CASE.111「最強にして最高」
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「わぁ、ロンおじさん!」
「おう、ウル坊。今日も元気そうだな」
ゥルルはぽよんぽよんと、ロンショウの足元まで跳ねていく。
ロンショウは、ゥルルの身体を覆い隠してしまうほど大きな手でその身を撫でると、そのまま肩の上へ乗せてやった。
「大まかには把握してるんだが、とりあえず今の状況を教えてくれ」
「あのね! アンねーちゃんが、すっごい大きいビームを出したんだ! その後、ヘロメロスさんがぼくたちをおぶって、クストーディスさんと全力追いかけっこ!」
「ほう……おめえ、やるじゃねえか、ヘーロー!!」
ロンショウはクストーディスへ背を向け、仰向けに倒れるヘロメロスの頭をわしゃわしゃと撫でくり回した。
「俊足はまだ衰えてねーみてぇだなぁ、おい」
「へへ……あたぼうよ(いででででで、力が強い! モヒカンが千切れる!!)」
直後、ロンショウは背後から殺気を感じ取り、瞬時に振り向く。
そこには大剣を構えたクストーディスがおり、ロンショウめがけて全力で振り下ろさんとしていた。
だがロンショウは、左手に握っていた愛用の大斧――断頭偉を振り上げ、その一撃を受け止める。
ガギィィィィィィンッ!!
刃が噛み合った瞬間、火花が散り、耳をつんざく金属音が響き渡った。
衝突の余波が地面の砂を弾き飛ばし、アンを含めた周囲の人々は反射的に耳を塞ぐ。
刹那、衝撃波に煽られたゥルルがアンの顔面へ飛んできた。
ゥルルの身体が柔らかいため大事には至らなかったものの、アンは「はぷぅ」という珍妙な声を漏らしながら、辛うじて彼を受け止める。
得物を交え、じりじりと鍔迫り合いを続けるロンショウとクストーディス。
互いに一歩も引かず、力は拮抗している。
クストーディスは兜に隠れて表情こそ見えないものの、その全身から険しい気配が滲み出ていた。
対するロンショウは、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている。
「おいおい、後ろからとは卑怯じゃねえかよ、トーディスゥ~。にしても、まだまだ剣が軽いな」
「自然界に卑怯という概念はありませんよ、ロンショウ殿。それに、これは貴方から教わったことです」
「フン、言うじゃねえか」
ロンショウは空いた右手で、クストーディスを掴もうとする。
しかし、その尋常ならざる握力の強さを知っているクストーディスは、即座に後退して距離を取った。
「…………」
すぐさま反撃を仕掛けるかと思いきや、クストーディスはおもむろに大剣を地面へ突き立てる。
その意図を察したロンショウもまた、大斧を肩へ担ぎ、余裕の笑みを返した。
「お久しぶりですね、ロンショウ殿」
「おうよ。1年ぶりか? おめーら、遠征ばっかで忙しそーだもんなぁおい」
耳をほじりながら、興味なさげに応対するロンショウ。
本当に、腹回りを除けば、ヘパーの生き別れの弟ではないかと思うほど、見た目も精神性も似ている。
ミラはそう思ったが、口には出さなかった。
彼女には他に気になることがあったからだ。
「それで、何用ですか? まさか我々の邪魔をするつもりではありませんよね?」
「いんやー? 別に、可愛い教え子を見掛けたから、挨拶しに来ただけだぜぇ?」
とんとんと大斧を肩へ当て、からかうようにロンショウははぐらかす。
クストーディスは、奥で横たわるヘロメロスを視界へ入れようとするが、気付いたロンショウが横へ移動し、その視線を遮った。
「あんだよ、つれねえなぁ。久しぶりの師弟の再会だってのに」
「我々は最重要任務の最中です。お引き取りを」
「いやいや、俺を忘れたかよ、トーディス。俺は『最強にして最高の狩人』だぜぇ? その態度はねえだろうよぉ~」
「リスペクトが足りない」とロンショウは鼻を鳴らす。
「それは過去の話です」
「あぁん?」
クストーディスの一言で、場が冷え切ったかのような感覚に襲われる。
様子を見守っていた民たちも顔を青ざめさせた。
ロンショウの周囲にはぴりりと殺気が滲み始め、ヘロメロスはゆっくり、ゆーっくりと、アンたちの方へ後ずさりを始めた。
キレ方までヘパーと同じだと感心するカイ。
だが、その隣ではミラが何やら忙しそうにキーボードを叩いていた。
「どうかしたの、ミラ」
「さっきの衝突エネルギーを算出してるッス。あ、出た。えーと…………600kJゥ!?!?」
「え、それってどういうことなの?」
「ちょ、それどころじゃないので、後ろの暇そうな眼鏡に聞いてください」
カイがユリスの方を向く。
