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五十六歳の研究者、中学生から人生をやり直す  作者: 正宗


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第五十一話:動いた数字

東芝半導体開発センター、評価室。


「条件変更、投入します」


高村の声と同時に、評価用テスターが動き始めた。

排気ファンが吐き出す熱風が室内に籠もり、技術者たちの視線は緑色の文字が映るモニターへと集まる。


忠夫が示した切り分け案。

リフレッシュ直後の一周期だけ、アクセス開始を一段遅らせる。


全体を遅らせるような安全策は、高村たちも既に試していた。だが、それでは全体のパフォーマンスが落ち、不具合の本質もぼやけてしまう。

このピンポイントな「狙い撃ち」が、もし読み通りであれば、数字は動くはずだった。


数分後、評価担当者が結果表を手に振り返る。


「……常温条件、良品率四割です」


高村が即座に言う。


「高温条件は?」


「三割九分」


室内の空気がわずかに揺れた。


「低電圧条件」


担当者が結果表を見つめ、息を整える。


「……四割一分です」


一瞬の静寂。


そして次の瞬間、何人もの技術者が一斉に顔を上げた。


「上がった……!」


「リフレッシュのタイミングを一段外しただけで、ここまで違うのか……!」


高村が紙を受け取り、食い入るように見つめる。


「……この区間か」


それは敗北の確認ではなかった。

原因へ近づいた者の声だった。


斎藤常務が安堵したように言う。


「二週間止まっていた理由が、ようやく見えたな」



止まりかけていた現場が、一気に熱を取り戻していく。


「再現確認、すぐ回します!」


「波形ログを取り直せ!」


「温度条件を細かく刻め!」


技術者たちが一斉に走り出す。


忠夫は結果表を見つめ、小さく息を吐いた。


(……当たりだ、だがやはり根本的な解決にはならないか)


競合だけが原因ではない。

だが、核心はこの近くにある。


高村が忠夫の方へ向いた。


「‥‥まさか俺たちが二週間かけても見つけられなかった糸口をこんな短時間で」


忠夫は静かに首を横に振った。


「皆さんが二週間、試験データを積み重ねてくれていたからです。このデータがなければ、僕もこんなに早くは辿り着けませんでした」

高村は数秒黙り、やがて小さく笑った。


「‥‥そうか、俺たちの試行錯誤は無駄ではなかったんだな」


斎藤常務が前へ出る。


「‥‥よし。高村、設計班を集めろ」


「はい」


「今日中に、次の試験条件を固める。‥‥始めるぞ!」


その言葉に、室内の全員が動き出した。


忠夫はその熱量を見つめながら思う。


(この時代の日本は、まだ前へ進む力が残っている)


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