CASE.118「クルキブリの宝」
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「…………フッ」
「あーっ! 笑ったぁー!! 今、笑ったの聞こえたッスからねぇ!?」
「出た出た」と、ドゥーはミラの戯言を鼻で笑った。
ヴォルツの「半神」の件に続いて、二度目の馬鹿げた話だ。
たしかに、この『アグレウス』たちは異世界人にしては異様なほど頑丈だ。精神力だけで説明できる頑丈さではない。
だが、基底界人ほどではない。
第一、相手が基底界人なら、同じ基底界人であるドゥーたちが何も気付かないはずがない。
鼻で笑われたミラは、ぎゃんぎゃんと喚き立てていた。
そこへ待ったを掛けたのは、ニガールだった。
「強ち馬鹿にはできないぞ、ドゥー」
「?」
「確かそこの婆さん……ミュラーと言ったか。コイツは基底界人、それもRACの関係者である可能性があるんだろ?」
「えっ。ニガールさん、なんでそれ知ってるんッスか?」
ミュラーから基底界人の反応があるという話は、今まで連絡が全くつかなかったドゥーと第四執行部隊が知るはずのない情報だ。
それを当然のように知っているニガールの口ぶりに、ミラは驚きのあまり食い気味に詰め寄る。
「いやいや。お前ら側が通信できないだけで、なぜかそっちの声だけは駄々漏れだったぞ」
「はいい?!?!」
「だから俺らは、大方そっちの事情は把握済みだ。今の、この四面楚歌の状況も含めてな」
「え、じゃあイシス神のことも……」
「知っている。度肝を抜かれたがな。アッハッハ」
「アタシのやらかしも?」
「あぁ。第四そろってドン引きだ」
ミラは「マジかよ……」という表情で頭を抱える。
そこでカイとユリスの反応を確認すると、当然カイは唖然。
だがユリスは、不敵な笑みを浮かべていた。
「まさか……知ってたんスか?」
「いや。だが言っただろう? この作戦は賭けだと」
(……あ、確かこの眼鏡、この作戦は半分博打だって……。……じゃあ言えや!!)
ミラはユリスの足を軽く蹴ると、むすっとした表情でモニターへ向き直る。
「なぜ、僕は今蹴られたんだ?」
「……アンタが色々説明をすっ飛ばすからよ。まあいいわ。それで、基底界人って件はどうするつもり?」
カイの問いに、ニガールは「やれやれ」と肩を竦めながら応答した。
「どうもこうも、基底界人だろうが何だろうが、コイツらが厄介だってことには変わらないからな。やむを得ない場合は殺すしか――」
その時。
ニガールの声を遮るように、近くで爆発音が轟いた。
土煙が舞い、幾つもの瓦礫が宙へ舞う。
ニガールは、そのうちこちらへ降り注ぐものだけを全て撃ち落とした。
ドゥーは警戒を強め、その正体を確認しようと煙の中を凝視する。
だが、それは爆発物の類ではなかった。
そう分かったのは、その直後。
砂煙の中から、ゆらりと一人の黒い影が浮かび上がってきたのだ。
そしてブワッと、一振りだけで煙が霧散する。
同時に激しい風圧が、ドゥーたちへ襲い掛かった。
「何だ?!」
(まさか……)
「『アグレウス』ッ!! 攻撃を中止しろッッ!!」
その正体は、クストーディスだった。
鎧は傷だらけで、水に濡れていた。所々が衝撃で破損し、穴まで空いている。
だが、その右手に握られているのは、先ほど砕かれた得物ではない。
竜の牙のような。
爪のような。
それそのものを模したかのような、禍々しい大剣だった。
重さゆえか、ゴリゴリと石畳へ火花を散らしながら、引きずるように運んでいる。
彼の号令によって、『アグレウス』は徐々に攻撃の頻度を落とし、やがてその場へ倒れ込む者まで現れた。
それに伴い、第四執行部隊の3人も動きを止め、怒号の主を視界へ捉える。
「おいおい。アイツ動いてっぞ、ドゥー」
「…………」
「ドゥー、お前。まさか手加減したんじゃないだろうな?」
(馬鹿な……)
ドゥーは「むしろ逆だ」と心の中で叫ぶ。
ドゥーの『罰劾』は、自身の得物すら破損させるほどの衝撃力をもたらす。
それが一般人であれば、骨ごと粉々に粉砕される。
たとえ魔力か何かしらの防御壁越しであっても、相手を四等分しかねない、凶悪かつ単純な強技だ。
それを、あの男は真正面から受けてなお生きている。
それどころか自ら立ち上がり、いかにも重そうな装備まで追加していると来た。
手加減などしていない。確かな手応えがあったし、怒りに任せて普段以上の威力を叩き込んだはずだ。
それでも、あの男は戦意を失うそぶりを見せていなかった。
