶふぅッッ」

「こんなものではッ――」


 続いて左の大腿部。


「……お……げッ」

「なかったッッ!!」


 刺して、抜くを繰り返す。

 半ば狂乱しながらも、ただでは死なさんと、致命傷を避けるために体の下部を中心に突き刺すだけの理性はかろうじて残っていた。


 刺す。

 また刺す。

 ロザリアの絶叫が嗚咽へ変わってもなお、ダリヤは続けた。

 


 ――

 


 もう何度刺したかも分からない。

 床一面が様々な液体で満たされ、阿鼻叫喚の様相を呈していた。


「ふーっ、ふーっ」

「ご……………………ぼぼ…………」


 まだ息がある。

 口から泡を吐き、白目をむきながらロザリアは死んだ魚のようにびくびく痙攣している。


 もう十分だ。

 殺してしまおう。

 首を獲り、過去の蛮行を洗いざらい記した文書と共に現国王――愚かな叔父と民衆の前へ差し出す。


「さようなら、憎き我が悪徳令嬢」

「あ…………あ……………………」


 霞む意識の中で、またも前世の記憶がフラッシュバックする。


 

 ――へっ! ヘエッ!! どうだ穂香ッ!! 俺の■■は!! 気持ちいいか!? これが俺の「愛」だッ!!

 


 走馬灯――何故ここで前の世界が蘇るのだろうか。

 その記憶の中でも、自分は半殺しにされていた。


 見慣れた裸の男に首を絞められ、何度も顔面に拳を打ち付けられる光景。


 そう、ひどく見慣れた光景だ。

 何度も見た天井と、半狂乱する男の表情。


 だが不思議と、苦ではない。

 痛みもさほど感じない。


 なぜだろうか。

 何故自分はこんなことになってるのだろうか。

 悪いことをしてきた自覚は無い。

 政治系は全てヴォルツへ任せっきりだし、この退屈で残酷で、作り物の世界から美しい男の子たちを救っていたはず。それがこの仕打ちだというのか。


「…………あァ……」


 体を重ね、まぐわうこと。

 これが唯一自分にできる、唯一自分が知っている()()()()()()

 

 それの何が間違っていたというのだろうか。


「………………ヴォ……ルツ……」


 現世へ意識が戻り、無意識に愛しき彼の名を口にする。

 涙がこぼれ、口内の血と混ざり、何度も味わったしょっぱさをこの世界でも噛み締める。


「フン……貴様ほど涙が似合わぬ女はいるまい……ロザリア――」


 両手で大きく振りかぶる。


「さらば、我が人生の汚て――」

「「ロザリア様ァッ!!」」


「ッ!?!?」


 儀式の部屋の扉が力強く叩かれる。

 あの二人だ。

 敵の迎撃へ向かわせたはずのルーンプリンスの二人。


(何故ここに!?)


 だが迷う時間など惜しい。

 ここからの生存など端から考えていない。今は即刻、この死に損ないへ引導を渡すのが先だ。


 ロザリアの方へ振り返る。

 しかしそこには――横たわっているはずのロザリアの姿がなかった。


「なッ!?」


 再度振り返ると、ずたずたになった足を無理やり動かし、大きく扉へ激突する。

 窮鼠猫を噛むとでも言うべきか。瀕死の状態にも関わらず、激痛で足の指先すらまともに動かせないにも関わらず、ロザリアはダリヤの反応速度を超えた勢いで扉へ突進したのだ。

 そして――


「だッ、だずげでぇぇえッッッ!!!」


 扉越しに血と唾液の混じった、嗚咽のような声をかけた。

 その瞬間、扉に三筋の光が走る。


(まずいッ!!)


