CASE.105「共同戦線」
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「イ、基底界人ンッッ!?!?…………冗談でしょ? 私達と同じってコト?!」
「大真面目ッス。でも同じって訳じゃなくて、具体的に言うと半基底界人ッス。なんか変なのが混じってて、妙な反応っス」
「そ……そう……(頭痛くなってきたわ……もう考えたくない……)」
カイはこめかみをぐりぐりと押しながら、その場にしゃがみ込む。
いよいよ、この老婆の正体が怪しくなってきた。
彼女を取り巻く全ての情報が謎であり、同時に、この任務の最重要部分へ繋がっているようにも思える。
だが、彼女の身元を整理するよりも先に、アンが口を開いた。
「なんで……知ってるんですか……?」
「ホホホ……そりゃあ愚問だよ、アン。私もあなたと同じところから来た。それだけのことよ」
「それは本当ですか、長老?!」
ドクトリウスが興奮気味に、アンと長老へ迫る。
「光栄だ! 長老以外に、かの“いと貴きヒト”と会えるとはっ!!」
「わわわわわ……」
ドクトリウスはアンの両腕を掴み、ぶんぶんと上下に振る。
鼻息を荒くし、今度はミュラーへ熱い視線を送った。
「なるほど……これは僥倖ですね、長老?」
「そうとも……」
ミュラーはゆっくりと高椅子から降り、改めてアンと向かい合う。
並んでみると、ミュラーはとても小さい。
背丈は、ただでさえ小柄なアンの胸元ほどしかない。
年齢によって腰が折れ曲がってしまったこともあるのだろうが、何というか、命の火を辛うじて灯し続けているかのような弱々しさだった。
「アンよ」
「はい……」
「私はずっと、お前たちを……執行部隊を心待ちにしておった」
「そ、そうなんですね……」
「本部は息災かい? やっと本格的に、この世界を執行することへ乗り出したのかい?」
「あのあの……」
アンの頭の中では、どこまで話していいのか、何から説明すればいいのか、そして何を聞けばいいのかが渋滞していた。
ここはアンではなく、まさに監査官の出番である。
そう判断したカイが、アンへ助け舟を出す。
「アン、ここはもう正直に話していいわ。でも、イシス神の詳細だけはダメよ。いい? 分かった?」
「……」
アンは、こくこくと頷く。
カイから一定範囲の情報開示を許可され、踏ん切りがついたのか、これまでの経緯を説明し始めた。
「私は執行任務で、この『α-980-ノード89』へ送られてきた執行官です」
「ホホホ……やはり執行官であったか。その、今お主の上で浮いているものが物語っているね」
「はい! この子たちは、トリリウム・シスターズって言います。凄いんですよ! バリアも探索もレーザーも、何でもできちゃうんです」
「ほう、FREYAも進化したものだねぇ。……見たところ、私の知るFREYAとはもう似ても似つかないわ」
「はいっ! これはヘパーさんとルールーさんが作ってくれた“FREYAR”です!」
「ほほう……。よろしく頼むよ、シスターズ」
徐々に意気投合し始めるアンとミュラー。
何となくカイは、ここで本部がなぜアンを適任と判断したのかを理解する。
イシスの声を聞くことができ、なおかつ、こうして初対面の謎の基底界人ともすぐに打ち解けることができる。
これがドゥーだった場合、戦闘――というより、最初にゥルルと遭遇した時点でイシスと敵対する羽目になり、最悪の場合、任務失敗となっていただろう。
つまり、結果論ではあるが、今のこの状況はアンだからこそ成り立っているのだ。
少々、粗が目立つが。
特に人名をここぞとばかりに出すのは、あまりよろしくない。
一方、盛り上がる2人は完全に周囲の者たちを置いてきぼりにしており、意味不明な単語が次々と飛び交う中、ドクトリウスも「??」という顔をしている。
「ヘパー、ルールー……当たり前だが、聞いたことのない名だね……。アンよ、お主は第何部隊だい?」
「特殊第六執行部隊です」
「第六……特殊? それは、どういう意味だい?」
アンは拙いながらも、一生懸命、特殊第六執行部隊の“特殊”に当たる部分を説明した。
ミュラーはアンの言葉から情報を汲み取り、おおよその事情を理解する。
「なるほど……新設の第六部隊。それも腫れ物を集めた、急造チームとな」
「はい。でも凄いんですよ!! 私の先輩は、超凄い人ばかりです! 神の力を拒絶したり、本部のセキュリティを安々と突破できる――」
「あー、アンちゃん。アウトアウト('Д')」
さすがに喋り過ぎなので、ミラが介入する。
というか、もうその件については喋らないでいただきたい。
傷口を抉られるようなものなので。
カイとユリスは顔を引きつらせており、ヘパーはまたツボを突かれ、笑い転げている。
そして勢い余って喋ってしまったアンは、赤面しながら両手で口を塞いでいた。
