表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五十六歳の研究者、中学生から人生をやり直す  作者: 正宗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
93/105

第九十三話:数字の戦い

翌日。


忠夫と高村は、資料室から台車で運んできた分厚い資料の山と格闘していた。

高村が性能予測をまとめ、忠夫が競合比較の分析を進めていた。


忠夫が資料を手に取った。


(モトローラの68000と、インテルの80286。どちらも今の市場を押さえている。アップルのマッキントッシュは68000を積んでおり、IBMが発表した最新のPC/ATは80286を積んでいる)


忠夫はそれぞれの資料を引き寄せ、特徴をノートへ書き出した。


68000は命令の種類が豊富で、プログラムが書きやすい。だが命令が複雑なぶん、チップの内部でその命令を処理するのに時間がかかる。


80286はメモリ保護機能を備えた高機能な設計だが、管理機構が複雑で処理に余分な手間がかかる。


そして、自分たちのRISCは複雑な処理を一命令で実行することはできない。だが、そのぶん内部処理は単純で、高速化しやすい。


忠夫はペンを置き、高村の席へ向かった。


「高村さん、少しいいですか」


高村が顔を上げた。


「競合比較の骨子が固まりました」


高村は手元の煙草を灰皿に押し当てた。


「どうまとめる?」


「性能、チップ面積、命令実行効率を軸に比較します」


「……性能か」


高村が腕を組んだ。机の上には、彼が格闘していた計算途中の書類が散らばっている。


「予測値をまとめているんだが。……正直難航している。普段なら他の石のカタログスペックから逆算して、『最低でもこれくらいは出ます』と書ける」


高村は息を吐いた。


「だが、この石は新規アーキテクチャだ。カタログスペックから逆算するための石が存在しないんだ」


忠夫は手元のノートへ視線を落とした。


「……なら、カタログスペックからの逆算ではなく、物理的な根拠から予測値を組み立てればいいんです。重要なのはクロック周波数そのものではありません」


忠夫はノートを高村の前へ置いた。


「同じ処理を終えるまでに、何クロック必要かです」


高村が眉を寄せる。


忠夫は続けた。


「既存のCPUは複雑な命令を実現するために、多くの内部処理を必要とします」


「一方、我々の命令は単純です。その分、一命令あたりの平均実行サイクル数を大幅に減らせる」


高村が資料へ目を落とした。


「つまり?」


「同一プロセス・同一クロックで比較した場合、実効性能で優位に立てる可能性があります」


忠夫は資料の別ページを開いた。


「もちろん、これは推定値です。だからこそ根拠を示します」


「東芝のCMOSプロセスの特性値と、現在のレイアウト結果から遅延を見積もれます。座標リストも固まっていますから、主要な配線長とセル遅延もかなり具体的に把握できています。これで動作クロックの根拠は現実的な精度で出せるはずです」


高村は感心したように深く頷いた。


「なるほどな……」


「クロックの絶対値じゃなく、その数字に至る根拠と効率で優位性を証明するわけか」


「はい」

忠夫はさらにページをめくった。


そこにはウェハーの模式図と、複数のチップ面積比較図が描かれていた。


「もう一つ、比較の軸として強力なのは『面積』です」


「面積?」


「我々のチップは、トランジスタ数を約五万に抑えています」


忠夫はノートを指差した。


「現行主力の80286(十三万四千)の半分以下、68000(六万八千)と比べてもそれ以下に抑えられる見込みです」


高村がノートの数字を見つめ、低く唸った。


「……しかもビット数は、これらが16に対して、俺達のは32ビットだ」


忠夫は頷いた。


「はい、そして同じウェハーから取れるチップ数は、面積が小さいほど増えます」


高村の表情が変わった。


「……32ビットの性能を出しながら、製造コストは16ビットの競合よりも安く上がる」


「ええ。性能だけでなく、この面積とコストの差をどう見せるかが鍵になると思います」


しばらく資料を眺めていた高村が、ゆっくりと口元を緩めた。


「面白い」


高村は立ち上がった。


「よし。佐伯君はそのまま、面積を含めた競合比較の資料を仕上げてくれ」


「俺は、クロック効率、実行性能を元に性能予測をまとめる」


「分かりました」


忠夫は頷き、再び自席へ戻り、ノートを広げペンを走らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