CASE.116「最速の執行部隊」
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ガチャガチャと弾を装填し、セーフティを解除する。
彼らが構えるのは、VABO製小銃『ヘファイス』――通称HFライフル。
基底界人向けに設計された、安価で大量生産可能な万能銃だ。弾種を切り替えれば、あらゆる任務に対応できる。
RAC黎明期を支えた主神の一柱――ヘファイストスが開発した、VABOの原点とも呼ぶべき兵器。以来、ほとんど姿を変えることなく、輪廻庁で愛され続けてきた。
「放てぇ!!」
「てぇ!!」
「殺せぇッ!!」
『アグレウス』各分隊の隊長らしき団員たちが、次々と声を荒らげる。
それに応じ、最前列の者たちが勢いよく腕を振りかぶる。
無数の槍が弾丸さながらの速度で、ドゥーたち第6.4合同執行部隊――その中央にいるアンとゥルルへ向かって飛来した。
同時に、ニガールら第四執行部隊の4人は、アンたちを囲むように四方へ展開し、銃を構える。
「副隊長ッ!」
「分かっている――『絶対直撃領域』」
それは、瞬きひとつにも満たない間の出来事だった。
空気を引き裂き、殺到する無数の槍。
その刹那を一つずつ切り分けるなら、まず最前列を飛ぶ槍の穂先へ、赤い光点が灯った。
次いで、その隣。
後方。
さらに、その奥。
飛来する槍の一本一本へ、赤い光点が瞬く間に広がっていく。
ニガールが赤い光点へ向けて発砲。ほかの三人も、それぞれの照準で引き金を引いた。
ギギギギギギンッ!!
幾つもの金属音が一度に重なり合う。
甲高い破砕音は一つの轟音となって、広場全体を激しく震わせた。
観衆は反射的に両耳を塞ぎ、何人かは顔を歪めながらその場へ屈み込む。
その頭上では、軌道を逸らされた槍同士が互いにぶつかり合い、金属の雨となって石畳へ降り注いだ。
「何?!」
クストーディスの喉から、理解の追いつかない声が漏れる。
その後、『アグレウス』のあちこちから狼狽の声が噴き出し始めた。
「ふえぇ~」
「あっぶねぇー! アイツらの肩の力、馬鹿にならないぜ副長!」
「予想以上の投擲力……タイミングをずらされたらなかなか厄介だぞ、副隊長」
「あぁ。だが、投擲の予兆は読める。各自そのまま、槍を持つ者を優先して全敵対勢力を無力化しろ。急所は極力避けろ」
「「「了解」」」
『アグレウス』もまた、負けじと槍を補充し、手にした者から投擲を試みる。
だが、槍を手にした者はことごとく、第四執行部隊に手足を撃ち抜かれた。
急所を外された団員たちが、ばたばたと呻き声を上げながら倒れていく。
「ほ、補充班も加われ! 突撃隊を編成し、段階攻撃で袋叩きにしろ!!」
小隊長の1人が叫ぶ。
その号令により、突撃隊と投擲隊が交互に並ぶ形で編成された。
これこそが、『アグレウス』のもう一つの必殺戦術――オルカ戦術。
投擲と突撃を交互に繰り返して敵を誘導し、少しずつ消耗させる波状攻撃である。
一斉投擲が通じないと見るや、『アグレウス』はすぐさま戦術を切り替えた。
この統率力と柔軟性こそ、彼らの真骨頂。ニガールは純粋に「ほう」と感心していた。
「各員、『FREYA-XS』を起動。任意に敵対勢力を迎撃しろ」
ニガールに続き、プスコー、アモン、ハマーもそれぞれ首元のボタンを強く押す。
すると、ブゥンという異音と共に、四人のFREYAの表面へ黄色い線が走り始めた。
「へへっ、久しぶりだなこれ使うの! 滾るぜ!」
「ハマーさん、あまりテキトーに動かないでくださいよぉ?」
「副隊長、いつでもいけます」
アモンの報告を受け、ニガールはニヤリと笑う。
「よし、暴れろ」
「『アグレウス』、攻撃を開始しろォッ!!」
「かっ飛ばすぜええッ!!!」
幾多の咆哮と共に『アグレウス』一列目の団員たちが突撃し、二列目が投擲を開始する。
それに応じ、プスコー、アモン、ハマーの3人は高速移動を開始した。
飛来する槍。
突撃してくる団員。
