第2話:『しりとり』ギルドの機能停止と、24時間眠らない魔改造都市『社畜』
俺たちが王都を追放されてから、わずか数週間。
辺境の町「社畜」は、俺と義妹ビタミンのバフによって狂気的な大発展を遂げていた。
「おい! 徹夜5日目の開発部門に『カフェイン・ショット』を撃ち込め!」
「商業ギルドの書類整理が遅れているわ! 『ビタミンB群・聖光』で脳の代謝を限界突破させて!」
かつてゾンビのようだった住民たちは、今や目に魔力を宿し、超高速で魔導具の組み立てや書類仕事をこなす「超エリート労働兵器」と化していた。
俺の『脳内覚醒』で眠気を消し、ビタミンの『聖女の慈愛』で肉体の限界(口内炎、肌荒れ、貧血)を即座にヒーリングする。このコンボにより、「社畜」は一躍、周辺国から莫大な富を吸い上げる24時間稼働の超近代都市へと変貌していたのだ。
「フフ、お兄ちゃん。今月の町のGDP(国内総生産)が前月比400%を記録したよ」
「さすがはビタミンだ。これで俺たちの生活費どころか、国家予算レベルの貯金ができたな」
俺たちが高級コーヒーを優雅に啜りながら、充実したスロー(ハード)ライフを送っていた、その頃。
しりとり国の王都にある中央ギルドでは、かつてない大パニックが起きていた。
◇
「おい、ゴリラ! リンゴ! 一体どういうことだ!!」
ギルドの最上階。
ふくよかな体型を高級な絹のローブに包んだ中央ギルド長――その名も【パンツ】が、机を激しく叩いて激怒していた。
「我がギルド期待の新星パーティー『しりとり』が、なぜここ数回のクエストをすべて連続で失敗している!? 昨日の『ドラゴン討伐』にいたっては、出発して3キロで全員寝ていただろうが!」
パンツギルド長に怒鳴られ、リーダーのゴリラは青い顔でガタガタと震えている。
「あ、あの、ギルド長……違うんです。なぜか最近、ダンジョンに入ると異常な眠気に襲われて、まともに棍棒が振れなくて……」
「そうよ、パンツ様!」
恋人のリンゴも、かつての瑞々しさはどこへやら、肌はカサカサで生気がなく、目が血走っている。
「それに最近、歩くだけで足が痺れてもつれるの! 呪いだわ、きっとあの『ン』の付くゴミが呪いを残していったのよ!」
「言い訳するな!」
パンツギルド長がブチギレる。
「お前たちが『カフェインという繋ぎ役』をクビにしたせいで、しりとりコンボが繋がらなくなっていると噂だぞ! そこでだ、お前たちのコンボを補強するために、今日から新メンバーを加入させる!」
バァン!と扉が開き、一人の男が入ってきた。
きらびやかな金色の鎧を身にまとい、手にはなぜか派手な管楽器を持っている。新進気鋭の若手冒険者――【ラッパ】であった。
「フッ、俺が来ればもう安心だ。ゴリラ、リンゴ、俺の美しい『ラ』の旋律でお前たちのコンボを完璧に繋げてやろう」
「おお! ラッパ! 助かる!」
ゴリラとリンゴは救世主の登場に歓喜した。
パンツギルド長も「よし、これで【ゴリラ】→【ラッパ】→【パンツ】という、我がギルドが誇る黄金のしりとりラインが完成する。次の『クラーケン討伐』、必ず成功させろ!」と鼻息を荒くする。
だが、彼らは致命的なバグに気づいていなかった。
◇
数日後。クラーケンが巣食う大荒れの海。
「しりとり」パーティーは、新メンバーのラッパを加えて船上にいた。
「よし! クラーケンが現れたぞ! 連携だ!」
ゴリラが叫ぶ。
「いくぜ! 【ゴリラ】!」
すかさずラッパが胸を張る。
「俺に続け! 【ラッパ】!」
正式に、王都のギルド室から念話で指示を送っていたギルド長が叫ぶ。
「よし、最後は私だ! 【パンツ】!!」
完璧なコンボ。美しいしりとり。
勝った――誰もがそう確信した、その瞬間。
「……あ」
ギルド長パンツが、念話の向こうで凍りついた。
【ゴリラ】(ラ)→【ラッパ】(パ)→【パンツ】(ツ)
「ツ」……。
次に繋げる言葉が、現場の船の上にいない。
しりとりのルールでは、次に繋げられなければその時点で行動不能(ターン強制終了)となる。
「おい、ラッパ! 『ツ』だ! 『ツ』のつく技を出せ!」
「む、無理だ! 俺のラッパの演奏技はすべて『パ』で終わる! 『ツミキ』も『ツルハシ』も持ってねえ!」
「バカ野郎! コンボが途切れたぞ! クラーケンがこっちを見てる!!」
カフェインがいた頃は、「ゴリラ」→「ラッパ」→「パンツ」の後に、カフェインが「繋ぎの魔術」を発動して強引にゲームを終了させ、次のターンへ無理やり繋いでいたのだ。
だが、その潤滑油を失った彼らのコンボは、ただの「一歩目で詰む欠陥品」に成り下がっていた。
さらに追い打ちをかけるように、ビタミンCを失った船内では、全員の歯茎から血が流れ始めていた。
「う、動けない……足に、力が入らない……」
「ぐわあああ! クラーケンの触手がァァァッ!」
王都最強と謳われたギルド「しりとり」は、海の藻屑となりかけていた。
一方、その報告を遠くの魔導モニターで眺めていた俺とビタミンは、社畜町の超高層タワー(最近建てた)のオフィスで、静かにため息をついた。
「……やっぱり、カフェイン抜きじゃ回らないよな」
「うん。お兄ちゃんを捨てたツケ、しっかり払ってもらおうね」
近代科学の力を侮ったローカルルール国家の崩壊は、すぐそこまで迫っていた。




