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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第一章「特殊第六執行部隊」1-3「ロザリア編」
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CASE.038「最後の務め」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、小説家になろう、noteにも掲載しています。

 一方その頃、ロザリアの御付きのメイド長――ラブラドーラがロザリア城へと到着していた。


 入城するや否や、すれ違うたびにメイド達が深々と会釈と挨拶を寄越す。

 見渡す限りの磨き抜かれた床。煌びやかに輝く装飾と、いかにも高価そうな家具の数々。どれもがいつも通りの定位置に収まっていた。

 8年間見慣れた風景のはずだ。

 だが今日だけは、いつもと違う。

 視界が狭く感じる。


 気のせいなどではない。

 長きにわたる執念と忍耐が手繰り寄せた絶好の機会。彼女の主、同時に怨敵であるロザリアを、己の手で屠ることができるまたとない好機が転がり込んできたのだ。

 その重圧が心臓の鼓動を急き立てる。血圧が急速に高まり、極度の緊張で視界がわずかに滲んでいた。


 そして、これを誰にも悟らせるわけにはいかない。


 約束の時刻はとうに過ぎている。

 今頃、ルーンプリンスの宿舎では協力者が騎士たちの足止めをしているはずだ。メイド達の様子からして、まだ緊急事態の報せはここには届いていないのだろう。

 であれば、このまま寝首を掻っ切るのみである。


 この時間はロザリアの湯浴みが終わる頃合い。

 ヴォルツもいない以上、彼女が最も無防備となる瞬間だ。


 殺れる。


 脳がその事実を認識した瞬間、胸の奥が高揚し始めた。

 自然と歩みが速まり、最短距離の道順で風呂場へと向かう。


 ただ、一つだけ懸念があった。

 ロザリア――いや、ヴォルツの指示により、彼女の近辺にはいついかなる時もルーンプリンスが2人ほど配されている。

 いざという時には即座に主の下へ駆けつける手筈となっており、どれほどの手練れの暗殺者でも指先一つ触れることができない。

 

 だが、それでもやるしかないのだ。


 そもそも、ロザリアに最も近づける人物といえばヴォルツと自分だけだ。

 我が命などこの際度外視。あの女の首さえ取れれば十分なのだ。

 洗脳が解けるならば万々歳。万が一解けずにルーンプリンスが押し寄せてきても、そこまでの命だ。悔いはない。

 それに、あの3人なら簡単に逃げおおせることだろう。


 汗をかかない程度に、小走りで廊下を進む。

 角を曲がると、風呂場の扉が見えてきた。

 扉前に到着し辺りを見回すが――人の気配はない。

 壁へ耳を擦り付けて聞き耳を立てると、ぱしゃんと水の跳ねる音がした。


 いる。

 奴は確実に中にいる。


(落ち着いて、私……何も悟らせずに、一気に仕留めるのよ)


 深く、ゆっくりと息を吸い込み、ラブラドーラは意を決して扉を開けた。


「ロザリア様、着替えと湯上がりの果実酒を持ってまいりました。そろそろ上がらないとのぼせてしまい――ッ!?」


 ラブラドーラは、ロザリアが湯上がりの果実酒を至高の一杯と称するほど習慣化していることを知っている。

 それに釣られてのこのこと全裸で出てきたところを一刺しする予定だった。だが――


「うふふ……洗うのが上手じゃな~い、きゃっ♡」

「フフフ、お褒めに与り至極光栄でございます、ロザリア様」

「ほら、アナタも♡ ここがお留守よ♡」

「……よ、よろしいのですか!?」


 想定外だ。

 護衛のはずのルーンプリンス2人とロザリアが、混浴に興じているではないか。


 何の冗談だと、ラブラドーラの額に汗が滲み始める。


(なぜ!? 混浴をすることはあれど、儀式の翌日は必ず一人を好むはず! ……まさか)


 満足しなかったのか。

 いや、ラズリ皇子が彼女を満足させるに至らなかったのだろうか。


 今まさに3人は欲望の権化となり、湯船の中で絡み合っている。

 このまま特攻するのはあまりにも無謀だ。

 丸腰とはいえ、相手はあのルーンプリンス2人。女一人、素手でも真っ裸でも、十分にこちらを無力化できるだろう。


(チッ……あの坊ちゃん、情けないわね……)


