CASE.115「6.4合同執行部隊」
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「…………」
一方、クストーディスは目の前の光景を理解できずにいた。
投擲を命じたはずが、槍の一本もあの哀れな男には突き刺さっていない。
それどころか、槍を構えていた団員たちはほぼ全員が無力化されている。
中には、焼け焦げた腕を抱えて呻く者までいた。
目の前には、アンと同じように異質な装いをした者が5名。
いつ現れたのかさえ分からない。
団員たちの悲鳴と呻きが響くなか、クストーディスは思考を巡らせる。
(何者だ? あの見た目からして……仲間がいたのか? 一体、いつから骸都に……)
クストーディスは手にした大剣を握り直した。
ロンショウを相手にした時と同じように、警戒を強める。
先ほど一瞬だけ目にした、青白い閃光と縦横無尽に駆け巡る黒い影。
この惨状は、間違いなくあの5名の仕業だろう。
手段は分からない。だが、瞬く間にこれほどの団員を無力化したのだ。
強敵であることだけは確かだった。
(あの赤い一つ目……何だ、この気配は……)
武者震いか、恐怖か。クストーディスの背筋がぞくりと震えた。
まるで、あの時。
かつて三強の一角、アンティカリ=リュプスと対峙した時に覚えた、あのヒリつく感覚。
その感覚を呼び覚ますのは、5名の中央に立つ自分よりも小柄な黒いローブの男の圧だった。
「だ、団長。これは一体……」
「全『アグレウス』へ伝えろ。総員であの5名を包囲しろ。標的は、あくまでアンとゥルルの2人だ」
「りょ、了解!」
命令を受けた団員が、慌ただしく駆け去る。
クストーディスは周囲に聞こえぬほど小さく舌打ちした。
(……まあいい。やることは変わらない。クルキブリの敵は、全てこの手で滅するのみ)
「ドゥー……先輩」
とても大きな、大きな先輩の背中。
身長だけならば、カイとそこまで変わらない。
それなのに、なぜか巨大に錯覚してしまうほど彼の背中は途轍もなく頼もしく見えた。
風になびくドゥーの黒いローブを眺めながら、アンの意識は次第に遠のいていく。
イヤホンからは、作戦室の歓声が聞こえていた。
「アンちゃんの回線を基準に、通信を再同期……いよっしゃぁッ! ドゥー先輩の映像と音声、復旧したッス!!」
「第四執行部隊との通信も復帰! 隊長!!」
「ええ……よかった……」
ひときわ大きなミラの声。続けてサイモンの報告とノルハイコの安堵の声が混じる。
だが、ようやく先輩たちと合流できた安心感で、張り詰めていたアンの心はとうとう限界を迎えていた。
「アンねーちゃん!」
アンの身体が、どさりと崩れ落ちた。
ゥルルが泣きそうになりながらアンの肩を揺さぶる。その傍らで、ミュラーがアンの荷物を探り始めた。
「ミュラーさん、何やってんの?!」
「ババア、こんな時に何やって――」
「案ずるな。この子は私が何とかしよう」
アンの医療パックから迷わず小さな錠剤を2粒取り出し、口の中へ滑り込ませる。
顎を支え、そっと口を閉じさせた。
程なくしてアンの呼吸は徐々に落ち着き始めた。
ゥルルとバルカンは、心の底から安堵する。
「随分と手際がいいな、ご老人」
「あぁ……慣れているのでね……」
ドゥーが手を貸す間もなく、応急処置は終わっていた。
医療パックの中身も、錠剤が口の中ですぐ溶けることも、初めから知っていたかのような迷いのなさ。
ドゥーはその手際に、内心驚いていた。
一方ミュラーもまた、ドゥーのローブに刻まれた“RAC”の3文字を、まじまじと見つめていた。
「はじめまして、ミュラー長老。俺の部下が世話になった」
「なるほどの……おぬしらが本命か……」
ミュラーの目に、再び涙が浮かぶ。
一度はアンに共同戦線を拒絶され、途方に暮れた。だが、行動を共にするうちにその心の強さも弱さも知った。
小さな少女に重荷を背負わせてしまった罪悪感。そして、アンが語った“特殊第六執行部隊”が本当に実在していたことへの喜び。
相反する感情が、胸の奥から込み上げてくる。
「詳しい話は後で聞く。えーと、ゥルル。お前がゥルルだな?」
「う、え……なんで、ぼくのこと――」
