第1章 13 最強の冒険者
俺はルナとヴォルカンとともに、ダンジョンへと潜った。
そういえばレミエルアークに属する手続きをしていないが、まあ状況が状況だし仕方ないか。
「中層まではどのくらいかかるんだ?」
「まあ、今夜中に十六階層に到着できれば上出来だな」
「今夜ですって? まだ朝なのに?」
「三階層までは螺旋階段が繋がってるが、そこからは階層ごとに階段の場所が違うからな。
それに、ただ階段を探すだけならまだいいが、モンスターを処理しながらって考えるともっと時間は食われる」
ただ降りるだけで、半日以上もかかるのか。
ダンジョンって、想像以上に大変だったんだな。
「上位の冒険者になるとたったの数時間で中層まで行けるらしいぜ。
慣れてくると階段の場所も頭に入ってるし、道中のモンスターなんて相手にならないだろうからな」
「あたしたちも、上層のモンスターは敵じゃないけどね」
「お前、ゴブリンに不意打ち食らいかけてたじゃん」
「あ、あれは事故よ」
「俺がいなかったらどうなってたことやら」
「覚えときなさいよあんた!」
あの時は、本当に一瞬肝を冷やした。
帰還して早々、せっかく生き返った相棒を失うところだったからな。
とっさに手を伸ばして正解だったよ、ほんと。
***
「ヴォルカン。中層って、そんなに難しい階層なのか?
昨日も言ったけど、中層のモンスターはあんまり強くなかったぞ?」
「あんた、何とかトロールって魔物に手こずってたじゃない」
「あれは相性が悪かっただけだ」
「お前ら二人は例外かもしれないが、初心者にとっちゃハードルが高いかもな。
『上層まではチュートリアル、中層からが本当のダンジョンの始まりだ』とか言われてるくらいだし」
俺たちは三階層の通路――昨日通った場所を歩きながら、ダンジョンについて語り合う。
「中層は、十六階層から三十五階層までだ。
浅い方はまだ上層よりも少し難しいくらいだが、二十階層を超えたあたりからいきなり難易度が爆上がりらしい。
三十階層あたりは、レベル4くらいの冒険者じゃないとすんなり攻略はできないだろうな」
「じゃあ、あたしは攻略できるわね」
「ルナはまだレベル2じゃん」
「ステータス的にはレベル4だって言われたから余裕ね」
調子に乗っていたら、痛い目を見るぞ。
ルナは確かに強いが、たまに気を抜くことがあるからなおさらだ。
昨日ゴブリンに不意打ちされたのだって、それが原因だし。
ちなみに、昨晩のステータス更新でルナはレベル上限を解放してもらい、レベル2になった。
俺はレベル2までまだまだかかるが、ルナはもうその気になればレベル3の解放も可能であるらしい。
それでもレベル2で留めた理由は、立て続けにレベルアップをさせてしまった場合、肉体の急激な変化に脳が追いつかずに精神崩壊を起こしてしまう危険があるかららしい。
ダンジョンの中以外にもそんな危険が隠れているとはな。
「二日目の冒険者にもう追いつかれちまったって考えると、何か情けなくなるな」
「ヴォルカンは鍛冶師が本業なんでしょ? 別にいいじゃない」
「……オレは、ダンジョンがおっかなくてこの道に逃げてきただけだからな。
命を懸けてダンジョンの中で戦ってるより、そいつらのために道具を作ってやった方がオレの性には合ってると思った、ってのも理由の一つだが」
「じゃあ、一時期は冒険者をやってた時期もあったってことか?」
「まあな」
なるほど、だからレベルが一つだけ上がっているのか。
理由がどうであれ、彼に合った道があってそれを選んだならいいと思うけどな。
「お前ら、『ラグナロク』って冒険者は聞いたことあるか?
いや、まだ二日目だしねぇか」
「あるわよ。昨日、アザゼル様が言ってたのを聞いたわ。
最強の冒険者なんでしょ?」
昨日、レミエルが俺たちの手柄を我が物顔で語っている時にちょろっと聞いたな。
改めて名前を聞くと、すんげえ強そうだな。
「あの男は、文字通り最強だ。
今東京にはレベル6の冒険者すらいないのに、それを飛び越してレベル7だぜ?
控えめに言って、わけがわからねぇ」
「レベル6が、いない?」
「おう。レベル5の冒険者は十人いるかどうかくらいらしいがな。
ちなみに、レベル5の大半が【ミカエル・アーク】に所属してる」
「ミカエルアーク?」
「東京最大規模のアークだ。
【ガブリエル・アーク】やら【ラファエル・アーク】なんかも大きいが、ミカエル様のとこには敵わないな」
色々新しい情報が出てきてややこしいな。
でも、名前を聞く限りだとやっぱりそうだ。
レミエルもそうだが、あの有名な『七大天使』と完全に合致している。
ミカエルは天使の序列的に一番上なのは納得だし、その下の順番も俺の知ってるものと一致する。
しかし、本当のその序列通りになるというのは面白いな。
あれ、レミエルは序列七位のはずなのに……。
「もしかして、その下は【ウリエル・アーク】だったり?」
「いや、今はその下は【ラグエル・アーク】だな」
「今はってどういう意味よ?」
何やら含みのある言い回しに、ルナは眉をひそめて首を傾ける。
まるで昔はあったみたいな言い方だったが。
「少し前まではあった。でも――突然、消滅した」
「消滅? そんなことあるのか?」
「五年前、ダンジョンが出現して以来最悪の事故が起こってな。
何十人もいた眷属たちはそれに巻き込まれて、一人を除いて全滅した。
それからウリエル様は行方をくらませて、五年間目撃情報はゼロだ」
そんな事故があったなんて。
何が起こるかわからないのがダンジョンだとは聞いていたが、そういった想定外の事故が起こらないとも限らないということなのだろう。
昨日の異常現象も、その一種だ。
「一人を除いてってことは、誰かは生き残ったってことよね」
「ああ。『【氷鬼】のシエル』って呼ばれてる冒険者だけが、右腕を代償にその事故から生き延びた」
「右腕……失ったってことか?」
「そうだな。ちなみに、今も冒険者は続けてるらしいぜ」
「腕が無くなったのに続けてるってこと? すごいわね」
「義手を着けて活動してるんだとよ。それもソロで」
執念なのか、はたまた別の何かからなのか。
いずれにせよ、そんな事故に巻き込まれてなおダンジョンに潜り続けるなんていうのは相当な胆力がないと成せないだろう。
俺も強くなったら、もしかしたら会うことがあるかもしれないな。
「もう少しで四階層に繋がる階段に着く。
こっからは初めてだよな。ちゃんとオレに着いてこいよ」
「ああ」
「ま、戦闘はほぼ全般的に任せるけどな」
「ふん。ヘタレね」
「置いて行くぞテメェ」
またそうやって刺激するから……。
挑発に乗るヴォルカンもヴォルカンだが。
ここからは、未知の領域だ。
上層とはいえ、気を引き締めて行こう。