「なるほど。曲者揃いというわけだね。これは期待できる」
「……」
「ところで、階級はいくつなんだい?」
それくらいは話してもいいだろうと、アンは高らかに宣言した。
「下級執行官ですっ!!」
「………………え?」
「え?」
「え?」
「……え?」
アンとミュラーは互いに目を合わせながら、首を傾げる。
どうやら、何か情報が錯綜しているらしい。
「ん、下級というのは……何か、特級の下に1つ階級が追加されたのかい? 例えば、特・下級執行官のように細分化されていたりは……」
「下級です!」
「……ただの下級?」
「ただの下級です!」
「下級というのは、一番下という意味の下級かい?」
「一番下の、新人執行官です! よろしくお願いします!!」
「……………………」
アンの勢いに押し負け、ミュラーはよろよろと後ずさりし、頭を抱える。
「アンよ」
「はい」
「この任務は、何度目だい?」
「初めての任務です!!」
「………………そ、そうかいそうかい……」
アンの元気いっぱいの答えを聞いたミュラーは、どこか失望したような、残念そうな顔を浮かべる。
そしてアンの頭へ手を伸ばし、あろうことか、憐れむような表情を見せた。
「そうか、お主も同じか……可哀想に、初めての任務でだなんて……」
「え? どういうことですか?」
「いや、よい。老婆の戯言だよ……」
ミュラーはアンから離れ、再び高椅子へ座る――というより、職員に持ち上げられて座らされる。
アンは状況を察し、ゥルルとヘロメロスの元へ戻ると、椅子へ座り込んだ。
「なーんか、怪しくないッスか。この婆さん」
「怪しいも何も。絶対、この任務の関係者よね……。ユリスは?」
「うむ。関係者というより、当事者である可能性が高い。それに、先ほどの言動から察するに……(この女性は、もしや第零執行部隊の――)」
明らかに、この任務の核心へ迫る情報を持っているかのような仕草。
3人の中で、ミュラーの重要度がぐんぐんと跳ね上がっていく。
同時にユリスはいくつもの可能性を脳内で検証するが、その思考を断つように、ミュラーが続けた。
「アンちゃん。お主は1人で来たのかい?」
「え……」
これは話していいのだろうかと、アンが作戦室にSOSを送る。
それを受け取ったカイがユリスへ目配せし、今度はユリスがアンへ指示を送った。
「アン執行官。それは開示してもよいが、別行動ということにしてほしい。極力、はぐれているという事実は伏せたい」
「5人で来ました! みんな別行動しています!」
(人数まで言うとは……いや、いいだろう……)
「おや……新人に単独行動をさせるとは、随分と信頼されているね」
「えへへ……」
「ということは、お主……もしや恩寵を?」
「え”……」
またしてもアンが固まってしまったので、ユリスが先回りして助言を送る。
「アン執行官、『|あなたの物語を聞かせて《ユア・テイル》』は絶対に伏せてほしい」
「な、ないです! その……あ、まだ下級執行官なので……」
「そうだね。それもそうだ。というか、その規則はいまだ健在なのだね」
ミュラーは天井を見上げると、すぐにアンへ視線を戻した。
「どうせ、あちら側から指示を受けているのだろう? この会話も聞こえているはずだね?」
「え……あ、はい……その通りです」
「よいよい。それは織り込み済み。私としてはその方が助かる。色々と手っ取り早いからの」
ここからが本題だと示すように、ミュラーは杖で床をこんこんと叩く。
アンはそれを察し、ごくりと唾を飲み込んだ。
「うむ。ではアン、そしてそちらで聞いている作戦室の面々に、提案がある」
「提案……」
「ミラ、耳かっぽじってよく聞きなさい」
「言われずとも」
ミラは音量バーを調整し、ミュラーの言葉を一言一句逃さぬよう、聴覚へ神経を集中させる。
この提案の内容が、この任務の分岐点となるからだ。
良くも、悪くも。
「特殊第六執行部隊。我らクルキブリとの共同戦線を申し込む」
「共同……戦線……」
「そして憎き母なる竜を……忌々しきユグドラシルを、今こそ共に滅しようぞ」
【今回の用語まとめ】
■“半”基底界人
シスターズによる解析で判明した、ミュラー婆の特殊な生体分類。
基底界人の特徴を持ちながら別種の反応も混在しており、通常の基底界人とは異なる状態にある。
■クルキブリとの共同戦線
ミュラー婆が特殊第六執行部隊へ正式に持ちかけた協力関係。
目的はクルキブリとRACが共同し、母なる竜――ユグドラシルを討滅すること。
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・本作ではChatGPTとclaudeを、誤字脱字の確認、前話との整合性確認、アイデア整理、世界観管理の補助として一部使用しています。
・作品本文および物語の主要構成は、すべて作者自身が執筆・最終決定しています。