「というかコイツ、どこから降ってきた……」
ドゥーの脳裏に、ヴォルツの存在が過った。
第一執行部隊まで連想してしまうため、決して良い思い出ではない。
だが、参考資料としては十分だった。
そして、やはりこのクストーディスという男も、別の意味で異質だった。
ヴォルツは、主神トールの血を継ぐ半神。その桁外れの身体能力には血筋という理由があった。
だが、このフルプレートは違う。
ミラの反応も、これまでの情報も、彼が生粋のこの世界の住人であることを示している。
それが『罰劾』を喰らってなお、こちらへ立ち向かってくるのだ。
「…………お前には、聞きたいことが山積みだな。ミュラー長老」
「………………」
(となると、基底界人の何かが関わっているのも頷くしかないな……)
クストーディスがそうなら、恐らく異様に頑丈な『アグレウス』も同じ原理のはず。
その鍵を握っているのは、間違いなくこのミュラーという女だ。
ドゥーはじっとミュラーを睨む。
だが彼女は何も発さず、ただアンの髪を撫でるだけだった。
(……くそ)
今は問い詰める時ではない。
そう判断したドゥーは、即座にANUBISの欠けた刀身を分離し、再構成する。
新たな刃が飛び出し、横薙ぎに一閃しながら、ドゥーは一歩ずつクストーディスへ歩み寄った。
これからの戦いは、アンたちを巻き込みかねない。そう踏んでの行動だった。
「貴様らは……何者だ?」
「それはこっちの台詞だ、オンボロハンター」
二人の距離が縮まったところで、クストーディスは天高く、その歪な大剣を掲げる。
「見よ!! クルキブリの民よ!!」
雄叫びに釣られ、姿を潜めていた住人たちが次々と顔を出し、「おおっ」という感嘆の声を漏らす。
「うわっ、コイツら一人一人にも基底界人の反応が……」
「ミラ、黙ってろ」
「いや違うんスって!! アグレウスだけじゃなくて一般ピーポーにも基底界人の反応が……」
「は……??」
「これはクルキブリの宝にして、歴史上最高傑作の一品――『イシスレイヤー』ッッ!!」
「……!」
そのド安直な呼び名に、ドゥーはさらに警戒を強め、構えを取る。
当然、全ての執行官が食い付くのも無理はなかった。
(イシス……スレイヤー…………殺す……神殺し……)
RACにおいても、神域を含めたあらゆる文化圏においても、“神殺し”という言葉に良い話は聞かない。
ドゥーの『アバドン』しかり。
神を殺し得る何かに由来する物は、その大半が曰く付きであり、ろくでもない効果を持つ。
さらにブラフの可能性が高いとはいえ、ピンポイントで「イシス」と「スレイヤー」という言葉が出てきた。
それだけで、作戦室にも緊迫した空気が流れ始める。
そこへ、だんまりを貫いていたミュラーが、重々しく口を開いた。
「クストーディス……お主、それを持ち出す意味は分かっているのだろうな?」
「分かっていますとも、長老」
「……ずいぶん詳しそうだな、ミュラー長老。まさか名付け親はお前か?」
「…………」
(まただんまりか。相当な闇を抱えていると見える)
ミュラーは再び沈黙し、アンの髪を撫で始める。
埒が明かないと判断したドゥーは、即座に意識をクストーディスへ戻した。
魔力のような、魔法的な力が存在しないこの世界。
当然、クストーディスが持つ『イシスレイヤー』なる大剣にも、それらの力は宿っていないはずだ。
だが、その大剣には、どうにも呪いめいた禍々しさがある。
ドゥーの視線に、クストーディスが気づく。
「気になるか。この剣の効果が?」
「…………」
「では、その身をもって知るがいい」
さすがのクストーディスでも、片手で振るうには重すぎるのか。
両手で力強く柄を握り込み、刀身が背後へ倒れ込むほど、頭上高く構える。
ミキミキと鉄が拉げるような音が鳴るが、その正体は柄ではない。
クストーディスは己が握力で、彼自身の手を包む籠手を潰しているのだ。
その万力の握力だけで、本来自分を守るはずの装甲が悲鳴を上げており、その獣じみた力をこれでもかと物語っている。
「死ね」
そして、振り下ろす。
腰。背。肩。腕。
その他全ての筋肉を総動員した、剛力任せの渾身の上段。
全身の力を一本の刀身へ乗せた一閃は、空気をブオッと圧し潰しながら、一直線にドゥーへ落ちてきた。
(これはANUBISでは受け切れない——)
風圧だけで一撃の威力を察したドゥーは、即座にANUBISでの防御を断念し、後方へ飛ぶ。
ドゥーは上手く躱した。
だが、一撃の勢いはそのまま石畳へ叩き込まれる。
ボゴゴガァンッッ!!
