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五十六歳の研究者、中学生から人生をやり直す  作者: 正宗


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第六十二話:気づいた者たち

1983年8月下旬。

秋葉原。


数人の青年が雑誌を囲んでいた。


月刊マイコン 九月号。


速報欄の片隅に、小さな記事が載っている。


――ファミコン版テトリス、想定以上の反響。

――本体を牽引する勢い。


眼鏡の青年が眉を上げた。


「ファミコン?」


「確かに安いし、それなりの性能なんだろうけど……玩具っぽいんだよな」


別の青年が腕を組む。


「……いやでも、そのファミコンが、マイコン雑誌に載ってるのが逆に気になるな」


雑誌はすぐに閉じられた。


数時間後。


「おい、やっと見つけたぞ!」


息を切らした一人の青年の手には、白と赤の箱があった。



六畳間の部屋。

ブラウン管テレビの前で、本体が起動する。


カチ、と電源が入り、画面が切り替わる。


青年の一人が首を傾げた。


「……速いな」


テトリスが始まる。


ブロックの落下。

入力への反応。

画面更新。

切り替え。


どれも妙に軽い。


「CPUは8ビットだろ?」


「聞いてる限り、特別高性能なCPUじゃないよな」


「なのに、なんでこんなに引っかからない?」


対戦モードが映る。


二画面同時進行。

片側の消去に連動し、もう一方へ影響が走る。


空気が変わった。


「……おい」


「これ、本当に玩具か?」


「ただゲームを動かしてる感じじゃない」


一人が本体を見つめ、低く呟いた。


「……分解してみるか?」


誰も笑わなかった。


都内・セガ開発技術部。


机の上には、販売店から届いた報告書と、同日発売となった自社機 SG-1000 の資料、そして ファミコンの価格表が並んでいた。


部長が腕を組む。


「9,980円か……それでこの滑らかさとは、下手をすれば、うちより印象がいい」


「しかも、あちらの売れ行きが異常です」


誰かが小さく息を吐く。


主任技師が続けた。


「分解した者の報告では、部品構成に突出した点はありません。CPU単体の性能で見れば、こちらの方が上です。ただ……同世代の6502と比べてもチップ面積が小さく、配線も簡素化されています」


部長が眉をひそめる。


「……小さい?」


主任技師は一拍置いた。


「ええ……それと、この数週間、逆アセンブラで解析しました」


部屋の空気が止まる。


「ROM内の制御が妙です。描画、入力、割り込み処理……全体の流れが異様に整理されています」


「整理?」


「まるで、内部に“手順を管理する仕組み”があるような動きです。……四月に機械振興会館で発表された、あの今川助手の『TRON』の思想に近い。論理構造だけでハードの粗を消し去っています」


部長の顔色が変わる。


「……そんなものを玩具に積んだというのか」


誰も答えなかった。


窓の外では、夏の陽射しが街を照らしていた。

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