 ダリヤは踵を返し、問答無用でロザリアへ飛び掛かる。

 しかし瞬時に視界が大きく縦に回転した。


「~~ッッ!?」


 後方へ吹き飛び、タンスの角へ背中を激突させながら、ごろごろと床を転がる。


(う……ぐ…………な、なにが……)


 舌先で何かがころころと転がっている。

 吹き出すと歯のようなものが床に転がった。


 溢れ出す血の味。

 視界の片方が潰れている。

 もう片方の目で、ゆっくりと吹き飛ばされた方向を捉えた。


 そこにはマントにくるまれ抱きかかえられたロザリア。涙を流す騎士。そして怒りに震えた騎士が足を振り上げていた。


(……く………)


 おそらく激昂した騎士に顔面を蹴り上げられたのだろう。

 脳震盪で視界がぐらつく。思考もままならない。


(ロザリアは……まだ生きてる……)


 目的はまだ完全には果たされていない。

 失血死する可能性は十分あるが、それでも確実に我が手で終止符を打ちたい。相打ちになってでも、あの女を討たなければ。父の無念を晴らすという使命があるのだ。

 だがまずは、意識を立て直す時間を稼ぐのが先決だ。

 鋭い眼光で目標を見定め、賢王と謳われた父の、親譲りの思考力で現状打開を図る。


「ふ……さすがルーンプリンス……いつから気づいていたのですか」

「メイド長――いやラブラドーラ、貴様ァッ!」

「一向に敵とやらが来ないので不審に思いましてね……それに、どうにも貴女の態度が胡散臭かった」


「ほう、ぐふっ……メイド長のこの私が……胡散臭いと?」


 怒りに震えた騎士がぬらりと剣を引き抜く。


「貴様、三人と言ったな。敵は三人と……随分と戦場の様子に詳しいようだったからな。不審に思っただけだ」

「……なるほど。そしてここへ偶然辿り着いたと……それとも、貴方方の偽りの愛が結んだ繋がりのようなものでしょうか――」

「ほざけッ、裏切り者!!」


 びっと、剣先で彼らがここへ辿り着いた根拠を示す。

 そこにはいくつもの水滴の跡が続いていた。


(ぬかった……私としたことが……)


 水滴の正体は、乾ききっていないロザリアの湯の水だろう。それを追ってきたのだ。

 自分がこれほど初歩的なミスを犯すとは、ダリヤは歯ぎしりする。


「我らがここに来た暁には、ロザリア様には指一本触れることすら叶わん」

「メイド長ラブラドーラ……貴様はここで誅殺するッ!」


 剣を抜いたルーンプリンスがじりじりと間合いを詰めてくる。


(くそッ……体が……言うことを聞かないッ……)


 足腰がぶるぶると震え、思うように動かすことができない。それほどの衝撃だったのだ。

 戦闘要員ではないとはいえ、ダリヤも長年ヴォルツから剣の手ほどきを受けてきた。

 そのためそこらの女よりは遥かに頑丈なはずだ。

 なのに、そんな彼女でも一撃で腰が抜けるほどの蹴りの威力だった。


(こ、これが……ルーンプリンス)


 蹴り一発でこの体たらく。

 これがルーンプリンスの実力だ。宝国が誇る最強の騎士たちの所以である。

 

 それが二名が、警戒態勢で目の前にいる。

 もはや接近するどころか、立つことすら許されないだろう。そんな圧倒的な覇気。それほどの相手なのだ。


「ここまで、か……」


 ダリヤは握っていた刃物を床に落とす。

 すると緊張の糸が切れ、全身の力が抜けていく。


(すまない、パール……)


 パールは唯一、自分を慕い、同じ志を持っていた同胞だった。

 兄というただ一人の肉親を奪われ絶望していた時に、偶然拾い上げた。

 互いの思いを打ち明け、一致団結してロザリアへの謀略を共に目指した。

 空き時間に様々な知識と技を仕込んだ。復讐という燃料を燃やし、次々と驚異的な速度で吸収していく彼女を、ついにロザリアのメイドとして――その懐へ侵入させることに成功した。

