第五十二話:問題の特定
評価用テスターの駆動音が絶え間なく響き、排気ファンの熱気が室内にこもる。
技術者たちは結果表を抱えて走り、次の条件を装置へ入力し、また新しい数字を待つ。
忠夫は出力されたログへ視線を落とす。
(……さっき、問題が起きるタイミングはわかった)
リフレッシュ直後の一周期。
そこへアクセス開始が重なった時だけ、数字が崩れる。
(……あとは、どこで起きているかだ)
「高温条件、次の刻みに入ります!」
評価用テスターの駆動音が一段高くなる。
「低電圧側、4.5ボルト投入!」
「アドレス端列集中、スタート!」
次々と条件が切り替わる。
忠夫は装置横の机で、吐き出されるログを一枚ずつ追っていく。
高村が新しい帳票を持ってきた。
「佐伯君。この条件の時だけ、落ち方が妙だ」
忠夫は受け取り、目を走らせる。
高温。
低電圧。
リフレッシュ直後。
その条件下で、アクセス位置ごとの差が出ていた。
「……中央列と端列の比較表はありますか」
「ある」
高村が別紙を差し出す。
斎藤も興味深そうに横から覗き込み、低く呟いた。
「チップの中央列は安定しているな。……だが、端の方が崩れている」
室内の空気がわずかに張り詰める。
忠夫は視線を落としたまま、静かに頷いた。
「……やはり、この位置です」
高村が眉をひそめる。
「位置?」
忠夫は帳票の端を指で押さえ、ゆっくりと言葉を選んだ。
「セルそのものが問題なら、ここまで綺麗に差は出ません。中央列が安定している以上、問題は全体ではなくチップの端へ偏っています」
斎藤が腕を組む。
「……なるほど配線長か」
「その可能性は高いです」
忠夫は頷いた。
「中央より端列の方が信号経路は長い。配線負荷も増えます。そこへ高温、低電圧、そしてリフレッシュ直後の厳しい条件が重なると、端側から先に限界へ達します」
高村が設計書へ目を落とした。
「つまり、端へ行くほどタイミングが合わなくなる……」
「ええ」
忠夫は設計書の一点を指した。
「リフレッシュ完了後、次アクセスへ切り替わるこの区間です。中央列は間に合っています。ですが端列側だけ、信号が間に合っていません」
室内が静まり返る。
斎藤が低く呟いた。
「……全体不良じゃなかったか」
忠夫は静かに答える。
「ええ、チップ端列側の制御信号が遅延しています」
高村が息を吐き、苦く笑った。
「二週間、セルばかり疑っていたが……そこだったか」
忠夫は首を横に振った。
「無駄ではありません。そのおかげで位置依存だとここまで絞り込めたんですよ」
高村は数秒黙り、やがて小さく頷く。
斎藤が短く言う。
「……なら、もう十分だな」
「評価テストはここまでだ」
その声と同時に、テスターの駆動音がゆっくりと止まっていく。
二週間続いた検証の音が消え、評価室に静けさが戻った。
高村がすぐに顔を上げる。
「設計へ移行します。配線と端列補強、タイミング案の条件確認を先に回します」
技術者たちが一斉に動き出した。
図面が開かれ、メモが走り、設計議論が始まる。
対策案は自然と三つの方向に整理されていった。




