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転生監査機関RAC  作者: ぽんにむ
第二章「輪廻庁」2-1「ゥルル編」
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CASE.119「駆け引き」

ご覧いただきありがとうございます。


※本作はカクヨム、noteにも掲載しています。

設定資料をご覧になりたい方はぜひnoteに訪れてみて下さい!!

https://note.com/ponym/m/mc8c9ad24eef6

「全く……大したバカ力だ」

「何ッ!?」


 クストーディスの全力の横薙ぎは、確かに直撃したはずだった。

 その証拠に、ドゥーの足元は大きく地面へめり込んでいる。


 だが、よく見れば大剣はドゥーへ届いていない。

 ドゥーの左手――そこから突如出現した謎の黒い波紋によって、その刀身は阻まれていた。


「初めてだぞ。これ(アバドン)を異世界人に使うのは」

「な、貴様——」


「げ、先輩!?」

「あんの馬鹿タレ!!」


 まさかの『アバドン・システム』起動に、作戦室はミラとヘパーを筆頭にざわつき始める。


 出力は僅か3%程度。

 その小規模さは、手のひらほどの黒い波紋が物語っていた。


 現地の異世界人へ恩寵(ギフト)を行使すること自体は、決して珍しくない。

 一方で、『アバドン』ほどの異能を行使したという事実は、作戦室内へ大きな波紋を呼んでいた。


「あのクソボケナス! 雑魚相手に『アバドン』使いやがって!!」

「これアタシ悪くないッスよね?? ねえ!? アタシ悪くないっすよね!?」


 だがクストーディスもまた、初見の『アバドン』に翻弄される者の1人だった。


(何だこれは?! 触れずに止めただとッ!?)


 渾身の一撃は微動だにせず受け止められており、彼にとって理解しがたい物理現象であった。

 挙句、大剣は黒い波紋へ触れてすらいない。


 未知の現象にクストーディスは困惑し、一度その場から離脱しようとする。


(原理は分からん。だが、ここは距離を――)

「逃がすか」


 ドゥーは退避するクストーディスへ、黒い波紋を向ける。


 そして蓄えたエネルギーを反転。

 容赦なく、波紋から液柱(ジェット)がクストーディスへ襲い掛かった。


 パァンッ!!


「ぐぅお!?」


 まるで、自身の一撃が倍の衝撃となって返ってきたような感触。

 大剣で防御したものの、謎の黒い液柱の激突により、クストーディスは背中で地面をゴリゴリと削りながら吹き飛んでいく。


 クストーディスは大剣を石畳へ突き立て、火花を引きながら勢いを殺していく。

 だが、止まり切るよりも早く、ドゥーが石畳を蹴った。


(速い——)


 クストーディスは突き立てた大剣を支点に巨体を跳ね起こし、滑る勢いのままドゥーへ向き直る。

 迫るANUBISの斬り上げを、大剣の腹で受け止めた。


 ガキィンッ!!


 凄まじい金属音とともに、ANUBISの刀身が砕け散る。

 しかしドゥーは止まらない。欠けた刃を切り離し、柄を引き戻しながら新たな刀身を再構成した。


「ヌゥオォッ!!」


 クストーディスは、その僅かな隙へ横薙ぎを叩き込む。

 ドゥーは身を沈めて刃の下を潜り、起き上がりざまに胴へ一閃。

 だが、クストーディスも即座に大剣を引き戻し、刀身の腹で受け流した。


 ギィンッ! ガギィンッ!!


 そのまま頭上から振り下ろされる大剣。

 ドゥーは半歩ずれて直撃を避け、刃を斜めに滑らせて勢いを逸らす。

 それでも衝撃は凄まじく、足元の石畳がびしりと割れた。


「ヌゥッ!!」


 打ち下ろしから、逆袈裟。さらに横薙ぎ。

 クストーディスは巨体に似合わぬ切り返しで、息をつく間もなく大剣を振るい続ける。

 ひと振りごとに空気が唸り、周囲の瓦礫が弾け飛んだ。


 だが、ドゥーも押されない。

 刀身の破砕を厭わず、分離と再生を繰り返しながらクストーディスの猛攻を往なしていく。


 ガガガガガガガガッッ!!!


