CASE.109「人類の糧に」
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ドクトリウスが明確な敵対命令を宣言すると、その合図に応じるかのように、巨大なクロスボウらしき武器を手にした兵――いや、狩人たちが次々と突入してきた。
あらかじめ準備していたかのような迅速な動き。
ガチャリと矢を装填し、一斉にアンへ照準を定める。
「おいおい正気か、ドクの旦那?!」
「ヘロメロス。お前は引っ込んでいろ」
「うっせえ! テメエには聞いてねぇぞ木偶の坊ッ! なぁ、旦那ぁ?!」
「……フン。私は至って正常運転だよ、ヘロメロス」
さすがの異常事態にヘロメロスも思わず立ち上がり、ドクトリウスたちの判断を非難する。
周囲の狩人たちは、すでに臨戦態勢を整えていた。
「相手はただの子供だぞ?!」
「…………ただの子供、だと? ハッ」
ドクトリウスはやれやれと肩をすくめ、ヘロメロスを鼻で笑った。
その笑みとは裏腹に、眉間には深い皺が刻まれている。
「この二人のどこが“ただの子供”だというのだ、教えてくれヘロメロス」
「な――」
「片や面妖な術を操る、長老様と同じ“いと貴きヒト”。片や詳細は不明だが、あの厄竜を退ける力を持つスライム。“ただ”という一言で片付けるには、あまりにも強大な力を保有している……」
「待て待て、待ってくれ! アンの嬢ちゃんとゥルルは、協力しねえって言ってるだけで、敵対するとは一言も――」
ドクトリウスはヘロメロスへ近づくと、その言葉を遮るように胸倉を掴んだ。
「ぐうっ」と呻くヘロメロスの顔を間近へ引き寄せ、耳元へ怒りの籠もった声を落とす。
「我々の存亡が懸かった今、共闘を拒む者を、何の警戒もなく街へ置いておけると思うのかね。なぁヘロメロスゥ……?」
「ぐ……別に……自分の飯代ぐらい、自力で稼げるだろうがよ……。アンタら首脳部に、何の迷惑があるってんだ……」
「迷惑? あるに決まっているだろう?」
ヘロメロスは、ばっとドクトリウスを押し退け、乱れた服を整える。
ドクトリウスはアンたちへ険しい視線を向け、再びヘロメロスへ言葉を続けた。
「普段、頭を使わない君たちには分からないだろうが……不穏分子が内部に1人いるだけで、こちらは大変、精神をすり減らすのだよぉ?」
「へッ……天下のギルド様も、ガキ2人すら抱えられねえほど落ちぶれたってわけか?」
「貴様——」
「クストーディス。…………いやはや、困ったものだ。よく聞くがいい、ヘロメロスとそこの二人、そして皆の衆よ」
ドクトリウスは演説するかのように、ゆっくりと円卓の周囲を回り始める。
指を1本立て、諭すように3人へ言葉を投げ掛けた。
「母たる長老様――彼女の、そして我々の長きにわたる悲願である“ユグドラシル討伐”を成し遂げることは、子であるクルキブリの民ならば、当然望むことだろうッ! 違うか?!」
「「「違いませんッ!!」」」
ドクトリウスは腕を広げ、指揮者のように、クルキブリの総意を代弁するかのように声高らかに熱弁を振るう。
その弁舌に、クストーディスを筆頭とした狩人たちが一斉に声で応え、場の熱量をさらに引き上げていった。
「だが、いくら長寿な我らが長老様であれ、もうその時は近い。であれば、その生を終えられる前に、冥土の土産として何を献上するッ?!」
「「「ユグドラシルの首ッ!!」」」
「そうだ! だが我々には火力が足りない! まだ、僅かに力が足りない!! それを補って余りある力を持つ者が、2人もッ、目の前にいらっしゃる!! 故に、こうして盛大にもてなし、交渉をしたわけだが……」
ドクトリウスはぎょろりと目を動かし、アンとゥルルを睨みつける。
口元の笑みは崩さぬまま、眼差しには焦りと苛立ちが滲んでいた。
その異様な迫力に、アンは一歩後ずさった。
(まずいな、こりゃ……旦那お得意の言論誘導が始まっちまった。こうなったら、説得もクソもねえぞ……)
ヘロメロスもまた、厄介なことに巻き込まれたと、モヒカンをくしゃくしゃと掻きむしった。
「残念ながら、彼女らは我らの手を無下に断った!」
ドンドンッと、狩人たちが足を鳴らす。
「挙げ句の果てに、こちらへ牙を向けている!!」
足踏みは徐々に大きくなり、ギルド全体が揺れているかのようだった。
いよいよ取り返しのつかない事態となり、アンは頭の中で、次に取るべき行動をぐるぐると思案する。
だが、焦りが勝り、半ばパニックに陥ってしまう。
新人ゆえの経験不足が、ここに来て露呈していた。
「今、この状況を何というッ?!」
「「「敵対!!」」」
ドンドンドンッ。
「であれば、どうするッ?!」
「「「殲滅!!」」」
ドンドンドンドンッ。
「モンスターの力はッ?!」
「「「人類の糧にッ!!」」」
狩人たちが討伐の前に繰り返してきた、いつもの掛け声。
だが今、その矛先は二人の子供へ向けられていた。
最後の足踏みが鳴り止み、ギルド本部が不気味な静けさに包まれる。
ドクトリウスは華麗にくるりと一回転すると、ちょうどアンとゥルルへ向き直り、最後に一言だけ言い放った。
「というわけだよ、お二人とも。大人しくお縄についてくれたまえ」
すると突如、ミュラーのいる方から悲鳴と怒号が上がった。
「テメエら、全員武器を棄てろォッ!!」
「ヘロメロス、貴様ッ?!」
いち早く事態を把握したクストーディスが、背の大剣の柄に手を伸ばす。
続いて狩人たち全員がミュラーの方へ振り向いた。
そこには、首元へナイフを突き付けられたミュラーと、汗だくでプルプルと柄を握り締めるヘロメロスがいた。
ヘロメロスの顔からは汗が滝のように流れており、明らかに無理をしている様子だった。
「おいおい、ヘロメロスゥ……何のつもりだい、それは?」
「あぁん?! 見て分かんねえのかよ!! 人質だよ、人質ッ!!(やっちまったやっちまった、何してんだ俺ぁー?!)」
ヘロメロスは目をぱちくりさせ、アンへ必死に目配せを送る。
アンにはその仕草の意味がすぐには分からなかったが、異能が拾った切迫した焦りと、彼女たちへ向けられた強い思いから、彼の意図を察した。
(ヘロメロスさん……!)