 だが初日で、彼女の命運は絶たれてしまった。


 先走った彼女はヴォルツの手により見るも無残な姿となった。そして処理を担ったのは自分。

 この得物はその時に引き継いだものだ。彼女の意思を受け継ぐという意味もある。


(あぁ……すまない、民たちよ)


 手を組み、祈りを捧げるように虚空を見上げる。

 そこには剣を振り上げた騎士が立ち塞がっていた。


「何か言い残すことはあるか?」

「ごめんなさい………父上」


 剣が空を薙ぐ。

 扉すら野菜のように一刀両断したその剣撃は、ヒュウという音と共に一直線にダリヤの首へ向かった。


 

 ボトリ。


 何か重いものが落ちた音がした。

 そしてそれはダリヤの耳にも聞こえた。


 聞こえたのだ。

 つまり、落ちたのはダリヤの首ではない。


「無事か? メイド長」


 聞き覚えのある冷たい声。

 マスク越しから響くような、玉座で聞いたあの声だ。


 ゆっくりと目を開ける。


 すると、床には音の正体である騎士の腕が無造作に落ちていた。

 そしてそれを斬り落とした張本人と思しき、黒ずくめの機械的な装いの戦士が立っていたのだ。


「ド、ドゥー様……!?」

「ぐぅあぁッッ!! き、貴様ッッ何も――」


 バキッという鈍い音。

 それと同時に騎士が脱力し、床へ倒れ込む。


「な……な、に……?」


 フルプレートが床へ激突する金属音と、もう一人の騎士の狼狽える声で、ロザリアの意識が戻る。

 傷には薬品をしみこませた包帯で応急処置が施されており、痛みはいくらかましになっていた。

 それが幸か不幸か、意識が鮮明になった彼女の視界に不気味な人影が映る。


「……え、なにが――ちょ、スファレッ!?」


 スファレとは、今まさに倒れた騎士の名だ。

 そしてその隣に立つ機械的な装いの男が一人。宝国では見たことのない服装――まるでSF映画に出てくるような、近未来の装備だ。

 間違いなくコイツが、ルーンプリンスを襲っている犯人の一人に違いない。


「だ、誰よあなた……まさか、襲撃者ッ!?」

「そうか、コイツが……!」


「ずいぶん暴れたな、ラブラドーラさん。いや、ダリヤ王女と呼んだ方がいいか?」

「……ドゥー様……一体何故ここに……」


 ドゥーは、血が飛散した床と室内の惨状から、何が起きたかをあらかた察することができた。

 同時に、相当ぎりぎりだったとも悟る。

 捨て駒同然の扱いをしたとはいえ、命は命だ。どうせなら救った上で、万全の状態で任務を遂行したい。


 現場を一通り眺めるが、本部が危惧していた通りダリヤ王女は失敗したようだ。

 だが何とか間に合ったようだと、ドゥーは静かに息をつく。


「ここからは俺がやる。アンタは退避しろ」

「……わかりました。お願いいたします」


「させると思うかッ、貴様らぁッ!!」


 ロザリアを抱えた騎士が剣を抜き、吠える。

 対するドゥーも、いまだ珍しく破損のないANUBISをゆらりと構えた。


「特殊第六執行部隊所属執行官・ドゥー。これよりロザリア・ディ・エルヴァニスもとい――『カイヅカ・ホノカ』の執行を開始する」



 


 ————————————————————————————————


 


 ――報告。

 地球時間012330ZFEB25


 ドゥー準上級執行官のターゲットとの接触を確認。速やかに任務を遂行されたし。

 なお、協力者であるラブラドーラの呼名を『ダリヤ=モント=カスケリオン』へ改定。以後、第一級重要管理対象として保護することを第二目標とする。


 以上。

【今回の用語まとめ】


■スファレ

ロザリアを救出に来たルーンプリンスの一人。

ダリヤを蹴り飛ばし、ロザリアの窮地を救った騎士。

ドゥーによって即座に無力化される。




――――――――――――――――――――――――――――



ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



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※AIの利用について:

・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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