 互いの刃が火花をまき散らす。

 クストーディスの大剣がドゥーのローブを掠め、その直後にはANUBISの切っ先がクストーディスの腕甲を抉った。


「ぐ……(こんな小さな獲物で、なぜ当たらんッ!?)」


 振るえども振るえども、悉く攻撃を往なされる。

 両者の得物には明らかな質量差がある。それでもドゥーの巧みな剣術によって、傷を負っていくのはクストーディスばかりだった。


 ガコンッ


 腕の装甲がはじけ飛ぶ。

 なりふり構わず、クストーディスは次の一撃を繰り出す。


 ドゥーは大剣の腹をたたくことでその軌道をずらす。

 返す刃で斜め下からの斬り上げ。バランスを崩したクストーディスの肩口へ袈裟斬り、さらに足元を払う三連撃。

 二撃を大剣で凌いだものの、最後の一閃を避け切れず、巨体を大きくよろめかせた。


「ぐ、ぬッ……!」


 体勢を立て直そうにも、ドゥーは間合いを譲らない。


「罰劾(ばっがい)」


 放たれた強烈な十字斬りをクストーディスはイシスレイヤーで防御する。

 耳をつんざくような破砕音とともにクストーディスの体が後方へ吹き飛び、やがて後方で待機していた『アグレウス』の団員たちへもたれ掛かる形で、ようやく静止した。


「団長、ご無事ですか?!」

「あぁ……」


 団員たちは、彼の大きな背中を押して立ち上がらせる。


 1人1人が屈強な狩人(スレイヤー)である『アグレウス』。だが、こうして並ぶと大人と子供ほどの体格差がある。

 実際、団員たちがクストーディスの身を案じる光景は、女王蟻を取り囲む働き蟻のようですらあった。


「お前たち、身体は?」

「はい! 多少身体を貫かれましたが、まだ動けます!!」

「そうか……ご苦労」


(なるほど……あの後方の筒を持った集団には、我らを殺し切るほどの火力はない。ならば、やはり壁は――)


 クストーディスは淡々と情報を分析していく。

 先ほど児戯のように吹き飛ばされ、一時は錯乱しかけた思考も、『イシスレイヤー』を手にしたことで落ち着きを取り戻していた。

 こうした切り替えの速さもまた、彼が現クルキブリ最強と呼ばれる所以である。


 そして分析の結果、やはり最も厄介なのはあの赤目(ドゥー)。


 渾身の一振りを片手で受け止める強靭な腕力。

 一太刀――いや、刹那の二太刀で重装備のこちらを吹き飛ばす剣技。

 さらに、特筆すべきはあの謎の黒い波紋。


 その全てが、人の領域を逸脱している。


「お前たち、あの黒い波紋のようなものに見覚えはあるか?」

「い、いえ……」

「では、触れずに俺の攻撃を受け止めた、あの現象に見覚えは?」

「申し訳ございません……ですが、団長の攻撃を止めるとなると、もはやモンスターの類いかと……」


 少なからず、『アグレウス』にもドゥーの異常性は伝わっていたらしい。

 「団長の攻撃が当たらないだなんて」「何者なんだ」と口々に困惑の独り言を漏らしている。


 そして、それはクルキブリの民たちも同じだった。


 次々と常識を超えた力が現れるこの状況を見れば、ミュラー(長老)が語っていた「いと貴きヒトの到来こそが、クルキブリの命運を左右する」という言葉も、強ち間違いではないらしい。


