CASE.036「襲撃」
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※本作はカクヨム、小説家になろう、noteにも掲載しています。
ロザリアの城より、少し南方へ下った場所。
そこに位置するのは、一際主張の激しい豪奢な宿舎だ。
規模こそドン・クライム城やロザリア城には及ばないものの、その絢爛たる外観は決して引けを取らぬほど立派なものだった。
およそ1000人以上を同時に住まわせることが可能な広さに、充実した施設の数々。噴水付きの中庭と外庭まで備え、各区画に宝石じみた照明が爛々と輝いている。
さぞかし高位の皇族が住まうのだろうと思うだろう。
だが、実際の住人は男と男と男。それも同性であろうがなんだろうが、一瞥で思わず体が火照るほどの美丈夫が揃いも揃っている。
真白な肌の長身、鍛え抜かれた褐色の肌、愛らしい美少年まで何でもござれ。
まさに――美男子の宝石箱だ。
ここは『ルーンプリンス城』。
ロザリアにお手付きを(無理やり)頂いた美男子たちが住まう楽園である。
彼らは主たるロザリアの寵愛をいつでも受けられるよう、日々美容と鍛錬へ専心する。
警備、鍛錬、美容の日々を交互にこなすことでロザリアの安全を確保しつつ、彼女の欲求を満たすという魅惑の最強サイクルを年がら年中繰り返すのだ。
そして誰もがそれを、嬉々として行う。
過去の身分などすっかり忘れ、愛しき主のために常日頃から己という名の宝石を磨き続けている。
そんな楽園の館で、一人の男が入り口に立っていた。
男の名は『クンツァ』。
ルーンプリンスの副団長――すなわちヴォルツに次ぐ高位の騎士である。
褐色の肌に、ほんのりと桃色がかった長髪。
はだけた服から覗く胸筋は、見る者を問わず一目で息を呑ませるほどの色気を放っている。
腰は引き締まり、体躯こそ細身ながら、それは決して軟弱の証ではない。
余分な脂肪を一切こそぎ落とした完璧な肉体。主のために仕上げた、金剛の身体だ。
「やあ、君が新入りかい?」
そんな彼が寒空の下、入り口で待機している理由。
それは本日、新入りが来るという報告を受けていたからだ。
「はっ! 本日より寵愛を頂きましたッ、ラズリと申しますッッ!」
「おぉ~、これまた威勢のいい奴を捕まえたものだ。我が主は」
クンツァの目の前には全裸のラズリが、凛とした表情で直立している。
寒空の下、素肌を晒しても震え一つ見せないどころか体が紅潮しているのは、洗脳されたてのほやほやという証拠だ。
「お、新入りですかぁ、副・団・長っ?」
背後から、一際高い青年の声がした。
その男の名はベリル。緑色の短髪の美少年だ。
背は低く華奢で、頬は赤らみ、クンツァとは対照的な、いわゆるショタ系の容姿をしている。
彼はきょろきょろとラズリの周囲を回りながら、何かを吟味する。
「うーん、顔A、体B、イチモツC+ってところかな。普通だね」
「ベリル、それはロザリア様に失礼ではないかな? あの方がお選びになった者を普通などと……」
「あぁー違いますって! 普通っていうのは僕たちルーンプリンスの中での話ですよぉ。冗談も通じないんだから全くもぉー。だからいつまでもナンバー2なんですよぉ~?」
ベリルの煽りに、クンツァは眉一つ動かさない。
全く動じていないという意思表示だ。
しかしその腹の内は真逆だった。
嫉妬と怨嗟のどす黒い感情が渦巻いている。
(チッ……そうだ……あの男さえいなければ!)
クンツァほどの男が嫉妬する相手。
それはこの国、いやこの世界において、たった一人だけだろう。
ヴォルツ――ロザリア御付きの執事にして、最初のルーンプリンス。
その実力は別格であり、他のルーンプリンスのそれとは一線を画している。
クンツァ自身も相当な実力を誇る。
剣技においては、まず右に出る者はいない(ヴォルツを除いて)。
身の回りの世話も誰よりも完璧にこなせる(ヴォルツを除いて)。
それでも彼を超えられず、クンツァは何年もの間、歯痒い思いを噛み締めてきた。
何度か決闘を申し込んだものの、結果は惨敗の連続。
煮え湯を飲まされ続けた挙句、満面の笑みで「よく頑張りましたね。ルーンプリンスとして誇りに思います」という褒め言葉まで頂く始末だ。
ライバルとしてすら認められていない何よりの証拠である。
そんな男が今日は不在。
今こそ自分がルーンプリンス筆頭だと主に示す絶好の機会だと、クンツァは密かに張り切っていたのだ。
何かハプニングでも起きないかとそわそわしていたが、特にそんなことはない平和な一日だった。
(はぁ……我ながら、相変わらず平和な国だ)
実際、ルーンプリンスは他国からすれば規格外の抑止力であり、宝国に仇なす愚か者はしばらく現れていない。
喜ばしい話ではあるが、今の彼には少々複雑だ。
誰かに金でも握らせて問題を起こすという手もあるが、そんな汚れた手で主に触れるのは問題だろうと、クンツァは偶然のハプニングという奇跡を心待ちにしていた。
「副団長ー?」
「ん、あぁすまない。考え事をしていた。まずは服だな。そのままでは風邪を引いてしまうよ」
「ご心配、痛み入りますッ! 副団長殿!」
「ハハハッ……もう副団長呼びか。さすが元皇子といったところか――ん? そちらも新人か?」
ラズリの背後、物陰に隠れるように白髪と黒髪の少年が二人、待機しているのに気づく。
興味津々でルーンプリンス城を見上げており、まるで最初からそこにいたかのような佇まいだ。
しかし服装がすでに、明らかにおかしい。
宝国では見られない金属的な意匠。どこをどう見ても異国の装いだ。
だが顔立ちは整っており、ベリルという前例がある以上、新入りという線も完全には否定できない。
「君達は?」
「インだぞ」
「ヨウだよー?」
「インとヨウ……ふむ。君たちもロザリア様のお手付きかな?」
(ベリル、何か聞いているか?)
