CASE.121「素パンチ」
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「冗長回線へ切り替えます。ミラオペレーターはサブキャリアを開いてください!」
「周波数ホッピング、上限まで拡張……ダメッス!! てんでダメッス! オールレッド!!」
一方、作戦室ではミラとサイモンが端末に食らいついていた。
カイや他の者への解説は後回し。
ひたすら時短で専門用語を交わし、この異常事態の収束に奮闘する。
二人の指は、手の形を残さぬほど高速で動き続けていた。
「映像切断、テレメトリ切断、生命維持データも後回し……音声だけ優先してください!」
「特六・第四とのリンク完全消失! サブ回線もダメみたいッス!」
「では周波数帯を切り替えてください。こちらで同期を——」
「ホッピング拡張――あークソゴミF●CK! 全部反応なし!」
「音声だけでも強制同期できませんか!?」
「了解! 再ハンドシェイク――……ふへぇ、これも応答なしぃ!?」
赤いエラー表示が、二人のモニターを隅から隅まで埋め尽くす。
とりあえずカイの目には、二人のオペレーターをもってしても、この事態は容易に解決できるものではないことだけは理解できた。
「サイモン! 第四の最終受信データを出してください!」
声を張り上げたのは、ノルハイコだった。
彼女もまた端末へ駆け寄り、食い入るように画面を覗き込む。
「最後のバイタルは記録されています。ですが、その後は完全に途絶していて……!」
「緊急転送は? せめて、彼らをこちらへ戻す経路だけでも――」
「現地との接続が全てカットされています!」
「……ッ!」
ノルハイコは唇を噛み、机の縁を強く握り締めた。
「……私も復旧を試みます。サイモンは転送経路を引き続き確認してください。お願いします!」
「了解です、隊長!」
すぐさま別の端末を開くノルハイコだったが、その指先は僅かに震えていた。
「機器自体は生きてるのか……。これはただのEMPではないね」
「マジイミフ。あーくっそ腹立つッス!! 何なんスか、これカイ姐!?」
「ちょ、私が分かるわけないでしょ!? 隣の眼鏡に聞きなさい!?」
「……いや、ふむ。FREYAには通常のEMPなどの攻撃は効かないはずだ。故にこれは未知の技術」
「「つまり?」」
「フッ……………………僕にも分からない」
コーヒーを一啜り。
溜めに溜めて出てきた答えがゴミよりも価値のないものだったため、カイとミラはユリスを蹴り飛ばす。
吹き飛んだユリスはコーヒーを盛大に溢しながら後方へ転び、その全てがヘパーの顔に掛かった。
「サイモン、あなたでも何も分からないの!?」
「申し訳ありません。FREYA自体に異常はなく、何故か全ての接続が強制的に切れたようなのです」
「接続が……は?」
サイモンは上部の、まだ生きているモニターを指差す。
「これは接続が切れる直前の状態ですが、FREYAに物理的な破損が生じた様子が無いんです」
「しかも一瞬で全部の接続が途切れたッス。マジで初見殺しッスね」
「じゃあ、一体何が――」
「B.A.M.だ」
突如、野太い声が響き、三人は一人の男へ視線を向ける。
「ヘパー、あなた知ってるのね!?」
「まぁな。ったく、どいつもこいつもギャーギャー喚きやがって、みっともねぇ」
ヘパーはユリスから剥ぎ取った白衣で顔を拭くと、使い済みの雑巾のごとくポイッと捨てる。
少々ユリスが不憫だが、今はそれどころではなかった。
「そのハムだかナムだか知らないけど、説明してちょうだい!」
「仕方ねぇな……」
ヘパーはため息をつく。
勿体ぶるように髭を弄り、脛にカイの蹴りを喰らったことで、ようやく端的な解説を始めた。
「ありゃ、旧RACが封印した技術の一つだ」
「きゅ、旧RACですって?」
「おう。オメェが来るよりも前だ、カイ」
ヘパーは思い出すように遠くを見つめながら、さらに解説を続けた。
「これは技術官の中でもオタク……酔狂な奴しか知らねぇマイナーな技術のはずなんだがな。なんで奴らが持ってんのかは、俺も聞きたいもんだ」
「…………策は?」
「あぁん?」
カイはヘパーへ食い気味に問い詰める。
