第9話:泥を啜るゴリラの決意と、崩壊したパーティーの末路(ゴリラ視点)
「……お願いよゴリラ、もうやめて!」
遠征軍の出陣式を明日に控えた夜、王都の薄暗い自宅で【リンゴ】が俺に泣きついてきた。その顔は完全に生気を失い、かつて俺を魅了した瑞々しさは微塵もない。
「社畜町と戦うなんて無茶よ! あそこにはカフェインがいるのよ!? 昔の輝いていた、私たちのヒーローだったあいつが……! 今のボロボロなあんたじゃ、勝てるわけないじゃない!」
「うるせええええええええッ!!」
俺はリンゴを突き飛ばした。
「どいつもこいつもカフェイン、カフェインって、あいつの味方をしやがって! 俺を見ろ! 俺は王都最強の『しりとり』のリーダー、ゴリラだぞ! あんな『ン』の付く一発アウトのゴミに、この俺が負けるわけねえだろうが!」
突き飛ばされたリンゴは、床に伏せたまま、もう俺を見ようともしなかった。その目は完全に冷めきっており、心はとっくにあの『社畜町』へ飛んでいるのが分かった。
(あいつさえ……あいつさえいなくなれば、すべて元通りになるんだ)
翌朝、俺はきらびやかな鎧に身を包んだ新メンバーの【ラッパ】と共に、中央ギルド正規軍の先頭に立った。
パンツギルド長から預かった兵は三千。対する社畜町は、ただの労働者の集まりだ。数の上でも、武力の上でも、俺たちが圧倒している。
「いくぞ野郎ども! 辺境のゴミどもを踏みつぶし、カフェインを五体投地させて利権を強奪するぞ!」
「おおおおお……」
……兵たちの地鳴りのような勝鬨。
しかし、その声にはなぜか覇気がなかった。兵たちの顔は一様に青白く、あくびを噛み殺している。
だが、狂気に取り憑かれた俺の目には、そんな異常など見えていなかった。
待ってろよカフェイン。今度こそお前を歴史から消し去り、俺が世界の王になってやる!




