CASE.120「FREYA殺し」
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電磁パルスのような赤い閃光が、広場全体を包み込む。
その発生源は紛れもなくクストーディスの剣であり、迸る光はやがてクルキブリの端にまで届いた。
「なななななな!?」
「なんですかこれぇ~!!」
「小隊長ッ!!」
「……おいおいおい」
「………………」
未知の現象に、ドゥー一同は驚きを隠せなかった。
三爪傷は、ヘロメロスらを庇うように覆い被さっている。目を瞑り、もはや何が何だか分からないまま、健気に身を挺して3人の肉壁になろうとしていた。
一方、第四執行部隊は銃を構えて迎撃に備えていたが、声には動揺が滲んでいた。
先ほどまで余裕綽々だったニガールも眉間に皺を寄せ、広場を満たす赤い光を睨んでいた。
「ミラ! これは何だ?!」
この現象はドゥーも初見。
分析する手段も時間も不足しているため、即座にミラたち作戦室へ助言を求める。
「ザザザ……せんザザザ……つうザザしんがザザザ」
「ミラッ!?」
通信状態がかなり劣悪だ。
ノイズが多く混ざっており、まともな会話ができる状態ではない。
だが、ヴォルツの時のような物理的な断絶ではなく、何か電気的な阻害を受けているかのような状態なのは確かだった。
「クソ、通信が……ニガールさん、ノルハイコたちとは――」
「……! チッ、こっちも駄目になってやがる」
やがて作戦室の声は途絶え、雑音すらも消えた。
いつもは耳からイヤホンを引き剥がしたくなるほど鬱陶しいミラの声だが、いざ聞こえなくなると、不安の方が何倍も勝ってしまう。
「なんですか、これは?」
「……いや、コイツは――」
「小隊長ッ! FREYAが!!」
アモンの焦りを交えた声を耳にし、咄嗟にドゥーとニガールがお互いのスーツを見る。
「「な――」」
彼らが目にしたのは、信じられぬ光景だった。
FREYAが完全に沈黙していたのだ。
ドゥーのFREYAからは隙間より覗いていた赤い発光線が消えており、まるで電池が完全に切れているかのようである。
第四執行部隊も同様、全身から黄色の光筋が消えており、完全にOFF状態。
「うそ……、再起動もできないです~!」
「なんなんだ、これは?!」
プスコーとアモンは首元のボタンや、左腕のデバイスを乱雑に押している。
だが、何をしてもFREYAはうんともすんとも言わず、2人は本格的に焦りを顔へ浮かべる。
「チッ、HFライフルもおしゃかになってやがる」
カチカチと引き金を引くも、ニガールの銃口は沈黙したままだった。
当然ドゥーもANUBISを確認するが、このブレードも同様、彼の操作に反応しなかった。
「これ……B.A.M.ですよ!!」
「ば……む?」
「説明しろハマー」
確かハマーは元技術官だったとドゥーは思い出した。
こういった機械的な事象には詳しいのだろう。
ニガールはすぐさま彼へ説明を求める。
「生体接続兵装沈黙波――通称、FREYA殺しです。肉体とデバイスのリンク、異空間通信、転送、その他もろもろを一斉に阻害する悪魔の兵器ですよ!!」
「リンクを……阻害だと??」
生体接続兵装沈黙波とは、ハマーが解説した通り、“あらゆる生体由来の接続”を解除する電磁波である。
オペレーターは執行官のバイタルも測るため、FREYAは執行官と神経系で繋がっている。
並びにFREYAのエネルギーは執行官本人を経由しているため、その接続が切られればFREYAは沈黙するという仕組みだ。
これは、執行官が死亡してFREYAが現地に残された場合でも、その機能を解析・悪用されないための安全策なのだが、同時に執行官が生きている限りFREYAも動き続けるという利点がある。
そして、ハマーが悪魔の兵器と呼んだこの電磁波は、その利点を逆手に取った執行官殺しの兵器なのだ。
「おい、ババァッ!!」
ハマーはミュラーの胸倉を掴み、怒鳴りながら問い詰める。
「うぐぅ……!」
「なんでアイツがあんなもん持ってんだ?! アレは本部が大昔に凍結した、禁忌の技術だぞ!! なんでそれを持ってる?!」
ハマーはミュラーを激しく揺らし、彼女は「うぅ」と苦しそうな呻き声を上げる。
ニガールがそれを制止しミュラーを下ろしてやると、彼女はか細い声で答え始めた。
「オホッ、ゴホッ……そうじゃ。アレはお前さんが言う生体接続兵装沈黙波。それそのものじゃよ」
「婆さん。理由はいい。コレの解除方法だけ教えてくれ」
「……ない」
「は?」
ニガールは呆気に取られる。
「即効性のある対策は残念ながら無い。時間のみがこれを解決する。だから“悪魔の兵器”なのじゃ」
「おいおい、勘弁してくれ……」
「だが、アレもまだまだ未完成じゃ。一度の照射で永久に使えなくなるわけではない。それに、一回撃つごとにそれなりのインターバルを要する故……」
ドゥーはミュラーの肩を掴み、膝を曲げて彼女へ問う。
「解除時間は?」
「遅くとも半日……」
「二度目を喰らえば?」
「その期間は伸び、最悪そのFREYAはただの頑丈なガラクタとなる」
「そうか……了解した」
ドゥーは深くため息をつくと、立ち上がり、ゴキゴキと身体中の関節をほぐす。
ANUBISを納刀し、今度はバキバキと両手の指を派手に鳴らした。
「おい、ドゥー。何をするつもりだ」
「いや、相手の魂胆が大体分かったんで。絞めてきます。その間に退避の準備を」
「いや、おい。今の俺らは――」