 かわいい顔をしていたが、下の方も可愛かったに違いない。

 被害者であるラズリ皇子には同情すべきところだが、突然の変更に苛立ちを隠せない。


「あら、そこにいるのはラブラドーラ?」

「……ッ!!」


 突然声を掛けられ、体が大きくびくつく。

 しかし持ち前の精神力で持ち直し、即座に毅然とした態度で応じる。


「はい、私でございます、ロザリア様」

「良いところにきたわね♡ 貴女もたまには混ざらない?」


 普段とは一風異なる提案だ。

 混ざりたいとは露ほども思わないが、熟考するに値する案ではある。

 入浴を装いながら首を掻き切ることも選択肢としてなくはないのではと。


「………………」


 いや、リスキーすぎるとラブラドーラは頭を振る。

 そもそも刃物をどうやって湯船まで持ち込むというのか。最悪、入室した瞬間に察知される。

 そのような危険を冒す必要はないと、ラブラドーラは否と判断した。


「いえ、私のような者がロザリア様の園を汚すわけにはまいりません」

「あら、残念。貴女も十分美しいのに、もったいないわ。ねぇ、二人とも?」

「「勿論でございます」」

「まぁーでも……少しのぼせてきたかしら。今日はこれくらいに――」


 

 ジリリリリリリッ!!!


 突然、心臓が飛び出るほどの金属音が鳴り響いた。

 その場にいる全員が一瞬固まる。

 その中で唯一、ラブラドーラだけが瞬時に思考を回していた。


(これは……非常ベル!!)


 緊急事態を告げる非常ベル。

 全ての階に設置されているものの、ルーンプリンスの強固な防衛網によりこれまで一度として鳴ったことのないアラームだ。

 それが今鳴ったということは――


(宿舎への襲撃が伝わった……)


 相当暴れ回っているのだろう。

 この短時間でこのベルを鳴らすだけの戦力を、あの3人が持っているというのか。期待以上だが、それが今度は悪い方向へ効力を働いている。


 あの小さな2人のうち一人だけでも同行させればよかったという後悔が込み上げてくるが、今となっては結果論だ。

 それに、このタイミングでのベルは悪い話ではない。突然の爆音に、ルーンプリンス2人もパニックに陥っているはずだ。


 この機に乗じて、何としてもロザリアを二人から引き離さなければならない。


「ロザリア様ッ!!」

「な、なに!? なによこれ!? ラブラドーラッ!!」

「緊急事態を告げるベルです。すぐにお上がりくださいッ!」


 ロザリア本人も相当に狼狽えている。

 無理もない。台頭して以来、彼女は危険という概念から最も遠いところで生きてきたのだ。

 甘やかされた日常から恐怖の底なし沼へ引きずり込まれる感覚だろう。利用しない手はない。


 ばたばたとロザリアとルーンプリンスがあられもない姿で風呂場から飛び出てくる。

 豊満な胸をぶるんぶるん揺らしながらわたわたと着替え始めるが、ラブラドーラはタオルで全身を乾かす暇すら与えず、即座にロザリアをバスローブで包んだ。


「着替えのお時間はございません! すぐさま避難いたしますよ!!」

「ちょ、ど、どういうこと!? まだびしょびしょなんだけど――」

「何が起きているのですか、メイド長!?」


「敵の襲撃ですよッ!!」


 その一言に3人の顔が強張った。

 ロザリアは恐怖、ルーンプリンスの2人は困惑と怒りで。


「し、襲撃など……他の騎士たちは何をしているッ!?」

「そのルーンプリンスが襲撃されているのですッ!!」

「「はぁ!?」」


「宿舎を……襲撃!? 我らルーンプリンスをですか!?」

「そんな馬鹿な……明らかな自殺行為だ……いや、それほどの戦力が!?」

「3人です」

「「は?」」


「敵勢力はたった3人。騎士を屠りながらこちらへ向かっているようです」


 二人は絶句した。

 長年続いた大戦を瞬く間に鎮圧した最強の部隊。この宝国が誇るルーンプリンスが、城への進撃を許すばかりか、一方的に蹂躙されているという。しかも、たった3人に。

 到底信じ難い話だが、主に長年仕えるメイド長がそのような出鱈目を口にするはずがない。二人は即座に臨戦態勢へ意識を切り替えた。


「それでは、ロザリア様を安全な場所まで御――」


 その時、ドォンと近くで地響きが轟いた。

 城全体がぎしぎしと軋み、シャンデリアがぐらぐらと揺れる。

 「嫌ぁーッ!!」とロザリアが蹲り、普段の彼女からは想像もできないような悲鳴を上げる。


「すでに敵はすぐそこまで迫っています。お二人は迎撃に集中してください。ロザリア様は私が安全な場所まで守り抜きます」

「……それでは……いや、さすがはメイド長。この状況、それが最善でしょう」

「ロザリア様を頼みましたよ、メイド長殿ッ」


 この城をメイド長ほど熟知している者はいない。彼女の誘導であれば、主の安全は担保されたも同然だ。

 信頼に満ちた眼差しを向けて軽く会釈すると、腰になけなしのタオルを巻いた二人は、水滴を滴らせながらその場を離れた。


(……いけるッ!!)