「御託はいい。アンを任せたぞ、ゥルル」
「……う、うん! 分かった、赤目のお兄さん!!」
「よし……さてと」
ドゥーは周囲を見渡す。
騒動の拡大に慌てふためく民衆。
それに加え、続々と集まる槍を構えた者たち。
その中央には重装備に身を包んだ大男が堂々と聳え立っている。
(アレが親玉か)
「……ニガールさん」
「あぁ、分かってる。よく聞け、第四執行部隊」
ドゥーの意図を察し、ニガールは残る第四執行部隊の3名へ指示を送る。
「一度しか言わん。敵の総数は不明。恐らく、武器の投擲――ウェールズ戦術のパクリみたいなものだ。俺たちはターゲットとアン執行官を守りつつ、ここから離脱する」
「ういーす。この婆さんたち、異世界人はどうします?」
「あぁ、それは……今、ノルハイコ隊長から連絡が入った。全員保護対象だ」
「げー、面倒くさ! 聞かなきゃよかった――いでぇ!!」
「うるさいぞハマー。つべこべ言わず、任務をこなせ」
「勘弁してくれよ、アモン姉。もうこれで拳骨38発目だぜぇ?」
「そ、そうですよ……ただでさえ物忘れが激しいハマー君が、さらにおバカに……」
「そうそう……って、ぅおい!? そいつは聞き捨てならねえな、プスコー?!」
「お前ら、1回黙れ」
完全に包囲されているというのに、まるで緊張感のない3人。
『アグレウス』の強さを知るバルカンは、彼らの腑抜けた態度に呆気に取られていた。
「だ、誰なんだよコイツら?! おい、ババア! コイツらのこと、何か知ってんだろ?! おい!」
「何度も言わせるな。案ずるなと言ったであろう。それに――」
ミュラーはアンの頭を膝へ乗せ、髪を撫でながら、バルカンへ笑い掛ける。
「こやつらは、ロンショウの比ではない」
「は?」
「まあ、見ておれ」
ニガールはドゥーの脇を銃口で突く。
「お前はどうする、ドゥー」
「俺はあのフルプレートをやります」
「ハハッ。お前、もしかして怒ってるのか?」
「……? そう見えます?」
ドゥーは首を傾げた。
仮面に表情などないはずなのに、プスコー、アモン、ハマーの3人まで、揃ってうんうんと頷いている。
ふと見れば、ANUBISを握る拳がミシミシと音を立てていた。
そこで初めて、ドゥーは自分が怒っていることを自覚した。
「……まあ、そうですね。頃合いのサンドバッグが見つかった、といったところです」
「そうか。ならアレはお前に任せる。こちらは雑魚を引き受けよう」
その時、彼らの会話を遮るようにクストーディスの咆哮が轟いた。
「何者だッ! 貴様らぁッッ!!」
音圧によって、砂埃が舞い上がる。
びりびりとした殺気を纏う怒声に、バルカンは思わず尻餅を突き、ゥルルはアンを守るように覆い被さった。
「お呼びのようだぞ、ドゥー執行官」
「…………」
「うrrrrrrるさっ。プスコーの屁の音とタメ張る――あいでででで!」
「ハマー君???(#^ω^)」
「はぁ……ウチは、何でこうも馬鹿ばかりなんだ」
ドゥーが一歩前へ出る。
そして冷たく起伏のない声で、クストーディスへ言い放った。
「お前に名乗る名などない」
「何?」
「ウチの部下が世話になったな。その礼をしてやる。かかってこい、三下」
「貴様……」
クストーディスの怒気が一気に膨れ上がる。
その殺気が『アグレウス』の団員たちにも伝わり、場の空気が張り詰めた。
「殲滅だ、『アグレウス』ッッ!!」
「では行こうか、第四執行部隊。ようやく任務らしい任務だ――全セーフティを解除しろ」
■第四執行部隊・現地組
ニガール、アモン、ハマー、プスコーの4名。ニガールの指揮下で行動し、ドゥー上級執行官とともにアンたちの救出・離脱任務へ移行した。
■6.4合同執行部隊・通信復旧
アンの通信回線を基準として、離散していたドゥー及び第四執行部隊との通信を再同期。作戦室からの情報支援が再び可能となった。
■ウェールズ戦術
RAC由来の戦術。投擲・射撃によって敵の動きを制限し、標的を追い込む戦法。ニガールは『アグレウス』がこれに類似した戦術を使用していると判断した。
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