近いものから順に、ひたすら効率よく撃ち抜いていく。
高速移動中も、三人の連携は一糸乱れない。
アンたちを囲むように絶えず動き続け、互いの死角を補い合う。
黄色い残像を残しながら、あらゆる攻撃と脅威を無力化していく。
「す、すげえッス!!」
「久しぶりに見たけど……凄まじい連携ね」
「これが、第四執行部隊……」
おそらく、その速度はドゥーの――アバドンなしとはいえ――全速力すら超えている。
それでも互いに衝突することはない。
まるで全員の位置を共有しているかのように、一つの生き物となって、淡々と『アグレウス』の団員たちを戦闘不能にしていく。
「何スか、『FREYA-XS』って? ドゥー先輩のと、何か違うっぽいッスね」
「良い質問だ、チンチクリン!」
やはり、ヘパーが出てきた。
FREYA――特にVABO製品の名を口にすれば、嫌でも現れるのがこの男だ。
わしわしとミラの髪をかき乱しながら、食い気味に顔を近づける。
その鼻息に、ミラは眉間に皺を寄せ、露骨に顔をしかめた。
「アレは奴ら第四執行部隊専用に作られた、特注品だ。ドゥーとへっぽこの物と同じ、専用規格ってわけだ」
「へぇ~、専用装備!」
――FREYA-XS。
正式名称、『FREYA-|XS《eXtended Synapse》』。
最新式である第三十六世代FREYAを、さらに第四執行部隊仕様へ落とし込んだ専用装備。
身体能力を大幅に強化すると同時に、第四執行部隊各員のFREYAを神経レベルで接続。
部隊全員を、一つの神経網として機能させる特殊規格を備えているのだ。
さらに、共有されるのは単なる視覚情報や位置情報だけではない。
思考。
運動開始直前の神経信号。
照準方向。
次の移動経路。
そうした情報が、瞬時に共有される。
これにより、互いの動きを予測する手間さえなく、一寸の狂いもない高速連携が可能になる。
突出した強烈な“個”の集まりである特殊第六執行部隊に対し、紛れもなく彼らは、極限まで洗練された“隊”である。
曰く、『最速の執行部隊』。
それが、ノルハイコ率いる第四執行部隊だった。
(しかも、ノル先輩なしでこれって……)
高速で絶え間なく動き続ける、三つの黄色い残像。
次第に閃光は三角形のような軌跡を描き始め、その内側で『アグレウス』の団員たちが、次々と倒れていく。
槍と銃弾が飛び交い、いつの間にか野次馬たちも散開しつつあった。
ただただ石畳の上へ倒れていく部下たちの姿を、クストーディスは目を見開いたまま観察していた。
(何、だ……何だアレは……!?)
鍛え上げた戦友たちが、いとも容易く薙ぎ倒されていく。
かつてクルキブリ史上5本の指に入るほどの大物をも仕留めたオルカ戦術すら、全く意味を成していない。
黄色い閃光を放つ甲冑。
金属の小塊のような物を、高速で射出する異様な筒状の武器。
その全てが謎だった。
初見の技術による暴力で、ことごとく『アグレウス』の戦力が削がれていき、クストーディスは苛立ちを隠し切れない。
それでも冷静さを失わず、第四執行部隊の動きに隙を探していた。
(あの娘と同系統の装備……であれば、制限時間があるはず……ならば)
「貸せ」
「だ、団長?!」
「……ゥウンッ!!」
クストーディスは横で待機していた団員から槍を奪い取ると、そのまま全力で第四執行部隊へ投げ放った。
槍は、団員たちのそれより遥かに高速で空気を裂く。
だが、それは第四執行部隊へ届くことなく、ドゥーによって片手で止められた。
「な——」
「横槍か……安心しろ、お前の相手は俺だ」
シュウッと、槍を握る拳から煙が上がる。
そのままミシミシと握る力を強め、柄がドゥーの手形に合わせ、歪に変形していく。
そして今度は、クストーディスへお返しと言わんばかりに槍を投げ返した。
「フンッ!!」
「くッ!!」
ドゥーの手元から、槍が爆速で返投される。
クストーディスは高速で迫る槍を、何とか大剣の一振りで弾いた。
ガキィンッ!!