 『アグレウス』、民衆、そしてクルキブリ全体へと、何か大きな歯車が狂い始めているような感覚が、意図せず広がり始めていた。


「人型のモンスターか……それとも、あの装備が核か……」

「だ、団長?」


 クストーディスは、頭の中の情報を整理するようにぶつぶつと呟く。


 そういえば、アンが不可思議な浮遊物体でギルドの頭蓋を貫通したのも、彼女自身の力ではない。

 何かしらの制約があるのか、そもそも今の今まで一発しか撃っていない。

 あの小さな金属片を放つ筒を持った集団も、装備が発光してから高速移動と迎撃を開始した。


 力には理由がある。

 きっと何か絡繰りがある。


 今まで数多のモンスターを狩ってきた知略と分析力で、敵の弱点を探る。


 おろおろと『アグレウス』たちも周囲で議論を交わしているが、お構いなしに独自に思考を重ねる。

 一つ一つの情報を繋ぎ合わせ、やがてクストーディスは一つの結論へ辿り着いた。


「やはり鍵はあの不可思議な鎧か……」


 クストーディスは大剣を持ち上げると、おもむろに地面へ突き刺した。

 そして腕を組み、指文字で『アグレウス』たちへ指示を送る。


 その直後。

 何事もなかったかのように、ドゥーへ向かって高らかに宣言した。


「名乗れ、戦士よッ!! お前がモンスターか、いと貴きヒトであるかなど、どうでもいい。だが、その首を狩るまで俺は聞き続けるぞ」

「………ん?」


 ドゥーは首を傾げる。


「俺の名はクストーディス!! 『アグレウス』団長にして、クルキブリ最強の狩人(スレイヤー)である!!」


 クストーディスの声が、驚くほど遠くまで反響した。


 ドゥーは「一応自分も名乗るべきなのか」と周囲を見渡す。

 第四執行部隊も仲良く首を傾げている。


 だが、周囲の『アグレウス』たちが何やら「名乗ってくれ」とでも言うように、わざとらしく口元を動かし続けていた。

 よく分からないが、仕方がない。フィクサー(インヨウ兄妹ら)には悪いが、ドゥーも渋々名乗ることにする。


「ドゥーだ」

「そうか、ドゥーか。単刀直入に聞こう。お前たちがかの“いと貴きヒト”か?」

「…………?」


 ドゥーとニガールは、苦笑しながら顔を見合わせる。


 再び『アグレウス』へ目配せすると、団員たちは「うんうん」と頷いている。


 ドゥーは仕方なく続けた。


「特殊第六執行部隊、上級執行官のドゥーだ。お前の言う“いと貴きヒト”が何を指すかは知らんが、これ以上――」

「この剣は『イシスレイヤー』ッ!! この俺が狩り、長老が剥ぎ、クルキブリの技術の髄を打ち込んだ最強の一品であるッ!!」


「「「うおおおおおおおッ!!」」」


 『アグレウス』たちが応えるように次々と吠える。

 ドゥーが何を言おうがお構いなしに、クストーディスは長々と講釈を続けていく。


「ようやくだ、諸君!! ついにこの傑作を使う時が来た!!」

「「「オウ!! オウ!! オウ!!」」」


 何らかの儀式なのだろうか。

 音頭を取るように足を踏み鳴らし、リズムに乗りながら「オウ、オウ」と声を上げている。


 勝手に盛り上がっているため、完全にドゥーたちは置いてきぼり。

 ハマーに至っては「アシカの大号令かな?」と、鼻をほじりながら小馬鹿にしている様子だ。


「モンスターの名は『反機竜アンティカリ=リュプス』! 全盛期は厄竜に匹敵すると言われた老竜……かの、いと貴きヒトたちを大いに苦しめた憎き獣! その一本角より作られた、我らが大傑作ッ!!」


(何だかベラベラ喋ってるが……性能を紹介してくれるなら、黙って聞くのが吉か?)


