CASE.101「はじめての執行」
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「大丈夫かしら、アンったら」
執行宣言――明確な戦闘意思を示したアンに、カイは内心おろおろと心配する。
そこへ、盛大に2度もコーヒーを噴き出し、白衣を着替えたユリスが隣に立った。
「これは興味深い展開になったね、カイ監査官」
「興味深いも何もないわよ……あの子、初めての戦闘なのよ?」
「それも実に興味深いが――」
ユリスは眼鏡をちゃきっと調整する。
「――RACの執行官が、ターゲットを守るために戦う……これはおそらく、輪廻庁史上初の現象ではないか?」
「……!」
「ハハハ……」
ユリスの軽い笑い声。
初めてそれを聞いたミラ、そして久方ぶりに彼の笑い声を耳にしたカイは、勢いよく振り向く。
「いやはや失礼……やはり特殊第六執行部隊は面白い。本当に……本当にね」
「潰すッ!!」
バルカンがハンマーを頭上まで振り上げる。
そして躊躇なく、アンへ振り下ろした。
「アン嬢ちゃん!!」
「アンねーちゃん!!」
ゥルルとヘロメロスが止めに入る。
だが、それよりも先にシスターズが動いた。
「トリちゃん、“ぷろてくとモード”!!」
「( ,,ÒωÓ,, )」「( ,,ÒωÓ,, )」「( ,,ÒωÓ,, )」
アンの声に呼応し、シスターズが瞬時に変形。
青色のバリアを展開する。
ガキンッという、金属同士がぶつかるような耳をつんざく音が鳴り響き、大衆は思わず耳を塞いだ。
「んなッ?!」
全力で振り抜いたにもかかわらず、ハンマーが勢いよく跳ね返ったことで、バルカンは困惑の表情を浮かべる。
一方、ヘロメロスを含む数人は、奇怪なアンの術でバルカンの強撃を防いだことに、驚きを隠せずにいた。
「クソがッ!!」
バルカンは再びハンマーを振りかぶる。
今度は下から振り上げるように強烈な打撃を放つが、それを逃すトリリウム・シスターズではない。
位置を調整し、下段からの攻撃を完璧に防ぐ。
またもやガインッという金属音が響くと同時に、ハンマーが跳ね返った。
「ッ!?」
衝撃が柄から伝わり、手がびりびりと震える。
間違いなく全力で振った。
これまでの経験上、どんなモンスターでも直撃すれば骨は砕け、最悪即死。
少なくとも怯むなり、装甲が割れるなり、何かしらの手応えがあったはずだ。
だが、2度も全力のフルスイングを防がれ、さすがのバルカンもアンを守る強壁の異質さに気付く。
(堅ぇ……なんだ、ありゃ!! どんなカラクリだ!?)
青いガラスのような防壁。
傷1つ付いておらず、途切れる様子もなく、アンの前方を浮遊している。
「やっぱテメエ……モンスターなんだろ!!」
「違います!」
「だったら、なんだそりゃあ!! あぁん?! 呪術かなんかか?!」
“呪術”という言葉に、ミラが耳をぴくりと動かす。
どうやらこの世界では、RACのVABO製装備はオーバーテクノロジーであり、バルカンという男は、アンが操るシスターズ諸々を含めて、呪術、もしくはモンスターの何らかの能力だと考えているのだろう。
とはいえ、“呪術”という概念が存在していたこと自体に、ミラは驚いていた。
「降参してください! あと、ゥルルに謝ってください!!」
「チィッ、まだ終わってねえんだよぉ!!」
バルカンは左右交互に駆けながら、アンとの距離を縮める。
当然、シスターズはそれを許さない。
アンとの間へ割り込むように、バルカンの前へ立ちはだかる。
だが、それこそがバルカンの狙いだった。
左脚の義足を地面へ叩きつけると、足底からガス状の気体が噴出する。
「!!」
「Σ( ºωº )」「Σ( ºωº )」「Σ( ºωº )」
ガスの噴出に、アンは思わず腕で視界を遮ってしまう。
バルカンはその勢いでアンの頭上を飛び越え、背後へ着地した。
シスターズは意表を突かれ、僅かに反応が遅れる。
それにより、アンの背後ががら空きとなった。
「アン嬢ちゃん! 後ろだ!」
明らかな戦闘経験の差。
装備差は歴然だが、バルカンは持ちうる武器でシスターズの隙を突いたのだ。
作戦室では、感心と焦りという両極端の感情が入り乱れていた。
「ちょちょちょアンちゃんヤバいッスー!!」
「なかなかやるじゃーん、コイツ」
「このバルカンという男、戦い慣れてんな……」
「馬鹿2人、感心してる場合じゃないでしょうが!」
すぐさまバルカンはハンマーを振り上げ、アンへ突撃する。
ハンマーが、アンへ急速に迫る。
「安心しろ。FREYARは、こんなもんじゃねえ」
「EYEちゃん、お願い!!」
「(`・ω・´)b」
シスターズのうち1体、EYEが分離する。
青いバリアが消え、残るEARとKNOWSに吹き飛ばされる形で、高速射出された。
高速で射出されたEYEは、バルカンの目前で逆噴射し、一時停止。