 唯一の障壁たるルーンプリンスの引き離しに成功。

 隣には、パニックで美貌が台無しになっている心細い主が残された。

 これはもう勝ったも同然だろう。


 だが油断などしない。

 ここで仕掛ければ、悲鳴であの二人が即座に舞い戻る可能性がある。

 今はできる限りエントランスから離れた場所へ移動するべきだ。


「ロザリア様、お立ちください! 私めが、命を懸けてお守りいたしますゆえ……ご安心くださいませ」

「ラ、ラブラドーラ……」


 「ふええ」という情けない声を漏らすロザリアの手を掴むと、足早に廊下を駆け抜ける。

 足をばたつかせ、いかにも走り慣れていない不格好なフォームでロザリアもついてくる。

 ラブラドーラに引っ張られる形で、水滴を撒き散らしながら、彼女という蜘蛛の巣へ誘い込まれていくのであった。


 ―――


 到着したのは、あの儀式の部屋だ。

 ロザリアの営みの音を外に漏らさぬため設えられた、防音性の高い個室。暗殺にはこれ以上ないほど好都合な場所である。


 ロザリアは息を切らしながらベッドへ座り込む。

 髪は半乾きのまま乱れ、がたがたと震えるその様は、普段の彼女とは程遠い。一般市民が見れば、ロザリアだと気づかないほどだろう。

 そんな彼女が震える声でラブラドーラに話しかける。


「ラ、ラブラドーラ……ここは安全なのよね?」

「…………」


 ラブラドーラは黙り込んだまま、何も答えない。


「わ、私、大丈夫よね? あの子達が何とかしてくれるわよね?? ねぇ……」

「………………」

「な、なんで何も言ってくれないの?? 怖いよ私……誰か……私を安心させて……ヴォルツ……」


「では、一つ。昔話を致しましょうか」

「昔話?」


 がちゃりと、扉を内側から施錠する。

 くるりと振り返り、改めてロザリアと正面から向き合った。


「昔、この国は戦禍の渦に包まれていました……」

「な、なに……」


「宝国は鉱物の採掘が盛んな国。それゆえ他国からは格好の標的となりました」

「ねぇ……?」


「だが当時の国王――現国王であるアゲートス=カスケリオンの兄にあたるトルマリン=カスケリオンは、民を守るべく決死の抗戦を続けました」

「ねぇラブラドーラ……一体どうしたのよ!?」


「自ら戦地へ赴き、その比類なき頭脳で幾多の戦線を維持。10年もの間、宝国に敵を近づけることはありませんでした」

「なんでそんな話を……トルマリンって、あの戦犯のことでしょう!? それがな――」

「――だが大戦末期。一人の人間が現れました。そう、あなたですよ。ロザリア・ディ・エルヴァニス」


 ぎろりと鋭い眼光でラブラドーラがロザリアを射抜く。

 かつて一度も見せたことのない凍てついた眼に、ロザリアは思わずベッドの奥へと後退った。


「登場するや否や、アナタは“宝剣”として名を馳せていたヴォルツへ接近。そのまま篭絡し、骨の髄まで虜にした……」

「ね、ねぇ……どうしちゃったのラブラドーラ! 何か、今日――」

「お黙りなさい!!」


 静かな一喝に、ロザリアは完全に縮み上がる。


「ヴォルツを傀儡としたアナタは、そのまま解放の戦乙女として台頭。宝国を戦禍から救う英雄と名乗り、彼を中心としたルーンプリンスを組織――各地の戦地へ兵を挙げました」