 ドゥーは指文字でニガールへメッセージを送る。

 するとニガールはこくりと頷き、第四執行部隊を集め始めた。


 一方、敵は勝手に悦に入り、講釈を垂れている。

 ならばドゥーも、黙って聞くことにした。


 あの『イシスレイヤー』という、あまりにも直球な大剣の効力を聞けるのなら、ぜひとも聞いておくべきだ。

 それに、第四執行部隊が退避の準備を整える時間も稼げるのなら一石二鳥。

 こういう時に、かませ犬役がベラベラと敵前で宣う現象は、どこの異世界でも同じ光景なのだろうか。


 そんな抜けた思考を、ミュラーの言葉が一刀両断する。


「お主ら……逃げるなら、今のうちじゃぞ」


「……は?」

「おいおい婆さん。さすがに、そんな出鱈目は俺らには通じねえぞぉ~」

「………………」


 寝言でも言っているのかと、ハマーは孫がおばあちゃんへ孝行するかのようにミュラーの肩を揉む。

 いかなる武装であろうと、この元気いっぱい、フル装備のドゥーと第四執行部隊という布陣を突破できる代物など、そうそう存在しないだろう。


 ニガールはガハハと笑い、アンをひょいと持ち上げる。


「まあ、確かに攻撃してくる様子もない。さっさとずらかるとするか」

「さんせー」

「ほれ。お前らもボケっとしてないで、さっさとその死に損ないを運ぶんだな」

「「……ウス」」


 三爪傷(スカーズ)からすればこの状況は意味不明であり、バルカンとヴェインは互いに顔を見合わせる。


 だが、今はとりあえず従った方が賢明なのは確かだろう。

 というより、反抗したところで、その不思議な鉄筒で蜂の巣にされるのがオチだ。それにクストーディスとタイマンで渡り合うどころか、押す者など敵に回したくない。

 ということで二人は簀巻きになったヘロメロスたち3人を運ぶ支度を始めた。


「副隊長」

「ん? 何だよ、アモン」

「いえ、何だかターゲット……この子の様子が変なので」


 アモンはゥルルを指差した。

 当のゥルルはぷるぷると震え、何かへ酷く怯えている様子だった。


「どうした、坊や。腹でも痛えのか」

「……げないと」

「んん?」


 何かに思い至ったのか、ゥルルはアンを抱えたニガールではなく、ドゥーの方へ走り寄った。

 そして、そのローブをぐいぐいと引っ張り始める。


「ど、どうしたどうした」

「逃げないと!! 早く、ここから逃げなきゃ!!」

「待て待て。一体どうしたっていう――」

「ママが逃げなさいって言ってるんだ!!」


「は? ママが何だって――」


 ゥルルは泣きじゃくりながら、何かを訴えるようにドゥーのローブを引っ張り続ける。


 こういう場合の対応はRACのマニュアルにはないので、あからさまに子供相手へたじたじになるドゥー。

 なぜゥルルが泣いているのか。何をそこまで恐れているのか。子供心特有の、その突発的な行動原理が全く理解できない。


 だが、その答え合わせは早くも訪れた。


「時は成った。時間稼ぎに付き合ってくれて、どうもありがとう」


「先輩、12時方向! 高エネルギー反応ッス!!」

「は?」


「生体電磁波共鳴機構(バイオ・レゾネーター)」


 およそ、この世界で生を得た者が口にするはずのない単語を、クストーディスが発した――その瞬間。

 辺り一帯は、眩い赤の閃光に覆われた。

【今回の用語まとめ】


■『アバドン・システム』

ドゥー上級執行官が保有する恩寵(ギフト)。あらゆる事象を拒絶する特性を持つ黒い物質『アバドン』を行使する。今回、ドゥーは出力約3%で起動し、黒い波紋によってクストーディスの攻撃を防御。蓄積した衝撃を反転させ、液柱(ジェット)として放出した。


■『イシスレイヤー』

クルキブリの宝であり、歴史上最高傑作と称される大剣。クストーディスが討伐した『反機竜アンティカリ=リュプス』の一本角から作られ、ミュラーによる素材の剥ぎ取りとクルキブリの技術によって製作された。ドゥーの《罰劾》を受けても破壊されないほどの耐久力を持つ。


■『反機竜アンティカリ=リュプス』

かつてクルキブリの創設者『いと貴きヒト』たちを苦しめた強大なモンスター。全盛期には厄竜に匹敵するとされる老竜であり、その一本角が『イシスレイヤー』の素材となった。


■『生体電磁波共鳴機構(バイオ・レゾネーター)』

『イシスレイヤー』に搭載されていると思われる謎の機構。クストーディスが時間稼ぎによって起動準備を整えた後、その名称を宣言した。発動直後、周囲一帯が赤い閃光に包まれた。具体的な機能や効果は現時点では不明。



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・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。

・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。

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