凄まじい金属音を立て、クストーディスに弾かれた槍は宙を舞い、遠くで待機していた『アグレウス』団員の兜へドスッと突き立った。
幸い穂先は兜を貫通せず、団員は訳も分からぬ様子でキョロキョロするが、クストーディスは意にも介さない。
ただ、自分の手をじっと見つめ、ぐっぱ、ぐっぱと開閉していた。
(な……何という腕力……。力だけなら先生とタメを張る……いや、それ以上か……? …………いや、そんなはずはない!! そんなはずは……)
びりびりと大剣を握る手が震え、先ほどの投擲がいかに強烈だったかを物語っていた。
ロンショウを凌ぐ腕力――そう感じてしまったクストーディスは、必死にその考えを振り払う。
彼の中で、ロンショウはいまだ“個”として最強なのだ。
その腕力は鋼を押し潰し、モンスターの頭蓋を粉砕する。
クルキブリで狩人を志す者ならば、誰もが憧れる力だった。
現最強の冠を頂く今でさえ——半殺しにしたとはいえ、彼はロンショウを師として尊敬している。
だからこそ、それを凌ぐであろう腕力を、あの赤い単眼がいとも容易く披露した。
その事実だけは、断じて認められなかった。
(そうか……あの面妖な装備に、何か絡繰りがあるに違いない)
そう思い込むことで、クストーディスは自らの疑念を押し殺した。
(まあいい……とにもかくにも、まずはあの単眼が邪魔だ)
「ッッムゥン!!」
居ても立ってもいられなくなったクストーディスは、その力の真偽を確かめるべく、半ば八つ当たりのように石畳を踏み砕き、突撃した。
大剣を高々と掲げ、真っ二つにする勢いでドゥーへ振り下ろす。
だが、その大剣もまた、ドゥーの片手によっていともたやすく止められてしまう。
「何、だとッ?!」
「…………大した力だ。異世界人にしてはな」
ドゥーの指一本一本が大剣へめり込む。
圧倒的な握力により、刀身へビキビキと亀裂が入り始めた。
その異様な光景に、クストーディスは兜の奥で目を見開いた。
「貴様……何者だ……」
「だから言っただろうが。お前に教える名など、持ち合わせていない」
「くッ!!」
クストーディスは大剣を勢いよく引き抜き、態勢を整えようとする。
だが、その隙を逃すほど、ドゥーという男は甘くない。
僅かに姿勢を崩したクストーディスへ、ドゥーは一気に接近。
難なく、技の射程圏内へ踏み込んだ。
(はや――)
「罰劾」
強烈な十文字斬りが叩き込まれる。
クストーディスは辛うじて大剣を滑り込ませる。
だが、大剣は見事に粉砕された。
例のごとくANUBISも砕け散り、クストーディスは後方へ大きく吹き飛ばされる。
「グゥオォァッッ!?!?」
何度も石畳の上で跳ね、終いには広場の噴水へ背中から激突した。
瓦礫を巻き込んだ水飛沫が天高く舞い上がり、噴水の縁にめり込んだクストーディスの頭上へ降り注ぐ。
「ぐ……は…………」
甲冑の中が水浸しになり、大きな瓦礫が数個、彼の頭へ直撃した。
そのままクストーディスの意識は、呆気なく途切れた。
【今回の用語まとめ】
■VABO製小銃『ヘファイス』/HFライフル
ヘファイストス神が開発した、基底界人向けの汎用小銃。安価で大量生産が可能であり、弾種の切り替えによって様々な任務へ対応できる。RAC黎明期から使用され続ける、VABOの原点とも呼べる兵器。
■『絶対直撃領域』
ニガールが使用した特殊な技術。飛来する槍の穂先へ次々と赤い光点を出現させ、第四執行部隊による精密射撃を可能にした。能力の詳しい仕組みは現時点では不明。
■オルカ戦術
狩猟団『アグレウス』が使用する集団戦術。投擲隊と突撃隊による波状攻撃で敵を誘導し、消耗させることを目的とする。
■FREYA-XS
正式名称『FREYA-|XS《eXtended Synapse》』。第三十六世代FREYAを基に開発された第四執行部隊専用装備。身体能力の強化に加え、装着者同士の神経信号や思考、照準、移動経路などを共有し、極限まで精密な高速連携を実現する。
■『最速の執行部隊』
第四執行部隊の異名。各員の身体能力と《FREYA-XS》による神経接続を組み合わせ、部隊全体が一つの生命体のように行動する。個人技に秀でた特殊第六とは異なり、集団連携を極めた部隊である。
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・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