「何かあるんでしょ? 弱点みたいなのが!?」
「ねぇよ」
「はぁ!? ちょ、あんた、説明めんどくさいからって――」
「マジでねぇんだっての。だから禁忌なんだ。分かるか? コイツはあまりにも危険すぎて情報ごと封印された特級呪物なんだ」
「……それじゃあ、第四の皆は……!」
ノルハイコが堪らず声を上げた。
ニガールたちは今、FREYAも通信も失ったまま、敵陣の真ん中に取り残されている。
その事実に、彼女は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「…………」
カイは額を押さえながら、よろよろと後ろへよろめく。
彼女をユリスが受け止め、ミラはひたすらおろおろと爪を噛み始めていた。
「え、じゃあガチで先輩たちヤバいじゃないッスか!!」
「あん?」
「だってFREYA無かったら、パワーとかスピードもガタ落ちじゃないッスか!!」
ミラはヘパーの服を掴み、懇願するように彼へ縋った。
「相手は基底界人並みの身体能力を持つバケモンたちですよ!? このままだと先輩が……アンちゃんが!!」
「だぁーもう離せっての。大丈夫だって言ってんだろうが」
ヘパーは泣き喚くミラのフードを掴み、椅子へボスッと下ろす。
クルッと回転させ、モニターとミラを対面させた。
「何すんスか!」
「いいか、チンチクリン。奴のFREYAは特別製なんだ」
ヘパーは子供を諭すように語り掛けた。
ミラの頭へそっと手を置き、指の間からピョロッとアホ毛がはみ出す。
だが、ミラはまだ納得できずに食い下がる。
「だから、身体能力的なバフとか全部無くなるって話じゃ――」
「ばーか。奴のFREYAに、そんなもんは無ぇ」
ミラとカイ、サイモンがポカンとする。
FREYAが執行官の身体能力、防御力、その他諸々の戦闘能力を補う万能装備であることは常識であるため、ヘパーの言うことは理解不能の域だった。
「それってどういう……」
「だーかーら。ドゥーのFREYAにゃ身体能力やら、戦闘的なパワーアップみたいな機能は端からねぇんだよ」
ヘパーはのしっと椅子に座る。
「やれやれ」と言わんばかりに、さらに缶ビールを開け、一煽りで飲み干すと、そのままユリスの白衣と同じようにポイッと捨てる。
「よく聞け、馬鹿野郎どもが。あいつのFREYAの本来の目的は奴の保護じゃねぇ。奴を閉じ込めてるグレイプニルMK2の保護だ」
「え」
「別に奴を案じて設計したわけじゃねぇ。あの野郎の制御装置を守るために着せてんだ。てか、擬似タルタロスでもFREYA着てただろうが。FREYA着ねぇ方が危ねぇってことだ」
カイとサイモンはゆっくりと頷いた。
「な、るほど……」
「そういえばあの子、タルタロスでもどこでもFREYA着っぱなしよね……」
「え、じゃあちょっと待ってください?!」
ミラはガタンッと立ち上がり、核心を突いたかのような表情で口を開いた。
「じゃあ先輩の馬鹿げた身体能力って……」
「フンッ……ありゃあ素だ」
————————————
「~~~~ッッッ?!?!」
場面は、クストーディスが言葉にならない悲鳴のようなものを喉から発する直前にまで遡る。
何が起きたかといえば、ドゥーの拳は大きくクストーディスの兜へめり込み、そのまま中身へ強烈なパンチを喰らわせたのだ。
ドゥーの規格外な腕力に、ひしゃげる兜そのものの衝撃まで加わり、クストーディスの顔面へ凄まじい衝撃が瞬く間に走った。
縦回転に何度も跳ね、8回転したところでようやく勢いは止まる。
「ご……バハァッ!!」
兜の隙間から血が大量に溢れ出す。
視界は酷く歪み、痛みは一周回って何も感じなかった。
必死に地面を掴み立ち上がろうとするが、手に力が一切入らない。
執念からか、辛うじて右手には『イシスレイヤー』を握っているが、足はプルプルと全くもって言うことを聞いてくれる素振りを見せない。
「ゴポォ…………な、何が…………」
理解不能。
ひたすらに理解不能。
何が起きたのか、一切合切が不明だった。
赤目が姿勢を低くしたと思えば、その刹那、黒い拳状のものが迫り、避ける間もなく顔面へ叩き付けられたことだけは辛うじて認識できた。