(いえ……新人は一人だけだと……)
耳打ちで問いかけるが、ベリルも初耳の様子だ。
ラズリの時と同様、二人の周囲をぐるりと回りながら値踏みする。
「まあとりあえず服を全部脱いでもらって、話はそこからですよ」
「そうか。ではインとヨウ、服を脱いでくれ」
「えー今ぁ?」
「今だ」
「やだぁー」
これまでの新入りとは少々様子が違うが、今日のご主人様はそういうプレイをご所望なのだろうと、クンツァは一つため息をつく。
「ラズリ、初仕事だ。二人の服を脱がせろ」
「了解しました!」
「お前もだ、ベリル」
「……仕方ないなぁ」
ベリルとラズリがインとヨウへじりじりと近づく。
見慣れない厳かな服を脱がそうと、二人は肩へ手をかけた。
「では、黒髪の方は俺が、ぬぎゅえぁッ」
「はい白髪のぼくちゃん、脱ぎ脱ぎしまじぇあッ」
「んな――」
突拍子もない声が上がったと思った次の瞬間、二人の首がぼとりと落ちた。
その前方ではインとヨウそれぞれの手に、鋭い小刀が握られている。
照明の光がきらりと刃を照らし、その切れ味を無言で物語っていた。
先ほどの可愛らしい雰囲気は皆無。
面妖な仮面を被り、いかにも“襲撃者”という装いだ。
「えっち」
「勝手にヨウに触りやがって、クソボケ共が」
クンツァは即座に後退し、剣へ手を伸ばして構えを取る。
だがその表情には、隠しきれない笑みが混じっていた。
あれほど切望していたハプニング。
それが今まさに、目の前で勃発した。
ヴォルツはいない。
主にアピールする千載一遇の好機が舞い込んできた。
これを逃す手は――
(あれ?)
突然視界がひっくり返った。
気づけば自身の目線が、得物たる双子の足元にまで下がっている。
何が起きているか分からず目を白黒させていると、どさりと何かが隣で倒れる音がした。
(――な……んだ?)
倒れた物体――それは自身の身体だった。
首から鮮血を噴き上げ、びくびくと痙攣している。
つまり自分は首を斬られたのだ。目の前の二人ではない、何者かに。
「て、てきしゅ……う――」
仲間たちへの警告を発しようとする。
しかしそれがクンツァの辞世の句となった。
薄れゆく意識の中、背後から無機質な男の声がかろうじて彼の耳に届いた。
「特殊第六執行部隊――これより執行を開始する」
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――報告。
地球時間210005ZJAN25
特殊第六執行部隊・準上級執行官ドゥー及び下級執行官インとヨウの『ルーンプリンス』本拠地への襲撃を確認。
敵三個体を即座に処理、後に場内への潜入を敢行。
以上。
■ルーンプリンス城
ロザリアに寵愛を受けた男性たち――ルーンプリンスが住まう宿舎。
宿舎とは名ばかりの豪奢な施設で、1000人以上を収容できる規模を持つ。
ロザリアに支配された者たちは、ここで美容・鍛錬・警備に励み、彼女のために己を磨き続けている。
■ルーンプリンス
ロザリアの恩寵によって意識を上書きされた男性たち。
過去の身分や人生を忘れ、ロザリアへの愛と忠誠だけを行動原理とする。
美男子ばかりで構成されているが、その実態はロザリアの傀儡部隊である。
■クンツァ
ルーンプリンスの副団長。
褐色の肌と桃色がかった長髪を持つ美丈夫で、ヴォルツに次ぐ高位の騎士。
剣技や身の回りの世話に優れるが、常にヴォルツを超えられないことへ強い嫉妬を抱いている。
■ベリル
ルーンプリンスの一員。
緑色の短髪と美少年めいた容姿を持つ青年。
新入りのラズリを品定めするなど、ルーンプリンス内の歪んだ価値観を象徴する人物。
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