すると彼は「仕方ない」と言わんばかりにコーヒーを置き、軽く解説を始めた。
「600kJは、約1.5トンの乗用車が時速100キロメートルで壁に衝突する際の運動エネルギーに匹敵する。しかも、彼らの得物がぶつかっただけで、周囲にこれほどの衝撃波が生じた。常人の剣撃とは、まるで次元が違う――」
「それで? 話が見えないんだけど」
カイが急かすようにハイヒールをコツコツと踏み鳴らすので、ユリスは要点だけをかいつまみ、説明を切り替えた。
「……思い出してほしいのは、前任務におけるヴォルツ・ディ・エルヴァニスとドゥー執行官の戦闘だ。あの時、彼らの一挙一動によって、幾度も衝撃波が発生していただろう」
「それがどうし……え、ちょっと待って。まさかあなたたち……」
「そうだ。今、鎬を削っている両者――フルプレートと、ヘパー技術官擬きの大男。全力の一撃とはいえ、彼らは武器同士の衝突で、あれほどの衝撃を生み出した」
「それってつまり――」
「彼らは異世界人でありながら、基底界人――それも、執行官級の身体能力を有しているということだ」
クストーディスの一言で、民たちが青ざめた理由。
それは紛れもなく、ロンショウがクルキブリの偉大なる英雄だからだ。
幾度となくクルキブリの苦難を薙ぎ払い、街を救ってきた。
その栄光を称えて贈られたのが、“最強にして最高”という大それた二つ名。
だが、決して自称ではない。
全てのクルキブリの民から認められているからこそ、許された名なのだ。
それを愚弄することなど、たとえ長老であっても許されない。
ましてや、本人を目の前にしてなど――。
ロンショウ自身、この二つ名を気に入るどころか、誇りにさえ思っている。
それを軽んじられたことで、大斧を握る拳にぎりぎりと力が籠もった。
「それは冗談じゃなさそうだな」
「あなたはもはや枯れた才能。それは、その腹が物語っている」
ロンショウは、自らの突き出た腹を一瞥する。
確かに、全盛期の引き締まっていた頃と比べれば、多少だらしなくなってはいる。多少だが。
「ハッ。ここにゃあ、クルキブリの愛が詰まってんのよ。ガキには分からねえか?」
「そこへ溜まっているのは、あなたが蓄積させた怠惰、放蕩、堕落の成れの果て。もはや“最強にして最高”の面影もない」
「ハハハ……」
怒りが沸々と湧き、ロンショウの額に血管がびきびきと浮かび始める。
「おい。もう、冗談じゃ済まされねえぞ。トーディスゥ……」
「世代交代の時が来ました。我らクルキブリの今と後世のために、道をお譲りいただきたい」
「ブ、ハッハッハァーッ!!」
ロンショウは、バガンッと大斧を地面へ叩きつけ、豪快に笑う。
怒りが一周し、もはや笑いが込み上げてしまったのだ。
だが、スイッチが切り替わったかのように笑いはすぐ止まり、その顔に不敵な笑みが浮かんだ。
「この世界の掟は、知ってんだろ?」
「弱肉強食。絶対なる法則。それも貴方から教わりました」
「そうだ。じゃあもう分かるな!? ここを通りたくば、俺を倒すことだなァ!!」
「望むところ」
「ブッハッハッ!! 5年前まで、なよっちかったガキが、どこまで成長したか――」
クストーディスは大剣を引き抜き、再びロンショウへ突撃する。
ロンショウもまた、言い終えるより早く大斧を大きく振りかぶり、迫り来るクストーディスをその場で迎え撃った。
「――この俺直々に、見てやるよぉッッ!!」
「ムゥンッッ!!」
二人の怒号と共に、再び得物が激突し、重々しい金属音が轟いた。
【今回の用語まとめ】
■断頭偉
ロンショウが愛用する巨大な戦斧。クストーディスの大剣を正面から受け止めるほどの威力と強度を持つ。
■ロンショウとクストーディス
かつての師弟関係にある二人の狩人。ロンショウはクストーディスへ自然界の掟や戦闘技術を教えていたが、現在のクストーディスは師を超え、クルキブリ最強の座を継ごうとしている。
■最強にして最高の狩人
幾度となくクルキブリを救ってきたロンショウに対し、街の人々が授けた称号。本人も強い誇りを持っており、単なる自称ではない。
■執行官級の身体能力
ロンショウとクストーディスの武器が激突した際、約600kJもの衝突エネルギーが観測された。ユリスはこれを根拠に、両者が異世界人でありながらRAC執行官級の身体能力を有していると判断した。
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※AIの利用について:
・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