単体で青いバリアを展開し、バルカンの攻撃を防ぐ。
「クソが!!」
千載一遇の好機を逃し、バルカンは吐き捨てるように叫びながら、ハンマーを振り回す。
まだ、諦めない。
先ほどより防御壁が小さくなっている。
だが、もう先ほどの義足による手は通じないだろう。
ならば、今ここが唯一残された好機だと、長年の戦闘勘が告げていた。
「ウオオオオオオッ!!!」
バルカンの連撃。
常人にはハンマーの原形が見えなくなるほど、高速の連撃を繰り出す。
だが、その一撃一撃を、EYE、EAR、KNOWSが個別に防御する。
完璧なタイミングと連携による、バリアの展開。
シスターズは瞬時に打撃点を予測し、防御、解除、予測、移動、防御のサイクルを高速で繰り返す。
「オオオオオオオオ!!!!」
ガガガガガガガという打撃音。
バルカンは雄叫びを上げながら、なおも連撃を続ける。
だが、その全てを六角形のガラス壁のようなものに悉く防がれる。
大衆の目には、アンがバルカンの打撃に合わせ、ピンポイントで防御壁を繰り出しているように見える。
その巧みで珍妙な技術に、次第に拍手が増え始めた。
「す、すげえぞ、アンちゃん!!」
「おら、バルカン負けんな!」
「なんだ、ありゃあ?!」
「いけいけバルカン、押せ押せぇッ!!」
いつの間にか大衆の輪が再び小さくなり、大盛り上がりとなっている。
中には、どちらが勝つか賭けを始めている者までおり、ちゃっかりヘロメロスも、今持っている全財産をアンに賭けていた。
「アンねーちゃん、スゴイ……」
「フハハハハハ、見ろカイ!! これがFREYARの自律式防御システムだ!! すげぇだろッ!!」
「それぞれが独立して動いてるから柔軟に対応可能だし。それに知覚機能は共有してるから、超精密な連携も可能ってワ・ケ♡」
だが、これは決してアン自身の技術ではない。
EYE、EAR、KNOWS。
それぞれが独立して思考し、連携して打撃を完璧にいなしている。
その光景に、ヘパーとルールーは自慢げに解説する。
それを見たカイの頭の中では、アンが無事であることへの安堵と、アンを半ば実験台として扱った2人への怒りという、正反対の感情が渦巻いていた。
「フン……(ドヤァ)」
「フンッ!(ドヤァ)」
「あなた達はあとで説教ね」
「「なんで!?」」
「クソがああああああ!!」
位置を調整しながら、1点ではなく四方から攻撃を繰り出すバルカン。
それでもシスターズの防御は強固であり、何1つアンへ届くことはなかった。
「ク……ハァ……クソ……ッ!」
さすがに体力の限界か、次第にバルカンの振りの勢いが弱まっていく。
それを確認したアンが、次なる一手に出た。
「EARちゃん!」
「( ✧Д✧)」
するとシスターズの1体、EARが突撃し、バリアを展開したままバルカンのハンマーへ激突する。
突然前進してきたEARに、バルカンは思わずハンマーを手放した。
「やべッ!!」
ハンマーが地面へ転がる。
拾っている暇はないと断じたバルカンは、負けじとアンへ飛びかかった。
「このガキッッ――」
「KNOWSちゃん!!」
バルカンの目の前にKNOWSが立ちはだかる。
「“せんめつモード”、あ、一番弱いのでお願いね!!」
「(◣д◢)→→→( ・∇・)b」
KNOWSが、花の蕾のような形へ変形。
その中央の射出口から、桃色の淡い光の粒子が凝縮され、その異様な現象にバルカンは思わず足を止めた。
「んなッ?!」
「いっけー、KNOWSちゃん!!」
パウッ!という音。
その瞬間、桃色の収束光が、衝撃波を伴ってバルカンへ炸裂する。。
「ンバアアアアアアアアァァァァァァ…………ァ…………」
威力はユグドラシル上で撃った、あの極太レーザーの僅か0.05%。
だが、大の男1人を吹き飛ばすには十分だった。
バルカンの絶叫が、どんどん遠のいていく。
彼は通りの向こうまで勢いよく吹き飛ばされ、やがてズシンッという鈍い音が遠くで響いた。
【今回の用語まとめ】
■FREYAR・ぷろてくとモード
《トリリウムシスターズ》が防壁を展開し、アンへの攻撃を自律的に迎撃する防御形態。
3機が独立して行動しながら知覚情報を共有することで、複数方向からの連撃にも対応できる。
■《トリリウムシスターズ》自律式防御システム
EYE、EAR、KNOWSがそれぞれ独立して攻撃位置を予測し、防御・移動・再展開を繰り返す機能。
戦闘経験の乏しいアン本人に代わり、装備側が高度な防御判断を担っている。
■FREYAR・せんめつモード
《トリリウムシスターズ》による攻撃形態。
今回はKNOWSが最低出力で使用し、本来の極太レーザーの約0.05%という威力でバルカンを吹き飛ばした。
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