(な、何故だ……長老様が言うには、これは奴らの装備を無効化するはず……。一体どこにこんな力を隠し持って――)
「良いツラになったじゃねぇか」
赤目の声を聞き、震えながらもクストーディスは前を見据える。
するとすぐそこにドゥーが待機しており、こちらの顔を覗き込むように深くしゃがんでいた。
「随分柔い装備だな。ウチの技術官ならこうはならんがな」
「ぎ……ぎざま……ごぶッ」
意識が戻り始め、痛みを痛みとして認識し始めたクストーディスは、震えながらも立ち上がろうとする。
まずは両腕で上体を起こし、次に膝。そして足をつき、最後は生まれたての子鹿のごとく、辛うじて立ち上がることに成功した。
「割と本気で殴ったんだが……お前、やっぱ強いな」
「き、貴様……」
手をぐっぱと開閉するドゥーを尻目に、クストーディスは辺りを見回し、何か反射するものを探す。
そしてギリギリ破損を逃れていた窓を見つけると、そこでやっとドゥーの言う「良いツラ」というものを認識した。
「な……んだこれは」
見れば見るほど拳。
ドゥーの拳の形そのままのクレーターが、クストーディスの兜に形成されていたのだ。
「馬鹿な……」
クストーディスは自身の顔を何度も触る。
当然、窓の向こうの自分も同じ挙動をしており、彼が見ているものが紛れもない事実であることを、無慈悲にも伝えていた。
「良いデザインになったな。傑作だぜ」
(そんな……馬鹿なことが、これは最高硬度の合金で作られた鎧だぞ!? それを……ただの素手による……殴打で……?!)
痛みとショックで視界が再度ぐらついた。
『イシスレイヤー』を突き立て、倒れるのを何とか凌ぐ。
「兜が面白おかしくなったところで申し訳ないが、こちらも時間がないんでね。その大剣は貰っていくぞ」
「よくも——ゴバァッ!!」
舐め腐った発言を聞いた矢先、腹部に吐き気を催す鈍い痛みが走る。
「ぎ……ざ……」
見るとドゥーの拳はクストーディスの腹部へめり込み、再び赤黒い液体が兜から滝のように流れる。
「さっさと離せ。肉体ごと鉄屑になる前にな」
「お”、お”のれ――ブハァッッ?!」
最後まで言わせず、ドゥーは容赦なく顎部へアッパーを喰らわせる。
噴水のように血飛沫が飛び散り、1メートルほどクストーディスの身体が宙へ浮いた。
「…………ガ……」
(コイツ……本当に頑丈だな)
手加減したとはいえ、追加の2発を喰らっても大剣を一切離そうとしない。
プライドか矜持かは定かではないが、クストーディスという男の身体能力だけではないその精神の強さに、ドゥーは素直に感服した。
「まぁいい。どちらにせよ、お前はタコ殴りコース決定だ。覚悟しやがれ」
【今回の用語まとめ】
■旧RAC
現在のRACに先立つ旧体制。かつて『B.A.M.』を開発・運用していたが、その危険性から技術ごと封印したという。ヘパーは当時の技術について知識を持っているものの、旧RACの詳しい歴史は未だ不明。
■ドゥー専用FREYA
通常のFREYAとは異なり、身体能力の強化機能を一切持たない特注仕様。ドゥー本人の戦闘補助ではなく、彼を拘束する『グレイプニルMK2』の保護を主目的として設計されている。そのため、装備が停止してもドゥー自身の身体能力には影響しない。
■グレイプニルMK2
ドゥーの『アバドン・システム』を抑制するための絶対神性拘束具。神々さえ畏怖する異能を封じ込める重要装備であり、FREYAによって外部から保護されている。擬似タルタロスでの収監中もFREYAを着用していた理由は、この拘束具を守るためだった。
■ドゥーの素の身体能力
ドゥーが誇る怪力や速度は、FREYAによる強化ではなく、本人が元来備えている身体能力。B.A.M.によってFREYAが沈黙した後も、その力は一切失われていない。クストーディスの最高硬度の兜を素手で変形させるほどの膂力を持つ。
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※AIの利用について:
・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