「おいおいおい~。人質を取るなら、普通は相手へ条件を付けるのが常だろ~? 無理をするな、ヘロメロス」
「うっせえ! 武器を棄てろってんだろうが!!(アン、早くウル坊を連れて逃げろッ!!)」
狩人たちは、からかうようにヘロメロスの姿をくすくすと笑う。
アンも逃げようとするが、入口は完全に塞がれ、背後は壁。
八方塞がりとなっており、動こうにも動けない。
その時、アンはゥルルの内側から、不穏な気配を察知した。
【もういいでしょう……もはや蠅共は用済み。今ここでクルキブリを畜生共の餌に――】
だが突如、イヤホンからミラの大声が炸裂する。
「アンちゃんッ!! 前方12時、仰角45度で、シスターズのビームを撃ってくださいッス!!」
「ミ、ミラ先輩?!」
「早くッ!!」
「え、えとえと、威力は――」
「出力は5%で十分ッス!! 狙いだけは絶対に逸らさないでッ!!」
突如として下された、ミラからの指令。
その意図は全く分からない。
それでもアンは、ミラの言葉を信じることにした。
即座にシスターズへ指示を送り、彼女の命令を実行する。
「トリちゃん、“せんめつ”モードっ!!」
「(╬◣д◢)」「(╬◣д◢)」「(╬◣д◢)」
「出力5%! お願い、トリちゃん!!」
シスターズはたちまち形を変え、合体して1つの蕾となる。
高速で回転し、中央の射出口へ凄まじい桃色のエネルギーを凝縮し始めた。
「ア、アン嬢ちゃん?!」
「ヘロメロスさん、伏せて!!」
何が起きているのか分からず、ドクトリウスを含めたギルド側の全員が、呆然とシスターズを眺めている。
ヘロメロスはその圧力と、これから途轍もない何かが起こることを持ち前の危機察知力で予感した。
言われるがまま、ミュラーを抱えた状態で床へ低く伏せる。
クストーディスだけは即座に思考を切り替え、アンへ突撃せんと姿勢を低くした。
だが、時すでに遅し。
「3」「2」「1」
「発射ッ!!」
その瞬間、桃色の光線がギルド作戦室を斜めに貫いた。
出力はわずか5%。それでも、バルカンを吹き飛ばした時の100倍の威力。
射線の周囲には激しい熱風が吹き荒れ、狩人たちは衝撃に煽られて床へ転がった。クストーディスはドクトリウスを庇うように大剣を床へ突き立て、辛うじて踏みとどまる。
誰もアンを止めることは叶わない。
収束した光線は、作戦室の壁――巨大モンスターの頭蓋骨の一角を瞬く間に穿ち、そのまま遥か高く、夜空へ昇っていった。
【今回の用語まとめ】
■狩人たちの討伐口上
「敵対」「殲滅」「モンスターの力は人類の糧に」と唱和する、クルキブリの狩人たちが討伐前に繰り返してきた掛け声。
本来モンスターへ向けられる言葉が、今回はアンとゥルルへ向けられた。
■ヘロメロスの人質策
アンとゥルルを逃がすため、ヘロメロスが咄嗟にミュラーを人質に取った行動。
本人も完全な成算があったわけではなく、二人を救うために半ば衝動的にギルドへ反旗を翻した。
■FREYAR・せんめつモード5%
ミラの指示により使用された《トリリウムシスターズ》の攻撃形態。
バルカン戦で使用した0.05%出力の100倍にあたり、ギルドを構成する巨大モンスターの頭蓋骨を穿ち、そのまま夜空まで貫通する威力を見せた。
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・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
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