第5話:泥舟のゴリラと、輝く元カレの噂(リンゴ視点)
「ちょっと、ゴリラ! しっかりしてよ! なんでまたクエスト失敗なの!?」
王都の高級酒場。私は目の前で泥酔して潰れている恋人――【ゴリラ】に、怒りをぶつけていた。
私の名前は【リンゴ】。『しりとり』パーティーの元マドンナだ。
かつての私は、誰よりも輝いていた。
周りにいつも元気とやる気を配り、みんなから慕われていた若き日のカフェイン。私は彼のそんな姿に憧れて恋人になった。だけど最近の彼は、徹夜のバフばかりで覇気がなく、名前の最後が「ン」のせいでクエストも一発アウトが続いていた。
(あんな将来性のない男、捨てて正解だったわ)
そう思って、羽振りが良くて強引に口説いてきたギルドのエース、ゴリラに乗り換えたの。カフェインをパーティーから追放した時は、本当にスカッとした。
……なのに、どうしてこうなったの?
「うるせえ……! 俺のせいじゃねえ……! なんでか、ダンジョンに入ると体が重くて、頭がぼーっとするんだよぉ……」
ゴリラは生気のない顔でくだを巻いている。
カフェインを追い出して以降、新メンバーのラッパを加えても、私たちのパーティーは連戦連敗。
それどころか、最近の私は肌がカサカサに荒れ、歩くだけで足の先がピリピリとしびれて力が入らない。
「ゴリラからラッパ、ラッパからパンツ、パンツから……あ、頭が回らない……」
そんな時、酒場の片隅から、他の冒険者たちの話し声が聞こえてきた。
「おい、聞いたか? こないだ王都を追放されたカフェインの噂」
「ああ! 辺境の『社畜』って街に移動したらしいな。あいつの『脳内覚醒』と、妹のビタミンの『完全栄養回復』のコンボで、あの街の生産性が400%に跳ね上がって、今や国家予算レベルの富を築いてるらしいぞ!」
「マジかよ! 追放した『しりとり』の連中、とんでもない至宝をドブに捨てちまったな!」
心臓が、冷たい氷を押し付けられたように凍りついた。
「嘘……カフェインが、大富豪……!?」
手元に残ったのは、体調不良でまともに戦えず、借金まみれで愚痴を吐くだけのゴリラ。
私がゴミのように捨てた男は、今や別の大都市で、神のように崇められている。
「もしかして……私が選んだ道は、間違っていたの……?」
押し寄せる強烈な後悔と焦りで、私の手はガタガタと震えが止まらなかった。