止めようとしたが、何かを思い出し手を引っ込めるニガール。
すると今度はクストーディスの轟声が広場中へ響き渡り、全員が向こうで大剣を掲げるフルプレートを凝視する。
「見たか!! これぞ我らの傑作の力!! 貴様らの力の根源、それを否定する大いなる力だ!!」
「……力の……根源ねぇ……」
「……フン。確かに貴様らは強い。我ら『アグレウス』よりも。だが、それは装備の性能差だ」
「…………」
「貴様らの力は、その得体の知れない装備に強く依存している。その証拠に見ろ!!」
クストーディスは『イシスレイヤー』をドシンッと下ろし、一か所に集まっている第四執行部隊とアン(寝)を指差した。
「今の貴様らは無力ッ!! その筒も使用できず、ただの長い鉄クズと化している!!」
「クソ、好き放題言いやがって、あのデカノッポ」
「しっ、無駄口を叩くな。今はひとまずドゥーに任せるしかない」
「お任せしましたよ、ドゥーさん~~汗」
クストーディスの声のトーンは徐々に上がり、途端に饒舌になった。
自ら分析したRAC側の弱点を得意げに並べ立て、もはや勝利を確信しているかのようだった。
その勝ち誇った声に苛立ちながらも、第四執行部隊はいそいそと退避の準備を進める。
一方ドゥーは、両手を上へ挙げながらクストーディスへ向かい、歩を進め始めた。
「どうした!? 俺は今、無防備だぞ!! 撃てないか!? そうだろうとも、貴様らは今無力なのだから。どうしようも……――なんだ貴様?」
無言でノシノシと近づいてくるドゥーに、クストーディスは首をかしげる。
「ハハ……ハハハハハッ! もしや降参かな、赤目の方?」
「…………」
手ぶらでこちらへ向かってくるドゥーを見つめ、クストーディスは煽るように肩を竦めた。
彼の笑い声に釣られ、周囲の『アグレウス』たちも便乗し始める。
「フハハハハハ!! なんと哀れ、なんと弱いことか!! 装備がなければ、貴様らはその程度だったということだ!」
「「「アッハッハッハッ!!」」」
「クソ、コイツら……」
「いやー、すまん。俺の判断ミスだ。コイツら普通に最初からぶっ殺せばよかった」
「副隊長。今からでも全然いけますけど?」
「コクコク」
「やめとけ、やめとけ」
嘲笑は哄笑へと変わり、笑い声が広場中に爆発した。
指差しや罵倒、中には石ころを投げつける者まで現れ、アモンとハマーの顔には特大の血管がビキビキと浮かび始める。
「大丈夫だ、お前ら」
「??」
「いや副長。マジで、今すぐでもコイツらボコボコに――」
「もうそろそろ面白いのが見られるぞ」
「「へ?」」
ドゥーはさらにスタスタと、クストーディスの元まで歩み寄る。
どれだけ嘲笑されようが罵声を浴びようがお構いなしに、両手を挙げた降参のポーズのまま彼の目の前まで辿り着いた。
「どうした? 俺は無防備だぞ? さっさと撫で斬りなり真っ二つなり、好きにすればいい」
「フン。見栄を張るな、ドゥーとやら」
クストーディスはドゥーの肩へ手をポンと置き、諭すように言葉を口にした。
「俺はお前の力を、ある程度は評価しているんだ」
「…………それで?」
「這いつくばれ」
クストーディスの言葉に、重みが増した。
恐らく、先ほどの煽りめいた言動や態度も作戦の内なのだろう。
消沈しかけた団員たちのボルテージを上げ、勝鬨の土台を作るための大袈裟な演説。
常に一手先のことを見据えるこの男に、ドゥーは今まで会ってきた異世界人の中でも、最も厄介な敵の一人だと再認識する。
怒りと敬意。
そして同時に、深い哀れみを覚えた。
「手と膝を地につけ、頭を垂れろ。そしてこう言うんだ。『私たちはこれより、クルキブリの民となり、その全てをこの地に尽くす』とな」
「対価は?」
「命は保証してやる」
「……そうか」
ドゥーは膝を曲げ始め、クストーディスの言葉通りの体勢を取り始める。
片足、そしてもう片足を折り曲げ、姿勢を徐々に低くしていく。
周囲の『アグレウス』達は今か今かと、ドゥーの完全敗北宣言を待ち構える。
「フン……俺の機嫌がいい間に済ませるんだな。さもなくば、その前にお前の首がつぶごッ――」
メシャンコッッ
だが次の瞬間、彼らが耳にしたのは服従の言葉ではなく――彼らの団長の顔面へ盛大にめり込む、拳の音であった。
【今回の用語まとめ】
■生体接続兵装沈黙波
通称『FREYA殺し』。生体と装備の接続を遮断し、FREYAや通信・転送機能を無力化する特殊な電磁波。かつてRAC本部によって開発を凍結された禁忌の技術である。
■FREYAの生体接続機構
FREYAと執行官の神経系を接続し、本人を経由してエネルギーを供給する仕組み。装着者の死亡後に装備が悪用されることを防ぐ安全策でもあるが、B.A.M.によって接続を遮断されると機能を停止する。
■B.A.M.の効果時間と制約
照射されたFREYAは即座に復旧できず、回復まで遅くとも半日を要する。連続照射によって停止期間が延び、最悪の場合は復旧不能となる。一方、照射する側にも相応のインターバルが必要となる。
■イシスレイヤー
反機竜アンティカリ=リュプスの一本角から製作された、クルキブリの秘宝。内部には『生体電磁波共鳴機構』が搭載されており、B.A.M.の放出によってRACの装備体系を無力化した。
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・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




