第六十二話:気づいた者たち
1983年8月下旬。
秋葉原。
数人の青年が雑誌を囲んでいた。
月刊マイコン 九月号。
速報欄の片隅に、小さな記事が載っている。
――ファミコン版テトリス、想定以上の反響。
――本体を牽引する勢い。
眼鏡の青年が眉を上げた。
「ファミコン?」
「確かに安いし、それなりの性能なんだろうけど……玩具っぽいんだよな」
別の青年が腕を組む。
「……いやでも、そのファミコンが、マイコン雑誌に載ってるのが逆に気になるな」
雑誌はすぐに閉じられた。
数時間後。
「おい、やっと見つけたぞ!」
息を切らした一人の青年の手には、白と赤の箱があった。
◇
六畳間の部屋。
ブラウン管テレビの前で、本体が起動する。
カチ、と電源が入り、画面が切り替わる。
青年の一人が首を傾げた。
「……速いな」
テトリスが始まる。
ブロックの落下。
入力への反応。
画面更新。
切り替え。
どれも妙に軽い。
「CPUは8ビットだろ?」
「聞いてる限り、特別高性能なCPUじゃないよな」
「なのに、なんでこんなに引っかからない?」
対戦モードが映る。
二画面同時進行。
片側の消去に連動し、もう一方へ影響が走る。
空気が変わった。
「……おい」
「これ、本当に玩具か?」
「ただゲームを動かしてる感じじゃない」
一人が本体を見つめ、低く呟いた。
「……分解してみるか?」
誰も笑わなかった。
◇
都内・セガ開発技術部。
机の上には、販売店から届いた報告書と、同日発売となった自社機 SG-1000 の資料、そして ファミコンの価格表が並んでいた。
部長が腕を組む。
「9,980円か……それでこの滑らかさとは、下手をすれば、うちより印象がいい」
「しかも、あちらの売れ行きが異常です」
誰かが小さく息を吐く。
主任技師が続けた。
「分解した者の報告では、部品構成に突出した点はありません。CPU単体の性能で見れば、こちらの方が上です。ただ……同世代の6502と比べてもチップ面積が小さく、配線も簡素化されています」
部長が眉をひそめる。
「……小さい?」
主任技師は一拍置いた。
「ええ……それと、この数週間、逆アセンブラで解析しました」
部屋の空気が止まる。
「ROM内の制御が妙です。描画、入力、割り込み処理……全体の流れが異様に整理されています」
「整理?」
「まるで、内部に“手順を管理する仕組み”があるような動きです。……四月に機械振興会館で発表された、あの今川助手の『TRON』の思想に近い。論理構造だけでハードの粗を消し去っています」
部長の顔色が変わる。
「……そんなものを玩具に積んだというのか」
誰も答えなかった。
窓の外では、夏の陽射しが街を照らしていた。