「…………」


「全ての戦地の鎮圧まで、僅か一か月の出来事。だが、全ての解放を果たしてもなお、貴方がたルーンプリンス軍は帰国しなかった」

「………………そんなの――」

「何故なら――その足でそのまま、トルマリンを討ちに向かったからだ!!」


「………!!」


 ロザリアはひたすら困惑していた。

 突然の襲撃に、ラブラドーラの豹変。そして何より――一介の使用人である彼女が、なぜそこまで詳しく知っているのか。

 たしかにロザリアが率いるルーンプリンス軍は瞬く間に敵勢力を蹂躙した。しかし歴史書が記すのはそこまでだ。

 ルーンプリンス軍がそのままトルマリン軍を討ったことは、歴史の底へ葬り去られたはずなのである。


「背後からの奇襲を受けたトルマリン軍は瓦解。そのままあっけなくトルマリン王は討たれました……」

「ら、ラブラド――」

「だが貴様らの蛮行はそれだけでは終わらなかったッ!!!」


 声の温度が急激に上がり、ロザリアがびくつく。

 ラブラドーラの表情はさらに険しく、もはやそこには一族の怨敵を前にした復讐者の顔があった。


「貴様らはッ!! トルマリン王の首を晒すことすらせず……戦争を長引かせた戦犯として――“愚王”の汚名を擦り付けたッッ!!!


 もはやロザリアは黙るほかない。

 なぜならメイド長――ラブラドーラの正体の片鱗が、混乱に満ちた頭の中でもなんとなく見え始めてきたからだ。


「トルマリン王の像が何故存在しないのか!! 何故六世の名だけが歴史書から抹消されているか!! それは全て……貴様が汚名を着せたからに他ならないッッ!!!」

「お願い、ラブラドーラ……」


「アゲートスには妻がなく、世継ぎもいない。それを好機と見たアナタは武功を盾に、繰り上がりで王となったアゲートスの寵愛を受け、娘同然の待遇のまま宰相の座へ成り上がった……そうして、自堕落に成り下がった悪徳令嬢が誕生したのだッ!!」

「落ち着いて、ラブラドーラ!」


 ロザリアはラブラドーラを宥めようと、その肩をそっと抱き寄せようとする。

 しかしその手は、無慈悲なほど力強く弾き飛ばされた。


「触るな下郎ッッ!!」


 びしっと、メイドの証――ロザリアが直々に与えた装飾品を引きちぎり、ロザリアの傍へ叩きつける。


「私の名は“ラブラドーラ”などではない……ッ」


 腰のポーチから液体の入った小瓶を取り出し、そのまま自身の頭上からぶちまける。

 じゅうっという音と共にラブラドーラの漆黒の髪から色が抜け始め、赤、青、緑、黄――鮮やかな彩りのバイカラーが露わとなっていく。


 それはまるで、かの愚王と揶揄されたトルマリン王の如き髪色。


「よく聞け悪徳令嬢……私の名は『ダリヤ=モント=カスケリオン』――」




「――トルマリン王の血を引く子、正統なる宝国『セレスティア宝統府』の王女であるッッ!!!」






 

 ————————————————————————————————


 


 ――報告。

 地球時間012319ZFEB25


 協力者ラブラドーラのターゲットとの接触を確認。

 ドゥー準上級執行官に伝達――依然として生体反応が急速接近。協力者が失敗した場合に備え、迅速な処理を推奨。


 追記:最上位存在が一柱――テイア神から伝達事項。


「あ~らら、面白いことになってるわね。ちなみにラブラドライトの宝石言葉は――」


「――“憎悪の抑制”よ」


 以上。


【今回の用語まとめ】


■ラブラドーラ

ロザリア付きのメイド長。

12年もの間、忠実な使用人を装いながら、ロザリアへの復讐の機会を待ち続けていた女性。

今回、非常ベルの混乱に乗じてロザリアを護衛から引き離し、暗殺の機会を作り出した。


■ダリヤ=モント=カスケリオン

ラブラドーラの本名。

かつて“愚王”として歴史から抹消されたトルマリン王の血を引く、正統なる宝国の王女。

黒髪は偽装であり、本来はトルマリン王を思わせる鮮やかなバイカラーの髪を持つ。


■トルマリン=カスケリオン

現宝国王アゲートスの兄にあたる、かつての宝国王。

戦火に包まれた宝国を守るため、10年にわたり戦線を維持し続けた王。

しかしロザリアとルーンプリンス軍によって討たれた後、戦争を長引かせた“愚王”として汚名を着せられ、歴史から抹消された。


■ラブラドライトの宝石言葉

テイア神が追記で語った言葉。

ラブラドライトの宝石言葉は“憎悪の抑制”。

12年間、憎しみを隠し続けたラブラドーラという人物を象徴する言葉となっている。



――――――――――――――――――――――――――――



ここまでお読みいただきありがとうございます('ω')ノ



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※AIの利用について:

・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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