当然、石畳は粉砕。
余りある衝撃は地面を伝って周囲へ迸り、広場全体が大きく揺れた。
周囲の家屋も軋みながら、壁面へ無数のひびを刻む。
並んでいた出店は衝撃波をまともに受け、ことごとく崩壊し、家々の壁へ叩き付けられた。
「うわわあわわわわわわ!!」
「凄いパワーですゥーーッ!!」
「「…………お、わぁ」」
第四執行部隊のおちゃらけ二人組は純粋に驚いている。
一方、三爪傷の二人は、別次元の力を前に唖然としていた。
瓦礫と化した石畳の破片は、散弾のような勢いで周囲へ飛び散る。
「…………」
ドゥーは後退しつつも即座に態勢を立て直し、迫り来る飛礫を巧みな剣術で全て斬り飛ばした。
(パワーだけなら、執行官以上じゃねえか)
さすがにヴォルツを連想させるほどの腕力ではない。というか、あんな化け物がそう何人も出てきたら世も末である。
だが、異世界人の領域は明らかに逸脱している。
その戦闘能力はもはや転生者、あるいは一般的な執行官にも匹敵する。
作戦室は言葉を失っていた。
「全員、無事か!?」
「ドゥー、よそ見をするなッ!!」
ドゥーは後方の部隊と、その他保護対象の安否を確認するために振り返る。
だが、アモンの怒声。
そして背後から響いた、地面を大きく踏み砕く音。
それらを捉えた瞬間、ドゥーは身体の重心を反転させた。
「!」
「ヌゥアアッッ!!!」
だが、振り返った時には、すでに遅かった。
クストーディスは完全にドゥーの間合いへ入り込んでおり、大剣は目と鼻の先まで迫っている。
「先輩ッッ!!」
さすがのドゥーも、この距離ではANUBISで受けるほかない。
そしてそのANUBISは、防御性能に関しては決して高くない。というか三流だ。
ブレードごとドゥーの頭が薙ぎ飛ばされる光景を想像し、ミラはガタンと音を立てながら、モニターへ向かって叫んだ。
ビュオッと、空気が裂ける音。
ミラの叫びも空しく、クストーディスの強烈な横薙ぎがドゥーへ直撃した。
【今回の用語まとめ】
■イシスレイヤー
骸都クルキブリの宝とされる、歴史上最高傑作の大剣。竜の牙や爪を思わせる禍々しい外見を持つ。ユグドラシルや厄竜との決戦に備えて温存されていたが、クストーディスの判断によって持ち出された。具体的な性能は不明。
■いと貴きヒトとドクトリウス家
クルキブリの創設者たちに対する呼称。ミュラーはその再来を長年待ち望んでおり、ドクトリウス家にも伝承が受け継がれている。ドクトリウスがアンへ強く執着した理由の一つでもある。
■クルキブリ住民の異常性
『アグレウス』の団員に加え、一般住民からも微量の基底界人反応が検出された。これにより、狩人たちの異常な耐久力が個人的な資質だけでは説明できない可能性が浮上した。
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※AIの利用について:
・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




